「週刊新潮」に寄稿した書評です。
山田太一『時は立ちどまらない~東日本大震災三部作』
大和書房 2420円
東日本大震災を題材としたドラマのシナリオ集だ。古い団地から動けない老人たちと、そこへ逃げ込んできた若夫婦が徐々に距離を縮める「キルトの家」。生き残った者の罪悪感や援助する側とされる側の葛藤を描く「時は立ちどまらない」。さらに、津波で家族を失った中年男と女子中学生の交流を通じて、再生への道を探った「五年目のひとり」。いずれも本当の意味での「絆」を問いかけた問題作だ。
群ようこ『捨てたい人 捨てたくない人』
幻冬舎 1760円
捨てるか捨てないか、それが問題だ。などと迷っていられるうちはまだいい。本書は、「断捨離」の崖っぷちに追い込まれた人たちの物語だ。結婚しようとしている、本好きの女とフィギュア好きの男。だが、新居に2人の「宝物」は収まりきらない。また、妻に逃げられた息子に代わって、彼女の荷物を整理する父親。雑多な品々から、一人の女の実像が浮かび上がってくる。可笑しくて切ない全5編。
木庭 顕『ポスト戦後日本の知的状況』
講談社選書メチエ 2420円
本書のテーマは、現代の日本で「何故クリティックが定着しないのか」である。このクリティックは単なる批評ではない。物事を判断する際、前提から吟味することだ。著者は戦前から分析していくが、主軸は70年代以降だ。「戦後」に対する空疎な攻撃。クリティック解消の快感の広がり。そして実証主義的理性の存在も危機的状況にある。しかし、それでも著者が示そうとする希望とは何か?
Q.B.B(作・久住昌之、画・久住卓也)『古本屋台2』
本の雑誌社 1650円
白波お湯割りを一杯百円で飲めるが、飲み屋ではない。夜更けに出没する屋台の古本屋だ。水木しげる『トぺトロとの50年』、金子光晴『下駄ばき対談』などはもちろん、店主の頑固おやじが「鴨の長さん、名調子だ」とホメる『方丈記』も手に取りたくなる。重松清は時々来るらしいし、萩原魚雷、岡崎武志、ロバート・キャンベルも作中に登場する。こんな屋台があったら毎晩でも寄りたいものだ。
(週刊新潮 2024.04.18号)