Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ざらめ雪

2025-01-22 07:58:47 | 日記
 粗目糖の様な雪の事をこう呼ぶのですが、前回の記事で書いた荒い氷の粒子に砕かれた地表の雪の事です。春の日差しで日中溶けた雪が、夜間に再び凍って砕かれ、これを繰り返す内に氷の粒子が荒くなって、ザラザラした氷になった物とか。そうするとこの雪の見られる時期はもう春なのでしょうか。

 私にはその記憶は未だ雪深い冬の事の様に思えます。現在の様に道に融雪装置が作られ、それが作動するようになってからは全く見なくなったのも道理です。それは子供の頃の記憶でしかないのです。夜、湯屋からの帰り道、踏み締める雪がジャクジャクと音を立て始める。踏み締める足元が緩くなりズブズブとのめり込んで行く、そういった感覚で私はざらめ雪の到来を知るのでした。が、それは春の到来だったのでしょう。甘い物好きの私は、この粗目という言葉に文字通り甘い糖を連想して、この雪が好きな物でした。その色からもトウキビの糖、褐色の粗目糖を連想し、黒糖の甘いお菓子を思うのでした。子供時代の私には甘いお菓子は甘味な魅力、憧れの食品でした。甘食、黒棒、白餡入りバナナ等、懐かしい古い菓子です。

 この雪は近所の子も大好きで、ざらめ雪が降ったよ、等、喜びはしゃいで口にすると、勇んで私を呼びに来る夜もありました。そんな夜、私達子供達は常より寒さが増しているのだと思っていました。が、既に気候は春だったのですね。道の側に解けずに山と積まれたの根雪の塊に、未だ未だ冬真っ盛りの時候だと勘違いをしていました。外套も付けずに外に飛び出して、盛んにざらめ雪を足で踏み締め蹴飛ばしその立てる音に喜んだり、両手で雪を掬ったり、個々に独立した粒の鈍い煌めきや粗い結晶の様な形を鑑賞した物です。ああ、これが本当に甘い物ならと思いやると、その色が汚れた雪の塊である事を惜しく思ったりするのです。雪の粒を舐めると言う者もいましたが、余り丈夫では無かった私は、自身のお腹の事を考えるとそれは出来無い相談という物でした。

 そんな時期をほんの少し過ぎた年代に入っていた私は、この名のみの候の夜を思い浮かべて、それ迄聞くともなく聞いていた祖父の話に頷くと、そうだねと同調しました。確かに、降る雪を冷たいと思わず、暖かいとまでは行かなくても、白い吐息の中、寒過ぎ無いと感じる夜も有る。そんな夜を思い浮かべると私は、祖父はあんな気候の夜間商売に向かう雪道を歩いていたのか、と、ふと先程のような光景、祖父の背に振り落ちる牡丹雪が連想され、その苦労が思いやられたのでした。それは家族の為に…。

 「お祖父ちゃんは家族の大黒柱だから、家族の為に苦労したんだね…。」

私はそんな事を思わず口にしました。と、祖父ははっとした様子で明るく微笑しました。私が祖父の笑顔を眺めると、彼の目に明るい光が宿っていました。いや、客が待っていてね、…自分の為だよ。…金儲けの為だ。細々と、私の祖父はそんな事を口にしました。