ドラマに政界を取り込む
日曜劇場「半沢直樹」(TBS系)が終了した。今期ドラマで最大の盛り上りを見せた背景には、いくつかの要素がある。
新型コロナウイルスの影響による制作中断や放送延期が、逆に視聴者の飢餓感をあおったこと。主演の堺雅人はもちろん、歌舞伎界からの援軍も含む俳優陣の熱演。そして福澤克雄ディレクターたちによるダイナミックな演出などだ。
しかし、特に「帝国航空」をめぐる後半の物語が注目を集めたのは、政界という現実を取り込んでいたことが大きい。
帝国航空はナショナル・フラッグ・キャリア(国を代表する航空会社)という設定。「経営危機」「債権放棄」などの言葉も飛び交い、現実の「日本航空」を想起させた。
10年前、日本航空が倒産した際、金融機関などが総額5000億円以上の債権を放棄したことは事実だ。ドラマで描かれたような国土交通省やタスクフォースの動きの有無はともかく、当時の債権放棄が高度な「政治的案件」だったことは確かであり、見る側の興味を引くには十分だった。
さらにドラマにおける政権党の幹事長、箕部啓治(柄本明)の登場だ。航空会社も銀行も支配下に置こうとする箕部にとって、国土交通相の白井亜希子(江口のりこ)も、東京中央銀行常務の紀本平八(段田安則)も単なる手駒に過ぎない。
また銀行からの不正融資20億円と地方空港の新設を悪用した錬金術。フィクションとはいえ、政権党の幹事長がゲームなどにおける最終的な敵「ラスボス」のごとく描かれていたことが秀逸だ。
今月16日、菅義偉が第99代内閣総理大臣に就任した。その菅首相は「安倍政治」の継承者を自任している。
だが、反省より先に不都合なことを隠そうとした、安倍政権の「隠蔽体質」の継承は許されない。半沢の言葉を借りれば、政治家とは「国民それぞれが自分の信じる理念の元に、この国をよりよくするために選んだ存在」だからだ。
新型コロナによる「閉そく感」が常態化している中、視聴者は進行する政治状況も眺めながら、このドラマを楽しんできた。「正しいことを正しいと言えること」を愚直に目指した半沢のような人物、現実の政界にも現れないものだろうか。
(しんぶん赤旗「波動」2020.09.28)