『相変わらずだなぁ。』
そんな沈み込んだ紫苑さんの後ろ姿を、公園の植え込みの陰から眺めながらミルは思いました。一時明るい色味を増し、元気が出たと思っていた彼のオーラが、少し前から又元の白々と色褪せた、虚ろで寂しげな色味になって来たのが案じられるミルなのでした。
「何かあったんだろうか。」
彼はつい独り言を漏らしてしまいました。紫苑さんはそんな彼の気配が分かったのか不意にこちらを振り向きました。そこでミルはすかさず身を屈めて植え込みの中に隠れ、紫苑さんの視界に入らぬように注意するのでした。
実は、彼がこの様に物陰から紫苑さんの様子を窺っていたのは今回が初めてではありませんでした。それはもうかなり前からの事になりました。今年の2月の図書館入口での2人出会いよりもっと前の事になります。可なり以前からミルは紫苑さんの事を知っていたのでした。
ふらりと降り立った地表で、彼は何となく気に入ったこの土地の気候や雰囲気に、時折この地区の街並みや文化施設などを巡っていたのですが、ある日当てもなくそぞろ歩いていた時、この公園で1人ベンチに腰を下ろす紫苑さんを見かけたのでした。物思いにふける紫苑さんが彼の気配に気付くはずもなく、彼にしても自分は異星人の事、紫苑さんには関わり合いを持ってはいけないと、最初は避けて不干渉を決め込んでいたのですが、その紫苑さんの生気のない、虚ろな白や寒色の色合いのオーラを見るにつけ、しみじみとした彼の胸の内の切なさを感じ取るのでした。
『故郷に残してきた祖父を思い出すなぁ。』
確かに、彼の祖父と紫苑さんのオーラはよく似た色味と発色の仕方をしていました。彼等は共に連れ合いに先立たれ、その寿命の残る人生をどう過ごしたらよいかと所在に困り、ただそれまでの惰性で生きながらえている様な気の抜けた有様だという境遇迄もがそっくりでした。
『自分が側にいた時にはまだ少しは明るみが増していたのだが…。』
この宇宙に出る時、見送ってくれた祖父の最後に見た寂しげな瞳を思い出すと、ミルにはその祖父のオーラの虚ろい、全くの白に溶け込んで行くばかりの、寒々とした青色のグラデーションになった光彩がまざまざと目の当たりに思い浮かぶのでした。そんな虚無的な祖父を父の母星に1人残し、ミルは後ろ髪を引かれる様な思いで彼と離別すると、暫くは胸を締め付けられるような思いでこの勤務に当たり、遥々とこの地球へとやって来たのでした。
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