碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

『中学聖日記』が描く、「不自然死」ならぬ「不自然恋愛」!?

2018年10月23日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


ドラマ『中学聖日記』が描く、
「不自然死」ならぬ「不自然恋愛」!?

先週から始まった火曜ドラマ『中学聖日記』(TBS系)について、週刊誌から取材を受けました。

思うところをお話しさせていただきましたが、例によって限られた誌面でもあり、その全体が掲載されるはずもありません。忘れないうちに話した概要を記しておこうと思います。

このドラマ、ひとことで言えば、「中学校の女性教師と男子中学生の恋愛物語」ってことになりますね。

番組サイトの「はじめに」にも、こう書かれています。

「婚約者がいながらも

 10歳年下の中学生の教え子に

 惹かれていく女教師

 胸のヒリヒリが止まらない・・・

 禁断×純愛ヒューマンラブストーリー」

禁断とは、「絶対やってはいけない」と、かたく禁じることです。一方、純愛はいろんな意味を持っています。何ら見返り(代償)を求めない愛だったり、肉体関係のない愛(いわゆるプラトニック・ラブ)だったり、相手のためなら命も捨てる覚悟の愛だったり。

つまり、「中学教師と中学生の恋愛」は絶対やってはいけないものだけど、それを「純愛」として描こうじゃないの、というドラマなんですね。

これって、かなり難しいテーマです。なにしろ一方が「中学生」ですから。

「不自然」な設定とキャスト

「高校生」は本人が自らの意思でなるものです。なぜなら義務教育ではないし、中学を卒業して「社会人」になることも可能な立場です。しかし「中学生」は、親と国の保護を受けている状態にあり、社会的にはまだ広い意味での「子ども」の領域に属するわけです。

有村架純さん演じる中学教師・末永聖が、そんな「子ども」を相手に、「禁断」の恋愛をして、これをドラマ上では、なんとか「純愛」だと言い張ろうとしている。やはり至難の業でしょう。

そのために、どこからどう見ても中学生には見えない、19歳の岡田健史さんが、中学3年生の黒岩晶役に抜擢されています。

フツーにハンサムな好青年ですから、たとえば大学生の役柄で、中学教師の有村さんの「年下の恋人」とか言うのなら、まあ自然です。でも、このたたずまいで「中学生」というのは、うーん、いかがなものか(笑)。

晶は、何だか、いつもイライラしていて、急に怒ったり、ふさぎ込んだり、突発的に手が出たり、女性教師に向かって「好きです!」と叫んだりする。やってることは、まんま思春期の中学生で、でも姿かたちは明らかに青年。不自然だし、その無理矢理感が半端じゃありません。

そして無理矢理感といえば、25歳の女性教師・末永聖も相当なものです。

教師の立場で中学生との恋愛、つまり禁断の行為に走るわけですから、そうせざるを得ないだけの潜在的な「必然性」を抱えた女性のはずで、たとえば心の中の「闇」といったものが必要なのではないでしょうか。

ヒロインの聖は、「私、ずっと教師になりたかったんです!」的な、基本的に明るく元気で真面目な女性です。それに、見た目も、あの有村さんですから、なおのこと「禁断」が似合わない。こちらも不自然なんですね。

「アンモラル」を描く覚悟

そういえば、このドラマのプロデューサーは新井順子さんで、演出のチーフは塚原あゆ子さん。あの石原さとみ主演『アンナチュラル』(TBS系)を制作した、ドリマックス・テレビジョンの黄金コンビです。

ということは、もしかしたら、設定やキャストの「不自然さ」は狙ったものなのかもしれません。その狙いがどこにあるのかは不明ですが(笑)。裏テーマは、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」ならぬ、「不自然な恋愛(アンナチュラル・ラブ)」!? 

そうそう、週刊誌の記者さんに、こんな話もしました。

現在のように、教師の生徒に対する「禁断の行為」が多発し、それが社会問題化している中で、「中学教師と生徒の恋愛」をドラマとして提示するには、それなりの「覚悟」がいるのではないか、と。

一般的には社会的に断罪されている行為を「純愛」として描くわけですから、それ自体、十分「アンモラル」です。

視聴者の中には、「10歳年下の中学生の教え子に惹かれていく女教師」(番組サイト「はじめに」より)に、違和感や不快感、さらに生理的な嫌悪感や拒否反応を示す人もいるでしょう。

ですから、社会的常識やモラルや倫理に対する挑戦、もしくは異議申し立てと見られ、世間から非難の矢が飛んできても、「純愛」を盾(たて)に、ひるまず戦う「覚悟」がいるはず。

しかし、そういう覚悟が、このドラマから、あまり感じられないことが気になります。社会の常識やモラルや倫理に挑むというより、反発もまた織り込み済みで、奇をてらった内容で話題を集めるという、ひとつの「手法」に見えるということです。

高校教師と高校生の恋愛ドラマはこれまでもあったし、驚かれない。でも、中学教師と中学生の恋愛はあまり見たことがない。ましてや女性教師だ。驚くだろうし、興味も引くだろう、話題にもなるだろう、といったことを制作陣は考えたのではないか、と想像してしまいます。

最も興味深い登場人物

実は、このドラマで今、最も興味深い登場人物は、吉田羊さん演じる原口律です。

聖の婚約者で、大阪に赴任している川合勝太郎(町田啓太)の先輩ですね。仕事もプライベートも、見事に自分の価値観によって駆動させている、なかなか素敵な女性です。女性も男性も、ともに愛することができるところも、いっそ清々しい。

この律と勝太郎の「大阪ブロック」が映しだされると、画面の湿度(湿り気のほうがふさわしいかも)が高まり、俄然ドラマらしくなります(笑)。

とはいえ、放送されたのは、まだ2話のみ。前述の新井Pと塚原Dが、今後どう巻き返していくのか、楽しみです。

その「反攻」に必須なのは、原作である、かわかみじゅんこさんの同名漫画に縛られない展開、つまり金子ありささんの脚本の力ではないでしょうか。

2話までは、ちょうど原作漫画の1巻目の内容が描かれていました。かなり忠実です。しかし、このまま原作ベースで進行していいかどうか。場合によっては、原作を無視するくらいの跳躍的アレンジが必要かもしれません。

本当はタイトルも、原作漫画と同じ『中学聖日記』じゃなくても、よかったんじゃないでしょうか。聖(ひじり)先生と中学生の話ではありますが、「聖」を「せい」と読ませることで、「性」をも想起させる、なんとも鬱陶しい印象になりました。往年の『中学生日記』(NHK)にも、申し訳ない(笑)。

いずれにせよ、この「禁断×純愛ヒューマンラブストーリー」なるものの行方を、もう少し見ていこうと思っています。

【気まぐれ写真館】 神無月の富士夕景

2018年10月23日 | 気まぐれ写真館


週刊朝日で、有村架純主演「中学聖日記」について解説

2018年10月22日 | メディアでのコメント・論評


有村架純が「中学聖日記」で
40代女性の”敵”になってしまったワケ

秋の連続ドラマが次々とスタートしたが、大苦戦しているのが「中学聖日記」(TBS系、火曜午後10時)。有村架純演じる中学校教師と男子生徒の“禁断の恋”を描くストーリーだが、視聴者のターゲット層でもあり、中学生の息子を抱える40代女性は違和感を覚え、むしろ有村を「敵」と見なす傾向があるようだ。

有村架純が演じる中学校教師の聖が、年上の婚約者と遠距離生活を送りながら、担任を務める3年1組の生徒である晶(岡田健史)にひかれていく……というストーリーで、原作はかわかみじゅんこ氏による同名漫画。
 
しかし、この設定に、ネット上では「気持ち悪い」「ありえない」などと、不満の声が噴出している。前クールでは“ぎぼむす”こと「義母と娘のブルース」が話題を呼んだ火曜午後10時枠だけに、なんとも痛々しい。

この理由は何だろうか。上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は、女性教師の恋愛相手が男子中学生である設定への「無理やり感」と指摘する。

TBSの番組ホームページでは、堂々と「禁断×純愛ヒューマンラブストーリー」と掲げているが、碓井教授は「今までにない、新しいことをやる。そんな話題を集めるために、テーマとして『中学生』を設定したように見えます。『女性教師が男子中学生に恋をする』ことで、視聴者が感じているのは、2次元だから成立する原作の世界を、実写で表現されたことによる違和感や嫌悪感なんじゃないでしょうか」と話す。

実写化の違和感は恋愛の設定だけでなく、キャストにも及ぶ。晶役の岡田健史はこのドラマが初仕事となる正真正銘の新人なのだが、年齢は19歳。瞳に力があり、初恋の相手である晶に真っすぐに思いをぶつけるキャラクターは、初々しい演技にマッチしているが……。

「役者としてはいいと思うけど、中学生に見えない。大人っぽい中学生と呼ぶことにも、視聴者は無理やり感を覚えるでしょう」(碓井教授)


TBS系列ではこれまで、真田広之主演の「高校教師」(1993年)や、松嶋菜々子と滝沢秀明の「魔女の条件」(99年)を放送してきており、教師と生徒の恋愛ストーリーには実績がある印象がある。

ドラマの視聴者は40代の女性が中心。前出の2作に見入った人も多いだろうが、自分の恋愛体験を振り返っても、「中学生で、しかも教師相手に」というのは、まったく想像がつかない人もいるに違いない。「『高校教師』を見ていた視聴者は、『2人に幸せになってほしい、でもどうなる?』という“見守り型”でストーリーについていった。でも今回は違う」と碓井教授は言い切る。

「ましてや、40代女性には中学生の息子がいる人も多いでしょう。その人たちからすると、聖は敵です」(同)


むしろ共感できる役がいるとすれば、晶の母・愛子ということか。

さらに碓井教授は「原作漫画と同じタイトルにしたのは失敗ではないでしょうか」と、タイトルにも言及する。「中学聖日記」というタイトルは、「中学“生”日記」や「中学“性”日記」を連想させる。現に、編集部のおじさん記者たちは、タイトルの響きで「中学“性”日記とは……」と絶句していた。

「私のゼミの女子学生たちは、お母さんと一緒にドラマを見る子が多いんです。ただ、このドラマに関しては、親子の会話が成立しにくいんです。お母さん、『中学聖日記』見ようとか、娘に対して、今夜は『中学聖日記』ね、とか。タイトルからして垣根があります」(同)


舞台となる片田舎の町・子星平の風景は美しいし、婚約者の上司である律役の吉田羊が演じるバイセクシュアルの役柄も魅力的だ。番組スタッフ陣を見ても、演出とプロデューサーは、第55回ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞を受賞した「アンナチュラル」の最強タッグだ。同作を見て期待を寄せていた視聴者もいるだろう。

「こうした条件があるのに、もったいなくて仕方がない。禁断と純愛のヒューマンラブストーリーである以上、このドラマはこれから先、女性教師が男子中学生に手を出した、ではなく、なんとか純愛にしなきゃならない」(同)

後半はドラマオリジナルストーリーにしていくと表明している。巻き返しの見込みはあるのだろうか……。(本誌・緒方麦)

(週刊朝日 2018.10.20)

【気まぐれ写真館】 秋雲

2018年10月22日 | 気まぐれ写真館
百合ヶ丘 

書評した本: 『チキンラーメンの女房~実録 安藤仁子』

2018年10月21日 | 書評した本たち



安藤百福発明記念館:編 
『チキンラーメンの女房~実録 安藤仁子』

中央公論新社 1296円

NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)には王道ともいうべき三大要素がある。女性の一代記、職業ドラマ、そして成長物語であることだ。さらに近年は、実在の人物をモデルにする成功パターンが加わった。

10月にスタートした朝ドラ『まんぷく』のヒロイン、福子(安藤サクラ)のモデルが日清食品創業者・安藤百福(もも ふく)の妻、仁子(まさ こ)である。ただし、仁子自身は翻訳家(『花子とアン』)でも実業家(『あさが来た』)でもない。普通の主婦だったはずだが、ドラマのモデルになるからには知られざる何かがあるのではないか。そこで手にしたのが本書だ。

仁子は1917(大正6)年、大阪の商家に三女として生まれた。やがて父の経営していた会社が倒産し貧乏生活が始まったが、家の中には常に三姉妹の笑い声が響いていたそうだ。家計を助けるため14歳で電話交換手の見習い職員となる。働きながら女学校に通い、卒業したのは18歳のときだ。京都の都ホテルに就職したことが、後の百福との出会いにつながっていく。

結婚した百福は根っからの企業家だった。しかも事業は順調なときばかりではない。戦後はえん罪の脱税容疑で裁判にかけられ、財産も差し押さえられた。信用組合の理事長になってほしいと頼まれ、結局は倒産の責任を負った。再び財産を失うのだが、仁子は決して揺るがない。

また「インスタントラーメン」の開発も一人の天才によるものではなく、仁子をはじめ家族総出の取り組みだった。何があっても「クジラのように物事をすべて呑み込んでしまいなさい」という母の教えを守りながら夫を支え続けたのだ。本書を読むと、仁子を”スーパー主婦”とでも呼びたくなってくる。

モデルがいるとはいえ、ドラマはフィクションであり、事実をふくらませた新たなエピソードが盛り込まれるはずだ。本書で描かれた仁子とドラマの福子を比べながら視聴するのも一興かもしれない。

(週刊新潮 2018.10.18号)


【気まぐれ写真館】 神無月の夜

2018年10月21日 | 気まぐれ写真館

銀座 数寄屋橋交差点

「獣になれない私たち」の新垣結衣、役柄を自分のものに 

2018年10月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



「獣になれない私たち」新垣結衣
初回から役柄を自分のものに

脚本は「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)、「アンナチュラル」(同)の野木亜紀子。主演は「逃げ恥」の新垣結衣。注目の「獣になれない私たち」(日本テレビ系)が始まった。

ヒロインの深海晶(新垣)はECサイト制作会社の営業アシスタントだ。仕事がよく出来る分、ストレスも多い。社長はやり手だが、せっかちで強引。晶は同僚や後輩の尻ぬぐいに奔走している。私生活では会社員の花井京谷(田中圭)という4年越しの恋人がいる。優しい男ではあるが、本当は晶をどう思っているのか、読み切れない。

そんな肉体的にも精神的にも、ちょっと疲れ気味の晶がビアバーで出会うのが、会計士の根元恒星(松田龍平)だ。仕事にも女性にもシニカルな男で、付き合っていたはずのデザイナー、呉羽(菊地凜子)も別の男と結婚することに。晶に軽くアプローチするが、微妙な距離でかわされる。

仕事とも恋愛とも、しっかり向き合ってるはずなのに、どこか手詰まり状態に陥っている30歳独身女性。こういうキャラクターを書かせたら、やはり野木はうまい。

また新垣も初回から役柄を完全に自分のものにしている。「誰かに恋をして、すごくすごく好きになって……。新しい恋ができたら何か変わるのかな?」なんて言われたら、次回も見るしかないではないか。ビールの苦味を持ったラブコメだ。

(日刊ゲンダイ 2018.10.17)

「テレビ制作」スタジオ実習

2018年10月20日 | 大学

















「命」を見つめた秀作ドラマ「透明なゆりかご」

2018年10月18日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評


「命」を見つめた秀作ドラマ

綾瀬はるか主演「義母と娘のブルース」が話題を呼んだ今年の夏ドラマ。しかし、目立たぬ秀作がNHKで放送されていた。ドラマ10「透明なゆりかご」である。

物語の舞台は由比朋寛(瀬戸康史)が院長を務める産婦人科医院。そこに看護師見習いとしてやって来たのが、高校の准看護学科生である青田アオイ(清原果耶)だ。

産婦人科のドラマといえば、最近だと綾野剛主演「コウノドリ」(TBS系)の印象が強い。そこでは総合病院における最新の「チーム医療」が描かれていが、由比のところのような個人病院ではとても無理だ。その代わり、由比は個々の妊婦とその家族に可能な限りコミットしていく。むしろ、そのために独立したと言っていい。

確かに妊婦たちはそれぞれの事情を抱えている。受診歴のないまま来院し、出産後に失踪する人。自らの持病のために出産を断念しようとする人。中には出産後の血圧低下で命を落とす人もいる。

また、このドラマは死産や中絶といった重いテーマも果敢に取り込んでいた。中には14歳の中学生が妊娠・出産するという回もあった。その判断に至るまでの本人や家族の葛藤をきちんと描き、さらに出産から9年後の母子の姿も見せていた。

何より好感がもてたのは、どのエピソードでもわかりやすい結論を下していなかったことだ。理想や倫理だけでは白黒つけられないグレーの部分で悩んだり、傷ついたりする妊婦や家族。そんな彼らを静かに見つめていくのがアオイだ。

実はアオイ自身もADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された過去をもつ。また感情の起伏の激しい母親(酒井若菜)との関係もうまくいっていない。自分に自信が持てなかったアオイが、命の現場に立ち会うことで少しずつ成長していく。16歳の清原はドラマ初主演ながら、アオイが憑依したかのような熱演を見せていた。

原作は沖田×華(おきた・ばっか)の同名漫画。脚本は「失恋ショコラティエ」(フジテレビ系)などの安達奈緒子だ。女性が抱える、やるせない気持ちまで丁寧にすくい上げながら、生真面目でいて温もりに満ちた、「命」のドラマを構築して見事だった。

(しんぶん赤旗「波動」2018.10.15)

週刊新潮で、日テレ「zero」有働キャスターについてコメント

2018年10月16日 | メディアでのコメント・論評


有働由美子の「zero」いよいよ2週目 
“初値”高きがゆえに…

いよいよ2週目に突入、元NHKアナウンサー・有働由美子がメインキャスターを務める「news zero」(日本テレビ系)。

8日の放送では、月曜レギュラーの嵐・櫻井翔に向って笑いかけ何度もカメラ目線を外したり、相変わらず有働サン、“らしさ”全開だ。

「夜11時からのニュースといえば今日一日の出来事を知るのが目的で見るものですが、有働さんの番組は一日の出来事が分からない、“社会情報ショー”といったところでしょうか」

とは、上智大学(メディア文化論)の碓井広義教授。

「でも櫻井君に無邪気に笑いかけてしまう“天然さぶり”が彼女の売りなんですね」


前任の村尾信尚キャスターの頃は一桁台を低迷していた視聴率も、初回は10.0%の二桁超え。以降も、10.4、7.9、8.4%と続いた(ビデオリサーチ調べ)。この新規上場、まずは上々のようだ。

ただ、作家の麻生千晶さんは、こう評する。

「初日なんて見ていられませんでしたよ。冒頭の挨拶は噛みまくり、本庶佑さんのノーベル賞受賞で生中継した山中伸弥教授とのやり取りでは相手を遮って話してしまうなど、イライラさせられました。慣れないCMのタイミングで気がせくのは分かりますが、民放の報道番組は短い時間でパッパと切り替えていかないと」

“初値”高きがゆえに、なんとやらである。

NHK「あさイチ」では、“ワキ汗”“セックスレス特集”など女性の本音を晒し、主婦層の共感を呼んだ。が、酔眼朦朧(すいがんもうろう)の男性も多い深夜となると勝手は違ってくる。

「もちろん彼女も承知の上。服装も注意して見てるんですが、こげ茶のワンピースや白のブラウスなど地味なモノトーンに抑え、派手な衣装は着ない。50歳を目前にしてジャーナリストを目指すと独立した有働さんに失敗は許されません。テレビの世界、一度飽きられたら消えていくのは早いですよ。半年後に、どうなっているかですね」(麻生さん)

1回のギャラは120万円とされる有働サン。荒波を覚悟しているに違いない。

(週刊新潮 2018年10月18日号)


書評した本: 野田 隆 『シニア鉄道旅のすすめ』 

2018年10月15日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


野田隆 『シニア鉄道旅のすすめ』
平凡社新書 907円

この夏、島へと渡るプロペラ機に乗った。時間がかかる分、雲の動きや眼下の景色をじっくりと堪能できる。乗り物が変わるだけで、移動が小さな旅になった。

野田 隆『シニア鉄道旅のすすめ』が教えてくれるのは、俗世を忘れそうなローカル線と観光列車の魅力だ。たとえばJR飯山線の「おいこっと」は、長野駅と新潟県の十日町駅の間を往復している。沿線には唱歌「故郷(ふるさと)」の作詞者・高野辰之の出身地があり、車窓に広がるのは「うさぎ追いしかの山」の風景だ。

また小田原と伊豆急下田を結ぶ「伊豆クレイル」は、海沿いの絶景ポイントで停車するサービスが秀逸。ラウンジでは、女性ミュージシャンによるボサノバの生演奏も披露されている。

九州の熊本駅と三角駅をつなぐのは、「A列車で行こう」という名の観光列車だ。車内にはジャズが流れ、バーカウンターも置かれている。通勤電車では無理だった、「立ち飲みでほろ酔い」の快楽がそこにある。

さらに個性派の観光列車としては、車内に「足湯」の設備を持つ山形新幹線の「とれいゆつばさ」。上越新幹線には、写真や絵画をパネル展示した「現美新幹線」が走っている。

いずれもすぐ乗ってみたくなるが、シニアの誰もがふらっと旅に出られるわけではない。そんな時は日本地図帳を開いてみよう。この本を読みながら、列車の経路を地図で追うのだ。安楽椅子探偵ならぬ、安楽椅子トラベラー。これもまた旅の本の醍醐味である。

(週刊新潮 2018.10.04号)

【気まぐれ写真館】 秋の三日月

2018年10月14日 | 気まぐれ写真館
2018.10.14

週刊朝日で、「まんぷく」について解説

2018年10月14日 | メディアでのコメント・論評



安藤サクラがヒロインの朝ドラ 
視聴率好発進でNHKも大喜び!?

NHKの連続テレビ小説が、「半分、青い。」から「まんぷく」にバトンタッチした。世界初の即席麺「チキンラーメン」を開発した日清食品の創業者・安藤百福(ももふく)と、妻の仁子(まさこ)をモデルにした作品だ。10月1日の初回視聴率は23.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、17年ぶりに23%を超える好発進となった。「半分、青い。」が賛否両論あっただけに、NHKとしても大喜びだろう。

ヒロインの今井福子を演じるのは安藤サクラ。カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得した「万引き家族」にも出演し、話題になったばかりの演技派女優だ。上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)はこう評価する。

「安藤さんは本当にうまい女優さん。そのうまさが一番際立つのは、普通じゃない人を演じるとき。何を考えているのかわからない、何をやらかすのかわからない人をやらせたら、それこそ世界レベルです」

安藤の演技には定評があるが、うますぎることへの懸念もあるという。

「今回演じるのは夫を支える、ある意味“普通の”女性。元気で明るい朝ドラヒロインを、二重、三重に役作りし、ハイテンションで演じることが過剰演技ぎみになっています。朝からおなかいっぱいな感じは受けますね。『誰かを支えた普通の女性』は、安藤さんが演じる対象として正解なのか。これからわかることだと思います」(碓井教授)


ドラマ評論家の吉田潮さんも、似た印象を受けた。

「彼女は『やさぐれ界のスター』。さわやかな朝ドラヒロインとしてはどうしても受け付けないという人もいるかもしれませんね」

本作は朝ドラ定番の子役パートはなく、初回から安藤サクラが18歳で女学生の福子を演じる。

「子役時代がないことで、最初から夫婦の物語として入り込めるという意味では、いいのではないかと思います」(吉田さん)

夫役となる長谷川博己も初回から登場している。

「初回から出すことで、2人の関係を最初から最後まで描いていく、という意思は感じ取れます」(同)

松下奈緒に内田有紀、松井玲奈や松坂慶子といった共演女優陣も豪華だ。芦田愛菜のナレーションやドリカムの主題歌など、ほかにも魅力はいろいろある。

ドラマは始まったばかり。朝から心地よい「まんぷく」感が味わえることに期待。(本誌・太田サトル)

(週刊朝日 2018年10月19日号)

あらためて「夏ドラマ」を振り返ってみると・・・

2018年10月13日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


秋めいてきた今、
あらためて「夏ドラマ」を振り返ってみると・・・

すっかり秋めいてきた今、あらためて今年の夏ドラマを思い起こしています。今シーズン最大の特色は、いつも以上に「原作もの」が多かったことでしょう。

まず、いまや主流ともいえる漫画が原作の作品としては、『義母と娘のブルース』(TBS系)、『この世界の片隅に』(同)、『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)などがあります。

また原作小説をもっていたのが、『サバイバル・ウェディング』(日本テレビ系)、『ハゲタカ』(テレビ朝日系)、『ラストチャンス 再生請負人』(テレビ東京系)などでした。

他には韓国ドラマを原作とする『グッド・ドクター』(フジ系)。同名の映画が原作だった『チア☆ダン」(TBS系)。さらにシリーズ物として、『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』(フジ系)や『遺留捜査』(テレビ朝日系)がありました。

つまりゴールデンタイム(19~22時)やプライムタイム(19~23時)での純粋なオリジナルドラマは、野島伸司さん脚本の『高嶺の花』(日本テレビ系)くらいしかなかったのです。

この『高嶺の花』については、石原さとみさんの見事な座長芝居に感心する一方で、ほんとのところ野島さんは、このドラマで何がやりたかったのかなあ、という思いもありますが(笑)。

「原作もの」と「オリジナル」、そして『義母と娘のブルース』

ドラマの根幹は脚本にあります。その脚本に書き込まれるのは人物像とストーリーです。どんな人たちによる、どんな物語なのか。そこでドラマの命運が決まります。

原作がある場合、脚本家を含む制作陣は、ドラマで最も重要な人物像とストーリーをすでに手にしています。あとは、どうアレンジしていくかについて悩めばいいわけです。一方のオリジナルドラマは、何もないところから人物も物語も生み出していく。それがいかに大変なことか。

日本では「原作あり」も「原作なし」も、ひとくくりに「脚本」と呼ばれています。しかし、たとえばアメリカのアカデミー賞では、ベースとなる原作をもつ「脚色賞」と、オリジナル脚本の「脚本賞」はきちんと分けられているんですね。脚本という形は同じでも、別の価値として評価されるのです。

それらを踏まえ、今年の夏ドラマの中で突出していたのが、意外や「原作あり」の『義母と娘のブルース』でした。

1ページをきっちり8コマに分け、生真面目そうな絵柄の中に、くすっと笑えるネタを仕込んでいく桜沢鈴さんの原作漫画と、綾瀬はるかさんが主演したドラマは雰囲気も印象も、いい意味で別ものと言っていいでしょう。

脚本家、森下佳子さんが仕掛けた構成の妙と小気味いいせりふがあり、綾瀬さんが演じるヒロインの愛すべき、そして品のある変人ぶりがありました。しかも視聴者は笑いながら見ているうちに、夫婦とは、親子とは、そして家族とは何だろうと思いをめぐらせることができたのです。原作を基調にしながら、それを超えたドラマ独自の世界観が描かれていました。

ドラマの奥行きとリアリティを生むもの

というわけで、現在、ドラマの制作陣、中でもプロデューサーの仕事は、オリジナルを生み出すのではなく「原作探し」であり、しかも前述のようにメインは小説から漫画へと移っています。

こうした現象は現在、各局のドラマづくりに共通であり、その意味で、テレビ界全体として、ドラマ制作における企画力・創作力が落ちているのかもしれません。

一方で、視聴者の目は肥えてきています。一視聴者のSNSへの書き込みがきっかけで、作品の評判が地に堕ちることもあり得る状況になってきました。

反対に、面白い作品に対しては、ネット上の書き込みも高評価で盛り上がる。これは、視聴率だけをにらんでいた時代には得られなかった手応えとやりがいを、作り手に与えてくれることでもあります。

作家の小林信彦さんは、「テレビの黄金時代」は60年代だとおっしゃっていますが、ことテレビドラマについては、その黄金時代は70年代から80年代前半にかけてだったと、私は思います。

それはまさに脚本家の時代でした。倉本聰、山田太一、向田邦子、鎌田敏夫といった人たちが、脂の乗り切った状態で、次々と優れた作品を書いていた。映画とは異なる面白さをもつ、テレビドラマという新たなエンターテインメントを彼等が確立したといってもいいでしょう。

私は倉本さんと仕事をご一緒させていただいたことがあるのですが、倉本さんがまずやるのは、登場人物の「履歴書」を作成することでした。架空の人物であるにもかかわらず、どこで生まれ、どのように育ち、どんな学校でだれと出会ったといった、必ずしもドラマの中で活かされるとはかぎらない詳細な「過去」を考えていくのです。

倉本さんは、この作業が一番楽しいし、履歴書が完成したときには、そこにこれから展開されるドラマのすべてが含まれているのだと話していました。本当にその通りだと思います。

オリジナルドラマの愉悦

こうして練り上げられた人物の奥行きとリアリティがあるからこそ、たとえば倉本さんの代表作『北の国から』(フジテレビ系)を見て、私たちは心から泣き、笑い、感動できた。そして、連ドラ終了後も単発の特別編を通して、約20年にわたり架空の人物たちと一緒に生きることができたのです。

今、そうした作品を作れないのかというと、もちろん、そんなことはありません。たとえば2017年に放送された、坂元裕二さん脚本の『カルテット』(TBS系)は、松たか子さんたちが演じた登場人物たちの履歴が、しっかり作り込まれていました。

そのおかげで、次第に明かされていく、それぞれの過去を含め、視聴者は興味津々で彼らと向き合うことができました。視聴率は9%前後でしたが、タイムシフトではもっと観られていたでしょうし、ネット上での視聴者の評価も高かったのです。

また同じく昨年は、岡田惠和さん脚本の朝ドラ『ひよっこ』もありました。東京オリンピックにはじまり、ビートルズの来日、テレビの普及とクイズ番組、ツイッギーとミニスカートブーム、そしてヒット曲の数々。同時代を過ごした人には懐かしく、知らない世代にとっては新鮮なエピソードが並びました。

このドラマには原作も、モデルもありませんでしたし、ヒロインのみね子も「何者」でもない、普通の女性でした。家族や故郷、そして友だちを大切に思いながら、働くことが大好きな、明るい彼女は、市井に生きる私たちと変わらない、いわば等身大のヒロインでした。いや、だからこそ応援したくなったのです。

また今年に入ってからも、オリジナル脚本、オリジナルドラマの傑作として、『アンナチュラル』(TBS系)を挙げることができます。

脚本の野木亜紀子さんは、綿密なリサーチと取材をベースに、「科捜研の女」ならぬ「UDIラボ(不自然死究明研究所)の女」をきちんと造形していました。

オリジナルの物語展開は重層的で、簡単には先が読めない。特にミステリー性(謎解き)とヒューマン性(人間ドラマ)のバランスが絶妙でした。また快調なテンポと急ぎ過ぎない語り口の両立は、演出陣のお手柄です

これらの作品は、原作がないからこそ、「これからどんなふうに展開していくんだろう」という、オリジナルドラマならではのドキドキや、ハラハラや、ワクワクがあったわけで、今年の夏ドラマにも、もう何本か「オリジナル物」のトライがあってもよかったのではないかと思います。

テレビというメディアの状況が大きく変化している今だからこそ、制作者は、あらためてドラマ作りの原点に立ち還る必要があるのかもしれませんね。その上で現出するドラマの未来には大いに期待したいし、期待できると考えています。これからも、もっとドラマを楽しみたいですから。

書評した本: 『引火点~組織犯罪対策部マネロン室』

2018年10月12日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


笹本稜平 
『引火点~組織犯罪対策部マネロン室』

幻冬舎 1836円

犯罪がらみの資金洗浄を阻止するのが、マネーロンダリング対策室の任務だ。捜査対象となった、ある仮想通貨取引所。警部補の樫村たちが面会した女性CEOのもとに、小型ナイフと「次はお前だ」という脅迫状が届く。ネット経済の暗部に迫る、出色の警察小説だ。


本の雑誌編集部:編 
『旅する本の雑誌』

本の雑誌社 1728円

巻頭は舘浦あざらし「函館・小樽・札幌弾丸ツアー」だ。山口瞳が泊まった函館元町ホテル、小樽文学館の植草甚一カフェなど選択が渋い。他に坪内祐三が小田原で訪ねる川崎長太郎ゆかりの料理店。荻原魚雷が選ぶ「東海道の三冊」など。旅は本で数倍豊かになる。


池田信夫 
『丸山眞男と戦後日本の国体』

白水社 1512円

戦後のある時期、論壇をリードした丸山眞男。彼が喫した敗北を検証することで、戦後リベラルが挫折した原因を探ろうという試みだ。敗戦は開国だったのか。民主主義は永久革命だったのか。そして丸山にとって国体とは何だったのか。この国の現在の姿も見えてくる。

(週刊新潮 2018年9月27日秋風月増大号)


高橋源一郎:編著 
『憲法が変わるかもしれない社会』

文藝春秋 1620円

改憲への動きが加速化する時代。天皇制とデモクラシー、立憲主義、不寛容社会と人権などの課題を、作家の高橋源一郎が片山杜秀、石川健治、森達也をはじめ気鋭の論者と語り合う。憲法を意味論と語用論に分けて考えるべきという長谷部恭男の指摘も示唆に富む。


柴田哲孝 
『ISOROKU 異聞・真珠湾攻撃』

祥伝社 2052円

『下山事件 暗殺者たちの夏』から約3年。小説の形で昭和史の深層に迫り続ける著者が挑んだテーマは真珠湾攻撃だ。日本を追い詰めるルーズベルトが仕掛けた策謀の数々。パールハーバーはその総仕上げだったのか。そして山本五十六が果たした“役割”とは?


安倍龍太郎 
『筧千佐子 60回の告白
 ~ルポ・連続青酸不審死事件』

朝日新聞出版 1512円

交際した男たちが死亡するたび、多額の遺産を取得。最終的な被害者の数は今も不明だ。新聞記者である著者は拘置所で何度も被告と向き合うが、犯行に対する現実感が希薄であることに驚く。ごく普通のおばちゃんは、いかにして「後妻業」のプロになったのか。

(週刊新潮 2018年9月20日号)