しんみりとお互いの話をしながら、何時しか紫苑さんの方がマルの話の聞き役に回っていました。
「そうですか、奥様がね。」
紫苑さんは円萬さんが結婚していた事を初めて聞いたのでした。
『彼にそんな過去があったとは。死に別れと生き別れ、生死の差はあっても共に妻との別れが有った事に違いは無い。』
こう紫苑さんも思うと、彼は親身になってマルの話に耳を傾けるのでした。
「また奥様にお目にかかりたいとは思われないのですか?。」
あなたも大層な愛妻家だった様子ですが。紫苑さんはマルに問い掛けました。私と違って、あなたは彼女に合う機会を設けることが出来るでしょう。こう語る紫苑さんの顔を見詰め、寂しげに微笑んだマルは首を振りました。
「いや、」
いや、またあの当時の感情や夫婦2人の状態に陥りそうな気がして…。マルは静かに言葉を続けました。何だか彼女との仲は燃え尽きた感じがしています。そう言うと、マルは心底疲れた感じになりました。
「当時を思うと、綿のような心地がします。」
彼は言葉を切りました。紫苑さんはそんなマルの横顔を優しそうな面差しで眺め、言葉を掛けました。
「それでも、愛する人に出会えて幸福ですよ。」