ある日、私はジャムパンのつもりでガラスケースから赤い袋を選びました。しかし、会計してもらうとそのパンの値がいつもと違い高いので、母は驚いてお店のおばさんに文句を言い出しました。「うちの子だけ如何して高いの、足元を見て…。」という具合です。他の子は何時もと同じ値段でした。皆10円の所が私の物は20円と言った具合です。
それは何故かというと、私の選んだ袋は赤い色といってもややピンク色に近い赤色であり、そのパンの中身はジャムではなくハムサンドだったからなのです。当時のお肉は高額な食料品でした。私も月に一度、カレーライスの中に入っているくらいの物でないとお肉は口には入らないという当時の家の会計状態でした。ハムもお肉の内、材料費が高かったのですね。
私がパンを選び直そうとしてパンケースを覗いても、既にジャムパンの赤い袋は無く、困った私が他のパンを選びあぐねていると、思いがけない事に母はそれでいいとハムサンドを買うわと言い出したのです。私は非常に驚きました。信じられない出来事に目を丸くしました。母が高い物を買ってくれるなんて…、今迄殆ど無いと言ってよい位に、相当に珍しい出来事でした。母にするとたまにはいいわ、という事だったようです。
その後、母は子供の私の口にハムサンドが合うかどうかとおばさんに尋ねていましたが、おばさんの一寸辛いという話に、そうねぇという感じで言い淀み、私に、辛いの大丈夫よねと、どちらかと言うと母は私にハムサンドを食べさせたい、という気持ちがこもる様な物言いをしました。どうやら母の方がハムサンドを購入したい気持ちが勝っていた様子でした。私にはしまり屋の常とは違う、母の鷹揚な様子がかなり不思議に思えた場面でした。が、一応お昼のパンはこれで確保され、私は店で取り沙汰された『辛い』という言葉に一抹の不安を覚えながら、登園仲間達と一路保育園へと向かったのでした。
その日のお昼のパンの美味しかった事、確かに辛子バターが塗ってあるパンでしたが、その辛さより、ハムのお肉系の味の美味しさの方が私には優っていました。『これもお肉の内なのだ』そう思うと、ハム様様だったわけです。今朝の大様な母に相当感謝すると、明るく元気にその日の午後を過ごして帰宅しました。
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