「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2012年のテレビ。その9月編です。
2012年 テレビは何を映してきたか (9月編)
「つるかめ助産院~南の島から」 NHK
「はつ恋」が好評だったNHKの連ドラ枠「ドラマ10」(火曜夜10時)。先週から仲里依紗主演の「つるかめ助産院~南の島から」が始まった。
初回の冒頭はエメラルドグリーンの海の空撮。舞台は沖縄の離島だ。蒸発した夫を探しに来た東京の主婦・仲里依紗と、1年前から島で暮している助産師・余貴美子が出会う。妊娠が判明しながら、出産を拒む里依紗は生い立ちが影響しているらしい。長老(伊東四朗、はまり役)をはじめ島の人たちの親切も、彼女には偽善に見えてしまう。
このドラマ最大の注目ポイントは、しばらく脇役の多かった仲里依紗が主役としてどこまでドラマを引っ張れるかである。幸い余貴美子という“ぶつかりがい”のある役者のおかげで、里依紗の負けじ魂と天性の演技勘が戻ってきたようだ。
先週のラスト。東京へ帰ろうとする里依紗は、船の上で余貴美子が作ってくれたおにぎりを食べる。里依紗を見つめるカメラは途中から静かにズームを開始。顔がアップになる瞬間、涙があふれてくるのだ。約90秒の長いワンカットに収める難しい撮影だが、里依紗は見事に表現してみせた。
これからが期待できるが、少しだけ心配も。初回だけで小川糸の原作小説の約4分の1を描いてしまったのだ。全8回の残り7回をどう展開するのか。脚本家・水橋文美江の腕の見せ所だ。
(2012.09.04)
「眠れる森の熟女」 NHK
熟女ブームだ、そうだ。で、さっそく出てきたのがNHKよる☆ドラ(火曜夜10時55分~)「眠れる森の熟女」である。
主人公は46歳の専業主婦(草刈民代)。銀行マンの夫と中学生の息子がいる。ごく普通の穏やかな生活が夫の浮気で一転、離婚話へ。妻は自立すべく仕事を探し、ホテルのメイドとなる。実はホテルの若き総支配人(瀬戸康史)が裏で手をまわしたのだが、そのことを彼女は知らない。庶民熟女とイケメン御曹司の恋という、まるで“逆韓国ドラマ”みたいな設定だ。
まあ、それはいい。わからないのはヒロインがなぜ草刈民代か、である。これほど主婦が似合わない女優も珍しい。キッチンに立っても、夫や息子と向き合っても現実感が希薄なのだ。完全に演技力の問題である。
草刈民代といえば映画「Shall we ダンス?」。あのヒット作から16年経つが、バレリーナ(3年前に現役引退)としてはともかく、女優としてどれだけ進歩したのか疑問が残る。確かに熟女には違いないが、主役を張る“熟女優”の芝居とはとても思えない。
ならばこのドラマ、見る価値はないのか。いや、夫が走った中学時代の同級生で初恋の人、森口瑤子がいる。役柄というだけでなく、熟女優ならではのツボを心得た、余裕の振る舞いが魅力的だ。大人のオトコが見ておいて損はない。
(2012.09.11)
「負けて、勝つ~戦後を創った男・吉田茂~」 NHK
NHK土曜ドラマスペシャル「負けて、勝つ~戦後を創った男・吉田茂~」の出来栄えが見事だ。坂元裕二の脚本は吉田茂(渡辺謙)だけでなく周囲の政治家や官僚、さらに家族との関係まで丁寧に描いている。
主演の渡辺も貫禄充分。ダグラス・マッカーサー役には映画「ザ・ロック」などで知られるデヴィッド・モースを起用。2人が向き合うシーンはハリウッド映画を見るような贅沢感がある。
だが、それにしてもなぜ今、吉田茂なのか。確かに「復興」の文字は現在に通じるものがあるが、吉田に対する評価は以前と違ってきている。
その一例が元外務省国際情報局長・孫崎享の近著「戦後史の正体」だ。戦後から現在に至るまで、日本が米国の圧力に対して、「自主」路線と「追随」路線の間で揺れ動いてきた経緯を明らかにしている。特に占領期は「追随」の吉田と「自主」の重光葵が激しく対立。重光は追放され、同じく自主路線の芦田均も7カ月で首相の座を追われた。
孫崎によれば「日本の最大の悲劇は、占領期の首相(吉田茂)が独立後も居座り、同じ姿勢で米国に接したことにある」。こうした評価をドラマの中で生かすのかどうか。「この時期を乗り切るには対米追随しかなかった」とか、「吉田茂はよくやった」という単純な話になるとは思わないが、今後の展開に注目したい。
(2012.09.18)
「死と彼女とぼく」 テレビ朝日
先週金曜の深夜、ドラマスペシャル「死と彼女とぼく」(テレビ朝日)が放送された。
主人公は死者の姿を見たり声を聞いたり出来る女子高生(三根梓)。ビルの屋上から転落死した女性建築士(櫻井淳子)と出会う。警察は自殺と断定するが、本当は設計プランを奪った同僚(袴田吉彦)に突き落とされたのだ。三根は、恨みに凝り固まる櫻井が無事に旅立てるよう奔走する。
脚本を手がけたのは、「世にも奇妙な物語」などの演出家でもある落合正幸。川口まどかの原作漫画をベースに、死者たちと向き合うことで逆に“生きること”を大切にしようとするヒロインを巧みに造形していた。
しかし、このドラマで注目すべきは、特殊な設定にも関わらず溌剌と演じた三根梓である。女性誌のモデルとして知られる三根だが、今回がドラマ初出演にして初主演。大きなプレッシャーの中での挑戦だったはずだ。
現在20歳の三根は、なんと早大政経学部在学中の現役学生。彼女にとってこのドラマは、大学生が就職活動の一環で夏休みに体験する、企業での「インターンシップ」に当たるのだ。しかも上手くいけば本格的女優業への道が開ける。そりゃ頑張るしかなかったろう。
まずは及第点という結果だが、遠く吉永小百合を望む“早稲田女優”に名を連ねることができるかどうかは、今後の精進にかかっている。
(2012.09.25)