この人物について、彼女は何時もの様に上司から世話を頼まれたわけではありません。しかし、彼が彼女のデスクの近くであった事から、彼女は親切心で何時もの様に自分の方から挨拶しました。そして、気軽に社内の諸事情を教え始めました。
そんな2、3日後、野原さんは何時もの様に上司から呼ばれました。そして、彼の事はそう面倒を見なくてよいと言われたのです。上司の話では、彼は他の新入社員とは違うという事でした。彼は中途採用であり、以前の会社は病気療養で休むことになり退社したそうだというのです。
「そう気を使う相手じゃない、内の社にだって何時までいるか分からないからね、小手川君の事は気にすること無いよ。」
常とは違う様子で素っ気なく言う上司の不機嫌な表情。野原さんは何時もと違うその上司の様子から、影の掛かった剣のある表情を見て取ると、上司のハッキリとした彼への内面の怒りを感じ取りました。
『上司は彼のことで何かあったのだわ。』野原さんは思いました。