それにしても、泣いていた男の子は嘘泣きをしていたのですね、そんな事とは露ほども思わない蛍さんです。
あの子が早くに泣き止んでくれてよかったと思います。
『私が苛めたみたいじゃないの。』
何もしていないのに、男の子のくせに直ぐに泣くなんて…。ちょっと腹が立って来ました。
『でも、あの子のお祖母さんに酷く叱られると思っていたけれど、不思議な事に何も言われずに済んだわ。』
そう思うと、ホッとする蛍さんです。
蛍さんは、子供同士何がもめた時、子供のお母さんよりはそのお祖母さんの方が、
叱る時は相当激しくて怖いという事をよく知っていました。
時には逆の事が無い事も無かったのですが、大体は年寄りの癇癪の方が勝っていたものです。
何故こんな事が分かるのでしょう?
それは蛍さんの経験からでした。1度ならず子供のいさかいで揉めた事のある蛍さんです。
蛍さんはお転婆さん、それ以上、見た目以上に実は相当なガキ大将だったのです。
『相変わらずだなぁ、蛍のやつ。』
光君は思います。あの膝小僧の傷といい、物怖じしない態度といい、ガキ大将と迄は思わなくても、
蛍さんが相当お転婆な女の子だという事は光君にも分かっていました。
それにしても、自分で分別が付くようになる蛍さんとは思えません、あの子供を野放しの親が教えるはずもないし、
と、思うと光君は不安になりました。、
誰か蛍さんの側に分別のある者が付いたことを彼は悟るのでした。
「野郎かしら?」
つい口から言葉が出てしまいました。
「何です、光。汚い言葉を使って。」
直ぐに光君の言葉を聞き咎めたお母さまが叱ります。
「漸く俺から僕と言い変えられるようになったのに、綺麗な言葉を使いなさい、綺麗な。」
はい、お母様と光君は答えながら、ふん何だいと内心思います。
たまにしか来ないくせに母親面して、心の中であっかんベーをして見せます。顔は淀みの無い笑顔です。
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