碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「ドラマ聖☆おにいさん」は、土曜深夜の小さな“奇跡”

2019年06月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK「ドラマ聖(セイント)おにいさん」

土曜深夜の小さな奇跡

 

イエスとブッダが共同生活をしている。いや、ニックネームではない。一見普通の若者だが、どちらも本人なのである。設定はとんでもないが、イエスを演じるのが松山ケンイチ、ブッダは染谷将太だ。

 脚本・監督が福田雄一でプロデューサーが俳優の山田孝之ときては見逃せない。「ドラマ聖おにいさん」(NHK)は、ハマる人はドハマりする一本だ。

2人が暮らすのは立川にある6畳一間のアパート。コンビニから戻ったイエスは、「女子高生からジョニデ(ジョニー・デップ)に似てるって言われた」とうれしそう。ブッダも勇んで出かけるが、額の「白毫」(びゃくごう)を小学生に押されただけだった。

 かと思うと、浪費癖のあるイエスがアマゾンで「陶芸セット」を注文する。倹約家のブッダは怒るが、自分用の「漫画家セット」で懐柔されてしまう。さっそく、ろくろを回すイエス。漫画を描きだすブッダ。しかし、イエスはものの5分で飽きてしまう……といったエピソードがオムニバス形式で展開されていく。

大きな物語があるわけではない。2人に関する、まともな説明もない。「なんかいいなあ、下界」とか言いながら暮らす彼らの、ボーッとした日常が続くばかりだ。

「困った連中だなあ」と笑って見ているうちに、何だか和んでいる自分を発見する。土曜の深夜に、罰当たりな神と仏が現出させる、小さな奇跡だ。

日刊ゲンダイ 2019.06.26