釣りを終えたマルは、久しぶりの再会に話し込むミルと紫苑さんを見て、気を利かせると河原に2人を残し1人帰艦してきました。
「あら、ミルは如何したんですか?。」
問い掛けて来るシルに、ドクター・マルはまぁねぇと、やや苦笑しながら「あの2人は仲良しだからねぇ。」と、嘆息気味に答えたのでした。
それにしても、現実とシュミレーションは違っているねぇとマルはシルに話します。それは、勿論、シュミレーションは仮想世界ですから、違っているのは当然でしょうとシル。
実際、釣り場所はお濠では無く河川であり、釣っていたのも川魚、現実には紫苑さんの方が何匹か魚を逃がしてやると言う結末になり、釣れずに坊主なったのがミルでした。マルは艦内の皆で食べようと、釣った魚を持ち帰って来ました。勿論、気に病みそうなシルには隠していました。
にこやかな笑顔を浮かべて、マルはシルに話続けます。話していないと土産の魚の事をシルに読み取られそうです。彼は無心になろうと努め、現実の今日の出来事を思いつくままに話していました。
「地球人男性の恋愛話だがね、今回はうまく聞き出す事が出来たよ。」
あら、面白そう。シルは興味深そうにドクターの顔を見詰めると、彼の話に熱心に耳を傾け
始めました。
「彼にすると印象深い出会いだったらしいが、…。」
語るマルの話では、紫苑さん夫婦は出会いこそ印象深かった物の、奥様の方は然程興味を引かれなかった様子だという事でした。そんな2人が何故結婚まで進んだんでしょう?。シルが問いかけると、マルはさも面白いという風に相好を崩し、
「物の弾みだそうだ。」
と答えるのでした。いつの間にか結婚して奥さんが家に居たそうだ。まぁとシル。やはり可笑しそうに目を細めてマル同様に笑顔になりました。「そしてね、彼はね、」、マルは語り続けます。私が「奥様はあなたの事を自分の物だと仰られませんでしたかと、聞くと、彼は酷くびっくりした顔をしてね、驚いたなぁと言うんだよ。
「そんな女性がいるんですか!?、これはまた驚きだなぁ!。」
そう言うと彼は、私は私個人、私自身の物ですよ。誰の物でもない。と、一寸不愉快な顔になってね。マルは遠い目をするとその時の紫苑さんの様子を思い浮かべていました。
「私がもしそんな、個の尊重をしないような言葉を女性から受けたなら、」
「即!、そんな女性とは縁を絶ってしまった事でしょう。」と言うんだよと、マルは酷く感慨深い顔付きでううむと唸るのでした。そうだな、マルは言うと、それが無難な人の感想という物なのだろう。と。
2人は幸福な結婚生活だったそうだ、ごく無難なね。だからこそ幸福だったというんだよ、彼はね。マルはここで言葉を切りました。