Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 番外編4

2024-10-17 12:09:37 | 日記
 子供は涙の訳を話し始めた。自分が悪いのだと言う。

 「へー、自分で自分の悪い所が分かるの?。」

彼女の何時もの茶々が入った。「そんなだからいけずと言われるのよ、姉さん。」直ぐに彼女へ妹からの嗜めの言葉が入った。少し静かにしてその子の話を聞いてやったらどう、親切に。と、妹に促されて、彼女は渋々、「で、話の続きは、」と、目の前の子供に話の続きを促した。

 子供の方は姉の言葉に出鼻を挫かれた感じでいたが、促されてはみた物の、実際何を如何話し始めて良いか分からずに困惑していた。モジモジと口を開かない子供の様子に、この手の対応に慣れている姉の方は、ははあん、話し方が分からないんだねと、「あんたと誰が?」「何処で?」等、定番の5W1Hの問い掛けをしてみる。「喧嘩したのかい?」「何か壊したの?」等々、あれこれと口にしてみる。そうやって彼女は子供の話の端緒を紡ぎ出してやった。

 「住職さんと、お寺で…。」

漸くそう口にして、子供は又口を閉じた。その後が続かなかった。

 「本当、鈍な子だね。住職さんと喧嘩するなんて。」

姉は続けて、「喧嘩なんかしたら住職さんに嫌われるんだ。お前、もうこれで、お寺には遊びに行けないね。」、はははと、決めつけた口調で子供を囃し立てた。子供は真っ赤になって、喧嘩していないと彼女の言葉を遮った。それから、そんな事より、自分は住職さんを助けたいのだと話し出した。

 「お前に?、住職さんを?。」

おや、何方の住職さんの話だと思う。と、今度は彼女が子供の言葉を遮って、窓から顔を引っ込めると家の内にいる彼女の妹と談笑し出した。この場合何方でも、後から向こうに訊けば良いじゃ無いのと言う妹の言葉に、二人の話は簡単に纏まった。

 もう帰ったかねと、姉が再度窓の外を眺めると、子供は未だ同じ場所に留まっていた。『本当に鈍な子。』彼女は思った。今の間にさっさと帰れば良かったのに。機転の利か無い子だね、彼女はこの鈍間な子に微笑んだ。

 さて、子供の方は住職さんに嫌われたと言う彼女の言葉に、それは誤解だと非常に腹を立てていた。このお姉さんは何時もそうだ。自分の言う事を分かってくれない。自分が言った通りに素直に取れば良い物を、どうして自分の言いたい話と違う様に物事を受け取るのか。子供は恨めしくも腹立たしく思った

『これこそいけずと言うのだ。』

お姉さんのいけず。子は内心呟いた。思わず彼女を見詰め顰めっ面してしまう。今日はお姉さんに言いたい事をきちんと伝えるのだ!。ふん!と子は決意した。

 実は彼女に取って、この界隈の子供との会話は単なる暇潰しの道具だった。彼女は自分が会話する子供達の話しをあれこれと曲解してみせると、それに対応して反応する子供の様子が面白かった。彼女は再三子供の話しを聞き込むと、それを又ネタにしてふざけるという、滑稽な繰り返しを愉しんでいた。融通の効かないこの智という子は、彼女に取って取分け揶揄い甲斐がある一人だった。『うふふ、次は何て言おうかな。』彼女がこう考えていると、不意に子供が話し出した。

 「私は住職さんに嫌われていません。」

流石、今住職さんと話して来たばかりの子供だ、言葉や口調が彼そっくりだ。もう感化されたらしい。子は環境に影響され易い物だ。彼女は思った。「若い方だね。」姉は呟いた。思わず真顔で子供の顔に見入った。

 「で、住職さんと、何て?。」彼女は子供に尋ねてみる。子供は「住職さんは何て?、でしょう。」と、何時もの彼女とは逆に、彼女の言葉の揚げ足取りをして来た。『おや、本当に怒ってるね。』彼女は鼻白んだ。

 「まぁいいさ、あんたの言う通りだ。それで、住職さんは、若い方でしょ、あんたに何と言われたの。」

紅潮した顔で憮然とした言葉使いをする子と、幾つか会話を遣り取りした後に、彼女は物静かな声で子に尋ねた。子は彼女が下手に出て遣った事で頭が冷えた様子だ。深呼吸して気持ちを落ち着けている。又話す言葉を考えている様子で静かになった。

 「私が変わった子だから、住職さんを助ける事が出来るって。」

子の言葉に、彼女は無言でいた。

 「出来無い事を、しなければならないって。」

出来無いから喜怒哀楽以外の気持ちになるって。辛いから助けて欲しいって。

 「お前に?。」

住職さんが、そんな事を、と、彼女は顔を曇らせた。お姉さん、聞かないほうが良いわよと、室内の妹はこっそり助言した。代替わりした、若い方の住職さんの方なんでしょうと。「行成話しを止められないでしょう。」姉もこっそりと妹に返す。おいおいとね、子供は家に帰す方向に持って行くわよと、姉妹は道にいる子供を子供の家に帰す算段を始めた。

 と、その時、姉妹のいる部屋の入り口に、彼女達の兄が立った。妹へと書付を手渡すと「申し訳ないね。」と言い添えた。妹はその紙を広げて中に書かれた文字を見た。開ける前に予感がしたのだろう、彼女はそれを見る前から頭を垂れていた。姉の方も見るともなく妹の方を覗っていた。「何やの?。」彼女は傍に戻って来た妹に訊いてみる。返事は彼女の予想通り「破談」だった。残念やわね、彼女は言った。いいのよと妹は返して、もうお芝居しなくていいわよと、寂し気に姉に微笑んだ。向こうさんの希望通りにして、性格の良く出来た、子供好きの、良家の子女を好演したつもりだったのに、姉さんだって協力してくれたのに、無駄だったわ、結局はこうなるのよ。と、婚期の姉妹の努力の報われなかった事を残念がった。好みの人だったのに、妹は呟いた。