碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

NEWSポストセブンで、「ヒロミ」さんについて解説

2016年11月22日 | メディアでのコメント・論評


NEWSポストセブンで、タレントのヒロミさんについて解説しました。


ヒロミの勢い衰えず
松本人志、坂上忍いじりでらしさ発揮

再ブレイクからおよそ2年。気づけばレギュラー、準レギュラー番組をいくつも抱える売れっ子に返り咲いているタレントのヒロミ(51)。自身がMCを務めた『美女たちの日曜日』(テレビ朝日系、2015年4月~6月)は、視聴率低迷のためわずか3か月で終了してしまったが、それでも勢いは衰えていない。テレビに求められ続けているのはなぜか。

元テレビプロデューサーで上智大学教授(メディア論)の碓井広義さんは、その理由をこう語る。

「2年ほど前にヒロミさんと同じ番組に出たことがありますが、彼には他のタレントにはない不思議な余裕がありました。実業家としての経験がベースにあるからでしょうか、『俺は別にテレビに出なくても困らないけど頼まれたから出ている』くらいに見えました。

ヒロミさんはファンが付いているわけでもないし、視聴者から求められているわけでもない。それでも重宝されているのは、番組構成上、ヒロミさんのような毒のある人が必要な場面があるからです。そういう人はたくさんは必要ないけれど、番組が予定調和にならないように何人かは欲しいのです」(碓井さん、以下「」内同)


『ワイドナショー』や『バイキング』(ともにフジテレビ系)などで時事ネタにも鋭く切り込んでいるが、ヒロミの大きな武器といえばやはり「大物いじり」だ。『ワイドナショー』では、松本人志に突っ込みを入れ、『バイキング』では暴走する坂上忍をいじりながらもブレーキをかける役回りを演じている。

「復帰してからも大物や人気者の間にうまく入っていると思います。ヒロミさんは昔から、大物芸能人に甘えながらからかうのが上手で、それが実績にもなっています。馴れ馴れしく近づいて揺さぶることは、昨日今日出てきた人にはできません。そこは30年のキャリアがモノを言っているのだと思います。

大物タレントと一般タレントのパイプ役であり、上下を結ぶ中で笑いを取る芸風。各大物タレントには子分のようなタレントがいますが、ヒロミさんのように複数の大物の子分役ができる人はいません」


かつて天狗になりレギュラーがゼロになったヒロミだが、復帰後は長所を活かしながらうまく立ち回っている。しかし、『美女たちの日曜日』が視聴率不振で打ち切りになるように、やはりヒロミは、隣に大物がいてこそ輝くタレントなのだろうか。

「子分役として優秀ということは、裏を返せば座長の器ではないということ。太陽と月のような違いがあって、大物の威光があるから自分も光って見せることができている。昔は自分のポジションが分かっていなかったと思いますが、今はそれが分かっているように見えます。それを忘れたら、またテレビの仕事を失うでしょうね」

自分の立場をわきまえていれば、テレビにも居場所はある。ヒロミのタレント人生はまだまだ続くのだろうか?

「タモリさん、たけしさん、さんまさんの『お笑いビッグスリー』に加えて、所ジョージさんなど、テレビの世界は30年間ずっとトップの人たちが変わりませんでした。そういう人たちがまだテレビに出ているから、ヒロミさんもすぐに復帰することができた。逆に言えば、彼らが引退していなくなった時が、ヒロミさんもテレビから消える時かもしれません」

(NEWSポストセブン 2016.11.19)



【気まぐれ写真館】 くもり空の京都 2016.11.21

2016年11月22日 | 気まぐれ写真館

マツダ社長もビックリ!? デミオが語り手のクルマ小説

2016年11月21日 | 本・新聞・雑誌・活字



マツダが、電動格納式ルーフを採用した、リトラクタブルハードトップモデル「マツダ ロードスター RF」を、12月に発売すると発表した。

電動ハードトップのロードスターだ。いいですねえ。

それを伝える新聞記事には、マツダの小飼雅道社長の写真も掲載されていた。

小飼社長、実は松本深志高校時代の同期生(クラスは隣り)で、普段は「小飼君」と呼んでいます。

オープンカーの運転席で嬉しそうな顔をしている小飼君の写真を見て、「そういえば、マツダ車を“主人公”にした小説があったなあ」と思い出した。

伊坂幸太郎『ガソリン生活』(朝日新聞出版)である。

この小説はミステリーの佳作であり、クルマ小説の超異色作だ。何しろ、クルマ自身が語り手なのだから。

主人公はマツダのデミオ。色は鮮やかな緑だ。

仙台に暮らす大学生・望月良夫と、“灰色の脳細胞”を持つ小学生の弟・享が乗ったデミオに、有名女優の翠が勝手に乗り込んできたことから事件は始まる。

翠は不倫疑惑でマスコミに追われていたのだ。しかも良夫たちと別れてから数時間後、彼女は不倫相手と共に事故死してしまう。やがて兄弟の前に、この事故を目撃したという芸能記者が現れて・・。

クルマ同士が、「人間には聞こえない言葉で話をしている」という設定が秀逸だ。

さらに言語体系が違うのか、ハイブリッドのプリウスも電気自動車のリーフも登場しない。愛すべきアナログであるガソリン車たちのウイットに富んだ会話と、意外な物語展開が楽しめる。

ちなみに我が家のクルマ(マツダじゃないけど)もまた、ハイブリッドでも電気自動車でもない。走行距離が11万キロになる、バリバリのガソリン車だ。今日も快調に走っています。

慶應義塾大学SFC「オープンリサーチフォーラム」の見学

2016年11月20日 | 大学


六本木の東京ミッドタウンへ。

恒例の慶應義塾大学SFC「Open Research Forum(ORF)2016」の見学です。

1994年から8年間、教員としてSFCの教壇に立っていました。また、この10年間は、在学生の保護者としてSFCと関わってきました。

かつては藤沢キャンパスで開催していたORFも、すでに東京ミッドタウンの名物となっています。

今年も、同じキャンパスにある2つの学部の発表とは思えないほど、実に多彩な研究活動報告が行われていました。

また、顔なじみの先生方や、かつて授業で切磋琢磨し、現在はSFCの教員になっている面々にも会えました。

特に、“元学生”たちの活躍は嬉しいです。

ORFが終わると、秋深しの感が強まります。







井庭崇准教授(SFC OB)、小川克彦教授と




長谷部葉子准教授(SFC OG)






気がつけば、「流行語大賞」の季節!?

2016年11月19日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



「もう、そんな季節かあ」ということで、17日に、今年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」(『現代用語の基礎知識』選)の候補、30語が発表されました。果たして、2016年はいかに“総括”されているのか?

・アスリートファースト
・新しい判断
・歩きスマホ
・EU離脱
・AI
・おそ松さん
・神ってる
・君の名は。
・くまモン頑張れ絵
・ゲス不倫
・斎藤さんだぞ
・ジカ熱
・シン・ゴジラ
・SMAP解散
・聖地巡礼
・センテンススプリング
・タカマツペア
・都民ファースト
・トランプ現象
・パナマ文書
・びっくりぽん
・文春砲
・PPAP
・保育園落ちた日本死ね
・(僕の)アモーレ
・ポケモンGO
・マイナス金利
・民泊
・盛り土
・レガシー


いろんな意味で面白いですね。そして、いくつかの「くくり」が出来そうです。


●人物・発言系

一番多いのは、勝手なネーミングをすれば、「人物・発言系」でした。

安倍晋三首相「新しい判断」、小池百合子都知事「都民ファースト」、トレンディエンジェル・斎藤司「斎藤さんだぞ」、サッカー日本代表・長友佑都「(僕の)アモーレ」、ベッキー「センテンススプリング」、広島カープ・鈴木誠也選手「神ってる」。

さらにNHK朝ドラ「あさが来た」のヒロイン・今井あさ(波瑠)「びっくりぽん」、匿名のお母さん(?)「保育園落ちた日本死ね」、川淵三郎・日本トップリーグ連携機構会長「レガシー(遺産)」、橋本聖子・リオ五輪団長「アスリートファースト」など。

言葉自体と、その発言をした人物の両方を、セットで眺めると興味深い。そして、こう並べてみると、「センテンススプリング」は結構インパクトありますね(笑)。

でも、それ以上に強烈だったのが、「保育園落ちた日本死ね」でした。もしも、これが大賞になったら、授賞式に誰を招くのか、気になります。


●コンテンツ系

次に、「おそ松さん」、「君の名は。」、「シン・ゴジラ」、「PPAP」、「ポケモンGO」などは、ヒット作、もしくは話題作という、いわば「コンテンツ系」です。

候補の30語に、ドラマやバラエティなどのテレビ番組関連は、朝ドラ「あさが来た」の「びっくりぽん」以外、入っていません。今年のテレビ界を象徴しているかもしれないのですが、ちょっと寂しい。締切りの時期もあるのでしょう。本当は、「逃げ恥」とかがあってもよかったと思います。


●出来事系

3番目は、「EU離脱」、「ジカ熱」、「パナマ文書」、「マイナス金利」、「盛り土」、「くまモン頑張れ絵」、「タカマツペア」、そして「SMAP解散」などで、これらは「出来事系」と呼べそうです。

後年、「ああ、そういうこと、あったよなあ」と思わせるものになるはずですが、熊本の地震などは、“振り返り”の対象ではなく、“現在進行形”であることを忘れてはいけません。


●現象系

そして4番目の「AI」、「歩きスマホ」、「聖地巡礼」、「民泊」、「トランプ現象」などは、まさに「現象系」でしょうか。


●造語系

5番目のくくりとして、上記の「歩きスマホ」もそうですが、「ゲス不倫」や「文春砲」といった、一種の「造語系」があります。このジャンルが刺激的で面白い。現象、出来事、人物などをズバリと一語で言い切る、”言いえて妙”な造語がもっとあると楽しかったな、というのが感想です。

最後に、「年間大賞語」の“個人的予測”ですが、「歩きスマホ」、「ゲス不倫」の2つを連勝複式で(笑)、挙げておきます。発表は、12月1日(木)午後5時だそうです。

【気まぐれ写真館】 2016年の紅葉

2016年11月18日 | 気まぐれ写真館




阿部寛主演「スニッファー」は異色のサスペンス

2016年11月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、NHK土曜ドラマ「スニッファー 嗅覚捜査官」について書きました。


NHK土曜ドラマ「スニッファー 嗅覚捜査官」
キメ台詞は「俺の鼻は間違えない」

過去、“灰色の脳細胞”から“富豪”まで、異能の探偵や刑事が登場した。しかし、“匂い”で捜査するというのは珍しい。土曜ドラマ「スニッファー 嗅覚捜査官」である。

主人公の華岡(阿部寛)は、800以上もの匂いを嗅ぎ分けることが可能だ。その能力を生かし、コンサルタントとして犯罪捜査に協力している。相棒は特別捜査支援室の小向刑事(香川照之)。これまで元自衛官による狙撃事件、新興宗教幹部を狙った連続殺人などを解決してきた。

まずは、華岡の嗅覚がすごい。何のデータもない相手でも、発する匂いで人物像のプロファイリングができる。

また犯罪現場に立ち、鼻から空気を吸い込めば、どんな人物が何をしたのか、的確に言い当ててしまう。「私、失敗しないので」はドクターXこと大門未知子のキメ台詞だが、華岡のそれは「俺の鼻は間違えない」である。

原作はウクライナで制作されたドラマ(これも面白い)だ。林宏司の脚本は、オリジナル要素を加えながら舞台を日本に移し替えている。嗅覚を保護するために華岡が装着している、印象的な「鼻栓」も日本版の新たなアイデアの一つだ。

テレビで“匂い”を伝えることは難しい。だが、このドラマではそのビジュアル化に挑戦し、成功している。阿部と香川のぜいたくな顔合わせもうれしい、異色のサスペンスだ。

(日刊ゲンダイ 2016.11.16)

書評した本: 大森 望 『現代SF観光局』ほか

2016年11月16日 | 書評した本たち



「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

大森 望 『現代SF観光局』
河出書房新社 2052円

「SFマガジン」の名物エッセイ10年分である。伊藤計劃「虐殺器官」などの確かな作品評価はもちろん、架空とはいえ「新・世界SF全集」のラインナップも見事だ。また、「10年代日本SFの勢力図」を堂々と語れる人物など他にいない。怒涛のSFツアーに出発だ。


金平茂紀 『抗うニュースキャスター
~TV報道現場からの思考』

かもがわ出版 1944円

著者はTBS「報道特集」のキャスターを務めながら、一人のジャーナリストとして果敢に発言を続けている。本書では政権によるメディアコントロールの実態を明らかにすると同時に、メディア側の無責任ぶりを「自己隷従」として痛烈に批判。その官尊民卑意識を撃つ。


角川春樹、清水 節 
『いつかギラギラする日~角川春樹の映画革命』

角川春樹事務所 1620円

映画『犬神家の一族』の公開から40年。製作者・角川春樹も74歳となった。本書は70本にもおよぶ「角川映画」の軌跡をたどり、その意味を探るノンフィクションだ。書籍の販売戦略だった映画製作が、やがて目的を超えた文化運動と化して時代を動かしていく。


菅付雅信 『写真の新しい自由』
玄光社 2160円

専門誌『コマーシャル・フォト』の人気連載「流行写真通信」5年分だ。スマートフォンが高性能カメラ化し、“一億総写真家時代”となった今、写真とは一体何なのか。プロであることは何を意味するのか。「写真についてのジャーナル」として書かれた写真論集。

(週刊新潮 2016年11月17日号)

NHK朝ドラ「主題歌」について、NEWSポストセブンで・・・

2016年11月15日 | メディアでのコメント・論評


NEWSポストセブンで、NHK朝ドラの主題歌について、解説しました。


ミスチル、宇多田ら 
大物歌手が朝ドラ主題歌を受ける理由

『べっぴんさん』のMr.Children、『とと姉ちゃん』の宇多田ヒカル、『マッサン』の中島みゆき、古くは井上陽水や松任谷由実など、NHKの朝ドラ主題歌には大物アーティストがよく起用されている。

彼らのような大物になるとオファーを受けるか受けないかは、レコード会社の意向よりも、本人の意思が尊重されるといわれる。今さら売り出したいわけでもない、富も名声も手にした彼らが朝ドラ主題歌のオファーを受けるのはなぜか?

元テレビプロデューサーで上智大学教授(メディア論)の碓井広義さんは、アーティストの情熱や好奇心が根底にあると語る。

「すでに売れてしまったアーティストでも、『たくさんの人に自分の音楽を届けたい、聴いてもらいたい』という情熱は間違いなく持っているはずです。半年にわたって自分の曲が毎朝テレビで流れるという機会は、彼らにとっても経験のないことです。その中で自分の音楽がファンだけでなくファン以外の人たち、子供からお年寄りまで広い世代にどう広がっていくのかを見てみたいという、ある種の実験のような感覚もあるのかもしれません。

物語に合わせて曲を作るという“縛り”があることも、アーティストとしての創作意欲をかきたてられる一要素だと考えられます。決まった条件がある中で自分の世界観も見せる。アーティストとしては腕の見せ所でしょう」(碓井さん、以下「」内同


そこにはCDが売れるかどうかを超えた魅力があるといえそうだが、ビジネス面でもしっかり成功している。『とと姉ちゃん』の主題歌『花束を君に』も収録されている宇多田ヒカルの最新アルバム『Fantôme』(9月28日発売)は、オリコンCD アルバムランキングで4週連続1位を獲得。宇多田本人が出たいかどうかはさておき、初の『紅白歌合戦』出場への期待も高まっている。Mr.Childrenの『ヒカリノアトリエ』も、リリースされれば音楽シーンを賑わせてくれそうだ。

また碓井さんは、“オファー形式”だからこそ受ける刺激もあるのではないかという。

「番組プロデューサーには、自分がやるときは敬愛するアーティストを選びたいという気持ちがあります。民放ドラマの場合は、アーティストがすでに作っていた曲を局が『借りる』パターンも多いのですが、朝ドラの場合はその都度アーティスト側にオファーをかけるのが通例。『あなたに作ってほしい』とオファーされて作る機会は大物といえどそんなにあるものではないので、いつもと違った新鮮さはあると思います」


現在放送中の『べっぴんさん』プロデューサーの堀之内礼二郎氏は、主題歌の発表時に「もし彼らに『べっぴんさん』の主題歌を作ってもらえたら(中略)考えただけでワクワクが止まりませんでした」とコメントを出していた。“ミスチル”桜井和寿も、「『べっぴんさん』との出会いが、僕らにまっすぐな希望の歌を与えてくれました」とコメント。まさに相思相愛の関係だ。朝ドラのブランドがあるから成立しているともいえるが、このような大物起用は今後も続くのだろうか?

「ヒロインも最近は高畑充希さんや有村架純さん(来年4月から放送の『ひよっこ』ヒロイン)など、すでに実績のある女優さんが選ばれる傾向がありますが、かつてはオーディションで無名女優を抜擢することが多かった。主題歌についても、『オーディションをやって彗星のごとく新人アーティストをデビューさせたい』という気鋭のつくり手が現れれば、別の流れが生まれる可能性はあるでしょうね。ただ、今は成功パターンが出来上がっているので、しばらくはビッグネームの起用が続くと思います」

無名であれ大物であれ、アーティストからいい音楽が届けられることを期待したい。

(NEWSポストセブン 2016年11月14日)


「ドクターX~外科医・大門未知子~」と「逃げるは恥だが役つ」について、週刊朝日で・・・

2016年11月14日 | メディアでのコメント・論評



週刊朝日で、ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」と、「逃げるは恥だが役つ」について解説しました。


秋のドラマ 実況中継(2)

女王の栄冠は米倉涼子の頭上に輝くのか──。秋のテレビドラマ視聴率争いでトップを独走中なのが、第4シリーズを迎えた米倉涼子主演の「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)だ。

「シリーズを重ねながら質を落とさないための、作り手の努力が伝わります」

と、この結果にうなずくのは上智大学文学部の碓井広義教授(メディア論)だ。例えば、キャスティング。今シリーズから、“渡鬼”の泉ピン子が、中華料理店の白衣から病院の白衣に着替えて参戦した。

「アンチも多いピン子さんを引っ張ってきたのは、中途半端に若い視聴者を増やすのではなく、大人を狙った証拠です」(碓井教授)

狙いはぴたり。安定した“米倉座長”のもと、泉ピン子や西田敏行のようなアクの強い役柄が生き、中高年層を楽しませている。

だが、ここにきて「ドクターX」を猛追するのが、TBS系“逃げ恥”こと「逃げるは恥だが役に立つ」だ。星野源と新垣結衣が“雇い主と従業員”という形で契約結婚。2人ともちょっと変わったインテリだが、その設定が魅力だという。

「新垣さんと星野さんが真面目にやればやるほどにおかしい。ベースはマイルドなコメディーだが“新商品”的ドラマです」(同)


テレビウォッチャーの吉田潮さんも、同様に新鮮味を感じている。

「男女2人の思考回路が丁寧に表現され、合理性を求める2人の性格に説得力があります。ガッキーの小ざかしい役もさることながら星野の童貞役がいい。ジャニーズの誰かがやったらふざけんなってなるけど」

吉田さんは、共演の石田ゆり子にも注目する。

「今まではしっとり色っぽい役が多かったけど、年齢的にもつらくなってきた。そんななかで“天然ボケのまま五十路を迎えたキャラ”がハマりましたね」

さて、今秋ドラマで、異彩を放つのが、TBS日曜劇場「IQ246~華麗なる事件簿~」だ。主演は久しぶりの連ドラの織田裕二。1話完結の推理もので、貴族の末裔にしてIQ246という異能の探偵役の織田が事件を解決する。ただ、織田の話し方がヘンなのだ。「古畑任三郎ソックリ」「刑事コロンボのまねだ」「相棒?」など、視聴者がザワついている。

制作側の意図を、番組プロデューサーの植田博樹さんに聞いてみた。すると意外な事実が明らかに。

「このキャラは、基本的には織田さんが考えたもの」

織田といえば役作りに徹底的にこだわることで有名だ。植田さんによると、ポスター撮りの段階で“格好いい”か“斜に構える”か、とさんざん悩んだ末に、本読みのときに現在のキャラが生まれたという。

「織田さんの演技がネットで突っ込まれていますが、図らずもドラマの形式が影響したかもしれません。ミステリーの倒叙法(最初に犯人が明かされて物語が展開)のため、IQ246と古畑任三郎と刑事コロンボには共通点があるので」

決して「パロディーではない」と植田さんは強調したものの、織田自身がこう漏らしたそうだ。

「どれにも似せないようにしようとしたら、結局全部似ちゃった……」

今後、倒叙法ではない回もあるようなので、さらなる織田のキャラ進化もありえるかも。

(週刊朝日 2016年11月18日号)


書評した本: 木村草太 『憲法という希望』ほか

2016年11月13日 | 書評した本たち



「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

木村草太 『憲法という希望』
講談社新書 821円

11月3日は文化の日だ。曖昧なネーミングだが、本来は昭和21年に「日本国憲法が公布された日」である。憲法は半年後の22年5月3日に施行されて、それが憲法記念日になった。ならば今年の“公布記念日”に、憲法について考えてみるのも悪くないのではないか。

テキストには、法学者・木村草太の『憲法という希望』が最適だ。本質的なことを平易に語って飽きさせない。憲法を「過去に国家がしでかしてきた失敗のリスト」だと言い、無謀な戦争・人権侵害・権力の独裁を三大失敗として挙げる。これらに対応するのが、軍事統制・人権保障・権力分立という憲法の三本柱だ。

本書ではケーススタディとして夫婦別姓問題と米軍基地問題が論じられているが、特に後者が刺激的だ。辺野古移設のように新たな基地を造ることは、地方自治体の自治権を制限することになる。ならば、憲法92条「地方自治の本旨」に沿って、法律で定めなくてはならない。しかし、特定の地方自治体だけに適用される法律は、住民の合意なしに制定できない。憲法95条による「住民投票」が必要になってくるのだ。さあ、どうする? 安倍政権。

さらに本書のお薦めポイントがある。NHK『クローズアップ現代』元キャスター、国谷裕子氏との対談だ。インタビューの達人が著者に話を聞くことで、憲法をめぐる正確な事実関係、現在の課題の核心、問題解決に必要な要素、そして今後の進むべき方向性までが明らかになっていく。


斎藤文彦 『昭和プロレス正史 上巻』
イースト・プレス 2,592円

昭和のプロレスを語る際に外せないのが、力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木という3人のスーパースターである。彼らがいかにして登場し、どのように闘ってきたのか。活字で記録された、怒涛の歴史がここにある。上巻である本書の主人公は力道山だ。


笑点、ぴあ:編 『笑点五〇年史 1966-2016』
ぴあ 2,000円

昭和41年に始まった、日本テレビの看板番組にして長寿番組『笑点』。今年、6代目司会者に春風亭昇太が起用されて話題となったが、初代はあの立川談志だ。本書では伝説の放送回を再現するなど半世紀の歴史を振り返ると共に、現在の番組作りの裏側も楽しめる。


山平重樹 『激しき雪 最後の国士・野村秋介』
幻冬舎 1,944円

野村秋介が、朝日新聞役員応接室で自らの胸を拳銃で撃ち抜き、自決したのは23年前。「身捨つるほどの祖国はありや」と歌った寺山修司に対し、「ある!」と答えた野村が、なぜ10月20日を自身の命日としたのか。その心情に迫る、思慕と追憶のノンフィクションだ。

(週刊新潮 2016年11月3日号)


ドラマ「砂の塔」と「黒い十人の女」について、週刊朝日で・・・

2016年11月12日 | メディアでのコメント・論評



週刊朝日で、ドラマ「砂の塔~知りすぎた隣人」(TBS系)、そして「黒い十人の女」(日本テレビ系)について解説しました。

盛り上がって後半戦へ 見どころ満載
秋のドラマ実況中継

この秋のドラマは実は豊作ぞろい。視聴率争いでトップを独走中なのは、第4シリーズを迎えた米倉涼子主演の「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)だが、数字には表れない見どころや制作側の秘話を知れば、もっと楽しめるはず。後半戦に向け、チェックすべきポイントをお伝えする。

石原さとみ主演の「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系)は、出版社の校閲室という舞台設定が新しい。

「小説の映像化でデフォルメは仕方ないが、校閲なめるな」といった厳しい意見があったようなので、弊社の出版校閲部の藤井広基部長に聞いてみた。アンチな意見どころか「うちの校閲ガールたちにも大ウケ」と評判は上々。さらに続ける。

「ドラマで石原さとみがしていたように、原稿の事実確認のために(休日に)出かける校閲者も実際にいたし、社交的な人が校閲力を存分に発揮できるというのは、ある意味、正しい」

菅野美穂の産後本格復帰作なのにジリ貧なのが「砂の塔~知りすぎた隣人」(TBS系)。共演の松嶋菜々子は最近は視聴率が取れないと言われる始末。

「松嶋さんを戦犯扱いするのはお門違い。松嶋さんは女優としてすごく上手なわけではなく、それを逆手にとったのが、言葉少なで、表情がないミステリアスな『家政婦のミタ』の役で、制作側の勝利だった。そういう意味では今回も役柄としては合っています」(上智大学文学部の碓井広義教授[メディア論])

菅野に関しても、テレビウォッチャーの吉田潮さんはこんな評価だ。

「復帰後すぐは不健康な役が多かったが、今回は久々に元気な菅野ちゃん。へんな正義感を振りかざすよりもいじめられる役がやっぱり合っていると再確認した」

では敗因はどこに?

「タワーマンションの階層格差と幼児失踪というネタのマッチングが悪い。サスペンスを見たい人にもドロドロを見たい人にも中途半端」(碓井教授)

吉田さんも設定そのものの難しさを指摘する。

「タワマンカーストは5年前にフジが『名前をなくした女神』でセンセーショナルに描いて以来、手垢がついている。新しさを生むのに苦労しています」

吉田さんのイチ押しは、NHK土曜ドラマ「スニッファー嗅覚捜査官」だ。

「化学物質の臭いまで嗅ぎ分けるコンサル役・阿部寛と母と2人暮らしの刑事役・香川照之。最初は豪華すぎると思ったが、画面も設定も計算されて非常に見やすいし、2人とも問題を抱えていて人間くさい。格好よくないのが魅力です」

深夜枠で話題を集めるのが「黒い十人の女」(日本テレビ系)。55年前の同名の映画(市川崑監督)をバカリズム脚本でリメイクした。船越英一郎扮するテレビ局のプロデューサーが9人の女と不倫。女同士のバトルが半端ないのだ。

「日本ではブラックコメディーは難しいが、バカリズムの脚本がうまく、見た人は得をするめっけもんのドラマ。トリンドル玲奈が『ババア』を連呼し、水野美紀が針の振り切れた大仰な演技をし、成海璃子が佐野ひなこをぶっとばす。女って怖いと思ってもよし、船越やるなと思ってもよし、チャチャを入れながら笑って見ればいい」(碓井教授)

船越の実際の妻(松居一代)を思い浮かべれば震え上がるかも? 秋の夜長はぜひあったかくして、ドラマを堪能してほしい。

(週刊朝日 2016年11月18日号)


フジテレビ「フルタチさん」に“肩透かし”

2016年11月11日 | メディアでのコメント・論評





日刊ゲンダイで、フジテレビの新番組「フルタチさん」について解説しました。

新番組「フルタチさん」で露呈
古舘伊知郎の“限界”

「報道ステーション」降板後、古舘伊知郎(61)にとって初のレギュラー番組「フルタチさん」(フジテレビ系、日曜19時)が6日にスタートした。

注目を集めた初陣の視聴率は8.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区=以下同)。横並びで民放2位だなんてヨイショする記事もあったが、王者・日本テレビ系の「ザ!鉄腕!DASH!!」(19.4%)と「世界の果てまでイッテQ!」(22.0%)を見れば、比べるのも無残な結果である。そして数字以上に内容もひどかった。

古舘は、「ストレートに(すごい映像を)見たい人は日テレ見りゃいい」と自虐的に言い放っていたが、いやはや。

上智大教授の碓井広義氏(メディア論)は「期待して見たのに肩透かしを食わされた」と、こう続ける。

「冒頭数十分間を過ぎても肝心の番組趣旨がいまいち伝わらず、徐々にどうやら身近な疑問を検証VTRを交えて、トークする番組らしいことが分かってきた。ありきたりな話題でも古舘さんがしゃべれば、新たな面白さが生まれると思ったのかもしれませんが、日曜夜にテレビらしいライブ感の乏しい、暇ネタの羅列に2時間も付き合わされるのはつらい。次回以降の継続視聴は断念するかもしれません。企画会議から携わっていたであろう古舘さんのやりたかった番組がこの程度なのかと思うと残念です」


フジは6時間前の日曜13時台に「さまぁ~ずの神ギ問」という世の中の疑問を検証していくトーク番組を放送している。「フルタチさん」との大きな違いはキャスティングぐらい。両番組とも同一人物がチーフプロデューサーとなれば、同じ味付けでも仕方ないだろうと開き直られたらそれまでだが、底の浅さと手抜き感は否めない。

初回の目玉企画は、古舘自ら足を運んだヤフー本社訪問だろうが、「6年前に『ヤフー・トピックスの作り方』(光文社新書)が出版された際、おおかたの舞台裏が解説され、その後もテレビカメラが何度か入り、取材してきたネタ。目新しさや驚きはほぼなく、2回目の肩透かしを食わされた気分になりました」(前出の碓井氏)。

久米宏(72)は「ニュースステーション」後、一発目のレギュラー番組「A」(日テレ系)が3カ月で打ち切りに。このままでは、先人が歩んだ道をトレースしそうな気がしてならない。

(日刊ゲンダイ 2016.11.09)

テレ東「勇者ヨシヒコ」他局ネタ満載の“神回”

2016年11月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、テレビ東京「勇者ヨシヒコと導かれし七人」を取り上げました。


移転祝いは永久保存版の“神回”

本社移転で大いに意気上がるテレビ東京。先週の「勇者ヨシヒコと導かれし七人」も思いっきりハネた放送をしていた。ヨシヒコ(山田孝之)一行が立ち寄ったのは「ダシュウ村」。5人の若者が、ツナギに長靴という姿で農作業をしている。

聞けば、本当はバンド活動をしたいのだが、「ニッテレン」という名の神がそれを許さないという。もう、おかしい。ニッテレンを倒す手助けをしてくれる神を探し回るヨシヒコたち。最初が「シエクスン」だが、肩に赤いセーターをかけたまま息絶えていた。「かつては最強だったが」というせりふに苦笑いだ。

次は「テレアーサ」で、こちらはまんま「相棒」の右京(演者はマギー)。共闘を誓うが、事件発生のため不参加となった。

唯一、折れ曲がったバナナの格好をした神「テレート」(柄本時生)が助っ人を引き受けるが、ニッテレンに一発で粉砕されてしまう。結局、ニッテレンの正体はジャイアンツのユニホームを着た徳光和夫だったというすてきなオチで終了だ。

一連の“対決”の間、メレブ(ムロツヨシ)はずっと「やり過ぎだよお」と言い続け、仏(佐藤二朗)も「深くかかわりたくない」と逃げ続けて笑わせる。

いや、確かにここまで他局をネタにするのは前代未聞。脚本・監督の福田雄一による過激な移転祝いは永久保存版、いや神回となった。

(日刊ゲンダイ 2016.11.09)



【気まぐれ写真館】 気づけば、立冬 

2016年11月10日 | 気まぐれ写真館