何時しか私は板の上に四つん這いになると、丸く弧を描く模様達に目をくっ着ける様にしてそれらを嘗める様にしげしげと見詰めていた。その薄い茶色いから焦げ跡のように暗く濃い木目迄、樹木が作り出す濃淡のグラデーションが織りなす自然美を鑑賞し始めていた。それらは場所によっては弧が盛り上がって密着し、部分に置いては欠けた空間を作っている個所が有り、同色の木片の丸く押し詰目込まれた様な部分有り、零れる様に砕けた木っ端が溜まっている部分有り、それは真に見ていて飽きの来ない樹木、木材の様々な造形美となっていた。私はどんどんと木目の世界に惹きつけられて行っていた。
「板を嘗めているのかい。」
祖母の声が後ろから聞こえた。私が振り返ると障子戸の入り口に祖母が立っていた。
『なんだ、お祖母ちゃんか。』
私は愛想無く思った。板を嘗めている、と、この言葉は祖母の物言いから冗談だと分かっていたが、私は「まさか。」と真面目な答えを彼女に返した。そして素っ気なく彼女から視線を外すと向き直り、再び自分が見ていた元の桁に目を移してそのまま木目の節々に目を走らせた。その後今しがた自分が目を外した木目部分を見つけると、内心少々祖母に後ろめたく感じながら継続して弧の観察をし直し始めた。そんな私に祖母は無言だった。
私は木目に目を落としながら思った。『一寸素っ気なかったかな。』。それで彼女には背を向けた儘次の言葉をつけ足した。
「こんな物嘗めたらお腹を壊してしまうじゃないか。」
「お祖母ちゃんたら、変な事を言うんだね。」
と、この時の私は口さがなかった。
祖母にしてみると、私という幼い孫が縁側で何やらうんうん唸って転がっているものだから、何事かと私の様子を心配して見に来てくれたのだろう。そんな事は私にも分かっていた。そして彼女は案じた孫に話し掛ける取り掛かりとして冗談を言ってみたのだ。しかし私に生真面目な返答をされたので沈黙したのだ。そのくらいの事は私にも分かっていたのだ。
が、この時の私はこの後に彼女に指摘されるのだが、明らかに少々捻くれていた。全く素直では無かったのだ。それでも私は自分の言葉に祖母はどう思っただろうかと彼女の事が案じられた。それでちろっと彼女の顔色を振り返って見た。
祖母は小憎らしい一言を返してきた孫に明らかに機嫌を損ねたらしかった。彼女はふんという感じで頬を赤らめた。それから少々間を置いて、彼女は大様に構えると如何にも遠慮がちに口火を切った。
「いえね、お前が縁で…。」
うんうん唸っているものだから、一寸気になってね。煩いし。お父さんも見て来いというし。お前のお祖父ちゃんの方だけどね。そんな事を彼女は何やら口の中でもごもご言っていた。そして
「ここ2、3日、こんな所で一体何をしているんだい。」
と、彼女達が一番聞きたい事を聞いて来た。
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