碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

2012年 テレビは何を映してきたか (9月編)

2012年12月26日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2012年のテレビ。その9月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (9月編)

「つるかめ助産院~南の島から」 NHK

「はつ恋」が好評だったNHKの連ドラ枠「ドラマ10」(火曜夜10時)。先週から仲里依紗主演の「つるかめ助産院~南の島から」が始まった。

初回の冒頭はエメラルドグリーンの海の空撮。舞台は沖縄の離島だ。蒸発した夫を探しに来た東京の主婦・仲里依紗と、1年前から島で暮している助産師・余貴美子が出会う。妊娠が判明しながら、出産を拒む里依紗は生い立ちが影響しているらしい。長老(伊東四朗、はまり役)をはじめ島の人たちの親切も、彼女には偽善に見えてしまう。

このドラマ最大の注目ポイントは、しばらく脇役の多かった仲里依紗が主役としてどこまでドラマを引っ張れるかである。幸い余貴美子という“ぶつかりがい”のある役者のおかげで、里依紗の負けじ魂と天性の演技勘が戻ってきたようだ。

先週のラスト。東京へ帰ろうとする里依紗は、船の上で余貴美子が作ってくれたおにぎりを食べる。里依紗を見つめるカメラは途中から静かにズームを開始。顔がアップになる瞬間、涙があふれてくるのだ。約90秒の長いワンカットに収める難しい撮影だが、里依紗は見事に表現してみせた。

これからが期待できるが、少しだけ心配も。初回だけで小川糸の原作小説の約4分の1を描いてしまったのだ。全8回の残り7回をどう展開するのか。脚本家・水橋文美江の腕の見せ所だ。

(2012.09.04)


「眠れる森の熟女」 NHK

熟女ブームだ、そうだ。で、さっそく出てきたのがNHKよる☆ドラ(火曜夜10時55分~)「眠れる森の熟女」である。

主人公は46歳の専業主婦(草刈民代)。銀行マンの夫と中学生の息子がいる。ごく普通の穏やかな生活が夫の浮気で一転、離婚話へ。妻は自立すべく仕事を探し、ホテルのメイドとなる。実はホテルの若き総支配人(瀬戸康史)が裏で手をまわしたのだが、そのことを彼女は知らない。庶民熟女とイケメン御曹司の恋という、まるで“逆韓国ドラマ”みたいな設定だ。

まあ、それはいい。わからないのはヒロインがなぜ草刈民代か、である。これほど主婦が似合わない女優も珍しい。キッチンに立っても、夫や息子と向き合っても現実感が希薄なのだ。完全に演技力の問題である。

草刈民代といえば映画「Shall we ダンス?」。あのヒット作から16年経つが、バレリーナ(3年前に現役引退)としてはともかく、女優としてどれだけ進歩したのか疑問が残る。確かに熟女には違いないが、主役を張る“熟女優”の芝居とはとても思えない。

ならばこのドラマ、見る価値はないのか。いや、夫が走った中学時代の同級生で初恋の人、森口瑤子がいる。役柄というだけでなく、熟女優ならではのツボを心得た、余裕の振る舞いが魅力的だ。大人のオトコが見ておいて損はない。

(2012.09.11)


「負けて、勝つ~戦後を創った男・吉田茂~」 NHK

NHK土曜ドラマスペシャル「負けて、勝つ~戦後を創った男・吉田茂~」の出来栄えが見事だ。坂元裕二の脚本は吉田茂(渡辺謙)だけでなく周囲の政治家や官僚、さらに家族との関係まで丁寧に描いている。

主演の渡辺も貫禄充分。ダグラス・マッカーサー役には映画「ザ・ロック」などで知られるデヴィッド・モースを起用。2人が向き合うシーンはハリウッド映画を見るような贅沢感がある。

だが、それにしてもなぜ今、吉田茂なのか。確かに「復興」の文字は現在に通じるものがあるが、吉田に対する評価は以前と違ってきている。

その一例が元外務省国際情報局長・孫崎享の近著「戦後史の正体」だ。戦後から現在に至るまで、日本が米国の圧力に対して、「自主」路線と「追随」路線の間で揺れ動いてきた経緯を明らかにしている。特に占領期は「追随」の吉田と「自主」の重光葵が激しく対立。重光は追放され、同じく自主路線の芦田均も7カ月で首相の座を追われた。

孫崎によれば「日本の最大の悲劇は、占領期の首相(吉田茂)が独立後も居座り、同じ姿勢で米国に接したことにある」。こうした評価をドラマの中で生かすのかどうか。「この時期を乗り切るには対米追随しかなかった」とか、「吉田茂はよくやった」という単純な話になるとは思わないが、今後の展開に注目したい。

(2012.09.18)


「死と彼女とぼく」 テレビ朝日

先週金曜の深夜、ドラマスペシャル「死と彼女とぼく」(テレビ朝日)が放送された。

主人公は死者の姿を見たり声を聞いたり出来る女子高生(三根梓)。ビルの屋上から転落死した女性建築士(櫻井淳子)と出会う。警察は自殺と断定するが、本当は設計プランを奪った同僚(袴田吉彦)に突き落とされたのだ。三根は、恨みに凝り固まる櫻井が無事に旅立てるよう奔走する。

脚本を手がけたのは、「世にも奇妙な物語」などの演出家でもある落合正幸。川口まどかの原作漫画をベースに、死者たちと向き合うことで逆に“生きること”を大切にしようとするヒロインを巧みに造形していた。

しかし、このドラマで注目すべきは、特殊な設定にも関わらず溌剌と演じた三根梓である。女性誌のモデルとして知られる三根だが、今回がドラマ初出演にして初主演。大きなプレッシャーの中での挑戦だったはずだ。

現在20歳の三根は、なんと早大政経学部在学中の現役学生。彼女にとってこのドラマは、大学生が就職活動の一環で夏休みに体験する、企業での「インターンシップ」に当たるのだ。しかも上手くいけば本格的女優業への道が開ける。そりゃ頑張るしかなかったろう。

まずは及第点という結果だが、遠く吉永小百合を望む“早稲田女優”に名を連ねることができるかどうかは、今後の精進にかかっている。

(2012.09.25)



2012年 テレビは何を映してきたか (8月編)

2012年12月25日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る、この1年のテレビ。今回は8月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (8月編)

「黒の女教師」 TBS

千代田線・赤坂駅からTBS局舎へと向かうエスカレーター脇に、「黒の女教師」の巨大ポスターが貼ってある。主演の榮倉奈々は黒のミニスカート。軽く組んだ長い美脚が実に見事だ。ただし、残念ながらこのドラマの中の榮倉はパンツ姿が多い。毎回、ラストの見せ場で披露するのが「愚か者!」の“決めゼリフ”と、制裁の“回し蹴り”だからだ。

昼間は「普通の先生」だが、実は学校内の悪や問題を解決する「スーパー教師」。しかも課外授業の名目で金銭も要求する。榮倉はこの得体のしれない女教師を熱演している。だが、さすがに「女王の教室」(日テレ)の天海祐希的迫力はない。そこで小林聡美や市川実日子など同僚とのチームプレイとした。この辺りの設定も悪くない。

しかし、ひとつ不満がある。ターゲットの悪を暴いていく過程と、最後の“お裁き”の場面で警察の力を借りることだ。これはちょっと安易ではないか。榮倉たちの“課外授業”自体がかなり非合法なものだ。それでも結果的に生徒たちを救うことになるから許されている。そんなダークヒロインが肝心なところで警察など頼るべきではない。

このドラマには「鈴木先生」(テレ東)の土屋太鳳、映画「愛と誠」の大野いとなど、若手実力派が生徒役で参加している。美脚の榮倉先生も負けてはいられないのだ。

(2012.08.07)


「ゴーストママ捜査線」 日本テレビ

仲間由紀恵が日本テレビで4年ぶりの主役を務めている「ゴーストママ捜査線」(土曜夜9時)。婦人警察官だった仲間が殉職し、夫(沢村一樹)、娘(志田未来)、息子(君野夢真)の3人が残される。ところが、仲間は幼い息子を心配するあまり、幽霊となって現世に留まってしまう。

第1話を見た時は、ゴーストママとその息子が事件を解決していく“異色ミステリー”かと期待した。しかし、そうではなかった。回を追うごとに、半端なファミリードラマとなっているのだ。

先週など、その最たるもの。沢村が、夏休みに入った息子を連れて仲間の実家にやってくる。息子は自分の母親と祖父(内藤剛志)が今も反発し合っていることを気にして、何とか仲直りさせようとする。小さな騒動が起こり、結果的に2人は仲が良かった昔を思い出して和解するのだが、それだけの話だ。事件も捜査もありゃしない。

最も印象に残ったのは、沢村一家が東京と田舎を往復するたびに出てくるクルマだ。スズキの「SX4セダン」。緑の田園地帯を走る遠景から車内の様子まで、実に丁寧に撮影されていた。もちろんスズキはこのドラマのスポンサー企業である。

登場人物に商品を使わせる「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれる広告手法だが、そんなことよりドラマの中身に力を入れてもらいたい。

(2012.08.14)


「主に泣いてます」 フジテレビ

フジテレビ「主に泣いてます」(土曜夜11時10分)は、バラエティでよく見かける“9等身モデル”菜々緒が初主演する連続ドラマだ。しかも役柄は「世の中の全ての男性が心を奪われ、 なりふり構わず追いまわしてしまう」絶世の美女である。いや、追い回されることで普通の生活ができない“不幸美女”なのだ。

男を虜にする美しすぎる顔を隠すために「子泣き爺」から「元巨人のクルーン選手」まで、笑えるコスプレを披露。菜々緒自体がそれほどの美女かどうかはともかく、体当たり(しかないのだが)の演技で頑張っている。

ただし、このドラマの真の主演女優は菜々緒ではない。草刈麻有(草刈正雄の娘)が演じる“究極のツンデレ女子中学生”が秀逸なのだ。美少女なのに笑わない。自分を「オレ」と呼び、変に大人っぽい(実際の草刈は19歳)。本当は優しいのだが、自分の気持ちを素直に表現できず、暴力的な我がままを通したりする。ほとんど“怪演”と言ってもいい草刈だが、ぼーっとしているばかりの菜々緒を尻目に大量の台詞を連射し、物語をぐいぐいと引っ張っていく。

ドラマの視聴率は平均で5%台と苦戦しているものの、馬鹿馬鹿しい話を大真面目で撮っているところに好感がもてる。菜々緒に再び主演のオファーがあるかどうかは疑問。しかし、草刈麻有を再発見した功績は大きい。

(2012.08.21)


「トッカン~特別国税徴収官」 日本テレビ

日本テレビのドラマ「トッカン~特別国税徴収官」(水曜夜10時)が、なかなかいい出来だ。税金滞納者の中でも、特に悪質な事案を扱うのがトッカンこと特別国税徴収官である。

ただしヒロインの井上真央はトッカンではない。有能にして冷血なトッカン(北村有起哉)付きの徴収官だ。仕事に対する覚悟も定まらない井上は北村から怒鳴られてばかりいる。このちょっとドジだが生真面目な新米徴収官を演じる井上の安定感が見事なのだ。

先週は計画破産の常習犯が相手。裁判所が正式に破産を認めれば税務署でさえ手が出せない。まさに法律が犯罪者を守ることになる。井上は単独で隠し財産を突き止め、裁判所に破産手続きの中止を求めるが、堅物の事務官(嶋田久作)が立ちはだかる。井上の頑張りどころ、見せどころだ。

毎回読み切りのエピソードと並行して、初回に登場した町工場の夫婦(泉谷しげる&りりィ)や銀座のクラブママ(若村麻由美)などのサイドストーリーを走らせているのも効いている。

徴収官は法律を盾に差し押さえなどを進めるが、滞納者の中には払いたくても払えない事情を抱えた善人もいる。そんな相手に対して、井上は悩んだり迷ったりしながら作業を進める。このドラマは井上が徴収を通じて「世の中」を知っていく成長物語でもあるのだ。

(2012.08.28)






2012年 テレビは何を映してきたか (7月編)

2012年12月24日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る、この1年のテレビ。7月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (7月編)

「恋する大人のドラマスペシャル黄昏流星群~星降るホテル~」 フジテレビ

先週、「恋する大人のドラマスペシャル黄昏流星群~星降るホテル~」(フジテレビ系)が放送された。原作は弘兼憲史の人気劇画だ。

今回ドラマ化された物語は至ってシンプル。ベンチャー企業家(高橋克典)が病に倒れ、10年分の記憶を失くす。困り果てた妻(石田ひかり)が頼ったのは夫のかつての恋人(黒木瞳)だ。

高橋の記憶を取り戻すために黒木が妻、石田が家政婦を演じる。高橋に対して複雑な思いの黒木。役割と納得しながらも黒木に嫉妬する石田。最後はもちろん黒木が“愛の奇跡”を起こす。

ツッコミどころ満載であることは見る前から分かっていた。この年代の恋愛物といえば黒木というのが安易だし、黒木と高橋の組み合わせは昨年の連ドラ「同窓会~ラブ・アゲイン症候群」(テレビ朝日系)のまんまだ。さらに妻とかつての恋人が入れ替わる設定も実際にはかなり無理がある。
 

ところが、このドラマの黒木瞳は悪くない。NHK「下流の宴」「ママさんバレーでつかまえて」など主婦を演じると嘘っぽいのだが、今回の「独身の美人ピアニスト」みたいな現実感の薄い役柄はぴったり。「大人のいい女」になり切って、このファンタジーを支えていた。そしてもう一人、黒木を慕う心療内科医役の片岡愛之助にも注目。普通の役者とはどこか違う佇まいが印象的だ。

(2012.07.03)


「東野圭吾ミステリーズ」 フジテレビ

先週から「東野圭吾ミステリーズ」(フジテレビ)が始まった。ナビゲーター役に中井貴一。初回「さよならコーチ」の主演は唐沢寿明だ。

アーチェリーの有力選手(田中麗奈)の遺体が発見される。現場の状況、遺書代わりのビデオテープ、さらにコーチ(唐沢)の証言もこれが自殺であることを示していた。しかし一人のベテラン刑事(西岡徳馬)だけは他殺を疑い、捜査に入る。

冷静さを保とうとする唐沢。追いつめる西岡。唐沢への思慕から精神のバランスを崩していく田中。ラストでは、この回のタイトルでもある「さよならコーチ」という言葉が切なく胸を打つ。

全体として、いい短篇小説を読んだ後のような充実感があった。それを可能にしているのは原作の構成を生かした脚本、河毛俊作監督による円熟の演出、そして唐沢など実力派俳優の演技だ。ストーリー、演出、役者の三拍子がそろえば怖いものはない。出来のいい読み切りドラマならではの贅沢な時間だった。

東野作品は前述の構成力と共に、映像をイメージしやすいことも特色。青年時代は映画監督になりたかったという東野氏の小説は、どこか映像的なのだ。何より骨組みがしっかりしているから、スタッフもキャストも思いきりぶつかっていける。“大人が見るべきもの”としては、早くもこの夏イチオシの枠だ。

(2012.07.10)


「サマーレスキュー~天空の診療所~」 TBS

なんだろう、この肩すかし感は。TBS日曜劇場「サマーレスキュー~天空の診療所~」である。

お膳立てはそろっていたのだ。主演は「ゲゲゲの女房」の向井理。「カーネーション」の尾野真千子もいる。さらに「ふぞろいの林檎たちⅣ」以来、15年ぶりのTBS連ドラ出演となる時任三郎まで持ってきた。

舞台は夏らしく標高2500メートルの山上にある診療所。中身は「救命病棟24時」「Dr.コトー診療所」などヒットの多い医療ドラマだ。これだけ並べば充実したドラマを見せてもらえそうではないか。なのに、この不完全燃焼はなぜ?

まず山岳診療所という設定に無理がある。毎週毎週、登山客が病気やケガをする山って、一体どんな山なんだ?呪われてるのか? せめて「Dr.コトー」みたいに島ならば住民もいるんだけど。

また、医療ドラマらしいダイナミックな見せ場も期待できない。そもそも重病患者は山に来ないからだ。それにこの診療所の医療設備は最小限で、医師が出来ることは少ない。患者の命を救うにはヘリで町の病院まで搬送するのが一番なのだ。

今後、ドラマを引っ張るためには謎の看護師・尾野の過去を明かしていくか、山荘や診療所の人間が病気になるか、要するに内向きな話になる。それよりは夏山の実景でも見せてくれたほうが、よほど有難い。

(2012.07.17)


「リッチマン、プアウーマン」 フジテレビ

現在の大学4年生の就職活動が始まったのは昨年12月。あれから8ヶ月が過ぎて、学生は3つのタイプに分かれてきた。すでに就職先を決めた者、内定は得ているが就活継続中の者、そしてまだ内定が出ていない者だ。

フジテレビ月9「リッチマン、プアウーマン」のヒロイン(石原さとみ)は東大理学部生ながら3番目のタイプ。IT企業のカリスマ社長(小栗旬)と出会い、運命が開け始めたところだ。

このドラマにはいくつかの側面がある。資産250億円の富豪青年と女子学生の恋愛ドラマ。慢性的就職氷河期を生きる学生の就活ドラマ。また小栗が率いるITベンチャーをめぐる企業ドラマでもある。

しかし、何と言っても見るべきものは、コメディエンヌ・石原さとみの熟成度だ。2年前の「霊能力者 小田霧響子の嘘」(テレビ朝日)で見せた“ふっ切れキャラ”に、更なる磨きがかかってきている。

特に、追いつめられた“未内定”就活生の焦り、不安、憤りを体現したシーンなど絶品。実際、面接で落とされまくり、自分の存在自体を否定されたように感じてしまう就活生は多い。来年春からの「居場所」を必死で探す石原の悲惨と滑稽には、十分なリアル感があるのだ。

今後、物語は石原の素性の謎を交えながら進行していく。“魅惑のくちびる”は何を明かすのか。

(2012.07.24)


「探検バクモン」 NHK

NHK「探検バクモン」は今年2月に終了した「爆笑問題のニッポンの教養」、通称「爆問学問」の後継番組だ。コンセプトは「オトナの社会科見学」。先週は開館したばかりの「原鉄道模型博物館」に出かけていた。

確かにこの博物館は素晴らしい。爆笑問題の2人も、館長の原信太郎さん(99歳)が生涯を賭けて製作してきた「1番ゲージ」と呼ばれる大型模型に圧倒されていた。

しかし、圧倒され、感心し、楽しんでいるだけなら、ただの観客である。原館長の“鉄道模型一代記”は興味深かったが、それは太田光たち抜きでも十分成立する。つまり爆笑問題を起用している意味がないのだ。以前の番組が様々な研究分野の第一人者を相手に、太田光が一歩も引かずに論争などしていたことを思うと、随分平凡な内容になってしまった。

それに、これまでの見学先として並ぶのが海上保安庁、日本科学未来館、造船所などだ。これって「タモリ倶楽部」をなぞっていないか? 模型博物館でも、案内役として登場したのはフュージョンバンド「カシオペア」の元キーボード担当・向谷実。「タモリ倶楽部」の鉄道企画では常連だ。

かつて「ブラタモリ」が登場した際も、「タモリ倶楽部」との類似を指摘したことがある。同じような「社会科見学」はやはり恥ずかしい。

(2012.07.30)



2012年 テレビは何を映してきたか (6月編)

2012年12月23日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る、この1年のテレビ。6月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (6月編)


「Rの法則」 NHK・Eテレ 

中高生の息子や娘を持つオトーサン、「我が子ながら何を考えているのか、よくわからん」と思ったりしていませんか?

そんな向きにぴったりなのがNHK・Eテレ「Rの法則」。月曜からから木曜、18時55分から放送している30分番組だ。タイトルのRはランキング&リサーチの略で、中高生が関心をもつ話題をピックアップし、その真相を探っていく。司会はTOKIOの山口達也。

先週放送された中で最も興味深かったのが「失敗しない!大学選び」シリーズの国際関係学部編だった。確かにこのジャンルは人気急上昇中で女子の4割が行きたいという。全国173の大学が設置しているが、明大・国際日本学部、立教大・異文化コミュニケーション学部、法政大・グローバル教養学部など名称も中身も多彩で実態が分かりづらい。

番組では高い就職率で話題の秋田にある国際教養大学を紹介していた。教員の半数が外国人で授業は全て英語。学生寮も留学生と同室なので24時間が語学漬け。外国語を母国語並みにするにはいい環境だろう。

またスタジオには各大学の現役生がいて体験談を披露。見えてきたのはグローバル仕様の授業、高い国際恋愛率、そしてバイトも含めていつも勉強という“法則”だった。中高生はもちろん、親にとっても参考になるリアル感。これがもう一つのRかもしれない。

(2012.06.05)


「ネプチューンの超体験!タイムワープ旅行社~時間旅行で江戸時代へ~」 日本テレビ

先週、日本テレビが放送した特番「ネプチューンの超体験!タイムワープ旅行社~時間旅行で江戸時代へ~」。ドラマとドキュメンタリーを合わせたようなタイムトリップ物と聞いて、NHK「タイムスクープハンター」の類似品を想像していたが、別物だった。

確かに東幹久・鈴木砂羽の夫婦とその子供たちが「江戸体験ツアー」に出かけるが、彼らはあくまでも狂言回し。番組の目的は「江戸時代のエコを学ぶ」であり、飽きさせないためのドラマ仕立てだったと言える。

むしろ主役は情報部分の“解説役”を務めたベッキーだろう。何しろ東一家が見るもの聞くもの全てに解説が付くのだ。長屋の住まい方に始まり、「損料貸し」と呼ばれた当時のレンタル屋、トイレ事情、居酒屋のスタイル、さらには吉原での花魁遊びについてまで、ベッキーがひたすらしゃべりまくる。

解説用のVTRはお歯黒の染料作りや、灰を使った洗濯など様々な再現や実験を含めよく出来ていた。また江戸の街がかなりのエコタウンであることも、庶民の暮らしがエコだったことも十分に学ばせていただいた。

しかし2時間の長丁場、カメラ目線で解説を続けるベッキーには参った。滑舌の良さは認めるが、さすがに途中からは見る側も疲れ気味。エコ特番らしくベッキーの出番がもう少し“省エネ”だったらと思う。惜しい。

(2012.06.12)



「はつ恋」 NHK

NHKドラマ10「はつ恋」が佳境に入ってきた。かつての初恋の人、しかも自分を捨てた男と再会する人妻の物語。このドラマで注目したいのは自身も妻(夫は東山紀之)である木村佳乃の人妻役と、情感に満ちた大人の演出の2点だ。

仕事も家庭も充実していた木村が突然難しい肝臓がんに襲われる。夫が探してきた凄腕の医師は、なんと別れた恋人(伊原剛志)だった。夫を大切に思う一方で、伊原の子供を妊娠・流産した過去を隠してきた木村の心境は複雑だ。そんな揺れる人妻を木村が繊細に表現している。再び伊原に傾斜しそうな自分を抑えようとする表情など絶品だ。

もう一つ、このドラマを支えているのが井上剛の演出である。井上はドラマ「ハゲタカ」を担当していた3人のディレクターの1人だ。大友啓史Dは映画版の監督を務めた後、NHKから独立。堀切園健太郎Dはドラマ「外事警察」を経て現在公開中の映画版も担当。

3人目がこの井上Dだ。朝ドラ「ちりとてちん」「てっぱん」で鍛えた、“市井の人たちの中にあるドラマ”を掘り起こす力がある。この「はつ恋」でも大友や堀切園のようなケレン味たっぷりな作りではなく、見る側に余韻を残す丁寧な演出と映像が光っている。

ドラマはちょうど折り返し点だ。木村と伊原の距離が縮まったところで、ここからが山場。今から見ても遅くはない。

(2012.06.19)


「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」 テレビ東京

先週の「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」(テレビ東京)は世界の達人スペシャルだった。登場したのは千葉のターザンと呼ばれる猛獣扱いの達人、中国取材による鉄球を吐き出す達人、沖永良部島の地下世界を案内する洞くつ探検の達人など。

いずれも披露してくれたスゴ技もさることながら、彼らのほのぼのとした人柄、“変わったおじさん”ぶりが楽しかった。それが仕事なのか遊びなのかよくわからないが、見ていてつい笑ってしまう。そう、まるで所ジョージみたいだ。

思えば所ジョージは不思議なタレントである。たけし、さんま、タモリなどと並ぶビッグネームだが、妙な大物感はない。この番組でも画面の中の所は偉ぶらず、リキまず、前に出過ぎない。進行は局アナの大橋ミホ、トークは東貴博や清水ミチコたちパネラーが担う。それでいて「しゃべらせてやってる」感はないのだ。

所の価値は、彼がそこにいることで生まれる柔らかな雰囲気、自由な空気にある。背景となるのは、仕事だけでなくプライベートの時間も大切にするライフスタイルだ。クルマやバイクなど自分の好きなことにはお金もエネルギーも注ぎ込む。

今年57歳になる所の「無理をせず、自分の得意技の範囲で勝負する」生き方は大いに参考になる。まさに学校では教えてくれないトコロだ。

(2012.06.28)


2012年 テレビは何を映してきたか (5月編)

2012年12月22日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る、この1年のテレビ。今回はその5月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (5月編)


「サラメシ」 NHK

この4月からシーズン2の放送が始まったNHK「サラメシ」。タイトルは「サラリーマンの昼飯」から来ている。ランチを通じて、働く人の“現場”と“生き方”を垣間見ようという番組で、ナレーターは中井貴一だ。

たとえば美容院のアシスタントのサラメシは、食事当番として自分が作った「おにぎり」。水加減や味付けにも気を配っているが、本人が口に出来たのは夜10時だ。あっという間に食べ終わると、閉店後の練習に取り掛かかる。修業時代の若者らしい懸命な姿だった。

また、アニメーション制作会社のサラメシは、賄いのプロによる手づくりだ。コマ撮りは根気と細心の注意を必要とする作業。人形の顔に汗が流れる一瞬の映像を作るだけで3時間はかかる。一日中スタジオに閉じこもっている職人たちにとって、全員で食卓を囲んでの温かい食事は大きな救いとなるのだ。1食250円の予算だそうだが、鱈の香草焼き、なめこと豆腐の味噌汁がうまそうだった。

この番組の巧みな点は、ランチを題材にしたこと。どんな職場にも違和感なくカメラが入っていける。中井貴一のユーモアあふれるナレーションで紹介される職場の雰囲気、仕事のプロセス、働く人たちの表情、そして彼らを支えるサラメシ。情報バラエティー番組の体裁ながら、優れたドキュメンタリーになっている。

(2012.05.02)


「Wの悲劇」 テレビ朝日

武井咲主演の「Wの悲劇」(テレビ朝日)。原作は夏樹静子だ。一般には薬師丸ひろ子主演の映画が広く知られている。実は何度かドラマ化もされており、松本伊代、大河内奈々子、谷村美月などが主演を務めた。ただ、いずれも単発ドラマ。連ドラは今回が初めてだ。

物語の展開はシンプル。資産家の令嬢・摩子と野良犬のように生きてきた少女・さつきが出会い、2人は姿かたちがそっくりなことを利用して、互いの人生を交換してみる。だが、憧れていたダンサーを目指す摩子は先輩たちのいじめに遭い、さつきはドロドロの財産争いに巻き込まれていく。

武井咲はこの摩子とさつきの両方を演じている。相当高いハードルだが、このドラマ自体が“期待の新人女優”武井のための養成講座だと思えばいい。何しろ2役だから、連ドラ2本分の修業だ。修業を支える体制も万全である。摩子をいじめる先輩ダンサーは、ドラマ「ライフ」のいじめっ子役が評判だった福田沙紀。また色と欲に執着する資産家を演じるのは寺田農。ギラギラした脂っこさを持った老人が武井咲の膝に触れる場面などまさにトリハダ物だ。

現在、武井はNHK大河「平清盛」にも出演している。絶世の美女とうたわれた常盤御前はお似合いだが、武井のリアル成長物語としてこのドラマも見逃せない。

(2012.05.08)


「たぶらかし~代行女優業・マキ」 テレビ朝日

21歳にしてキャリア10年の女優、谷村美月が勝負に出た。民放連ドラ初主演となる「たぶらかし~代行女優業・マキ」(日本テレビ)。舞台や映画ではなく、現実の世界で〝誰か〟になりすます「代行女優」という珍しい役柄である。所属劇団が解散し、借金の返済に追われるマキ(谷村)は、「女優求む、時給3万円」のビラにつられてこの稼業に飛び込む。様々な事情を抱える人たちからの依頼で、ある時は自殺した女流画家の〝死体〟を演じ、またある時は女性実業家に化けたりする。

先週はイギリスから帰国した女性ピアニストの〝代行〟を務めていた。さすがにピアノの実演こそなかったが、毎回異なる女性像を演じ分けるのは難易度が高い。谷村はよくやっている。

またこれまでにない大胆な衣装や、きわどいシーンにも挑戦。敢えて難を言うなら、30分1話完結の形式のため、消化不良を起こすことがある。視聴者が谷村の〝たぶらかし〟に十分馴染まないうちにドラマが終わってしまうのだ。

とはいえ、ついこの間まで女子中高生にしか見えなかった谷村が、堂々と大人の女性を演じていることに拍手だ。脇を固める段田安則や山本耕史も、〝座長〟の谷村をしっかりと支えている。深夜ということもあり平均視聴率は3%台だが、大量の刑事物に飽きた人には絶好の避難所だ。

(2012.05.16)


「家族になろう(よ)」 テレビ東京

テレビ東京の「ちょこっとイイコト」がリニューアルされ、今年4月にスタートした「家族になろう(よ)」。司会は引き続き岡村隆史とほんこんだ。メーンコーナーは「一泊家族宿」。独身芸能人が一般家庭にお邪魔して、いわば“疑似家族”体験をする。それによって結婚への意識を高めようというのが狙いだ。

先週は岡村隆史自身が、69歳の夫と40歳の妻、さらに5男1女の子供たちが暮らす家庭に一泊した。いわゆる“大家族物”は各局で作られているが、あまりに子供が多い家庭を見ていると、微笑ましい半面、親が十分にその責任を果たせるのか心配になることがある。

しかし、今回登場した子供たちは皆きちんと挨拶が出来るし、父親の養蜂業も手伝う。中でも13歳の長男が祖父と間違われそうな父親のことを、「土日も働くのは偉い。友達もカッコイイと言っている」と素直に語るのを聞いてうれしくなった。

また岡村も無理に笑わせたりはせず、親戚のおじさんのような自然体。変にテレビ的な仕掛けがないのも好感がもてる。

一緒に食卓を囲み、布団を並べて眠り、時には拳骨が飛ぶケンカもする子供たち。厳しくて優しい両親。そんな「家族のありがたみ」を独身の岡村を介して伝えた企画力が光る。家族の大切さが再認識される時代ならではのバラエティーだ。

(2012.05.22)


「都市伝説の女」 テレビ朝日

こんなに生き生きした長澤まさみを見るのは久しぶりではないか。テレビ朝日の連ドラ「都市伝説の女」である。タイトルに「都市伝説」とついているが、正面から扱うわけではない。どんな事件も無理やり都市伝説と関連付けたがる困った女刑事の話だ。

この少し変わった設定のおかげで、ありがちな刑事ドラマに民俗学、超常現象、オカルトといったプラスアルファの要素が加わった。初回の平将門・首塚伝説に始まり、ドッペルゲンガー(もうひとりの自分)、高尾山の天狗、国会議事堂の開かずの間、先週は「座敷わらし」が登場。ストーリーを大いに盛り上げている。 

もっとも、最大の見どころは、ちょっと天然なヒロインを体当たりで演じている長澤だ。何しろ地上波で主役を張るのは、3年前のTBS「日曜劇場・ぼくの妹」以来。その意気込みは長い足が映えるショートパンツ姿にも現れている。

これは、ついに美脚という〝資産〟の運用に打って出たと言うべきだ。堀北真希、綾瀬はるから同世代のライバルたちに水をあけられている現状を打破するためだろう。この美脚を眺めるだけでも当ドラマを見る価値は十分にある。

また長澤の上司役は竹中直人だが、このコンビの抜群の相性は昨年のNHK「探偵Xからの挑戦状!」で実験済み。竹中は今回も〝コメディエンヌ・長澤〟を余裕で支えている。

(2012.05.29)

2012年 テレビは何を映してきたか (4月編)

2012年12月18日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」
振り返る、この1年のテレビです。


2012年 テレビは何を映してきたか (4月編)

「笑いの祭典!4時間SP うわっ!ダマされた大賞2012」 
日本テレビ


期末期首特番の時期だ。恒例のお祭り騒ぎではあるが、その質の低下は目に余る。たとえば先週末、内村光良や羽鳥慎一の司会で放送された日本テレビ「笑いの祭典!4時間SP うわっ!ダマされた大賞2012」。

アイドルグループ「ももいろクローバーZ」のひとりがパイプ椅子に座ろうとした途端、座面が抜け落ちてしまい、ドーンと尻もちをついた。別のメンバーの椅子にも背もたれに細工がしてあり、これまた思いきりひっくり返った。下手をすれば床で後頭部を強打していたはずだ。

同じ番組でモデルの菜々緒が地方の「ふるさと大使」という設定で登場。何をするのかと思ったら、醤油をかけたフルーツやシュークリームを食べさせられたり、冷たい水を張った“足湯”に足を入れられたり。「ももクロ」もそうだが、演出や罰ゲームというより単なるイジメに近い。制作側はこれを視聴者が楽しめると思っているのだろうか。

いわゆる“どっきり番組”は70年代後半に始まったが、当時はスターや有名人にちょっとしたイタズラを仕掛け、その素顔を少し見せるところに価値があった。その際も肉体的・物理的な苦痛を与えたりはしなかった。それが今や芸能界の番付もしくはピラミッド構造を背景に、“何をしてもいい相手”を選んでの虐待ショーだ。「笑いの祭典」のタイトルが泣く。

(2012.04.03)


「団塊スタイル」 NHK・Eテレ

今月6日からNHK・Eテレが新番組「団塊スタイル」をスタート。司会は国井雅比古アナと風吹ジュン。初代ユニチカ・マスコットガールで今も団塊世代のアイドルの風吹を選んだセンスはなかなかのもの。

初回のテーマは「地元デビュー」。退職はしたものの、元気な60代はヒマを持てあましている。そこで地域活動を始めようとなるわけだが、実際にやろうとしても、どうしたらいいか分からない人が多いらしい。番組では「歌ごえ喫茶」や「地元情報誌作成」など実例を挙げて手ほどきした。そして先週の第2回は「老後のマネー計画」。節約術を実践している団塊世代を紹介し、スタジオでは専門家が年金暮らしのコツを伝授した。

この番組の狙いは分かりやすい。ターゲットを特定の世代に絞るのも悪くない。ただ彼らは、自分たちが「団塊」として〝ひとくくり〟にされることをあまり好まない傾向がある。
たしかに皆が皆、学生運動→モーレツ社員→ニューファミリーという経緯をたどったわけではない。また、ライバルが多かった分、競争も激しかった。いわゆる勝ち組ばかりではないのだ。そんな〝同世代格差〟にも配慮すべきだろう。

次回のテーマは「仕事」だそうだ。自分たちの仕事もさることながら、大量のニートたちの親でもあるわけで、社会全体における仕事のあり方を探ってもらいたい。

(2012.04.17)


「リーガル・ハイ」 フジテレビ

「謎解きはディナーのあとで」「ストロベリーナイト」など、最近は原作のあるドラマが続いたフジテレビ火曜夜9時枠。今期の「リーガル・ハイ」は久しぶりにオリジナル脚本で臨んでいる。主人公は、性格は悪いがスゴ腕弁護士の堺雅人。アシスタントの女性弁護士が新垣結衣。「相棒」シリーズなどを手掛けてきた古沢良太の脚本はよく練られており、裁判シーンでの展開も淀みない。 

しかし、このドラマの見どころは、なんといっても堺雅人の〝怪演〟だ。金を積まれれば、どんな判決でもひっくり返してみせるという自信。裁判ではピンチになっても微笑を絶やさない。しかも、その微笑の裏には喜怒哀楽の感情が込められており、そんじょそこらの役者にマネはできまい。視聴者には笑顔の奥にある真意を〝推理〟する楽しみがある。

脇を固めるメンバーもクセモノぞろい。堺を潰そうと画策するライバル弁護士が生瀬勝久。その愛人風の秘書は小池栄子。思わずニヤリとさせる両者は堺とがっぷり四つだ。また堺の豪邸兼事務所には、かつてスイスのホテルでシェフをしていたという謎の執事兼事務員(里見浩太朗)もいる。ひどく冷静かと思えば、突然エキセントリックな行動に出る堺を見守る里見が渋い。

あ、ガッキーの存在を忘れていた。正義感全開で元気に走り回る新垣。もうしばらくすれば、弁護士に見えてくるかな?

(2012.04.24)


2012年 テレビは何を映してきたか (3月編)

2012年12月17日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」
振り返る、この1年のテレビです。


2012年 テレビは何を映してきたか (3月編)

「O-PARTS~オーパーツ~」フジテレビ

先週はフジテレビの4夜連続ドラマ「O-PARTS~オーパーツ~」を見た。未来から2012年にタイムスリップして来たテロリスト集団に、普通の若者たち(関ジャニ∞の丸山隆平や忽那汐里など)が挑むという物語だ。

まず4夜連続という短期決戦型の編成がいい。困ったドラマを3カ月も流されるよりどれだけ視聴者に親切か。次にSFアクションにトライしたことも評価したい。知恵と手間と金がかかるジャンルだからだ。

ただし、脚本の弱さが目立った。テロの目的は144年後の未来の要人の暗殺。過去の〝ご先祖さま〟を殺害することで、いわば邪魔者をモトから断とうとするわけだ。やはり「ターミネーター」の縮小コピーに見える。 

また〝テロリストの先祖だから〟という理由で、未来政府が丸山たちをテロ阻止のメンバーに選んだことも納得しにくい。わざわざ手ごわいテロリスト(子孫)と非力な丸山(先祖)を戦わせるより、現在の政府に依頼して忽那たちを消すほうが簡単だからだ。

小道具がショボかったのも興ざめだった。テロ集団が操る殺人メカは電子レンジみたいな代物だし、手にするコントローラーもこじゃれたスマホかニンテンドーDSみたい。とても144年先の技術やデザインとは思えないのだ。丸山や忽那が精いっぱい頑張っていただけに、消化不良気味の4夜連続だった。

(2012.03.06)


「明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日」テレビ東京

3月11日を中心に多くの震災関連特番が放送された。テレビ東京のドラマ「明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日」もその1本。震災直後、宮城の地元紙「河北新報」がどのようにして新聞を発行し続け、読者(被災者)に届けていたのかを描いていた。

まず評価したいのは、河北新報の人々をヒーロー扱いしていないことだ。小池栄子演じる女性記者をはじめ、彼らが戸惑いながら悩みながら取材をしていたことがわかる。悲惨な現実を前に「こんなことをしていていいのか」と自問する記者。「テレビもネットも使えない被災者に何が起きているかを伝えよう」と励ます報道部長(渡部篤郎)。被災者でもある彼らを等身大で見せる演出に好感がもてた。

もうひとつ、このドラマの良さは販売所の人たちの姿を描いていたことにある。登場したのは多くの犠牲者がでた仙台市荒浜の販売所。津波で亡くなった店主の妻を斉藤由貴が好演していた。新聞は読者に届いてこその新聞であり、その役割を担う人たちに目を向けた意義は大きい。実際に河北新報が避難所で配られた時、被災者たちは「ここに日常がある」と喜んだという。

ドラマには津波の映像や写真も挿入されるが、必要最小限にとどまっていた。これも制作陣の良識だろう。原作に出てくる“原発報道”に一切触れなかったのは、ストーリーがよれないための配慮と思いたい。

(2012.03.13)


「中学生日記」NHK

3月16日、NHK「中学生日記」が幕を閉じた。「中学生次郎」としてスタートしたのが1962(昭和37)年。タイトルを変えながら今年で半世紀という長寿番組だった。最終回スペシャルには「中学生群像」時代に生徒役だった竹下景子が校長として出演。「命」と題して、いじめ問題を取り上げていた。

いじめに苦しむ生徒が、「私に相談しろ」と諭す担任教師に向かって叫ぶ。「あんたに俺は救えない」。教師(学校)に出来ることと出来ないこと、その境界を手探りで提示してきたのもこの番組の特徴だ。担任は悩んだ末、生徒たち全員に「自分の心の醜さと向きあうこと。そして戦うこと」を訴える。この愚直さ、生真面目さもまた番組が長く続いた要因だと言える。

大人たちはこのドラマで中学生の世界を垣間見る思いがしたかもしれない。しかし実際の中学生はどれだけリアルに感じていただろうか。そんな制作側と現実との距離が、特に近年は広がっていたように思う。今どきの中学生を取り巻く問題を、「30分1話完結」の形式で描いていくのが難しい時代になっているのだ。

とはいえ50年もの間、それぞれの時代の中学生と真摯に向き合ってきた番組の功績は大きい。その意味でも4月から始まるという“後継”番組が、民放を意識した中途半端なバラエティー路線でないといいが・・・。

(2012.03.27)

2012年 テレビは何を映してきたか (2月編)

2012年12月16日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」
振り返る、この1年のテレビです。

(以下の文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです)


2012年 テレビは何を映してきたか (2月編)

「地球イチバン」 NHK

円高の影響もあり、「世界!弾丸トラベラー」「アナザースカイ」(ともに日本テレビ)など海外旅行をテーマにした番組が目立つ。これらの番組、確かに「少し得した気分」になれるが、中高年にはテーマや出演者が若すぎるケースもある。そんな向きにオススメはNHKの「地球イチバン」だ。

先週、旅人・大高洋夫が訪ねたのはノルウェー領のロングイヤービエン。「地球で一番北の町」だ。北極点に近く、一年の半分は太陽が沈まない白夜で、半分は真っ暗なままの極夜。冬は連日マイナス30度という厳しい環境だが、なんと44ヶ国から人が移り住んできている。理由は、この町が国籍に関係なく仕事と住居さえ確保すれば誰でも自由に住める「フリーゾーン」という場所だからだ。

大高が出会ったのは炭鉱労働者のミラン。クロアチアから逃れてきたセルビア人で、親兄弟を戦争で失った彼は妻と幼い子供を連れて移住したのだ。そして今、高校生になった息子が自分なりの道を歩もうとするのを、少し寂しく感じながらも応援している。「家族」をめぐる大高との対話には人種を超えた父親の思いがあった。

スタジオには司会の渡辺満里奈と大高、そしてゲストの鳥越俊太郎などがいる。ミラン一家の話題をきっかけにクロアチア紛争の背景に触れるなど、単なる「いい話」で終わせらない演出にも好感がもてた。こんな“円高還元番組”なら歓迎だ。

(2012.02.07)


「妄想捜査~桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」 テレビ朝日

今期のドラマも警察物やサスペンスが目立つが、少し変わったテイストなのが「妄想捜査~桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」(テレビ朝日)だ。

まず千葉県の片田舎にある「たらちね国際女子大学」に赴任してきた准教授(佐藤隆太)というくだらない設定が笑える。しかも桑潟には妄想癖はあっても推理力などない。妄想から生まれるトンデモ行動が結果的に事件を解決するというコミカルタッチな探偵ドラマなのだ。

先日の桑潟は、“たらちね”の語源にもなっている地元名士の「垂乳根家」の家督問題に巻き込まれ、妄想が原因で崖からジャンプして危うく死にかけた。また商店街ではいきなり通行人と一緒に踊りだしたり。必然性がほとんどないのに、歌って踊るシーンがほぼ必ず出てくるインド映画みたいなのである。

こういうバカバカしいシーンほど本気で作るのが鉄則。でないと視聴者はついてきてくれない。その意味では佐藤も制作陣もよくやっているが、肝心の妄想がイマイチ。見ている側の意表を突くようなインパクトがなく、失笑に終わってしまうのが残念。

さらに惜しいのは主人公をサポートするミステリー研究会の女子学生たち(桜庭ななみ・倉科カナ)が魅力的に見えないこと。おバカな女子大生がバカみたいに騒いでいるようにしか見えず、深夜ドラマなのに色っぽさがさっぱり感じられない。原作にあるファッションや恋愛話が出てこないのも消化不良の印象がする。もっと見せ場を作ったらいいのにと思う。

(2012.02.15)


「世界は言葉でできている」 フジテレビ

「似たようなバラエティ番組ばかりでつまらない」とお嘆きの皆さんには、フジテレビ火曜深夜の「世界は言葉でできている」がオススメ。司会は佐野瑞樹アナと生野陽子アナ。テーマは「名言」。過去の偉人のソレはもちろん、現在活躍する人たちの“生きた言葉”を紹介する。

見どころは単純に名言を当てるクイズ形式ではなく、パネリスト(コトバスターと呼ぶ)がアレンジして、「名言を超えるようなグッとくる言葉」を創作する点。一種の“頭の体操”や“知的遊び”の要素があるのだ。

先週登場したのは、90年代にサッカーのバルセロナFC監督として活躍した、ヨハン・クライフの「○○を恥と思うな、○○を恥と思え」という言葉。これにバナナマンの設楽統は「敗北を恥と思うな、次の敗北を恥と思え」、小島慶子は「弱点を恥と思うな、弱気を恥と思え」と答えた。どちらもいいセンスだ。

実際のクライフの名言は「美しく敗れることを恥と思うな、ぶざまに勝つことを恥と思え」。スタジオの観客は本家クライフよりも、バナナマン設楽のアレンジの方が“グッとくる”と支持した。このあたりが番組の真骨頂である。

新機軸の番組を開発しようとするチャレンジ精神は評価に値する。ただひとつ、残念だったのは“紅一点”の生野アナがワンショット(アップ)で抜かれるのが1回だけだったこと。深夜番組で彼女目当ての視聴者もいるだろう。カメラ割りにはぜひ工夫を。

(2012.02.21)


「夜なのにあさイチ~漢方スペシャル」 NHK

先週土曜の夜、NHKで放送された「夜なのにあさイチ~漢方スペシャル」。勢いに乗っての特番はいいとして、なぜ今「漢方」なのか。番組はひたすら漢方を礼賛。医師の86%が漢方薬を使用しているとか、丁寧な問診により体質改善するとか。また、ある女性は頭痛が軽減され、ある男性は手のかゆみが抑えられたそうな。

さらに、認知症患者の漢方薬使用前・使用後の映像を並べて効果を見せ、有働由美子アナの体験レポートまであった。健康に不安を抱える視聴者のほとんどが、この番組を見て漢方医や漢方薬局に走ったのではないか。とにかく良いことづくめの話ばかりだった。 

普通、テレビ制作者が医学・医療情報を扱う場合は細心の注意をはらう。視聴者の健康(オーバーに言えば命)に関わるからだ。その効果・効能は確かなのか。何を根拠としているのか。どこまで断定していいのか。特に漢方は西洋医学のように効果を数値で測れないことも多く、慎重にならざるを得ないのだ。漢方で注意すべき点やネガティブな要素を伝えないのは極めて危うい。

番組は漢方薬工場の内部も紹介していた。社名こそ出さなかったものの、画面を見ればツムラだとわかる。このツムラが協賛に名を連ねているホームページで「漢方の魅力」を語っている〝美人漢方医〟がスタジオにいて、伝道師のごとく効能を説いていたのが実に印象的だった。

(2012.02.28)


2012年 テレビは何を映してきたか (1月編)

2012年12月15日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

なんだかんだと言っているうちに、今年もあとわずかになりました。

そこで、2012年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で振り返ってみようと思います。

実は昨年分にあたる「2011年 テレビは何を映してきたか」も、全部アップしてないままなのですが(笑)、順番にやっていると年を越してしまいそうなので、まず2012年を整理してみます。

(以下の文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです)


2012年 テレビは何を映してきたか (1月編)

 
「最後から二番目の恋」 フジテレビ

今期の連続ドラマがほぼ出そろった。人気小説の原作物からオリジナルまでさまざまだが、大人が参加できる1本と言えそうなのがフジテレビ「最後から二番目の恋」だ。

バリバリの仕事系だった45歳独身の女性プロデューサー(小泉今日子)が鎌倉の古民家に移り住む。と聞けば、いかにも今どきの流行に追随という感じだが、嫌みにならないのは岡田惠和の周到な脚本と小泉のお手柄だろう。

移住先の隣人が市役所観光課職員(中井貴一)。本人は妻を亡くして娘が一人いる。同居の弟(坂口憲二)や妹(内田有紀)もちょっと訳ありふうである。いや、すぐ下の妹(飯島直子)だって家庭に問題を抱えているらしい。

初回は物語設定の紹介と登場人物たちの顔見せ的な展開だったが、シリアスとコミカルのバランスがちょうどいい。何より会話の妙が楽しめる。小泉と同年代仲間(森口博子・渡辺真起子)の、友達だけどプチ・ライバルな関係を思わせる会話。

また小泉と中井との中年男女ならではの本音と建前が入り混じった会話。あらためてドラマの脚本は「台詞」と「ト書き」(説明文)で成り立っており、中でも台詞がドラマのテイストを左右することがよくわかる。

それにしても小泉今日子のリアルな中年女性ぶりはどうだ。中井一家とひとりで渡り合う、堂々の座長芝居だけでも一見の価値がある。

(2012.01.16)


「聖なる怪物たち」 テレビ朝日

テレビ朝日の連続ドラマ「聖なる怪物たち」は病院を舞台にした医療サスペンスだ。主演はイケメン俳優として売れっ子(「平清盛」では源頼朝役)の岡田将生。だからといって若者向けと判断して見ないでおくには惜しい1本である。

そもそも岡田が主役だと思うからいけない。実質は中谷美紀のドラマなのだ。しかも青年医師の物語というより大人たちのドロドロ群像劇。いわば“夜の昼ドラ”である。

外科医の岡田が勤める病院の看護師長が中谷。その妹が加藤あい。加藤は学園グループの御曹司(長谷川博己)と略奪婚するが、流産して子宮摘出手術を受ける。長谷川には前妻との間に息子がいて、このままでは後継者はその子になってしまう。加藤は中谷に代理出産を依頼する、というのが第1回目だった。

謎はいくつもある。番組冒頭で病院に担ぎ込まれて亡くなった妊婦は誰なのか。残された新生児はどうなったのか。早くに両親を亡くして2人で生きてきた中谷・加藤姉妹の過去。岡田を産むと同時に死亡したという母親(佐々木希)の存在。もちろん男たち女たちの愛憎もたっぷりとトッピングされている。

そんな昼ドラならぬ夜ドラで、中谷美紀は持ち前の「目ヂカラ」を遺憾なく発揮。かなり怖い。先が読めないこのドラマのキーパーソンとして君臨し続けるはずだ。

(2012.01.24)


「サワコの朝」 TBS

「週刊文春」で必ず読むものに、「阿川佐和子のこの人に会いたい」がある。すでに900回を超えるが、この手のインタビューは「その場ならでは」の話をどれだけ引き出せるのかが命。阿川佐和子は自分と相手との距離のとり方、またどこまで突っ込んだ話を聞くかなど、そのバランス感覚が見事である。

そんな阿川のトーク番組が「佐和子の部屋」、じゃなくて「サワコの朝」(TBS)だ。先週のゲストは清水ミチコ。自身のモノマネを点線系、震え系などと分類しながらの解説と実演は楽しく、憧れの矢野顕子や恩師としての永六輔にまつわる裏話も興味深かった。「聞き手が阿川だから」の雰囲気がうかがえた。

テレビは雑誌と違ってゲストの表情や声のトーンまで伝えてしまう。いいことを言っていても顔を見れば嘘がバレてしまう怖さがある。また、いわゆる番宣やPRで出てきたゲストもその意図ばかりが目立って恥ずかしいものだ。その点、この番組は気持ちがいい。

これまでの放送の中では作家の綿矢りさ、宮沢りえ、バイオリニストの高嶋ちさ子などの回も見ごたえがあった。普段は見えない部分、知っているようで知らない側面が自然な形で出ていたからだ。天才的“聞き役”アガワ、円熟の技である。

(2012.01.31)


2011年 テレビは何を映してきたか(8月編)

2012年09月15日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

そういえば、このブログでの「2011年 テレビは何を映してきたか」の掲載が、7月編までで止まったままでした。

2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返ってみるわけですが、ちょうど1年前の夏、8月分からアップしていこうと思います。

(以下の文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです)


2011年 テレビは何を映してきたか(8月編)


NHKスペシャル「未解決事件」

先週の金曜と土曜、2夜連続の長時間だったが、しっかり見せてもらった。NHKスペシャル「未解決事件」だ。

扱われたのは「グリコ・森永事件」。これをドラマとドキュメンタリーで見せていた。まず驚いたのはドラマ部分で新聞社や記者の名前が実名で出てきたことだ。さらに本人たちが登場して当時を回想。ドラマのシナリオも彼らの証言に基づいて書かれており、全体として強いリアリティを感じさせてくれた。

そんな力作であることは認めるが、2晩つき合っての“読後感”に残るモヤモヤは何だろう。恐らく多くの視聴者がこの番組に期待していたのは、それが無理なのは承知の上での「未解決事件の真相」、もしくは「犯人は誰か」ということだったのではないか。

しかし実際に見せられたのは、いかに警察がダメだったかという話だ。現場を無視した指揮系統や縦割り組織のあり方が、あり得ないようなミスの数々を生んでいたことはよく分かった。つまり制作側が目指していたのは「未解決事件の真相」ではなく、「未解決の真相」だったのだ。警察はなぜ失敗したのかという「失敗学」である。

とはいえ警察側と報道側、それぞれの葛藤もしっかり描かれていたのは見事。次は三億円事件が見たいが、これだけのものは年に1本の制作が限度だ。楽しみに待ちたい。

(2011.08.01)



「それでも、生きていく」フジテレビ

フジテレビ「それでも、生きていく」は15年前に起きた幼女殺害事件、その加害者家族と被害者家族の物語である。犯人の中学生は殺された女の子の兄の同級生だった。事件を境に双方の家族は辛い時間を生きてきたし、今も生きている。

物語の軸となるのは被害者の兄(瑛太)と加害者の妹(満島ひかり)の関係だ。この2人が少しずつ心を通わせていくのだが、設定としてはかなり難しい。脚本の坂元裕二は昨年の「Mother」(日本テレビ)を彷彿とさせる巧みな組み立てでストーリーを成立させ、瑛太と満島が各自の持ち味で応えている。

そしてもう一人、目が離せないのが大竹しのぶだ。被害者家族の中で最も精神的に傷ついた母親を怖いほどの集中力で演じているのだ。先週も約10分間に及ぶ長い独白シーンがあった。専門家だの識者だのが語る犯罪分析への吐き捨てるような呪詛の言葉。周囲からの励ましなど何の支えにもならないほどの喪失感・絶望感。その上で現実と向き合おうとする決意。大竹ならではの芝居場だった。そんな大竹を見るだけでも、このマニアックなドラマにつき合う価値は十分にある。

テーマの重さと暗さから一般ウケは困難かもしれない。だが警察物と男装物ばかりが目につく今期連ドラの中で、異色にして本格という出来の1本であることは確かだ。

(2011.08.08)



「双方向クイズ・天下統一」NHK

地デジ完全移行から3週間。NHKとしてはこのあたりで“地デジならではの番組”を提案したかったのだろう。2週連続で「双方向クイズ・天下統一」なるものを放送した。生放送で出題されるクイズに、データ放送機能を利用して視聴者も参加できる点がウリだ。

1回目のテーマは「アニメヒーロー&ヒロイン」。先週の2回目が「戦国武将」だった。スタジオには武将役の8人のタレント。視聴者はそのいずれかの配下となり、一緒にクイズに答える。正解率の高いチームが領地を広げ勝ち残っていく。

狙いはわかる。ただクイズ番組としての出来はいまいちだった。クイズのキモは考えたくなる「問題」と、発見や意外性のある「答え」だ。ところが、「中国で人気の戦国武将は?」(正解・家康)とか、「天守閣の屋根を間近で見られる城は?」(正解・姫路城)といった魅力に乏しい問題が並んでいた。

さらにこの番組の欠点の一つが、スタジオにいる武将(タレント)の成績が番組の流れと関係ないこと。一問も正解できなくても、抱えている視聴者の正解率が高ければ勝ち進める。極端にいえば彼らがいなくても番組が成立してしまうのだ。

ちなみに先週の参加者は3万2千人と結構な数字だった。とはいえ、データボタンを押さない「見るだけ」の視聴者も楽しめる工夫が必要だろう。

(2011.08.15)



「24時間テレビ 愛は地球を救う」日本テレビ

日本テレビ「24時間テレビ 愛は地球を救う力」が放送された。あれこれ言われ続けながら34年。今年は障害者支援に東日本大震災への支援の大義名分が加わった。

とはいえ、日本テレビを辞めた人(いまやテレビ朝日の看板・羽鳥慎一アナ)と辞める人(今月末に退社の西尾由佳理アナ)が司会をしている珍妙な図には苦笑するしかない。しかも、24時間マラソンを走るのは日テレOBの徳光和夫だ。とても〝局を挙げての特番〟には見えなかった。

24時間を埋めるために多くの企画が並ぶ。震災関連では「三陸の漁師に漁船を贈る」「石川遼が石巻で特別授業」などには意味を感じたが、例のマラソンや「盲目少女のアフリカ・キリマンジャロ登山」は無理矢理感があった。うそ寒さを感じた企画も多い。

また、呆れたのは土曜深夜からの「朝までしゃべくり007」。くりぃむしちゅー、ネプチューンなどが延々6時間も馬鹿騒ぎを続けていた。

なんといっても節電の夏だ。「深夜から朝までこの番組も休止します」とでも宣言したら見事だったのに。そして、「流れるはずだったCMの料金は被災地への義援金とします」と言って企業名を読み上げるのだ。さらに、「テレビを消して家族で震災や原発事故について話し合ってみて下さい」と。視聴者、被災者に与える印象はより強かったと思う。

(2011.08.22)



向田邦子ドラマ「胡桃の部屋」NHK

家族は最も近くにいる他者だ。しかし近いとはいえ互いの全てを知っているわけではない。各人が思わぬ秘密を抱えており、何かのきっかけにそれが噴出する様子はまさにドラマ的だ。今週最終回を迎えるNHK向田邦子ドラマ「胡桃の部屋」(火曜よる10時)の三田村一家も結構大変なことになっている。

実直なはずの父は突然家を出て女と暮らし始めた。嫁いだ長女は夫の浮気を発見。二女は逆に妻子ある男と交際している。三女は家庭の実態を隠してセレブ男と交際し、それがバレて大騒ぎとなる。それぞれは善人なのに誰かを傷つけ、自らも傷つきながら生きているのだ。

物語の軸は父親に代わって一家を支える二女で、松下奈緒が「ゲゲゲの女房」以上に好演している。舞台はバブル前の東京だが、ケータイもメールもない時代のもどかしい不倫模様が健気だ。このもどかしさこそ昭和であり、何もかもがむき出しになる平成との違いだろう。

そして“昭和感”において松下に負けずいい味を出しているのが、父親(蟹江敬三)と暮らすおでん屋の女・西田尚美だ。一緒にいて欲しいと思いながらも、男はいつかいなくなると覚悟を決めて過ごす日々。わざと憎まれ口をたたく時の切ない目の表情など絶品だ。テレ東「IS~男でも女でもない性」の母親役も含め、今最も旬な“助演女優”である。

(2011.08.29)




2011年 テレビは何を映してきたか(7月編)

2012年04月10日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返っています。

今回は7月編。

なでしこジャパンの女子ワールドカップ優勝があったりしましたが、テレビに関して言えば、やはり7月24日の「地デジ完全移行(東北3県を除く)」でしょう。

10年前に国会で決められた通り、25日へと日付けが変わった瞬間、アナログテレビの画面は“砂嵐”になりました。


(以下の文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです)


2011年 テレビは何を映してきたか(7月編)

「お願い!ランキングGOLD」 テレビ朝日

深夜番組をゴールデンタイムに持ってくる手法はよく使われる。うまくいく場合もあるが、深夜でやっていた頃の“味”が失われて失敗するケースも多い。

そこで、「深夜はそのままにしてゴールデン向けを増発すればいい」と考えた。土曜夜6時58分のテレビ朝日「お願い!ランキングGOLD」はそんな1本だ。

この番組が制作側にとってオイシイのは経済効率だろう。手間のかかるランキング部分は深夜と共有。後はゴールデンらしい見栄えのスタジオを加えればいい。

しかし、それはあくまでも制作側の事情だ。実際の番組内容は「回転寿司No.1決定戦」だの、「人気ステーキハウスNo.1決定戦」だの笑えるほど安っぽい。

先週の「美味しいハンバーガー店No.1決定戦」ではロッテリアとファーストキッチンが登場。長嶋一茂、シェフ、料理研究家など4人の審査員が試食し点数をつけていく。ロッテ「絶品チーズバーガー」は40点満点の37点。ファースト「特撰ベーコンエッグバーガー」は31点といった具合だ。結果、合計得点で上回るロッテリアの勝利だった。

次から次と出てくる美味しそうな映像。商品の詳細な説明。食のプロたちによる評価。とくれば、これはもう番組というよりインフォマーシャル、いやタイアップ広告である。低予算でゴールデンと深夜をまかなう安直企画の実体、かくの如し。
(2011.07.04)


「ドン・キホーテ」 日本テレビ

先週から始まったドラマ「ドン・キホーテ」(日本テレビ)。突然、暴力団組長(高橋克実)と児童相談所職員(松田翔太)の身体が入れ替ったことで騒動が起きる。

第一印象は「また入れ替わり物かあ」という企画の貧困ぶりだ。古くは大林宣彦監督の映画「転校生」。娘の身体に母親が入ってしまう東野圭吾原作「秘密」(テレビ朝日)。また父と娘が入れ替わる「パパとムスメの7日間」(TBS)もあった。

「入れ替わりドラマ」の面白さは、年齢や立場の違う2人が誰にも悟られずに(というか理解してもらえない)お互いを演じ続けようとする“無理”にある。ただ、ヤクザと公務員の組み合わせに意外性はあるものの、外見と中身のギャップもすぐに見慣れてしまうのが難点だ。

また初回での最大の不満は肝心の入れ替わり場面があまりにあっさりしていたこと。同じアパートの異なる階の廊下に2人が立っていて、空を怪しい雲が覆っただけでチェンジしてしまった。

2人がどうして入れ替わったのか、どうしたら元に戻れるのかは、この手のドラマの重要なポイントだ。手抜きはいけない。

物語は今後、ヤクザになった松田より児童福祉司になった高橋の動きが軸になる。子供たちが直面する笑えない現実を、いかに笑えるドラマにしていくか。脚本家の力量が問われるところだ。
(2011.07.11)


「IS~男でも女でもない性」 テレビ東京

テレビ東京が続けている社会派ドラマの新シリーズ「IS~男でも女でもない性」(月曜夜10時)が始まった。初回はIS(インターセクシャル)の解説と、主人公である星野春(福田沙紀)一家の“これまで”で構成されていた。

ISは数千人に一人の割合で存在する。生まれた時、男女の判断が肉体的に困難だ。親が早い段階で性別を決定し処置も行われるが、本人が自覚する性別と合致しないケースもあるという。

これは難しいテーマだ。下手に扱えば、「寝た子起こし」とか「誤解や差別を助長する」といった批判の矢が飛んでくる。

その意味で制作陣はとても慎重に、また丁寧に物語を構築している。何より両親(高橋ジョージ・南果歩)が、戸惑ったり悩んだり(母子心中の危機さえあった)しながらも、ISである我が子と真摯に、そして明るく向き合ってきたことがいい。

サブタイトルは「男でも女でもない性」となっている。だが、このドラマの基本にあるのはISが「男でもあり女でもある性」であり、一つの個性であるという認識だ。変な被害者意識も強調することなく、エンターテインメントの形でこの重いテーマを表現している。

主演の福田は、内面の性を隠しながら女子高校生として過ごすという複雑な役柄を好演。“ワケあり風”同級生役の剛力彩芽にも期待したい。
(2011.07.25)


2011年 テレビは何を映してきたか(6月編)

2012年01月27日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返っています。

今回はその6月編。

当時は、まだ菅直人首相だったが、「東日本大震災への対応に一定のメドがついた段階で退陣」の意向を示唆した。

それが2011年の6月でした。


例によって文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです。


2011年 テレビは何を映してきたか(6月編)


「下流の宴」 NHK

テーマもストーリーもいまいちだったNHK「マドンナ・ヴェルデ~娘のために産むこと」。同じ「ドラマ10」の枠で「下流の宴」が始まった。

主人公(黒木瞳)は医者の娘で国立大を出て、高学歴の夫(渡辺いっけい)がいて、というプチセレブ系妻。唯一の悩みは高校を中退してフリーター稼業という息子(窪田正孝)の存在だ。この息子が同じくフリーターの女の子(美波)と結婚すると言い出したから大騒ぎになる。

注目は「息子のため」と言いながら、実は自分の価値観と理想の家庭像を壊されることが許せない母親だ。このあたりがテンポよく戯画的に描かれているのは、脚本の中園ミホが林真理子の原作を上手にアレンジした成果。今後の展開も気になる。

ただ、困ったのが肝心の黒木である。「私(黒木本人)は違うけど、愚かな母親ってこうよね」という意識が前面に出て、あらゆる演技がオーバー気味。もっと言えば、わざとらしいのだ。

ヒステリックな場面を「ほら、これがヒステリックな女よ」。コミカルな場面を「ね、私ってコミカルな芝居もいけるでしょ」とこれ見よがしに演じられると、見る側は一気にシラケてしまう。

今回の役どころであるアラフィフ世代も、原田美枝子や田中美佐子など女優の層は厚い。NHKが過剰に黒木瞳をありがたがる理由は何だろう。
(2011.06.06)


「シロウト名鑑」 テレビ東京

昨今、番組制作費は減る一方だ。元々他局より少ない予算のテレビ東京も例外ではない。ならば低予算を嘆くより、いっそ逆手に取ろうという作り手たちの遊び心が、深夜バラエティ「シロウト名鑑」(金曜放送)を生みだした。

タレントを出せば金がかかる。だから素人がメイン。だが、素人を面白く見せるには知恵と技が必要。そこで「池袋ウエストゲートパーク」「木更津キャッツアイ」の人気脚本家・宮藤官九郎と、放送作家の細川徹を進行役とした。番組構成もできる出演者、実にリーズナブルではないか。

またテーマ設定のゆるさがこの番組の身上だ。見た目と歌声のギャップを味わう「巣鴨でスーザン・ボイルを探せ!」。人気子役・芦田愛菜ちゃんにあやかった「スーパー子役を探せ!」。いきなり「ルパン3世を探せ!」なんてのもあった。

そして先週が「赤羽でAKB48を探せ!」だ。町をぶらぶら歩いて出会った、キャバクラのお姉さんや居酒屋の呼び込みの女の子を勝手にスカウト。“本家”の前田敦子と大島優子の壮絶な戦いをよそに、「じゃあ、この娘をセンターで」などと適当に配置していくのが笑える。しかもこれを「AKB48総選挙」の開票翌日に放送するしゃれっ気と批評性も買いだ。

「低予算・隙間狙い・アイデア勝負」というテレビ東京のお家芸をしっかり体現した1本である。
(2011.06.13)


「奇跡ゲッター ブットバース!!」 TBS

土曜夜8時といえばかつてはゴールデンタイムの王様だった。とくにTBSは「8時だヨ!全員集合」というお化け番組を擁して、長年この王座に君臨したものだ。現在は「奇跡ゲッター ブットバース!!」を放送中。スタート時は「これは奇跡だ!という人物や現象をお届けする」とのフレコミだったが、今やほとんど迷走状態だ。

先週の「芸人どん底月収ベストテン~夫を支える芸人いい妻NO.1決定戦」もひどかった。もっとも低かった月収を「どん底月収」と名付け、ランキング形式で当の芸人とその妻を紹介していくのだ。芸人で収入が低いのは売れていないからで、視聴者は名前も顔も知らない芸人ばかりを見せられることになる。

第3位は「くらげライダー」の松丘慎吾で、どん底月収9800円。第2位のラジバンダリ西井は7500円。そして第1位が元「R(ろっこつ)マニア」の松丘慎吾で、スバリ0円。だが、これのどこを笑えというのだろう。

ちなみに司会はネプチューンだが、彼らは立派な収入を得ているはず。また、この番組のプロデューサー氏の父親はTBSの朝番組を仕切るみのもんたで、ギャラが高額なことで有名。そういうスタッフや出演者が、売れない芸人はそんなものだとして、低収入ぶりを笑いのネタにしている。そのセンスが情けない。土曜8時が泣いている。
(2011.06.19)


「リバウンド」 日本テレビ

連続ドラマ「リバウンド」(日本テレビ)の主演は相武紗季だ。相手役は速水もこみち。この組み合わせはすでに3度目である。最初は06年の「レガッタ~君といた永遠~」(テレビ朝日)だ。ボート部マネージャーと有力選手だったが、平均5%台という低視聴率で沈没。途中で打ち切りとなった。当時の速水に「陰のあるスポーツ選手」という役柄は難しかったのだ。

2度目は08年の「絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~」(フジテレビ)で、派遣OLとその恋人だった。この時は速水をロボットにするという奇策が功を奏し、平均視聴率13%台と善戦した。そして今回はケーキ依存症の女の子とパティシエだ。二人の恋愛模様をダイエットとリバウンドの揺れ動きにからめて描いている。

相武が体重78キロのおデブさんに変身する特殊メイクが話題となっているが、それだけじゃない。結婚と仕事、友情と恋、家族と自分など、20代の女性たちが直面する課題をさりげなく織り込んでいるのだ。いわば成長物語である。

これまでの平均視聴率は11%台で、パッとするものではない。しかし、超丸ポチャのリバウンド女さえ愛すべき存在に見せてしまう相武のコメディエンヌぶりが数字を補っている。速水も相武に引っ張られる形で好演。忌まわしき“「レガッタ」の呪い”からの脱出を果たせるかもしれない。
(2011.06.27)


2011年 テレビは何を映してきたか(5月編)

2012年01月24日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返っています。

今回は5月編。


例によって文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです。


2011年 テレビは何を映してきたか(5月編)

「探偵Xからの挑戦状!」 NHK 

 NHKが「探偵Xからの挑戦状!」シーズン3を放送している。何かと自粛ムードの世の中で、これは結構贅沢な番組だ。
 まずミステリー作家にオリジナル作品を執筆してもらいドラマ化。その前半が問題編、後半が解決編だ。ドラマの前後や途中には探偵X(竹中直人)とOLの蘭子(長澤まさみ)が登場。番組全体の案内役を務めている。
 先週は北村薫原作「ビスケット」。大学の外国人教師にしてミステリー作家の男が撲殺される。怪しいのは同僚の教授たちだ。事件の鍵となるのは被害者が遺した「ダイイング・メッセージ」で、手のひらの形が犯人を示していた。事件を解決するのは北村作品「冬のオペラ」の名コンビ、探偵の巫(かんなぎ)弓彦(山口祐一郎)とミステリー作家・姫宮あゆみ(水野美紀)だ。2時間ドラマでもいけそうな配役でこれまた贅沢感がある。
 実はこの番組、ケータイとの連動がウリの一つ。小説の問題編を事前に配信し、受信者は犯人を推理して投票。番組の中で投票者数(先週は約6600人)や犯人予測の分布を発表したりするのだ。こういう今どきの仕掛けで目新しさを狙う気持ちはわかる。しかし正直言って、投票に参加していない大多数の視聴者にとっては知りたい情報でもなく、うるさいだけだ。まずはテレビの前の視聴者を楽しませることに集中してもらいたい。
(2011.05.02)


「鈴木先生」 テレビ東京 

 テレビ東京「鈴木先生」は今期連ドラの中で目が離せない1本だ。まず、長谷川博己が演じる中学教師のキャラが際立っている。教育熱心といえば非常に熱心。いつも生徒のことを考えているし、観察眼も鋭い。しかし、それは教室を自分の教育理論の実験場だと思っているからであり、単なる熱血教師とは異なる。
 たとえば担任クラスの男子生徒が小4の女の子と性交渉をもってしまう。レイプだと怒鳴りこんでくる母親。鈴木はこの生徒と徹底的に話し合う。そして、たとえ合意の上でも、自分たちが「周囲に秘密がバレる程度の精神年齢」であることを自覚していなかったのは罪だ、と気づかせるのだ。
 いや、これで解決かどうかは賛否があるだろう。ただこのドラマの真骨頂は、鈴木が思いを巡らすそのプロセスを視聴者に見せていくことにある。“心の声”としてのナレーションはもちろん、思考過程におけるキーワードが文字としても表示されるのだ。いわば頭の中の実況中継である。しかもその中継には生徒である美少女・土屋太凰(つちやたお)との“あらぬ関係”といった妄想さえ含まれる。教師も人間であり男であるわけだが、この時点で「中学生日記」や「3年B組金八先生」との差別化は明白だ。
 原作漫画(武富健治)の画調はやや暑苦しいが、ドラマは映画風処理を施された映像が心地良い。
(2011.05.09)


「最後の晩餐~刑事・遠野一行と七人の容疑者」 テレビ朝日 

 先週土曜の夜、テレビ朝日がドラマスペシャル「最後の晩餐~刑事・遠野一行と七人の容疑者」を放送した。主演が佐藤浩市、脚本は「白い巨塔」などの井上由美子。共演者には西田敏行や黒木瞳も並び、期待を裏切らない力作だった。
 恋人を殺されたシェフ(成宮寛貴)が恨みをもつ面々を自分のレストランに招待し、一挙に罰を与えようとする。しかし途中まで、彼らが成宮に殺される理由が視聴者にも、佐藤たち警察側にもわからない。彼らは成宮の恋人の死に直接関係ないからだ。やがて真相が明らかになり、成宮と佐藤が対決するクライマックスがやってくる。
 このドラマ最大のお手柄は遠野一行という魅力的な刑事を“自前”で生み出したことだ。最近のドラマは小説や漫画の原作物が多い。それはそれで面白いが、やはりオリジナル脚本による新鮮な物語も見たいのだ。
 その点、遠野はいい。彼には自分が逮捕した犯罪者(ARATA)の女(斉藤由貴)を妻にしたという過去がある。それは警察組織では許されない結婚であり、かつての相棒・杉崎捜査一課長(六角精児、好演)との反目の原因にもなった。しかも出所したARATAは斉藤由貴に未練があり、彼女の気持ちも揺れ動く。
 こうした背景が遠野の人物像に微妙な陰影をもたせているのだ。続編を見てみたいと思う。
(2011.05.16)


「仕事ハッケン伝」 NHK 

 何度かのお試し放送を経てNHK「仕事ハッケン伝」がレギュラー化された。売り文句は「有名人が特別扱い一切なしで憧れの職業に挑む」だ。
 第1回はペナルティのワッキーが中華レストランチェーンで料理人修業。わずか一週間で一人前になれるはずもないが、何とか客に出せるニラレバ炒めを作り上げた。2回目は博多華丸が最先端IT企業に。仮想空間でのイベント企画に挑んだ。
 真剣に中華鍋を振るワッキーについ感動したりするが、それはあくまでも一週間という期間限定でのこと。タレントもカメラが回っていれば何らかの結果を出すべく必死になるのは当然だ。そもそも、いきなり入ってきた新人に“絵になる”ような仕事をさせてくれること自体、「特別扱い」なのである。またこの番組で扱われるのが有名企業ばかりというのも感心しない。ワッキーは餃子の王将。華丸がサイバーエージェント。以前の単発放送の頃もグーグルやアマゾンであり、今後はユニクロなどが登場する。
 ここ何年も就職氷河期とか超氷河期と呼ばれるが、学生たちの視野の狭さにも遠因がある。有名企業や大企業にばかり目が向いているのだ。実際には、名前は知られていないがキラッと光る会社、規模は小さいが世界的な企業がたくさんある。この番組がハッケンすべきはそんな会社と仕事なのではないか。
(2011.05.23)


「世紀のワイドショー!今夜はヒストリー」 TBS 

 TBSが「関口宏の東京フレンドパーク」の後枠で始めた「世紀のワイドショー!今夜はヒストリー」。そのコンセプトは「歴史上の大事件が起きたある一日にタイムスリップした、テレビ界初の時空超越系ワイドショー」という大胆なものだ。しかし実態は残念な羊頭狗肉と言わざるを得ない。
 まず歴史とワイドショーを結びつけたのは伊丹十三が出演した「万延元年のテレビワイドショー」(テレビ東京・1976年)が最初だ。もしも万延元年(1860年)にテレビが存在したらという設定で、幕末の経済問題をワイドショー形式で見せていた。また歴史の現場にタイムスリップしてレポートするのは、NHK「タイムスクープハンター」のスタイルだ。
 再現ドラマの中の過去の人物にインタビューする手法は、終戦秘話を描いた「欧州から愛をこめて」(日本テレビ・75年)をはじめ、現在のNHK「歴史秘話ヒストリア」でも使われている。さらに「歴史上のある一日」にスポットを当てる発想は、まんまNHK「その時歴史が動いた」である。
 他の番組の成果を取り入れるなら、それを踏まえてどれだけのオリジナリティを生み出せるかどうかが重要だ。番組で最も印象に残るのが、「みのもんたの朝スバッ!」を思わせる<業界最大級ボード>に貼られた紙をベリベリと剥がす司会者の姿では情けない。
(2011.05.30)



2011年 テレビは何を映してきたか(4月編)

2012年01月19日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返ってみます。

今回は、その4月編。

日テレ震災報道での<大竹真レポーター「面白い」失言問題>などを取り上げていました。

例によって文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです。


2011年 テレビは何を映してきたか(4月編)

「あなたと日テレ」 日本テレビ

 日曜朝5時45分から、日本テレビは「あなたと日テレ」を放送している。いわゆる「自己批評・検証番組」だ。司会の鷹西美佳アナによれば、その目的は「視聴者の皆様から寄せられたご意見やご批判に耳を傾け、今後の番組作りに役立てていこう」というもの。いや、大変結構な心がけです。
 3日の放送は、タイミング的にも『スッキリ!!』での震災報道における<大竹真レポーター「面白い」失言問題>を取り上げるだろうと思っていた。それは事情説明やお詫びかもしれない。もしくは「別に問題視されるような話じゃない」という反論でもいい。本当に視聴者の「ご意見やご批判に耳を傾け」ているのであれば、その結果を知りたかったのだ。
 しかし、登場したのは先週から始まった朝の「ZIP!」と昼の「ヒルナンデス!」の担当プロデューサー。2人とも新番組の企画意図や抱負を語るばかりだった。いわく「日本の朝にエールを。ハッピーな気分に」。また「お昼に“楽しい”を届けたい」そうだ。この企画意図説明という“儀式”は「送り手としての自覚と責任を感じ、番組の質的向上を目指す」ためだという。
 だが実際には、短いとはいえ番組の紹介VTRも流され、全体はまんま番宣になっていた。この時期に放送する自己批評・検証番組として、まさに批評・検証すべき内容だった。
(2011.04.04)


「おひさま」 NHK

 NHK朝ドラ「おひさま」は運の強いドラマだ。まず、主な舞台を昭和という過去に設定したこと。3月11日に東日本を襲った大震災は現実が想像を超えていた。ちゃちな筋書きのドラマなど吹き飛ぶインパクトだった。こんな時、主人公が鉄板焼きの次は同じノリでそば屋になると言われても、視聴者は困っただろう。
 しかし、“過去のお話”なら心安らかに見ていられる。さらに、物語が昭和初期から始まる女性一代記というのもついている。ヒロイン・陽子(子役の八木優希、好演)が信州にやって来たのは昭和7年。先週末の放送では13年まで進んでいた。つまり、これから国全体が困難な時代に突入していくわけで、時節柄、登場人物への感情移入も容易だ。
 加えて、主役に新人を持ってこなかったことも運がいい。確かに朝ドラは新人女優の登竜門でもある。だが、視聴者が下手くそな、いや初々しい演技のヒロインを応援できるのも平時ならでは。見る側の気持ちに余裕がない非常時の今、「天花」の藤澤恵麻や「ウエルかめ」の倉科カナ並みの素人芝居だとかなりつらい。その点、キャリア十分の井上真央なら大丈夫だ。
 最後に一つだけ注文を。ドラマの中では昭和7年の五・一五事件も13年の国家総動員法施行も、その前年の蘆溝橋事件さえ何ら説明がない。こうした時代背景は重要で、ぜひ触れて欲しいと思う。
(2011.04.11)


『犬を飼うということ』 テレビ朝日

 30代の夫婦と子供2人が、東京スカイツリーに近い古い団地で暮らしている。夫(錦戸亮)は先輩社員にリストラを伝えるのが仕事。妻(水川あさみ)はパートのかけ持ちだ。一見平和な家庭だが、見えない不満やストレスは積み重なっていた。
 ある日、小1の娘(久家心、うまい)が迷い犬と出会ったことから、一家は大きく変わり始める。先週金曜に始まったテレビ朝日「犬を飼うということ」はそんなドラマだ。
 若くして親になった錦戸と水川の等身大ぶりが好ましい。生活のためのリアルな疲労。現在の自分への疑問。そして置き去りにしてきた夢。それらを大仰にではなく、自然なタッチで描いていく脚本と演出が効いている。また、娘に「助けるというのはその命に責任をもつことだ」と教える動物愛護センターの職員(杉本哲太)もいい。
 この日、放送中に地震速報が表示された。震源地は岩手県沖、マグニチュード5.0。CMはサントリーの「見上げてごらん夜の星を」編。さらに「引き続き全力を挙げて事態の収拾に取り組んでまいります」という東京電力の“文字だけCM”も流れた。重たい現実は今も続いているのだ。
 そんな「3・11以後」の日常の中で見るドラマとして、これは悪くない1本だと思う。「今、まっ当に生きるとは?」を、気負わず、平熱で語ろうとしているからである。
(2011.04.18)


「シューイチ」 日本テレビ

 フレコミは「22年ぶりに日本テレビの日曜の朝が変わる」だ。今月から始まった「シューイチ」である。延々と続いてきた伝統の“徳光和夫アワー”を改編し、司会は中山秀征になった。今や “日テレの顔”のごとき中山だが、とりあえずどんな内容でも無難に進行させる技は完成の域だ。
 ただし時事ネタはやはり辛い。昨日の放送でも小学校の英語教育をテーマに中山が都内の小学校を訪問していたが、その是非を問うにはあまりにゆるい取材。というか、そもそもなぜ今このテーマなのか。被災地の小学校は英語どころか、授業そのものが困難な状態だというのに。この番組が最も時間とエネルギーを割いているのが芸能と流行りモノのランキングだ。
 しかし、芸能では「GANTZ」「名探偵コナン」「八月の蝉」など日テレがらみの映画紹介が並び、グルメ情報ではひたすら定番のラーメン。ここにも薄っぺら感がみなぎる。
 また、もったいないのはスタジオにいる元NHKワシントン支局長・手嶋龍一と、日テレの“報道の顔” 笛吹雅子キャスターだ。彼らの出番は冒頭のニュース・コーナーのみ。裏のTBSやフジにも負けない報道番組が作れそうなペアに、「好きなラーメン」なんぞ聞いてどうする。いや、本当にもったいない。結局、日テレの日曜の朝はパッとしないままだ。
(2011.04.25)

2011年 テレビは何を映してきたか(3月編)

2012年01月14日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返っています。

今回は3月編。

東日本大震災が起きた、あの3月だ。

(文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままにしてあります)


2011年 テレビは何を映してきたか(3月編)

「さしこのくせに」TBS

 何とも秀逸なタイトルなのが「さしこのくせに」(TBS)。“さしこ”とはAKB48の指原莉乃(さしはら・りの)のニックネームだ。指原は人気投票に当たる「総選挙」では19位。前田敦子や大島優子といったトップ組ではない。特別美形とか歌が上手いわけでもなく、むしろ“へたれキャラ”。
 「さしこのくせに」はそんな指原の冠番組だ。いや、AKB48メンバー初の単独冠番組である。コンセプトは「指原の育成」。毎回さまざまな課題が与えられ、それをクリアしないと番組は打ち切り(ということになっている)だ。戦場カメラマン・渡部陽一を対談で混乱させようとしたり、ダチョウ倶楽部の面々からリアクション芸を習ったりする。
 見ていると、指原には天然の愛嬌がある。また自分をよく見せようとしない潔さがある。ごくフツーの女の子がフツーに頑張る姿が共感を呼ぶのだ。
 しかし、この番組で見るべきは指原だけではない。共演する土田晃之の“番組回し技”だ。視聴者に「テレビの作られ方」をさりげなくバラしつつ、指原のへたれぶりをショーアップし、ゲストの持ち味を引き出す。
番組も指原も「AKB商法」と呼ばれる巨大ビジネスの一部であることを十分認識しながら、「テレビで遊ぶ」を体現しているのだ。土田晃之、芸歴20年。もはや単なる“ひな壇芸人”などではない。
(2011.03.07)


“被災者のための情報”BS1

 「東北関東大震災」の緊急特番は11日午後2時48分のNHKから始まった。間もなく民放も続々と参入し、最も遅かった日本テレビでも57分には通常番組から切り替えられた。その後、各局の大報道が続いているが、テレビ5波、ラジオ3波の全てを投入したNHKの総合力が目立つ。
 中でもBS1が延々と行った「被災者のための情報」は出色だ。ここでは岩手県、福島県など被災地にいる人たちに向けて、まさに具体的な「知りたい情報」を流し続けた。たとえば、どこの町の何世帯が「断水」となっているか。また停電が続くとその範囲は広がる恐れがあること。そして「給水所」は何か所に設置されているか等々だ。画面には女性アナが一人だけ。冷静な声と表情で正確な情報を伝える様子は、見ている側をも落ち着かせる効果があった。
 一方の民放は「被災地以外の所にいる人たち」に向けた内容という印象が強い。津波で家屋が押し流される衝撃映像の繰り返しと、死者や行方不明者の数など統計情報が中心で、どこか傍観者的・野次馬的・優越的な興味に迎合する報道になってはいないだろうか。
 「取材団」と呼ばれる人員を現地に送るのはいい。しかし、時には現地の系列局と“競合”しているように見えるのが気になるのだ。余震はまだ続いている。報道する側の姿勢も問われ続ける。
(2011.03.14)


ACのキャンペーンCM

 ACジャパンが、新しいキャンペーンCM、それも今回の大震災に対応した新作を流し始めた。SMAPの5人がカメラに向かって語り掛けるものや、サッカーの岡崎慎司選手、長友佑都選手が登場するものなどだ。通常のCM制作が何カ月もかかる中で、よくぞこの短期間で放送まで漕ぎつけたものだと思う。
 3月期のCM枠は地震前、すでに各スポンサー企業に売られていた。しかし、企業側も3月11日以降は通常CMを流すわけにいかず、自粛の形をとった。それを埋めるのがACジャパンの「公共広告」だ。
 ところが地震発生以来、使われる公共CMが限定されていた。しかも各局で同時かつ大量に流されたため、視聴者から「どうにかならないか」の声が上がっていたし、今もある。どんなにいい内容であっても、あまりに同じものを繰り返し見せられると、見る側はうるさく感じたり、反発さえ覚えたりする。映像とはそういうものだ。その意味で新作は大歓迎だが、時間がたてば同じことになっていく。
 そこで提案だが、ACには過去数十年にわたって制作してきた数多くの優れた公共CMがある。これらの中から現状にマッチしたものを選び、一種の「名作集」として新作と併せて流してみたらどうだろう。原発の動向によっては通常CMの完全復活まで、まだ時間がかかるかもしれないからだ。
(2011.03.28)