朝の本堂で、蛍さんは酷くしょんぼりとして、困り果てた様子でいました。
畳の縁に腰を掛けて、うな垂れて1人ポツンと座っていました。
「困ったなぁ。」
そう呟いて、足元の木の廊下の年輪を見るともなしに眺めていました。
すると、本堂の後ろの方から男の人が現れました。
入り口近くに女の子がいる事にこの男の人は気付きました。
それとなく女の子の様子を気にしていましたが、そのうな垂れた後ろ姿に、如何やら何だか困っている雰囲気だと察します。
『迷子かしら?』そう思って、声をかけようかどうしようかと思いながら、少しずつ女の子に近付いて行きました。
蛍さんは何気なく振り返って、本堂の柱の陰に男の人がいることに気付きましたが、それで如何ということもなく、
知らない人だと思うと、自分の困りごとがその人に解決できなる訳ではないと思うのでした。
それでまた元の様に向き直ると、下の廊下に目を落とし、深々と溜息を吐くと困ったなぁと呟くのでした。
彼女は何を困っていたのでしょうか。
柱の陰にい男性は、振り返った女の子の顔を見てびっくりしました。それは紛れも無い蛍さんの顔だったからです。
『あれは、』と驚き、ドンと胸に衝撃が走り蒼ざめました。
ここであったが百年目、初め仇敵に会った気がして憎らしく、そして懐かしく嬉しいような、また残念なような、
様々に悲喜こもごもな感情が複雑に湧き上がってきました。
男性は如何しようかと迷いました。蛍さんに声をかけた物かどうか。
そうするとここでの今までの生活が全て無駄になってしまうかもしれない。
元の黙阿弥で、息子や可愛い孫との生活が全く無に帰してしまうかもしれない。そう思うと、
彼はそれ以上は彼女の方へ足が進まず、立ち竦んでしまいました。
如何やら何故彼女が困っているのかもこの男性には想像がつくのでした。
彼女の窮地を大体察しながら、この男性は、『御免ね。』、今の生活がいいんだよと、
他人より己が幸せと思い、蛍さんがうな垂れて彼に無関心な内にと、そそくさと姿を消してしまうのでした。
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