その時の傘への嫌悪感に似たコンプレックスが甦って来ました。『そんな親への不満話もこの場では出来ないから。…今更この色の傘を差したくはない。』と私は視線を落とすのでした。しみじみとして自身の思春期の記憶が思い浮かんで来るので、見ず知らずのおかみさんの前でこれ以上暗くなりたくないと、記憶を打ち消し気分を引き立てました。
確かにこの傘の青は私の顔に映りが良く、花柄は皆同柄で同じシリーズの傘達なのでした。傘生地のベースの色に合わせて花柄の色は多少違っていても、皆どれもそれぞれに魅力的で素敵でした。が、この時タコイズブルーは私の選択肢から外れたのでした。他にも青が有ったかもしれません。私は学校時代美術科目で油絵をしていたので、本来好みのブルー系ならコバルトブルーが1番好きな色でしたが、この時の私はどの青色系の傘も選択しようとは思わなかったのでした。
気に入って入店した赤色系の傘が買えないなら、いっそ買わないでおこうかと私が思い始めた頃、ショーケースの中にある、折りたたまれてカバーを被ったまま並んでいる別の傘達をおかみさんに勧められました。勧められるままにケースに並んだ傘を見るふりをしながら私は物思いに沈みました。開いて置いてある傘は見せてあるだけで売る気はないのだと感じたのです。私は学生時代東京在住だった父から東京での思い出話を幾つか聞いていたのです。それで首都では自分の思い通りにならない事もあるのだと察し、彼女の方に振り返ると、私は思い切って今出してある傘が欲しくて来た事を主張しました。
家にはもう傘があり、勿論折りたたみ傘も古くない物が有り、私には傘の必要性は全然無い事、開いている傘がとても気に入り欲しくて入店したという事をつまびらかにすると、私はそれではともう帰ろうとしました。するとおかみさんの様子は折れたように変化し、どの傘でも好きな物をどうぞという遜った態度に変わられました。それで私も、つい我を張ってしまった自分の態度を反省しました、此処は彼女のお店なのだと思うと、私も彼女に譲って赤系統の傘はスッキリと諦めました。
『ここは都会に出て来て心機一転、思い切って買った事の無い色、彼女の推奨品でもあり、自身の顔映りも丁度良かった緑の傘を買おう。』と決心しました。
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