

不器用な2人の恋愛はこれからが佳境!
いかにも今どきだなあと思う。森川葵&城田優のダブル主演「文学処女」(毎日放送制作、TBS系)の原作は中野まや花の同名漫画(絵が美しい)。しかし、この作品は書店で売られていない。ネットだけで読める「LINEマンガ」として、初めてのドラマ化なのだ。
ヒロインの月白鹿子(森川)は文学少女のまま成長した26歳。初恋の相手も小説の主人公で、恋愛経験はまったくない。
出版社に入って数年後の鹿子は、待望の文芸編集部に異動し、そのハンサムぶりと女癖の悪さで知られる売れっ子作家、加賀屋朔(城田)の担当を命じられる。
鹿子は恋愛を知らない女だが、加賀屋もまた過去の出来事が原因で恋愛ができない男になっていた。徐々に互いのことが気になっていく2人が、もどかしくもいじらしい。
第4話まで放送されたが、高い演技力を持つ森川がこのドラマでも本領発揮だ。純粋に小説が好きで、「抱きしめたくなるような作品を作りたい」と必死の鹿子。ときに妄想が暴走し、「文学処女、なめんなよ!」とタンカを切ってしまう鹿子。シリアスとコメディー、両方の領域を森川は軽々と、楽しげに行き来している。
またイケメン作家の城田もいい。普段のドラマだと嫌みになったり、浮いたりするルックスが、陰影のある映像と相まって物語に生かされている。不器用な2人の恋愛は、これからが佳境だ。
(日刊ゲンダイ 2018.10.10)
週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
大木賢一 『皇室番 黒革の手帖』
宝島社新書 842円
テレビで皇室をめぐる特番が放送される時、いわゆる皇室評論家が登場することが多い。たいていは新聞社やテレビ局で長年にわたって皇室記者を務めてきた人たちだ。
彼らは共通の雰囲気を持っており、そのたたずまいの中に、どこか“虎の威を借る”的な感じが漂う。自分も高貴な世界の住人だとでも言いたげな“上から目線”も気になる。
著者は共同通信の記者として、2006年から2年近く皇室番、つまり宮内庁担当だった。しかし皇室評論家風の威張り感はまったくない。モレスキンの黒い表紙のノートに記した、当時のメモとスケッチ画を基に書き下ろしたのが本書だ。
基本的に取材の体験が時系列で回想されていく。しかも著者の関心は両陛下や皇族だけでなく、駅頭や沿道で手をふる、「一般奉迎者」といわれる市民にも向けられる。そこに著者が過去には実感することのなかった「国民」がいたからだ。
特別養護老人ホームで、車いすのお年寄りに声をかける両陛下。涙ぐんでそれに応えるお年寄り。そんな光景を前に、「天皇とは、一体日本人にとって何なのだろう」という素朴な感慨を抱く。思えば、両陛下から国民への言葉は、「よかったね」「お元気でね」などとシンプルだ。そんな言葉に日本人は敏感に反応するが、著者はその理由を「私心なき鏡のような存在」にあると見る。
一方、国権の最高機関である国会での天皇のふるまいと、それを見つめる議員たちの態度は、「天皇の権威」というものを考える格好の材料だ。そこには被災地訪問などの姿からくるイメージとも異なった、「この国のかたちと密接不可分な存在」としての天皇がいる。
退位の時期が近くなるほど、陛下や皇族をめぐる話題は増えていくはずだ。バランスのとれた距離感で素顔の皇室を見つめる本書が現時点で上梓されたことは、私たちにとって小さな僥倖かもしれない。
(週刊新潮 2018年9月20日号)
実録路線への不安と期待
NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)の新作「まんぷく」が始まった。安藤サクラが演じるヒロイン、福子のモデルは日清食品の創業者・安藤百福(ももふく)の妻、仁子(まさこ)だ。百福は「インスタントラーメン」を発明した人物であり、ドラマの中では「たちばな工房」の立花萬平(長谷川博己)となっている。
物語は昭和13年からスタートしており、女学校を卒業した福子は、ホテルに電話交換手として就職したばかりだ。32歳の安藤が18歳の福子になり切っているのは演技派女優の面目躍如だが、明るすぎて高すぎるテンションは朝からちょっと鬱陶しくもある。
安藤は映画「万引き家族」でも生かされていたように、何を考えているのかわからない、暗いキャラクターを演じさせたら世界レベルの女優だ。それが朝ドラという舞台に合わせて無理をしているようにも見えるのだ。
漫画家・水木しげるの妻、武良布枝(むらぬのえ)がモデルだった「ゲゲゲの女房」以降、朝ドラでは実在の人物をモデルにした作品が多く作られてきた。「カーネーション」(デザイナーのコシノ3姉妹の母・小篠綾子)、「花子とアン」(翻訳家・村岡花子)、「あさが来た」(実業家・広岡浅子)などだ。
大正生まれの仁子は、希代の起業家である百福を徹底的に支え続けた。ただし、仁子自身は翻訳家でも女性実業家でもない。伝記などによれば、肝っ玉母さん型の普通の主婦である。こうした、誰かを「裏で支えた人物」をドラマの主人公として成立させるのは結構難しい。参考になるのは「ゲゲゲの女房」だろうか。ゲゲゲならぬ、「インスタントラーメンの女房」。制作陣の腕の見せ所だ。
また、実在の人物がモデルであることが、必ずしも良い結果につながるわけではない。何かに気をつかっているのか、事実や現実に縛られて、物語の幅や奥行きが狭まってしまうことがあるからだ。その残念な例としては、アパレルメーカー「ファミリア」を興した一人である坂野惇子がモデルだった「べっぴんさん」。「吉本興業」創業者の吉本せいを取り上げた「わろてんか」などがある。
とはいえ、脚本は大河ドラマ「龍馬伝」も手がけてきた福田靖。安藤サクラも長谷川博己も演技については折り紙つきだ。間違っても「チキンラーメン誕生60周年」という企業イベントの一環と思われたりしないよう、ポスト平成時代を生きる視聴者に新たな女性像、家族像を提示してくれる、刺激的な朝ドラであってほしい。
(北海道新聞 2018.10.06)
「30歳定年説」早める可能性
この秋、民放各局のアナウンサー起用で、ある特徴的な動きがあった。入社1年目女子アナの抜擢である。例えば、日本テレビ入社1年目、岩田絵里奈アナ(23才)が、同局の長寿バラエティー番組『世界まる見え!テレビ特捜部』の新アシスタントに起用。同じく、同局1年目の新人、市來玲奈アナ(22才)は『行列のできる法律相談所』のアシスタントに決まった。入社半年の新人が、なぜ誰もが知る人気番組にこんなにも抜擢されるのか? その背景と思わぬ影響とは――。
上智大学文学部教授(メディア文化論)の碓井広義さんはこう指摘する。
「テレビ局は近年、即戦力になるアナウンサーを意識して採用しています。市來さんは乃木坂46、岩田さんも岡崎歩美としてアイドル活動をしていました。以前はタレント性のある人を選んでアナウンサーに育てていましたが、近年はタレントをアナウンサーにしているというのが採用の傾向です。テレビ局は“入社半年での起用なんて遅いぐらい”と考えているかもしれません」
4月にフジテレビに入社し、10月から情報番組『ノンストップ!』にレギュラーとして出演している杉原千尋アナ(22才)は元モデル、同じく1年目で10月から情報番組『めざめしテレビ』に抜擢された同局の井上清華アナ(23才)は大学時代、セント・フォースに所属し、昨年3月まで『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のお天気キャスターを務めていた。
「彼女たちは、わかりやすく正しい日本語で伝える、しっかり耳を傾ける、などアナウンサースキルは未熟なところがあるかもしれませんが、“現場経験”を持っているということは強みです。共演者やスタッフらへの対応も慣れたものでしょう。なにより、テレビカメラの向こうに、視聴者がいることを感覚でつかみ、堂々と視聴者に向けて発信できることが大きいと思います」(碓井さん・以下「」内同)
入社後、じっくりと育てなくても、既に“場慣れ”している彼女たちは充分、戦力になるとテレビ局は考えているのだ。
「逆に言えば、テレビ局側は新人教育に時間をかける余裕がないとも言えます。テレビ離れが指摘され始めたころから、即戦力を採用しようという動きが俄然強まってきました。数年かけて大切に育てていずれ大きな番組を任せよう、という考えはそこにはありません」
テレビ局にとっては、入社1年目の女子アナをバラエティーなどに起用することで話題づくりにもなり、その“宣伝効果”は大きい。一方で局にとっては懸念材料もある。本来、アナウンサーはタレント的な立場ではなく、ニュースなど視聴者に必要な情報をしっかり届ける役割があるはずだからだ。
「女子アナがタレント化することによって、報道キャスターなどを務める人材は育たないでしょう。今回入社1年目で抜擢されたアナウンサーも、最初から元タレントという印象で見られてしまうので、報道番組などでニュースを読むような硬派な仕事にはつきづらい。もっとも、最近のテレビ局は、はなから報道で活躍する人材ではなく、“バラエティー枠”として採用している可能性もありますが…。
ただ、アイドルやタレントからアナウンサーになった例はいくつもありますが、彼女たちが必ずしも局を背負って立つような看板アナに成長しているわけではない、ということは指摘しておきたいと思います」
また、即戦力の1年目アナの起用が続けば、今後、局に所属する女子アナのフリー化を早める可能性もあると碓井さんは指摘する。女子アナといえば、これまで「30歳定年説」という言葉があるように、30歳前後で退社して、フリーアナに転身するケースが多かった。
「以前なら、徐々に名前やキャラクターが知れ渡って、人気になっていくという流れがありましたが、近年は、ネットの影響もあって、一気にその名前と顔が知れ渡ります。看板番組に抜擢されれば、そのスピードはさらに速まります。あっという間に人気アナとして活躍する人も出てくるでしょう。
若手が抜擢されれば、それによって奪われるのは中堅女子アナたちの仕事です。つまり、入社1年目の女子アナの起用が増えていけば、20代半ばであってもその仕事が減ってしまうアナウンサーが多く出てきてしまうわけです。結果、女子アナたちが早々に退社を決断して、仕事を求めてフリーになることになってしまうのです。一部の人気アナをのぞけば、若手のうちにフリー転身したほうがチャンスは広がりますから」
入社1年目女子アナの抜擢、実は戦々恐々としているのは先輩女子アナたちかも。
(NEWSポストセブン 2018年10月03日)

末端社員の苦労
戦国時代と同じ?
地球を調査中の宇宙人ジョーンズ(トミー・リー・ジョーンズ)は、時空を超えてあらゆる場所に出没する。今回の現場は徳川家康(タモリ)と石田三成(野村萬斎)が激突した、関ヶ原の戦いだ。
萬斎さんといえば、東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式を演出する総合統括への就任が決まった。実にタイムリーなキャスティングだと思ったが、本当の主役はタカアンドトシの2人だ。演じるのは西軍から東軍へと寝返った、小早川秀秋軍の足軽。いわば企業のトップの判断に振り回されて、ヘトヘトになってしまう末端社員である。
「この惑星では、ほんとに働いている人が一番疲れる」というジョーンズの報告も、まさにその通り。“働き方改革”などと言われるが、現実は戦国時代同様、厳しいものがある。組織に使われるのではなく、組織を使って仕事をする人になって欲しい。就職活動を控えた大学3年生を見ながら、そう思う。
(日経MJ「CM裏表」2018.10.01掲載分)
「インベスターZ」に
テレ東のチャレンジ精神
インベスターとは投資家のことだ。「インベスターZ」(テレビ東京系)は高校生が主人公の投資ドラマである。
舞台は札幌にある名門進学校、道塾学園。新入生の財前孝史(清水尋也)は秘密の「投資部」に勧誘される。校舎内の奥まった部屋で、藤田美雪(早見あかり)たち5人の部員が学園の資産を運用していた。投資の知識など皆無の財前だったが、仲間たちに助けられながら学んでいく。
先週最終回を迎えたが、直前の数回、財前が学園創始者の子孫に投資部の存続を懸けて挑んだ、投資3番勝負が熱かった。
1つ目の「5000万円不動産対決」は1日で物件を探して購入して評価を受ける。財前は名門小学校近くの中古マンションを選んで勝利した。
次の元手1億円の「FX対決」では負けたものの、東証1部上場企業を何社か選び、時価総額を100兆円に近づける「時価総額バトル」を制して投資部を守った。
このドラマは、投資の仕組みや一種の極意などを図解や解説などで視聴者にわかりやすく伝授してくれるところがキモだ。
原作は、「ドラゴン桜」で知られる三田紀房の同名漫画。「受験」の本質や対処法と同様、FXも含む「投資」に関する知識とスキルをエンタメ化した点が見事だ。何より、「経済」という自社の得意技を、深夜ドラマにも応用・投入するチャレンジ精神が光った。
(日刊ゲンダイ 2018年10月03日 )

「半分、怖い。」!?
NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)の第99作『まんぷく』が始まりました。ついさっきも、ある週刊誌から「第一印象」を聞かれたところです。それに対して、「期待半分、不安半分。いや、朝ドラだから、半分、怖い。ですね」と答えました。30分ほど、お話しましたが、引用されるのは数行だと思いますので(笑)、以下に全体を記しておきます。
世界レベルの女優、安藤サクラさん
すでに周知されているように、安藤サクラさんが演じるヒロイン・福子のモデルは、「日清食品」の創業者・安藤百福(あんどうももふく)の妻、仁子(まさこ)です。百福はチキンラーメン、つまり「インスタントラーメン」を発明した人物であり、ドラマの中では「たちばな工房」の立花萬平(長谷川博己)となっています。
物語は昭和13年からスタートしており、女学校を卒業した福子は、ホテルに電話交換手として就職したばかりです。現在のところ、視聴者に親近感をもってもらおうという演出上の狙いなのか、福子はなんだかトロくてドジな交換手になっちゃってますが(笑)、モデルである仁子が実際に就職したのは京都の都ホテルであり、半端な仕事は通用しませんでした。
32歳の安藤さんが18歳の福子になり切っているのは、さすが演技派女優の面目躍如と言うべきですが、その明るすぎて、高すぎるテンションは、朝からちょっと鬱陶しくないだろうか、と心配しています。
安藤さんは、ただそこにいるだけで、「何かが起きるのではないか」と思わせてくれる、不穏な空気を現出させることができる貴重な女優さんです。
何を考えているのかわからない女性。何をしでかすか予想もつかない女性。深い沼に生息しているかのような重くて暗いキャラクターの女性を演じさせたら、それこそ世界レベルの女優さんなのです。
私もドラマを制作してきたので、作品の内容によっては安藤さんが必須のキャストになること、よくわかります。映画『万引き家族』が、安藤さん抜きでは成立しなかったように。
そんな安藤さんが、今回、「朝ドラ」という舞台に合わせて、かなり無理をしているように見えてしまう。違和感と言うとオーバーですが、この「場」に安藤さんがいることが、どこか不自然に感じてしまう。これが「半分、怖い。」の正体の半分です。
まあ、安藤さん自身も、そんなことは十分意識しているのではないでしょうか。それを打ち消す、もしくは補うための、あの異様なハイテンションではないかと推測しました。効果のほどはともかくとして。
少なくとも、立ち上がり段階では、そんな印象が強いんですね。でも、徐々にトーンも落ち着いていくんだろうなあ、と思っています。何しろ天才的な女優さんですから。
実は、今回の『まんぷく』の立ち上がりを見ていて感じたのは、朝ドラのパターンの1つである、子役が活躍する「幼少時代」の価値でした。
視聴者は、この幼少時代を通じて、ヒロインのキャラクターがどんなふうに形成されていたのかを理解します。また彼女の成長と共に、ヒロインにもキャラクターにもなじんでいきます。
大人の主演女優が登場してきた際、彼女がどんなキャラクターであっても、視聴者はショックを受けません。登場した「その時点」までの彼女を知っているからです。
今回は、いきなり安藤さんが演じる、あの「18歳の福子」です。福子の「個性」の、よってきたるところを知らないので、いきなりの“怒涛の寄り”(笑)みたいに感じるのかもしれません。
朝ドラの「実録路線」
さて、「半分、怖い。」のもう半分です。
ご存知のように、漫画家・水木しげるの妻、武良布枝(むらぬのえ)がモデルだった『ゲゲゲの女房』以降、朝ドラでは「実在の人物」をモデルにした作品が多く作られてきました。
私は朝ドラの「実録路線」と呼んでいますが、『カーネーション』(デザイナーのコシノ3姉妹の母・小篠綾子)、『花子とアン』(翻訳家・村岡花子)、そして『あさが来た』(実業家・広岡浅子)などですね。
大正生まれの仁子は、希代の起業家である百福を徹底的に支え続けた女性です。ただし、仁子自身は翻訳家でも女性実業家でもありません。肝っ玉かあさんタイプの普通の主婦です。伝記などによれば、「(何があっても)クジラのように物事をすべて呑み込んでしまいなさい」という母の教えを、終生守り続けたそうです。
こうした、誰かを「裏で支えた人物」を、ドラマの主人公として成立させるのは結構難しいことです。まさに制作陣の腕の見せ所でしょう。
また、実在の人物がモデルであることが、必ずしも良い結果につながるわけではないという事実も認識しておく必要があります。過去の人とはいえ、何しろ「実在の人物」ですから、その遺族、関係者、関係組織(会社)など、さまざまな“しがらみ”が、制約をかけないまでも、良くも悪くもドラマの中身に注目しています。
その辺りに気をつかってしまうのか、忖度してしまうのか(笑)、はたまた事実や現実に縛られてしまうのか、実録路線の朝ドラの場合、物語の幅や奥行きが狭まってしまうことがあるんです。
その残念な例としては、アパレルメーカー「ファミリア」を興した一人である坂野惇子がモデルだった『べっぴんさん』。「吉本興業」創業者の吉本せいを取り上げた『わろてんか』などが挙げられます。ヒロインの人物像は曖昧模糊(あいまいもこ)としており、そして物語自体も、どこか隔靴掻痒というか、跳ねなかった(笑)。
とはいえ、『まんぷく』の脚本は、大河ドラマ『龍馬伝』も手がけてきた福田靖さんです。安藤サクラさんも長谷川博己さんも、演技については折り紙つきです。「半分、不安。」も、「半分、怖い。」も、見事に吹き飛ばしてくれるに違いありません。
参考になるのは、ヒロインの位置づけや構造が似ている『ゲゲゲの女房』でしょうか。ヒロインを無理に単独の主人公扱いしないで、長谷川博己さんの親和力も大いに活用し、堂々の「夫婦物語」として視聴者の共感を得ていく。ゲゲゲならぬ、「インスタントラーメンの女房」の方向です。
そして、ナレーションの芦田愛菜さん
そうそう、ナレーションの芦田愛菜さん、いいですねえ。爽やかな朝、という感じがします。
先日、このナレーター起用について、やはり週刊誌の取材を受けました。
「サクラさんは、キャラクター性が非常に高く、画面に出たときの強烈なオーラがある女優さん。そのオーラをいい意味で中和させてくれる、視聴者とドラマのインターフェースのような役割も(愛菜ちゃんは)果たすのではないでしょうか」
そう話すのは、上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)。碓井教授は、芦田と日清食品との奇縁について、こう続ける。
「2011年から、日清の『チキンラーメン』のCMに出演していました。ひよこの着ぐるみのかわいらしい姿が好評でしたが、今年はチキンラーメン誕生60周年。しかも、そのCMキャラ『ひよこちゃん』は、ひよこの世界と人間界をつなぐ存在でもあった。まさにドラマの世界と視聴者をつなぐ存在の語りと同じ。この二重、三重のリンクに、すごいな、NHK大阪放送局と感じました」
日清だけでなく、NHKとの縁も深い。
「11年の『江』で大河ドラマに出演、同年には『マル・マル・モリ・モリ!』で、『紅白歌合戦』にも鈴木福くんと一緒に出ました。14歳にして、NHKの3大看板番組を経験した女優さんになったとも言えます」(碓井教授)
【週刊朝日 2018年9月28日号】
この『まんぷく』、間違っても「チキンラーメン誕生60周年」という企業イベントの一環と思われたりしないよう、ポスト平成時代を生きる視聴者に、新たな女性像や家族像を提示してくれる、刺激的な朝ドラであることを期待しています。

思えば、今年の夏は本当に暑かったですね。気象情報で、「命に危険を及ぼすレベル」という表現を見聞きしたのも初めてです。
今期、そんな猛暑に負けないほど熱かった、男たちのドラマがありました。
沢村一樹の『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』
未然犯罪(まだ起きていない犯罪)を取り締まる。そう聞いて思い出すのはトム・クルーズが主演した映画『マイノリティ・リポート』(02年)です。これから起きる犯罪を予知能力者たちが感知すると、犯罪予防局が犯人になるはずの人物を捕まえていました。
フジテレビの月9『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』で使われたのは、予知能力者ではなくビッグデータです。
履歴から買い物までの個人情報、メールや携帯などの通信データ。さらに監視カメラの映像といった膨大なデータと犯罪データを照合することで、殺人など重大犯罪に走る可能性の高い人物を割り出していく。
ただし、あくまでも警視庁内の極秘プロジェクトなので、「ミハン(未然犯罪捜査チーム)」は警視庁総務部資料課という地味な部署を隠れ蓑にして活動していました。
リーダーは元公安の井沢範人(沢村一樹)です。若手の山内徹(横山裕)、小田切唯(本田翼)などと共に、ミハンシステムがリストアップする危険人物をマークしていきます。
いくつもの事案の中で、大学病院で亡くなった恋人の復讐を遂げようと、顔を整形して別人になりすます女性を、乃木坂46の白石麻衣さんが演じて話題になりましたね。
ターゲットは恋人を死に追いやった、大学の理事長。彼の息子との結婚式当日、「最愛の息子」を殺害することで、罰を与えようという計画でしたが、井沢たちの活躍で未然に防ぐことができたのです。
この井沢、ちょっと複雑な事情を抱えた刑事でした。それは公安にいた頃、叩き潰した犯罪組織からの報復として、妻と娘を殺されたという過去があるからです。自身で実行犯に対する復讐をしかけたため、ミハンに危険人物として指定されてしまったのです。
ふだんは軽口をたたくなど、ひょうひょうとした雰囲気なのですが、ふとした瞬間、ぞっとするほど冷酷な、また悲しげな表情を見せます。沢村一樹さんは、そんな井沢の表と裏をシームレスな演技で見せてくれました。
『ひよっこ』の“おとうちゃん”から、『絶対零度』のリーダーまでを演じ分ける沢村さん。次なる「オトナの男」が楽しみです。
綾野剛の『ハゲタカ』
綾野剛さんといえば、最近だと『コウノドリ』(TBS系)を思い出します。産科医療の現場を舞台に、患者と医療者、夫婦や親子のあり方について、社会背景を踏まえて描いたドラマでした。
主人公の鴻鳥サクラ(綾野剛)は、妊婦の気持ちに寄り添いながら出産をサポートしていく産科医。密かにジャズピアニストの顔も持つ、ミステリアスな私生活も綾野さんにぴったりでした。
そんな綾野さんが今期、挑んでいたのが木曜ドラマ『ハゲタカ』(テレビ朝日系)です。
原作は、2004年に出版された真山仁さんの同名小説。物語の舞台はバブル崩壊後の日本で、「ハゲタカファンド」と呼ばれた外資系投資ファンドを率いる鷲津政彦を軸に、銀行や企業など当時の経済状況や世相も取り込んでいました。
07年にNHKがドラマ化し、09年には映画にもなっています。その両方で主人公を演じたのが大森南朋さんでした。そんな大森さんの印象は強く、今回の綾野さんも比較されることが多かったですね。
しかし、結論から言えば、綾野さんの鷲津も悪くないどころか、オリジナリティのあるキャラが立っていました。綾野さん自身が、大森版など過去の映像作品にとらわれず、自分なりの鷲津像をつくり上げていたからです。
エリートビジネスマン風だった大森版鷲津に対し、インテリヤクザ風の綾野版鷲津。寡黙で伏し目がち、何を考えているのかわからないところが魅力だった大森版に比べ、綾野版は喜怒哀楽を明確に表現していました。
そこから、「死ぬこと以外はかすり傷だ」とか、「あなたはまだ生きている!」といった決めゼリフも生まれてきたわけです。
そうそう、鷲津が何かを考える際、机に両肘をつけ、顔の前で手を組む決めポーズがあります。これがアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の特務機関NERV(ネルフ)総司令であり、主人公・碇シンジの実父でもある、碇ゲンドウにそっくりでした。
和泉聖治監督の遊び心かもしれませんが、ちょっと嬉しかったです(笑)。そんなゲンドウ鷲津と、「使徒」ならぬ「腐った企業」の戦いは、最後まで猛暑に劣らず熱いものでした。
西島秀俊、安田顕、高良健吾の『満願』
1年の中で、お盆ほど「死者」が身近になる時季はありません。8月14日から3夜連続で放送された、ミステリースペシャル『満願』(NHK)は、まさに好企画だったと言えるでしょう。
原作は米澤穂信さんの同名短編集。収録された6編の中から3編を選んで、ドラマ化していました。
第1夜「万灯」の主人公は、商社マンの伊丹(西島秀俊)でした。単身赴任先は東南アジアの某国。天然ガス開発が使命ですが、頓挫していました。打開策は、村を牛耳る人物の殺害です。
伊丹はライバル企業の社員と共に犯行に及ぶのですが、その後、思わぬ事態が待っていました。西島さんが、仕事のためなら何でもする男を、あくまでも淡々と演じることで、観る側が感じる怖さが倍化しました。
また、交番勤務の警官・柳岡(安田顕)が、部下である川藤(馬場徹)の“名誉の殉職”に疑問を抱くのが、第2夜の「夜警」です。
刃傷沙汰の夫婦ゲンカを止めようとした柳岡たちですが、突然、川藤が夫に向かって発砲します。川藤は倒れる寸前の夫に首を切りつけられ、絶命しました。
柳岡は、葬儀で会った川藤の兄から「あいつは警官になるような男ではなかった」という話を聞き、川藤が死ぬ直前「うまくいったのに」という言葉を残したことを思い出します。この作品で、安田さんが見せた「鬱屈を抱えた警官」は絶品。3作中で最も強い印象を残しました。
そして最終夜の「満願」は、弁護士の藤井(高良健吾)が手がける殺人事件を軸に、過去と現在が交差する物語でした。
被告の妙子(市川実日子)は、藤井が学生時代に下宿していた畳屋のおかみさん。夫がつくった借金を取り立てにきた、金貸しの男を刺殺したのです。一本気な藤井と、奥底の見えない妙子。2人の絶妙な距離感がドラマに陰影を与えていました。
制作はNHKと日テレアックスオン。萩生田宏治(第1夜)、榊英雄(第2夜)、熊切和嘉(最終夜)といった演出陣がそれぞれに力量を発揮し、オムニバス映画3本分の見応えがありました。