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Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 175

2020-03-06 15:40:54 | 日記

 おばさんはそんな私を余所に、正座して俯くと、帳場に置いてあった眼鏡をかけて何やら記帳し始めた。

 コッペ2、交際費。雑費かな…。等々、ぶつぶつ何やら言っていたが、ちょいとと、奥に向かって声を掛けた。

「ご近所さんに上げるパンは交際費かい、雑費かい、または他の勘定がいいかね。」

どんな扱いにするんだい。

 そんな彼女の声掛けに、この家の奥から何人かの答えが返って来た。私は聞こえて来るままに、耳に入るそんな遣り取りを具に聞いていた。そして目に映るパンの方にも興味をそそられていた。初めて目にする物のように思えた。

 『食べるものか…。』

甘いものだといいなぁ。滅多に甘い物等口に入らない私だ。それらは私の目に決して甘そうには見えなかったが、もしかすると甘い物なのかもしれない、そう思い、目を細めると私は、期待を込めてパンケースの中のパンという代物を見詰めた。『目の前のこれが甘い物であります様に。南無南無…』私は手を擦り合わせた。

 「何だい、大きな声で。」

「表にまで聞こえてるんじゃないかい。」

恰幅の良い声を響かせてどしどしと男の人がお店に出て来た。この人はこの家の大旦那さんだ。しかし私はまだこの人の顔を覚えていなかった。彼は殆ど家の奥深くに居たので、私は滅多に顔を合わせた事が無かった。

 ご主人は何の費用代だい?と、半ば叱り加減で奥さんに声を掛けた。奥さんは慣れたものであら怖い等言って、帳簿から顔を上げないでいたが、一呼吸間を置いてから、そっと私に視線を送ると、越路屋さんの、ほれ孫の智ちゃんだったよねと、私の方を見て言葉を促した。

 そうだよ、智ちゃんですと、私は大旦那さんのご機嫌を取る様に、おはようございますと挨拶した。すると、大旦那さんは私の方に一瞥もくれず、反対に私から顔を背けると、「ちゃんは余計だね。」と、向こう側へ言葉を吐き捨てた。


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