では、お祖母ちゃん、諸行無常を知らないのなら私が教えてあげるね、私はお父さんから聞いたんだけど、あの坂を登った上にあるお寺の、建物の中にある絵の、その中の諸行無常が描いてあるところで聞いたんだけど。諸行無常はねえ、
「どんな綺麗な人でも、最後は1人になって、死んでしまうんだって。お墓の中で骨になって1人で居なければいけないんだって。」
祖母は徐に顔をしかめました。
「何だって、」もう1回言ってごらんと祖母は孫を促しました。お祖母ちゃんは年だから1回聞いただけじゃ分からないんだよ。そう上手く言葉巧みに言って、彼女は孫にもう1度言葉の説明をさせようとしました。
「うーん、お祖母ちゃん、よく聞いてね。普通は1回しか言わない物なんだからね、私のお祖母ちゃんの事だから特別にもう1回言って上げるね。特別だからね。」
と、これは父の言葉というよりも、母の口真似をして話す蛍さんです。おやまぁ、と祖母は蛍さんに恐れ入ったという感じで、へええぇと、それはねぇと、思わず振り返って蛍さんの母、嫁の姿を探してみましたが、幸いというか、嫁は使いに出ていて家にはいませんでした。嫁の姿が無い事を確認して、祖母は身を起こすと背筋を伸ばし、きちんと正座しました。
「おやまぁ、それじゃあ特別に、このお祖母ちゃんにもう1回だけ言っておくれ。」
と、祖母は真顔で蛍さんに頼みます。蛍さんは勿論得意げで満面笑みです。有頂天でしたり顔をすると「よろしい。」と話し出しました。そのぷっくりとふくよかな顔付は嫁そっくりです。祖母は内心むらむらして目付きが険しくなって来るのが自分でも分かりましたが、孫の言葉を終りまで全て聞いてから事に対処しようと考えていました。
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