碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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<2019年6月の書評>

2019年06月30日 | 書評した本たち

 

 

<2019年6月の書評>

 

佐藤 優 『友情について~僕と豊島昭彦君の44年』

講談社 1728円

豊島昭彦君は著者の浦和高校時代の同級生で親友だ。昨年、末期がんが判明したことをきっかけに、「この世に生きた証を遺したい」と本書が誕生した。本人の手記やインタビューを基に、その半生が描かれる。私的でありながら普遍性を併せ持つ、男たちの軌跡だ。(2019.04.22発行)

 

小西康陽 

『わたくしのビートルズ~小西康陽のコラム1992-2019』

朝日新聞出版 3564円

元ピチカート・ファイブの音楽家によるバラエティブックだ。ずっしりと重い三段組みの本書には、音楽、映画、ファッション、古本などに関する個性的な視点のコラムが並ぶ。圧巻は怒涛の名画座巡りの記録と日記。小西康陽という名のライフスタイルがそこにある。(2019.04.30発行)

 

辻 真先 『焼跡の二十面相』

光文社 1836円

江戸川乱歩「少年探偵団シリーズ」をベースに書き下ろされた、オリジナル・ストーリーだ。舞台は終戦直後の帝都・東京。四谷重工業社長の元に、二十面相から秘宝強奪の予告が届く。明智小五郎はまだ戦場から帰還していない。小林少年の驚くべき活躍が始まる。(2019.04.30発行)

 

岸 惠子 『孤独という道づれ』

幻冬舎 1512円

波瀾万丈の女優人生を振り返りつつ、現在の心境を綴る最新エッセイ集だ。たとえば、「役作りをする」という言葉が気恥ずかしいと著者。役をもらってからの役作りでは間に合わない。つまり「生の人間が勝負」なのだと言う。凡百の演技論を蹴散らす名言だ。(2019.05.01発行)

 

曽野綾子 『定本 戒老録 増補新版~自らの救いのために』

祥伝社 1728円

5つの「まえがき」と、3つの「あとがき」が並ぶ。これまでの「老い」を見つめる文章に、その後の思索を加えたからだ。著者によれば、「人はただ限りなくその人である」だけでいい。また「人間は最後まで不完全である」と。大人のための老い方の教科書である。(2019.05.10発行)

 

シャロン・ラニアー:著、大沢章子:訳

『今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由』

亜紀書房 1944円

ソーシャルメディアが便利な道具であることは事実だ。しかし、実はユーザーが自分で意識しないまま巨大デジタル企業に操られ、依存状態に陥っているかもしれないのだ。コンピュータ科学者が伝授する、「人生の舵を自分で取る」ためにすべきこととは何なのか?(2019.05.18発行)

 

東京コピーライターズクラブ、鈴木隆祐

『コピーライターほぼ全史』

日本経済新聞出版社 3780円

約半世紀におよぶコピーライターたちの活躍の歴史だ。黒須田伸次郎「ゴホン!といえば龍角散」。秋山晶「男は黙ってサッポロビール」。小野田隆雄「恋は、遠い日の花火ではない」など、名作の書き手に対するインタビューも充実している。コピーは時代を映す鏡だ。(2019.05.24発行)

 

宮坂静生:編著 『俳句必携 1000句を楽しむ』

平凡社 3024円

俳人である編著者は言う。「日常の一つ一つの事象に定義を与え、楽しむ」のが俳句だと。本書は俳句鑑賞のアンソロジーだ。「田に水をひく分校を映すため」(今瀬潤一)など、有名無名を問わない作者の1068句が並ぶ。日本の自然と人間の定義集である。(2019.05.24発行)

 

樋口直人ほか 『ネット右翼とは何か』

青弓社 1728円

ネット上に特定の国や民族をおとしめる書き込みを繰り返す人々。このネット右翼に関して、気鋭の研究者6人が知見を持ち寄った。「匿名」という鎧を身にまとい、排外主義やナショナリズムなどの価値観をベースに発言することで。彼らは何を得ているのか。

 

高橋万太郎『にっぽん醤油蔵めぐり』

東海教育研究所 1512円

著者は醤油のセレクトショップ代表。400以上もの醤油蔵を訪ね、その中から選んだ45銘柄を紹介したのが本書だ。濃口、淡口、溜といった種類だけでなく、蔵の特性や地域性による違いが丁寧に解説されていく。何より登場する職人たちが魅力的だ。味は人が作る。(2019.05.30発行)

 

内田裕也『内田裕也、スクリーン上のロックンロール』

キネマ旬報社

今年3月に亡くなった内田裕也。本書は映画に特化したインタビュー集だ。若松孝二監督『水のないプール』、崔洋一監督『十階のモスキート』、滝田洋二郎監督『コミック雑誌なんかいらない!』などの問題作が、驚異的な記憶力と忖度なしのロック魂で語られる。(2019.06.09発行)

 

海上雅臣『現代美術茶話』

藤原書店 3240円

生涯に64点もの「貧」を残した孤高の書家、井上有一。その評価を決定づけたのは海上雅臣の評論だった。また棟方志功を「世界のムナカタ」へと押し上げたのも海上の功績だ。本書は美術と人物と世相をめぐるエッセイ、約30年分。美術界の貴重な同時代記録でもある。(2019.06.10発行)

 

 


雨の週末、活字で楽しむ「昭和のテレビ」

2019年06月30日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

雨の週末、活字で楽しむ「昭和のテレビ」

 

今週末も雨模様。今年上半期に出版された本の中から、「昭和のテレビ」が活字で楽しめる何冊かを選んで、紹介してみたいと思います。

 
小松政夫『ひょうげもん―コメディアン奮戦!』(さくら舎)
 
今年77歳になる小松政夫さんが、植木等さんの付き人兼運転手として芸能界入りしたのは55年前のことでした。やがて人気者となり、「電線音頭」や「しらけ鳥音頭」が大ヒットしていきます。自伝的回想録である本書は、テレビ草創期から現在までを内側から見た、異色の昭和・平成芸能史でもあります。
 

白石雅彦『「怪奇大作戦」の挑戦』(双葉社)
 
1960年代後半、『ウルトラQ』に始まる円谷プロの特撮シリーズが人気を集めました。思えば、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の後に放送された、『怪奇大作戦』は異色作でした。何しろ怪獣も、宇宙人も登場しないんですから。しかも実相寺昭雄監督『京都買います』など名作が多い。本書は、伝説の特撮ドラマの深層に迫る1冊です。
 

久米 明『僕の戦後舞台・テレビ・映画史70年』
(河出書房新社)
 
俳優・声優である久米明さんは、94歳の今も『鶴瓶の家族に乾杯』などのナレーターを務める、堂々の現役です。旧制麻布中学、東京商科大学(現・一橋大学)、そして学徒動員。役者人生は70年を超えています。テレビ草創期から、黒澤明監督や福田恆存についてまで、貴重な証言のオンパレードです。
 
 
こうたきてつや 『昭和ドラマ史』(映人社)
 
日大名誉教授のこうたきてつや(上滝徹也)さんは、ドラマ史研究の第一人者。本書に並ぶ昭和の作品群の中でも、“ドラマの黄金時代”といえる70年代の記述が熱い。向田邦子『寺内貫太郎一家』、倉本聰『前略おふくろ様』、そして山田太一『岸辺のアルバム』など、まさに脚本家の黄金時代でもあったのです。
 

井上一夫 『伝える人、永六輔 「大往生」の日々』(集英社)
 
井上一夫さんは、元「岩波新書」編集者です。あの大ベストセラー『大往生』に始まる、永六輔さんとの日々を振り返りました。約10年にわたる二人三脚で知った独特の発想や仕事の仕方、さらに生き方までが明かされます。「積み重ねでなく閃(ひらめ)き」という方法の中に、永さんの真髄が見えてくるようです。
 

中川右介『サブカル勃興史』(角川新書)
 
70年代サブカルチャーの考察です。70年の『ドラえもん』を皮切りに、71年『仮面ライダー』、74年『宇宙戦艦ヤマト』、そして79年『機動戦士ガンダム』などが続々と登場します。注目すべきは、これらの作品が半世紀近くを経た今も“健在”であることでしょう。その秘密とは?
 

小路幸也『テレビ探偵』(角川書店)
 
この小説の舞台は昭和40年代。主人公は、音楽バンド&コントグループのボーヤです。土曜夜8時に生放送される公開バラエティで、まさかの殺人未遂事件が発生します。誰が、何のために? 当時の超人気番組(♪ババンバ、バンバンバン!)をモデルにして、テレビが熱かった時代の芸能界を活写する連作ミステリーです。
 
 
 
 
 
テレビ探偵
小路 幸也
KADOKAWA
 
 
 
 
 
 
昭和ドラマ史
こうたき てつや
映人社
 
 
 
 
「怪奇大作戦」の挑戦
白石 雅彦
双葉社