異生物との遭遇か。紫苑さんは心の内で呟きました。紫苑さんの脳裏には異生物の「異生」の漢字が直ぐに「異性」の漢字へとへと変換されました。そして出会った頃の初々しい妻の笑顔が浮かんできました。
『異性との遭遇か。』紫苑さんは思いました。それは異生物との遭遇といえるかしら?。はて?、と紫苑さんは考えました。確かに、それ迄は出会う事の無かった2人です。住む世界も歳も違う2人、育った環境も違えば家族構成も違う2人です。少なくとも彼はそうでした。それがある日突然出会うのです。
『それまで違う世界に住んでいた2人が出会うのだ。』
彼は胸の内でこの言葉を再確認しました。円萬ことマルが今言った言葉です。2人はお互いに知らないし分からない事も多い…。それは確かだな。
『それなのに不思議なものだ。』
彼は思いました。
何か相手との間に通じるものが有るのを感じるのだ。2人が共有しているような何かを感じるのだ。例えばそれは2人が分かり合えるような気がするという様な事なのかもしれない。自身がそうとはっきり意識しないのに、そんな何かを感じて、…つい相手を見詰めてしまうのだ。2人の間に何か目に見えない心理的な流れが存在するのを感じ取る瞬間。それは思いがけず不意にやって来たのだ。
『それをお互いに感じたのだから、』
不思議な物だな、恋というのは…。紫苑さんは嘆息しました。自分にとっての伴侶となる異性との遭遇について考えていた紫苑さんは、ふと言葉を口にしました。
「未知との遭遇か。」
昔流行った映画の題名を口にすると、紫苑さんは遠い目をして微笑みました。昔そんな映画が有りましたな。差し詰め円萬さんとこの濠の魚、いや水中を泳ぐ魚とは色々な未知との遭遇をされたのでしょうな。彼は結構な事だと自重気味に言いました。
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