エコノミストonlineに、
女優・美村里江(元 ミムラ)さんによる
『ドラマへの遺言』の書評
×月×日
『ドラマへの遺言』(倉本聰、碓井広義著、新潮新書、820円)。なんともドッキリするタイトル。ドラマ出演している身からすると、これは読まねばとすぐにレジへ運んだ。
倉本作品の逸話については、撮影現場で耳に入ることがある。しかし、本人とその愛弟子による述懐はさすがに知られざる話が山盛りだ。
有名な話では、大河ドラマの脚本を降りた件。その前後の細かな出来事が興味深かった。
自分が重要と考えているキャストが、局側から「連絡がつかないので無理」と却下された。「ならば自分が口説いてくる」と請けあい、人のつてを使い、情報を使い、自ら足を運び、文字通り土下座して口説き落としたそうだ。その後生じた主演の交代劇でも、同じように動いた。
「プロデューサーは管理職で、現場はみんな組合員なんですよね。組合員と外部の倉本聰、どっちを大事にするんだって、プロデューサーが詰め寄られちゃった」ということで、脚本家がキャスティングのために奔走したことが「出過ぎだ」と反発され、降りることになったという。 実際のことはわからないが、作品を面白くするために行動した人が報われないのは、少し悲しい。
倉本氏は、チャップリンの「人生はクローズアップで見ると悲劇だけど、ロングで見ると喜劇だ」という言葉を座右の銘とし、それが一番高級なドラマではないかという。
本書を読んでいると、確かに引いてみれば人生は楽しいものと思える。(美村里江、女優・エッセイスト)
■人物略歴
みむら・りえ
1984年埼玉県生まれ。2003年にドラマ「ビギナー」で主演デビュー。出演する映画『パラレルワールド・ラブストーリー』が5月31日より公開中。
(エコノミストonline 2019.05.31)
ドラマへの遺言 (新潮新書) | |
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