Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華 番外編9

2024-11-13 10:36:27 | 日記
 史の立ち止まった場所、そこは折りしも大きな家の一階の端だった。二階の窓辺には妹娘と彼女の許嫁が外を覗き込んでいた。先程からの外の喧騒に驚き呆れながらも、二人は共に至福の笑みを湛えていた。しかし、妹娘はこの好機を逃さなかったなかった。彼女の視界、見下ろす方向には史の小さな黒い頭が映っていた。

 『これは、好機到来!。』

ニンマリと笑んだ彼女は、二階の窓辺から此処ぞとばかりに狙いを定めた。隣にいた男性は彼女の気配に気付き、一瞬困った素振りをして顔を顰めたが、彼女を制する事無く一旦部屋の中へと身を引いた。

 「覚悟しろ史!。」

そう言って、彼女は二階の窓からヒュンとばかりに礫を投げた。

 「いってぇ!。」

史は頭を抱えながら振り返り、その後状況を見極めて上を見上げた。自分が後退りしたお陰で、妹娘が立つ向かい家の二階窓から、自分迄の距離が縮んだのだ。相手に対して礫を放つよい機会を拵えてしまったのだ。そう気付いた史は地団駄踏む程に悔しがった。油断した!。「油断したよ、姉さん。」、史は上の窓に向かって負け惜しみに言い放った。

 いてて…、ちくしょう、史はぼやきながら、それでもまた遊び友達の智の側まで戻って来た。その頃には泣いていた子供も落ち着いたらしく、智は声を上げてはいなかった。実際、史に起こった出来事の一部始終を目の当たりにした智は、それ迄史に対して感じていた劣等感が一気に払拭されていた。智は口をぽかんと開け唖然とした状態でいながら、史の災難を内心小気味よく感じ始めていた。智の目にはその愉快を思う光が否応無く浮かんで来た。そうして近付いて来た史の目には、またその智のその様な状態が怪しげに映った。史は智の様子に用心して立ち止まると、ふと頭に受けた礫の事が気になり出した。史は辺りの地面をキョロキョロと探り出した。

 子供の一方は自分の前後左右の地面を見渡していた。一方の子供はそんな子供の行動を不思議に思い未だ涙を浮かべた儘の目で見詰めていた。捜索する子供はその正体を知りたいと思っていた。先程の礫の正体だ。窓辺にいる姉妹は普通消しゴムを投げてくるのだが、今の物は今迄の中で一番衝撃が大きかったのだ。石より弱く、当然分別のある大人は子供に石等投げて来ない、今迄の消しゴムよりは強い痛みだった。『何だろう?』史はその正体を知りたかった。物知りを自負する自分の知らない物がこの世に有るなんて…。そんな事が未だ有るんだなと、史は存外興味をそそられた。

 史は暫く周囲の地面の探索を続けたが、それらしい物は何も発見出来無かった。あちらこちらと当たりを付けて、探ってはみたものの、手に取る感触はどれも違った物だった。そんな史の様子を、何思う事も無く智は見ていた。史はそんな智の視線に気付くと、念の為と思い智に近付き問い掛けた。

 「智ちゃん、つぶて見なかった?。」

 「つぶて、って?。」

訊く迄も無かったなと史は思った。投げ合い等した事も無い、ましてや当たった事等皆無な智が、礫を知っている筈が無いのだ。話を変えようと史は思った。

 「ほらな、あそこの窓の姉さんが、さっき俺に向かって、何か投げただろう…。」

そんな風に話を持って行く。智ちゃんと話す時は説明が必要だと、まどろっこしさを感じる史は、智に向ける体の向きもその顔付きも、自然と斜に構えてしまうのだ。智はというと、そんな史の様子に侮蔑の感情を抱かずにはいられなかった。智も自然にその首と目を落としてしまう。智は溜息をついた。そんな智の気持ちは史にも伝わるのだ。俺だって、と史は思う。「俺だってさ、智ちゃんと遊びたい訳じゃ無えけどさ…。」、史は言い淀んだ。本当は遊びたいのだ。近所に遊べる同じ年頃の子は智だけなのだ、否、史と家の子を付き合わせてくれる家がこの近所には無いのだ。でも、こう迄露骨に馬鹿にされて迄付き合うべきかどうか、「これが正念場という物なのかもかもしれない。」、口にしながら史は思った。智にだって、近所に史以外遊べる同年代の子がい無い事は、史自身もよく知っていた。「何しろ智ちゃん箱入りだからな。」、口の聞き方に気をつけろとかさ、へん、遊ぶのに疲れる奴と、仲良く遊ぶ奴なんていないぜ、「俺くらいさ。」、そう思うと史は智から顔を背けてへへんと鼻で笑った。そんな史の様子に、智も史は相当柄の悪い子だと思った。こんな子では、自分以外に気前よくこの子と遊ぶ者はいるまい、と自賛した。子供達は共に目を細めて嘲笑し合った。