碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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最終回が迫る『ホットスポット』は、 なぜクセになるのか?

2025年03月10日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

最終回が迫る『ホットスポット』は、

なぜクセになるのか?

 

毎週、見終わった瞬間、すぐにも次回が見たくなる。連続ドラマの理想ですが、市川実日子主演『ホットスポット』(日本テレビ系)は、まさにそんな1本です。

ホテルで働く清美(市川)は、同僚の高橋(角田晃広)が「宇宙人」であることを知ってしまいました。

今や高橋は、清美や親友たち(平岩紙、鈴木杏)の「小さな困り事」を解決してくれる、貴重かつ便利な存在となっています。

普通の日本人の姿かたちをした、宇宙人の出現。しかも、ちょっとヘンで、いい人(笑)。

いや、宇宙人どころか、このドラマには未来人(小日向文世)や超能力者(志田未来)まで出てくる始末です。

ドラマとしては奇想天外な設定ですが、つい「もしも、こんなことがあったら、面白いだろうなあ」と思ってしまう。それが、バカリズムによるオリジナル脚本の力でしょう。

バカリズム脚本の引力と進化

バカリズムが、初めて脚本を手掛けた連ドラは2014年の『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)でした。タイトルの「選TAXI」は、「せんたくし(選択肢)」を意味します。

トラブルを抱える人物が偶然乗ったタクシー。それは過去に戻れるタイムマシンであり、運転手を演じていたのは竹野内豊でした。

乗客は、恋人へのプロポーズに失敗した売れない役者(安田顕)、駆け落ち出来なかった過去を悔いる民宿の主人(仲村トオル)などです。

彼らは問題の分岐点まで戻って新たな「選択」をしますが、それで全てがうまく運ぶわけではありません。

物語はひねりが利いており、見る側の予測を気持ちよく裏切っていく。その姿勢は最新作『ホットスポット』でも貫かれています。

2本目の連ドラが、17年の『架空OL日記』(日本テレビ系)です。

升野(バカリズム自身が演じています)は24歳の銀行員。日常ではスカートをはいていますが、女言葉を使ったり、化粧をしたりはしません。

見た目はまんま男性ですが、誰もが女性として接していました。

今回の『ホットスポット』でも、清美たちは宇宙人である高橋を普通に受け入れています。

多様性うんぬんの問題ではなく、その人の個性として理屈抜きで認めるところがバカリズム流です。

そして、23年の『ブラッシュアップライフ』(同)はタイムリープのドラマでした。

自分の意図に合わせて時間を操ることは脚本家の特権の一つです。しかし、SF的世界観にリアリティーを与えるのは容易なことではありません。

麻美(安藤サクラ)のタイムリープは近い過去へのものです。1990年代から現在までの事象とエピソードの絶妙な交錯が、多くの視聴者を引きつけていきました。

クセになるドラマ

「奇抜な設定」と「日常性」の融合。もしくは、日常の「リアリズム」に支えられた「非日常性」。

次に、ガールズトークや独り言を活用した「あるある感」。加えて、じわりと笑わせる独特の「ユーモア」も忘れません。

こうした特質がさらにブラッシュアップされた感のある『ホットスポット』は、バカリズム脚本の正常進化形と言えるでしょう。

市川さんをはじめとする俳優陣の大健闘もあり、最後まで見ないではいられない、クセになる連続ドラマとなっているのです。