気付くと夕暮れが迫っていました。私は祖父とそう話し込んだ覚えがなかったのですが、雲の底はもうオレンジを帯びた黄金色にほんのり染まりつつありました。祖父はこの少し前にかつての祖母と同じ言葉を私に語っていました。その時には未だ白い雲と青い空、水色の空であったのです。
「お前の代になったら、墓を立て直して欲しい。」
祖父はそう言ったのでした。そうしてその前に一言いった言葉も有り、その言葉も祖父と祖母は同じ物だったのです。
「あんたのお父さんとお母さんは甲斐性が無いから、」
でした。祖父にこの言葉を言われた時は、私は亡き祖母との事を思い出してハッとしました。過去に追い遣ってしまった事、それは単なる私の記憶の中だけの事と思っていた出来事、それが今又こうして私の目の前にいる祖父から、現在の現実の言葉として私の眼前に甦って来るとは…。気儘な夢のような現世に生きていた私にとって、それは目の覚める様な現実でした。
私は心底目覚め、現実の真っ只中に一人いる気分でした。大地に足を付け、この世、地球に根を張り足重く立っている様な気分。そんな物を感じました。この時私は改めて眼前にいる祖父を眺めました。軽い法要の為か地味で質素な背広姿をしている祖父、そんな彼が、それ迄折に触れ親身に感じていた人物とは違い、私の目の前で私に対峙する敵になってしまった、そんな気持ちにさえなりました。私は沈黙しました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます