碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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エコノミストonlineに、女優・美村里江(元 ミムラ)さんによる『ドラマへの遺言』の書評

2019年06月01日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

エコノミストonlineに、

女優・美村里江(元 ミムラ)さんによる

『ドラマへの遺言』の書評

 

×月×日

『ドラマへの遺言』(倉本聰、碓井広義著、新潮新書、820円)。なんともドッキリするタイトル。ドラマ出演している身からすると、これは読まねばとすぐにレジへ運んだ。

倉本作品の逸話については、撮影現場で耳に入ることがある。しかし、本人とその愛弟子による述懐はさすがに知られざる話が山盛りだ。

有名な話では、大河ドラマの脚本を降りた件。その前後の細かな出来事が興味深かった。

自分が重要と考えているキャストが、局側から「連絡がつかないので無理」と却下された。「ならば自分が口説いてくる」と請けあい、人のつてを使い、情報を使い、自ら足を運び、文字通り土下座して口説き落としたそうだ。その後生じた主演の交代劇でも、同じように動いた。

「プロデューサーは管理職で、現場はみんな組合員なんですよね。組合員と外部の倉本聰、どっちを大事にするんだって、プロデューサーが詰め寄られちゃった」ということで、脚本家がキャスティングのために奔走したことが「出過ぎだ」と反発され、降りることになったという。  実際のことはわからないが、作品を面白くするために行動した人が報われないのは、少し悲しい。

倉本氏は、チャップリンの「人生はクローズアップで見ると悲劇だけど、ロングで見ると喜劇だ」という言葉を座右の銘とし、それが一番高級なドラマではないかという。

本書を読んでいると、確かに引いてみれば人生は楽しいものと思える。(美村里江、女優・エッセイスト)

 ■人物略歴

みむら・りえ

1984年埼玉県生まれ。2003年にドラマ「ビギナー」で主演デビュー。出演する映画『パラレルワールド・ラブストーリー』が5月31日より公開中。

(エコノミストonline 2019.05.31)

 

 

 

ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社

 

 


同性愛者のドラマ同時多発

2019年06月01日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

同性愛者のドラマ同時多発

 

刑事ドラマや医療ドラマなど、同じジャンルの作品が同時多発することはよくある。今期、目立つのは男性同性愛者が登場するドラマだ。きっかけは、男性同士の恋愛を正面から扱ったコメディーとして話題となった、昨年の「おっさんずラブ」(テレビ朝日-HTB)だろう。各局が後を追った結果、ようやく今期、横並びで登場することになった。

1本目は「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」(NHK)。主人公は高校3年生の安藤純(金子大地)だ。年上の恋人・佐々木誠(谷原章介)をもつゲイだったが、同級生の三浦紗枝(藤野涼子)とつき合うことになる。

紗枝はBL(ボーイズラブ)小説や漫画を愛好する「腐女子」。しかし、当初は純がゲイであることを知らなかった。純の中にある「好きなものは仕方ない」という諦念。「なぜ生まれてきたのか」という自問。そして「居場所が欲しい」という渇望。自分がゲイであることに困惑しながら生きる少年の揺れる気持ちを丁寧に描いている。

次の「俺のスカート、どこ行った?」(日本テレビ-STV)は、新米高校教師の原田のぶお(古田新太)が主人公だ。原色系のブラウスとスカート、足元はハイヒール。「ヤバいおじさん」と揶揄(やゆ)する生徒たちを、「俺は、ヤバいおじさんじゃない。かなりヤバいおじさんだ!」と一喝する。

さらにトランスジェンダーは「社会が割り当てた性別とは別の性別で生きる人」だと説明し、「わたしはゲイ、そして女装もしている」と続ける。既成概念で他者を決めつけるべきではないことを伝えていた。一見破天荒だが、「生きづらさ」という経験に裏打ちされた道理と知恵が隠されており、曇りのない目で人間の本質を見抜く力が抜群だ。

そして、「きのう何食べた?」(テレビ東京-TVH)では、弁護士の筧史朗(西島秀俊)と美容師の矢吹賢二(内野聖陽)が同居生活を送っている。史朗は料理好きで、「サケとごぼうの炊き込みご飯」など実においしそう。堂々の「食ドラマ」でもあるのだ。

互いの心の領域に、どこまで踏み込んでいいのかを繊細な神経で気づかいながら、「シロさん」「ケンジ」と呼び合い、同じ食卓で、同じものを食べ、話したり、笑い合ったりする40代半ばの男たち。静かな大人の日常が心地よい。

ダイバーシティ(多様性)などと言わずとも、見ているうちに「こういう生き方もあるんだ」と自然に思えてくる。まさにドラマの同時代性である。

(北海道新聞 2019.06.01)