自然の中で育つ生き物を見ていると、それなりに知恵を持っているので楽しくなります。草や虫も意味があるから存在するといいますが、自然界のサイクルはよく出来ているように思います。
祖母が見つけて、私に青虫の臭角を教えてくれたのですが、そのときの話が微笑ましいものです。
祖母もはじめ青虫が嫌いだったそうです。祖父と二人で嫌っていたようですが、ひょんなことから臭角のオレンジに気付き、その色彩のコントラストの妙に魅せられたようです。突付いて臭角を出させる楽しみが、それまで嫌いだった青虫をどうやら好きにさせた、という風に言っていました。
「お祖父ちゃんには内緒にしといてね、これが嫌いだから。こんなことして悪戯してるとか、遊んでるとか、楽しんでるとか分かると、どう思われるやら。自分の嫌いなものが好きらしいと思うだけで嫌がられるかもしれないから…。」そんなことを言っていたように思います。
祖母が亡くなって二、三年経った頃、例年のように庭で青虫を見つけ、ふと思い立った私は祖父を庭へ連れて来て、山椒にいた青虫を見せました。祖父は孫の手前か微笑んで「おぅ」とか言っていました。
祖母の話では祖父は嫌いなはずなのにと、私は祖父の平然とした態度を不審に思いながらも、地面に落ちていた小枝を拾うと「見ててね、面白いから。」、そう言ってその小枝で青虫を突付きました。
にゅーんとオレンジの臭角が出て、祖父はさすがに固まってしまいました。面白がるというより、真顔になって「面白い?…」と、顔も白んで少し身を引いてしまったようでした。私は構わず、初めて祖母から全くこの通りに教えてもらった事や、当時祖母が言っていた言葉をそのままに祖父に伝えました。祖父は神妙な顔で聞いていました。
祖父にしてみると、私の言っている事が不審に思えてしょうがないようでした。私は、祖父が「お祖母ちゃん、本とにこんなもの面白がってた?…。」という言葉で、祖母が最後まで青虫の秘密を隠し通していた事に気付きました。
乙女の恥じらいについて、当時の私はよく分からなかったものですが、好きな人に変に思われたくない、そんな気持ちがその内祖父にも分かったようでした。祖父は臭角について知っていたようですが、その後、山椒の木の傍で立ち竦んでいる祖父をよく見かけました。祖母の真似をしてみようとの事だったようですが、祖母の気持ちに達するまでにはかなりの無理をしていたようです。いつも白っぽい顔をして縁側に入ってきました。それでも、二、三ヵ月してから、私に微笑んで「お祖父ちゃんもあれが好きになってね、お祖母ちゃんの気持ちも分かるような気がする。」などと言っていました。昔の人って、古風ですね。(多分、最後まで好きじゃなかったんだと思うんですが、これが祖父の方の秘密ではないかしら。)