Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、107

2017-03-29 19:23:56 | 日記

 「やあ、光。具合はもういいのかい?」

祖父が怪我の具合を尋ねると、光君は不思議そうに何の具合かと聞き返してきました。

「怪我だよ、お前の、大したことは無かったのかい。」

その調子ならあまり酷い事も無かったのだなと祖父は思います。光君は面白そうに目を輝かせると、

「祖父ちゃん、何か間違えてるだろう。俺怪我なんかしてないよ。」

と、祖父の言う事が全く的外れで、自分の事ではない話だろうと、さっぱり分からない様子です。

 おや、っと祖父は思いました。もしかしたら光は頭の打ち所が悪くて、一時的に記憶喪失にでもなったんだろうか。

そんなことを思って、光君の様子をしげしげと眺めてみます。何時もと変わらずに機嫌よくにこやかで元気そうです。

「ちょっとこっちに来てご覧。」

祖父は光君を傍に呼んで、さっき見たたん瘤の具合を調べてみます。そっと手で頭に触れてみます。

ここにたん瘤があったんだがなぁと、髪の毛を静かに分けてみて、地肌など眼で眺めてみます。

たん瘤があった場所も、その周りも、光君の頭の何処にも異常は見られないのでした。

 『はて、さて、奇妙な事があるものだ。』

光君の祖父は何が如何なったのか、自分の方が夢でも見ていたのだろうかと、一瞬誰かに頬を抓って貰いたくなりました。

 ちょっと光に訊いてみよう。そう思った祖父は、

「なぁ光、さっきあの女の子、蛍ちゃんだったなぁ、と、一戦やらかしたよな。」

と言ってみます。

「誰が、俺が?蛍ちゃんと、って、女の子と、一戦っていう事は喧嘩したっていう事、まさか。」

女の子と喧嘩なんかした事無いよ。しかも好きな女の子と如何して俺が喧嘩するのさ。変な事ばかり言うなよ、じっちゃんってば。

そう言って光君は、お祖父ちゃん如何したんだと言わんばかりに目を見開いて、驚いた顔をして祖父を見上げるのでした。

 『あら、これは一体全体如何なっているんだろう。』

祖父は内心酷く狼狽しました。しかし、表面は平静を装うと、

「ああ、これは、お祖父ちゃんが勘違いしていたようだ。ごめんごめん。」

そう言って笑って光君に謝ると、光君の様子を観察しながら、本堂の様子もそれとなく眺めてみます。

 

 

 


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