Jun日記(さと さとみの世界)

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ダリアの花、86

2017-03-16 16:48:03 | 日記

「帰ろう!」

機敏な者はそう言って帰る支度に取り掛かりました。蛍さんの祖父も例外ではありません。

が、事は孫娘の事、何かしら白黒の決着が付く迄は動く事も出来ません。

「物の怪ですか?」

真顔で恐る恐る蛍さんの祖父は住職さんに尋ねました。

 「左様、憑依されましたな。」

お宅の孫娘さんは、多分、動物というより誰か人の霊に取り憑かれたんです。

憑き物落とししないといけませんな。と仰います。

 「これから私が除霊をしようと思います。」

住職さんはそう前置きして、除霊には時間が掛かるので、お急ぎの方や、この場にいる事に気乗りのしない方は、

遠慮なくお帰りください。また、除霊中に何かありましても、当方では一切責任は負えませんので、

お残りの方はその旨ご了承の上でお残りください。と注意されます。

 さあ、機敏に帰り支度に掛かった何人かがさっと立ち上がり、行くよと、横にまだ座ったままの連れ連れを促します。

その何人かの内の1人の奥様が、面白そうだ、向学の為に見ておきたいと夫に言われます。

この奥様の方は何だか笑顔で興味津々、除霊は半ば冗談だと言う顔つきでした。が、

ご主人の方は全く血相を変えて、目など吊り上げて奥様に屈み込むと、ぼそぼそ耳打ちします。

 「おまえ、除霊された霊が次に誰に憑り付くと思うんだね、」

あっさり往生すればいいけれど、次はお前さんという事もあるんだよ。今のあの子の笑いを聞いただろう、浅ましい。

お前皆さんの前でああなりたいのかい?こう言われると奥様もさっと顔色が変わります。

ご主人と同じように恐怖で目を吊り上げると、今までの落ち着いた態度を豹変させて、傍らにいた子供を急き立てて立たせます。

「では、家の方は用事がございますので、申し訳の無い事ですがこれにて御免いたします。」

こうそつ無く言うと、そそくさと先に立つ夫の後に従い、家族連れだって座敷から出て行く様子です。

 「お前帰るの?」

あんたさんまで、そんな心細そうな祖父の声を残して、親戚は1人、2人と座敷から消えて行きます。


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