碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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相次ぐ長寿番組の終了 視聴者切り捨ての時代

2022年03月05日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

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相次ぐ長寿番組の終了 

視聴者切り捨ての時代

今年2月、立川志の輔が司会を務めてきた「ガッテン!」(NHK)が終了した。1995年に「ためしてガッテン」としてスタートして以来、四半世紀以上も続いた長寿番組だった。そして今月末、「バラエティー生活笑百科」(同)も37年の歴史に幕を閉じる。

民放でも昨年秋、46年続いた「パネルクイズ アタック25」(テレビ朝日-HTB)が終わり、「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」(同)も4月1日の放送が最後となる予定。こちらも27年にわたる名物番組だ。

もちろん、どんな番組も永遠に続くわけではない。様々(さまざま)な事情で終了が決まり、また新たな番組がその枠を埋めていくのはテレビの日常だと言える。ただ、今回の長寿番組終了ラッシュには共通の背景があるようなのだ。あえて厳しい表現をすれば、「中高齢視聴者の切り捨て」である。

まず、テレビ界全体で視聴者の減少が続いており、2019年にはテレビの広告費がインターネットに抜かれてしまったという現実がある。

しかも今年2月に広告会社の電通が発表した「2021年 日本の広告費」によれば、昨年のネット広告費は約2兆7000億円。ついにマスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の広告費総額を上回った。

危機感を強めたテレビ各局は、重視すべき視聴者を年齢で絞り込んできた。日本テレビ、TBS、フジテレビは現在、49歳までを重点的なターゲットとしている。テレビ朝日は50歳以上も重視するとしているが、全体として中高齢に冷たいのが事実だ。この層は「テレビをよく見てくれるが、商品購買力は弱い」と判断したからだろう。

商業放送である民放が、生き残りの経営戦略として視聴者を限定することは止められないのかもしれない。

しかし、公共放送であるNHKがそれに追随する必要はない。きちんと受信料を支払っている中高齢向けの番組も放送する義務がある。ましてやコロナ禍で外出の機会が減った分、テレビを楽しみに暮らしている中高齢は少なくないのだ。

最近のNHKは若い世代の視聴者を増やそうとしているのか、視聴率狙いなのか、タレントに頼ったバラエティーなど民放的な作りの番組が目立つ。画面だけを見ていると区別がつかないほどだ。

しかし、長年テレビと共に歩んできた視聴者を簡単に切り捨てるのではなく、0歳から100歳までを受け入れる多様性を大事にしてほしい。それこそ本来の「NHKらしさ」ではないだろうか。

(北海道新聞 2022.03.05)


週刊ポストで、「チューナーレステレビ」について解説

2022年03月05日 | メディアでのコメント・論評

 

 

なぜ「受信料不要テレビ」は

バカ売れするのか?

 

大手ディスカウントストアのドン・キホーテが昨年12月に発売した「ネット動画専用スマートTV」が放送業界をザワつかせている。

見た目は普通のテレビだがテレビチューナーを搭載しておらず、地上波のテレビ放送が映らない代わりにAndroid OSを搭載し、インターネット動画を視聴できる。値段は、42V型で3万2780円(税込)、24V型で2万1780円(同)と低価格だ。

さらに特筆すべきなのが、“NHKの受信料がかからない”ことである。このテレビは「放送法64条1項に規定する協会の放送を受信することのできる受信設備にあたらないため、受信契約の必要はありません」(NHK広報局)という。

このためネットでは「受信料不要テレビ」として大きな話題となった。

売れ行きは絶好調だ。開発を担当したドンキの運営会社、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスPB事業戦略本部の鷲津啓介氏が語る。

「発売前の目標台数は6000台を想定していましたが、かなり早いスピードでお客様にご購入いただき、初回生産分は完売しました。再販を求める声が多く、急遽6000台を追加で生産して、2月中旬より順次販売を再開しています」

同社の2022年2月の決算説明資料によれば、チューナーなしテレビの売り上げは1億円を超えている。購入者は20~40代の個人が中心だというが、“テレビが映らないテレビ”がなぜそこまで売れるのか。鷲津氏が語る。

「今の視聴者はリアルタイムでテレビを見る時間が少なく、代わりにYouTueやNetflixなどの動画配信サービスを視聴しています。そんななかで、スマホやパソコンの画面より大きいテレビ画面でネット動画を見たいという声があり、開発を進めました。そのニーズに応えられたことが売れ行きに繋がったと考えています」

近年、動画配信サービスは隆盛を極めている。メディア・パートナーズ・アジアが昨年10月に発表した調査結果では、アマゾンプライムビデオの国内加入者数は1460万人、Netflixは600万人に達した。

メディア文化評論家の碓井広義氏が語る。

「テレビのネット接続率は40%を超え、国内で推定3400万人のテレビがネットに繋がっています。すでに10~20代は地上波テレビではなくネット視聴がメイン。動画配信サービスに特化したテレビが爆発的に売れるのは時代の必然です」

時流に乗って、大々的に「受信料不要」を喧伝するメーカーも登場した。

家庭用電気製品メーカーのSTAYERは「4K対応 43V型チューナーレススマートテレビ」を今年5月に発売する予定だが、公式サイトでは「地上波受信料不要」との宣伝文句が掲げられた。メーカー関係者が語る。

「受信料が必要な特定の地上波や衛星放送の放送媒体を意識しているわけではありませんが、消費者のなかには受信料に負担を感じられている方もいる。商品の特長を分かりやすく提示するため『地上波受信料不要』を謳ったと聞いています」

こちらも現在、問い合わせが殺到しているという。

受信料不要テレビがにわかに注目を集めるなか、大手電機メーカーは、今のところ参入していない。その理由を嘉悦大学教授で元内閣官房参与の高橋洋一氏はこう推測する。

「チューナーなしのテレビを生産するのは技術的には容易で、ニーズもあります。しかし大手メーカーは付き合いの深いテレビ局の反発を怖れているため、ネット専用テレビの製造に消極的なのでしょう。その間隙を縫って、ドン・キホーテが話題性のある商品を仕掛けてきたわけです」

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このテレビは「放送法64条1項に規定する協会の放送を受信することのできる受信設備にあたらないため、受信契約の必要はありません」(NHK広報局)という。そんな「受信料不要テレビ」の台頭もあり、NHKも岐路に立たされている。

先手を打ったのがケーブルテレビや衛星放送だ。

J:COMはNetflixとケーブルテレビをセットにしたコースを2020年に開始。WOWOWやスカパーJSATは昨年から、衛星放送の加入契約がない視聴者にも動画配信サービスを提供し、番組をスマホやパソコンで視聴しやすくした。

一方で後れを取ったのが民放である。嘉悦大学教授で元内閣官房参与の高橋洋一氏が語る。

「世界各国のテレビ局がネット配信を進めるなか、日本の民放は消極的です。これはキー局がネット配信をすると、キー局の番組を放送する地方局のコンテンツ力が低下するからで、キー局と地方局の縦の関係がネット配信を阻んでいます。

逆に言えば、テレビ局がネット配信をしないのでNetflixなどの動画配信サービスがどんどん伸びていった。受信料不要テレビの台頭に拍車をかけたのは、民放の消極的な姿勢です」

ここにきて、民放もようやく重い腰を上げ始めている。

今年4月からは、見逃した番組をネットで見られる配信サービス「TVer」で、テレビ番組を放送と同時にインターネットでも見られる「同時配信」を、既に始めている日本テレビ以外の民放4局も開始すると発表した。

「NHKは同時配信に向けて積極的に動いていましたが、民放は民業圧迫として、ネット配信の足を引っ張ってきた。しかし、『この番組はネットでもやっています』が逆転して、『この番組はテレビでもやっています』という時代が来るのは明白です。最近になってネットに対応しないと生き残れないことを各局がようやく理解し、ネット配信にも目を向けるようになりましたが、まだまだスピード感に欠けます」(メディア文化評論家の碓井広義氏)

(週刊ポスト 2022年3月11日号)