碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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デイリー新潮で、Eテレ「お笑い芸人」起用について解説

2020年09月20日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「Eテレ」で

お笑い芸人が重宝される2つの理由 

専門家は「カンニング竹山」を高評価

 

“Eテレ芸人”の誕生

 1959年1月、「世界初の教育専門チャンネル」としてNHK教育テレビジョンが開局した。2011年に一般呼称をEテレと変更。今ではこちらしか知らない人も多いだろう。誰もが子供の時には楽しんでいたが、大人になるとなかなか見ないチャンネルでもある。

 実は今、Eテレの番組に多数のお笑い芸人がレギュラー出演していると知れば、驚く方もおられるだろう。

 具体的に見てみよう。「ピタゴラスイッチ」(土曜・7:45)という番組をご紹介する。幼児向けの教育バラエティ番組だ。

 ちなみに監修を務めているのは、電通でCMプランナーとしてヒット作を連発、「だんご3兄弟」の作詞・プロデュースを務めたことでも知られる、佐藤雅彦・東京芸術大教授(66)だ。

 この番組に「アルゴリズムたいそう・こうしん」というコーナーがある。ロケ先でバスガイド、舞子、Jリーガー、野球選手といった面々と共に奇妙な体操を披露するのは、お笑いコンビのいつもここから[山田一成(48)、菊池秀典(44)]だ。

 黄色いサイコロのキャラクター「ぼてじん」の吹き替えを担当しているのは、フットボールアワーの岩尾望(44)。登場頻度は少ないが、相方の後藤輝基(46)も「いぬてん」の声で出演する。

豪華な顔ぶれ

「こんなことできません」というコーナーは、トリック動画の魅力を伝える。例えば「人間がポスターの中に入ったり、飛びだしたりする」といった現実には不可能な動きも、写真を1枚1枚撮りながら、コマ送り動画を作ると実現してしまう。

 実際にコマ送り動画を作るのは関根勤(67)と、タモリ(75)の元付き人としても有名な岩井ジョニ男(生年非公表)だ。

「ねんどれ」と「ナンドレ」という身体が粘土というキャラクターも登場するが、この声を担当するのはサンドウィッチマン[伊達みきお(46)、富澤たけし(46)]の2人だ。

 1本の番組でも、売れっ子のお笑い芸人が大挙して出演している。Eテレが放送する全ての番組に目を向けると、その数は更に増える。主な番組と出演者を2つの表にまとめた。ご覧いただこう。

Eテレでレギュラー出演している主なお笑い芸人【1/2】

 民放キー局がゴールデンタイムに流すバラエティ番組の出演者と、全く遜色のない顔ぶれと言えるのではないか。

 特に40代以上の、昔の「NHK教育テレビ」のキャスティングを知る方々にとっては、「時代は変わった」と感慨深いものがあるかもしれない。

大人向けの番組にも抜擢

 今なら、厚切りジェイソン(34)が子供向けの英語番組で司会を務めることに違和感はないだろう。

 何しろ英語のネイティブ・スピーカーだ。更に子供の頃から成績が優秀だったことでも知られている。彼は17歳でミシガン州立大学に飛び級入学を果たした。

 とはいえ、「NHK教育テレビ」の時代なら、たとえ英語が極めて流暢に喋れたとしても、芸人が子供向けの教育番組でMCを務めるなど考えられなかったに違いない。

Eテレでレギュラー出演している主なお笑い芸人【2/2】

 2番目の表を見ると、キャスティングは子供向けの番組ばかりではないことが分かる。大人向けの英語番組には太田光(55)が、育児情報番組には「ペンパイナッポーアッポーペン」のピコ太郎でおなじみの古坂大魔王(47)がMCを務めている。

 なぜ、こんなことが起きているのだろうか。元・上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏は1981年にテレビマンユニオンに参加、ドキュメンタリーやドラマの制作を手がけた。碓井氏に作り手の視点から、「Eテレでお笑い芸人が重宝される理由」を分析してもらった。

芸人が持つ話術の力

「昔の教育テレビが放送していた番組といえば、堅くて真面目なものしかありませんでした。大人も子供も『勉強するために視聴する』のが大前提でしたから、『番組を必要としない人は見なくていい』というチャンネルだったとも言えます」(碓井氏)

 だが、2000年代から「もっと多くの人に見てもらおう」と番組内容は維持しながら、演出やキャスティングで一般の視聴者にも“門戸”を開いていく。

「一種のリニューアルを行ったわけですが、その過程でEテレは、お笑い芸人が持つ“インターフェイスの力”に気づいたのだと思います。“interface”を直訳すると『接触面』などの日本語になりますが、ここでは番組と視聴者をつなぐ役割のことを指します」(碓井氏)

 お笑い芸人は舞台に立てば、基本的には自分の身体だけで観客と対峙し、話術で笑わせるのが仕事だ。

「歌手も俳優も自分の肉体だけで観客と対峙するのは同じですが、彼らは歌や脚本の力を借ります。芸人の武器はトーク力だけです。Eテレの制作スタッフは『あれだけの話術があるのなら、きっと難しい話題でも噛み砕いて分かりやすくしてくれる』とお笑い芸人に期待し、彼らが見事に応えてきたという歴史があるのだと思います」(碓井氏)

計算され尽くした話術

 お笑い芸人はトーク力を武器に、番組と視聴者を結ぶ“インターフェイス”として活躍しているというわけだ。

「インターフェイスには2つの意味を持たせました。1つは番組制作側が想定する視聴者ではない人たちも“つないで”、興味を持たせる力です。代表例は、子供向け番組に出ているお笑い芸人を見て、親も番組のファンになるというケースでしょう。2つ目は番組想定の視聴者を、しっかりと“つなぐ”場合です。子供たちにとっては難しい算数の番組でも、お笑い芸人が出演することで興味を持つわけです」(碓井氏)

 碓井氏が高く評価するお笑い芸人の1人が、「ドスルコスル」(木・9:45)に出演しているカンニング竹山(49)だ。

「教科で言えば『総合的な学習の時間』を想定した番組で、高齢化社会の弊害や、外国人との共生、環境破壊といった大人でも難しい社会問題を取り上げます。『カンニング竹山さんは、ワイドショーのコメンテーターも務めているから適任だ』と思う方もいるでしょう。ところが竹山さんは、大人向けの情報番組に出演している時とは話術を変え、あくまでも番組想定の視聴者である小学生に合わせて自説を語るのです。本当にお見事で、これなら小学生は『ドスルコスル』を好きになるだろうな、と思います」(碓井氏)

民放キー局も同じ

 大人向けの番組でも,お笑い芸人がキャスティングされるのは同じ理由だ。特にEテレの番組は教育を前提としているものが多く、民放キー局のようにセットに凝ったりするわけにはいかない。

 スタジオでのシンプルなトークとなれば、舞台で鍛えられているお笑い芸人が得意とするのは言うまでもない。

「実は民放キー局のバラエティ番組も、同じ道筋を辿りました。テレビの黎明期にはNHKのアナウンサーや俳優といった人々の中から、“名司会者”と呼ばれる人々が生まれました。ところが次第に番組のMCは、お笑い芸人が担当するようになります。芸人の皆さんは明るいですし、見ているだけで楽しい。加えて、絶対に『上から目線』になりません。昨今の視聴者は芸能人に親しみやすさを求めますから、お笑い芸人が適任なのです。こうしたテレビ界全体の流れが、Eテレにも及んだということなのでしょう」(碓井氏)

 Eテレの場合、語学番組を筆頭に「博学な講師が無知な視聴者に教える」という構図が避けられないものが多い。

 大学教授が出演することも珍しくなく、彼らの立ち位置が「上から目線」と視聴者に批判される潜在的なリスクは意外に高い。

お笑い芸人が“苦手”な分野

 しかしながら、講師の脇に立つお笑い芸人が1回でもボケてくれれば、リスクの軽減が期待できる。

「もちろんお笑い芸人の皆さんにとっても、Eテレの出演は大歓迎でしょう。政治の世界で言えば、“身体検査”が済んだようなものです。クリーンなイメージが付加されます。官公庁のPRといった仕事も期待できるかもしれません。実際、Eテレのキャスティングを見ると、下品な芸の方々は綺麗に排除されていることが分かります。制作陣も、その辺はしっかりと計算しているわけです」(碓井氏)

 お笑い芸人がテレビ界で圧倒的な力を発揮している理由が明らかになったわけだが、そんな彼らでもEテレが起用していないジャンルがある。

「旅するイタリア語」(火・0:00)は俳優の小関裕太(25)、「旅するスペイン語」(水・0:00)は歌手・女優・モデルなどの肩書を持つシシド・カフカ(35)、そして「旅するフランス語」(木・23:30)はバレエダンサーの柄本弾(30)、と見事なまで美男美女で固められている。

 どうやら英語のような実用性が求められず、習得が憧れの対象となるような外国語の番組に、親しみやすいお笑い芸人は必要ないようだ。

 それこそスターという天空=上からのポジションから視聴者を虜にする、俳優や歌手が適任なのだろう。【週刊新潮WEB取材班】

(デイリー新潮 2020.09.19)

 


さらに盛り上がる「半沢直樹」

2020年09月20日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

さらに盛り上がる「半沢直樹」 

巨悪との戦い、現実に重ねて

 

終盤に差し掛かって、TBS系日曜劇場「半沢直樹」(日曜午後9時)がさらに盛り上がってきた。理由はいくつかある。まず主演の堺雅人をはじめとする俳優陣の熱演。歌舞伎界からの人材投入も功を奏した。

また「チーム半沢」と呼ばれる、福澤克雄ディレクターたちの緩急自在な演出も見事だ。そしてもう一つ、「帝国航空」を巡る後半の物語が、IT企業の買収を軸とした前半以上に、現実を取り込んだ圧倒的な「攻めの展開」になっていることを挙げたい。

このドラマの中で「フラッグ・キャリアー」(国を代表する航空会社)という設定の帝国航空は、やはり「日本航空」を思わせる。10年前の倒産の際は、金融機関が総額5000億円以上の債権を放棄したはずだ。ドラマで描かれるような国土交通省やタスクフォースの動きが実際にあったかどうかはともかく、高度な「政治的案件」だったことは確かであり、視聴者の興味をかき立てるには十分だ。

そして、東京中央銀行本店の次長に復帰した半沢の前に現れたのが、政権を担う「進政党」の幹事長、箕部啓治(柄本明)である。半沢が進めようとした帝国航空の再建案を潰そうとするだけでなく、航空会社も銀行も自身の権力下に置くことを狙う人物だ。白井亜希子・国交相(江口のりこ)も東京中央銀行の紀本平八常務(段田安則)も、箕部にとっては単なる手駒にすぎない。

今週初めに菅義偉官房長官が自民党総裁に選ばれ、16日には第99代首相に就任した。一連の動きの中で、改めて注目されたのが、自民党の二階俊博幹事長の存在だ。何より菅首相の誕生自体が、その「影響力」を想像させる形となった。

菅首相は「安倍政治」の継承を宣言している。しかし「隠蔽(いんぺい)ゲーム」ともいうべき出来事が政治の中枢で多発したように、反省より先に不都合なことを隠そうとする体質は継承してほしくない。視聴者はこうした現実の政治状況を踏まえながら、ドラマが描く半沢と巨悪の戦いを楽しんでいるのだ。

フィクションとはいえ、政権党の幹事長がラスボス(ゲームなどにおける最終的な敵)に当たるキャラクターとして描かれる。しかも箕部が銀行から受けた20億円の巨額融資の実態が追及されようとしているのだ。背後には地方空港の設置や路線開設に絡む利権が見え隠れする。

正しいことを正しいと言えること、そして世の中の常識と組織の常識を一致させることを愚直に目指すのが半沢だ。前回、一旦は箕部に頭を下げざるを得なかった半沢が、ここからどう巻き返していくのか、注目だ。

(毎日新聞「週刊テレビ評」2020.09.19)