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北朝鮮党大会
「プロモーションビデオに利用された!?」
海外メディア終始翻弄
都合のよい報道管理を徹底
「プロモーションビデオに利用された!?」
海外メディア終始翻弄
都合のよい報道管理を徹底
北朝鮮は9日まで4日間の日程で開催した朝鮮労働党大会で、首都・平壌へ取材を受け入れた約120人の海外メディアを終始、翻弄し続けた。ときに当局が設定した取材予定を突然キャンセルしたかと思えば、最終日には一部メディアを行き先も告げずに党大会の会場に案内。“金正恩王朝”に都合のよい報道統制をみせつけ、メディア関係者からは「プロモーションビデオの撮影に利用された」との声も漏れた。
■ミヤネ屋も苦言
最終日の9日に大会を一部報道陣に公開するまで、日本のテレビ報道では、取材予定が突然キャンセルされるなど現地の混乱ぶりをリポートした内容が目立っていた。
国内メディア報道によると、取材陣は党大会会場の取材は許可されず、ホテルのメディアセンターに設置された画面を通じ、国営テレビを視聴する状況が続いた。一方、北朝鮮側から案内されるのは、党大会とは関係のない教育施設など。事前に行き先が伝えられないうえ、予定が突然キャンセルされることもあるという。
こうした状況について情報・報道番組のキャスターやコメンテーターからは批判の声が相次ぎ、9日の日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」では、司会者の宮根誠司氏が「平壌のプロモーションビデオの撮影に利用された」と苦言を呈した。
上智大の碓井広義教授(メディア論)も「取材陣は北朝鮮側が指定した施設のみに案内されており、日本の視聴者は『北朝鮮が見せたい映像』を見せられている。北朝鮮にメディアコントロールされているとも言え、前代未聞の海外取材ではないか」と話した。
■過去にも「灯台下暗し」
9日の党大会公開までに報道陣に許された取材先は、高層住宅街の「未来科学者通り」や電線工場、産婦人科病院など金正恩氏の肝いりで整備された施設ばかり。多くが金正恩氏自身の視察も報じられてきた場所という。
4日に公開した平川(ぴょんちょん)革命史跡は、金正恩氏が初めて「水爆」に言及した場所とされ、7日に報道陣が案内された「科学技術殿堂」内には、弾道ミサイルの巨大模型が展示されている。
党大会で強調した核開発と経済建設の「並進路線」というテーマに沿って、成果として自慢し、海外メディアに報じてほしい施設ばかりが選ばれている。
取材チームごとに案内人が同行する一方、案内人自身が党大会のスケジュールについて知らされていないとみられ、急な予定変更について案内人が外国人記者に詰め寄られ、戸惑う様子も映し出された。
過去に海外メディアを受け入れた場合も同様で、2012年4月に「衛星」と称した長距離弾道ミサイルの発射に失敗した際も、平壌入りした記者らに詳細が知らされず、“灯台下暗し”の状態に置かれた。
9日には英BBC記者が一時拘束され、国外退去処分になったことが判明した。拉致再調査をめぐり14年10月に日本政府代表団が訪朝した際にも、同行したTBS記者を聴取し一時、取材から外す措置を取ったことがあった。
■「平壌以外の現状とは関係ない」
「マンセー(万歳)」。朝鮮労働党が9日、初めて党大会の様子を一部外国報道陣に公開した際、金正恩氏をたたえる出席者の大歓声が会場中に響き渡った。
共同通信によると、この日午後、突然正装して集合するように言われ、行き先を告げられないまま小型バスで移動した。取材を認められた外国報道陣は平壌入りしている約120人のうち約20人。
市中心部の施設で一度降ろされ、撮影機材などの念入りなチェックを受けた後、再びバスで移動した。携帯電話やパソコンはその場で預けさせられた。バスが会場の「4・25文化会館」に到着した時点で初めて、報道陣は取材対象が党大会であることを確信。ようやく訪れた取材機会に、バスの中は沸き立った。
今回の大会をめぐって外国取材陣が入ったのは、あくまで平壌のみだ。欧米メディアの報道では、高層ビルも見える都会的な町並みが映し出された。
ドイツ公共放送ZDFの記者は6日、「核抑止力は絶対必要だ」などと平壌の街頭インタビューに応じた市民の声を伝えたが、「平壌以外の現状とは関係ない」とも報じた。仏メディアによると、フランス通信も「北朝鮮の典型的な事例ではないだろう」との解説を加えている。
平壌に外国メディアを受け入れたとはいえ、劣悪な食糧事情による飢餓などが伝えられる地方の実情は、カメラに映らない、はるか彼方に隠蔽されたままだ。
■中露は「盟友」のはずが…
近年の冷え込んだ中朝関係を反映してか、9日の党大会の一部公開前、中国の官製メディアも北朝鮮当局に“特別扱い”されている様子はうかがえなかった。
中国国営新華社通信は少なくとも記者3人が平壌で取材にあたっているとみられたが、党大会の開幕を伝える6日午後の配信記事は「各国から110人余りの記者が会場付近に到着したが、北朝鮮側はまだ記者たちを入場させていない」と言及。その後も新華社電は、北朝鮮当局が外国メディア向けに手配した平壌市内の産婦人科病院や電線工場の視察の様子をきまじめにリポートしていたが、金正恩氏の党大会における発言内容などは、すべて北朝鮮メディアを引用する報道に終始していた。
ロシア国営イタル・タス通信も、北朝鮮の外国メディアに対する扱いを逐一、報じた。6日には、約180人の外国人記者らが党大会の会場となっている文化宮殿への立ち入りを認められないと報道。同日、平壌の大使館や国際機関が集まる地区では朝からインターネットに接続できず、電力が長時間にわたって遮断されているとして、現地の混乱ぶりも伝えていた。
■「私には聞かないで」
米国でも、朝鮮労働党大会が海外メディアに非公開だったことを、「閉ざされた扉の向こうで始まった党大会」(AP通信)などと大きく報じた。
米CBSテレビによると、6日の党大会開幕式の前に北朝鮮側の案内担当者から正装するように指示されたが、現地に到着すると会場内での取材は許されなかった。記者が理由を尋ねても「私には聞かないで」と担当者は笑いながら答えただけだった。
ワシントン・ポスト紙も平壌入りした記者が、北朝鮮側に振り回されている様子を映像で報告。8日にも旅券を持って平壌市内の施設に集まるよう指示され、「政府高官の会見が行われると期待が高まった」(同紙)。だが、実際には会見などは何も行われず、そのままホテルに戻ったという。平壌に大挙した海外メディアは右往左往している状態で、同紙は「成果はない」と伝えていた。
今回、BBCの記者ら3人を拘束した際、北朝鮮当局は3人に“反省文”の位置付けともなる書類に署名させた上で、国外追放処分とした。当局がBBCの報道姿勢に対する不満を持ったためとみられるが、北朝鮮の特殊性と閉鎖性ばかりが浮かび上がるメディア対応ぶりだった。
(産経新聞 2016.05.10)