碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「リモートドラマ」を全部見てわかった、「ドラマ」としての可能性

2020年06月16日 | 「現代ビジネス」掲載のコラム

 

 

エンタメ危機の中、

「リモートドラマ」を

全部見て感じた「可能性」

 

新型コロナウイルスの影響で、新作ドラマの放送延期や制作中断が続いてきた。そんな中で目についたのが「リモートドラマ」だ。

いわゆる「3密」を避けるために、出演者やスタッフがスタジオやロケ先に集まることなく、遠隔撮影といった手法で作られたドラマのことである。

5月から6月にかけて、このリモートドラマが花盛りだった。それぞれに工夫し、独自性を打ち出していた全作品を総括してみたい。

 

本邦初! NHK『今だから、新作ドラマ作ってみました』

本邦初の「テレワークドラマ」といわれたのが、NHK『今だから、新作ドラマ作ってみました』だ。深夜に特別枠を設け、30分で完結する形式のドラマを、3夜で3本、放送した。

5月4日(月)第1夜「心はホノルル、彼にはピーナツバター」

5月5日(火)第2夜「さよならMyWay!!!」

5月8日(金)第3夜「転・コウ・生」

この3本の中で、最も面白く見られたのが、第3夜の「転・コウ・生」だった。タイトルの真ん中が「校」ではなく、「コウ」とあるのは、柴咲コウが出てくるからだ。

出演者は柴咲のほかに、ムロツヨシ、高橋一生という豪華メンバー。しかも、それぞれが「自分」を演じるというのが基本構造だ。

たとえば、最近だとWOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』がそうだったが、有村自身が「女優・有村架純」の役で出てくる。

あくまでもドラマなので全体はもちろんフィクションだが、演じるのも、演じられるのも「本人」であることで、見る側は妄想と言うか、想像力をかき立てられる。

このドラマの中の柴咲は「女優・柴咲コウ」役であり、ムロや高橋も同様に「本人」役だ。その上で、第3夜で展開されたのは、ズバリ「入れ替わり」だった。誰かと誰かの「中身」が入れ替わってしまう。

当然、思い出すのは、この4月に亡くなった大林宣彦監督の映画『転校生』だ。あの作品では、中学3年生の一夫(尾美としのり)と、転校生である一美(小林聡美)の中身、つまり2人の「魂」が入れ替ってしまった。

しかも、大林監督へのオマージュともいえる、こちらの「転・コウ・生」のほうは、もっと複雑だ。

まず、それぞれ自分の部屋にいた、柴咲とムロが入れ替わる。見た目は柴咲で中身はムロ。そしてムロの中身は柴咲。ムロときたら、柴咲の姿のまま「お着替え」などして、柴咲に思いきり叱られる。

また、外見がムロとなった柴咲は、ムロがレギュラー出演している、ネットの「ライブ配信」に、ムロとして出演しなくてはならない。

これだけでも笑えるのに、高橋が、なんと柴咲の愛猫・ノエルと入れ替わってしまう。ネコが高橋としてしゃべるのだ。PCの分割画面に映し出されるのは、柴咲、ムロ、高橋、ネコのノエルだが、それぞれ中身が違う。

さらに途中からは、この「入れ替わり」の組み合わせがランダムになったりして大混乱だ。どうすれば元に戻れるのか。いつまでこれが続くのか。3人にも、皆目わからない。

 

リモートドラマの「熱」

しかし、そんな状況の中で交わされる会話がふるっている。

「(新型コロナの影響で)もう放送できるもの、ないらしいよ」

「企画がOKでも、ロケが出来ないんだって」

「こっちも臨機応変じゃないとね」

「そうやってるうちに、新たな活路も」

「意識も社会も変わっていくかもね」

やがて、「明日は(高橋)一生として生きることにした」と柴咲。「僕も明日はコウとして生きる」と高橋。ノエルの姿をしたムロは「俺はどうするんだあ!」と叫ぶ。

また、そこからが凄い。「いっそ、ネコのままで動画配信、やっちゃおうか」とムロが言い出すのだ。「しゃべるネコ」によるライブ。柴咲も高橋も「(一緒に)出たい!」と絶叫。

確かに、コロナ禍で、エンタメ界も相当なダメージを受けている。だが、それでも、何か出来ることがあるのではないか。出来ない理由を挙げるより、出来る方法を考えよう。出来ることから、やってみよう。3人が、そんな気持ちになっていく。

ラストでは、「月がキレイだよ」と誰かが言い出し、3人と1匹は空を眺める。そこにあるのは「フラワームーン」。5月の満月だ。

見終って、「リモートドラマって、こういうこともやれるんだなあ」と、ちょっと嬉しくなってきた。

脚本は、『JIN-仁―』や『義母と娘のブルース』などの森下佳子。「自分」役であると同時に、「他人」役でもあるという、難しい芝居に挑んだ柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生、それぞれが見事な大暴れだった。

第1夜、第2夜が、実際の社会状況に対して、やけに従順というか、いわば「ステイホーム啓発ドラマ」とでも言うべき内容になっていたこともあり、この第3夜で、リモートドラマの「熱」を感じられたことが最大の収穫だ。

 

NHKの第2弾、『リモートドラマ Living』

この後、NHKは第2弾として、5月30日(土)と6月6日(土)の深夜に、『リモートドラマ Living』(全4話)を放送した。

出演者は広瀬アリスと広瀬すず、永山瑛太と永山絢斗、中尾明慶と仲里依紗、そして青木崇高と優香の4組。つまり、実際の姉妹、兄弟、夫婦というペアだった。

毎回、タイトル通り、リビングルームが舞台で、そこに彼らがいる(優香は声のみ)。通常のドラマ作りのように役者をスタジオに集めるのは困難だが、本物の「家族」なら、「まあ、許されるだろう」といった判断らしい。

それぞれのペアが、「いかにも」「らしいなあ」と思わせる会話を展開する。また、この物語を書いている作家(阿部サダヲ)を登場させた設定も効いていて、それなりに楽しめた。脚本に坂元裕二を持ってきただけのことはある。

ただ、撮影方法はリモートだったかもしれないが、全体として普通のドラマを見ているような印象で、あえて「リモートドラマ」である必要があったのか、なかったのか。少しモヤモヤしたのも事実だ。

 

リモートで新作に挑んだ『家政夫のミタゾノ特別編』

そして民放では、5月29日(金)の『家政夫のミタゾノ特別編~今だから、新作つくらせて頂きました~』(テレビ朝日系)が、リモートドラマに挑戦していた。

主人公は女装の男性、家政夫の三田園薫(松岡)。派遣先の家庭が抱える秘密を暴き、いったんはその家庭を崩壊させるものの、最後には再生の道を示すというのが定型だ。今回は、その全てが見事にリモート画面の中で展開されていた。

ミタゾノが向かったのは、夫(音尾琢真)が出張中で、妻(奥菜恵)だけが居るという家だ。ところが、そこに妻の姿はなく、どこかへ消えていた。

一方、夫のほうは出張先の大阪ではなく、部下で愛人の女性(筧美和子)の部屋にいる。

リモート会議には画面の背景を偽装して参加していたが、ミタゾノの画策で愛人宅にいることがバレてしまう。

いわば「リモート慣れ」が生んだ悲劇というか喜劇で、音尾が緩急自在の快演で大いに笑わせてくれる。

しかも部下たちから「置物上司」と思われていたことも、愛人が計算ずくで接近したことも暴露されてしまう。仕掛け人は妻であり、夫が反省したことで一件落着かと思いきや……。

会社でも家庭でも、またリモートであろうとなかろうと、「大切なのは心の距離」というメッセージも鮮やかで、見ていて飽きないリモートドラマとなっていた。

 

リモートドラマの真打『2020年 五月の恋

WOWOWオリジナルドラマ『2020年 五月の恋』(全4話、5月末から配信・放送)もリモート制作だが、純粋にドラマとして見応えがあった。

画面は完全な2分割だ。別々の部屋に男女がいる。スーパーの売り場を任されているユキコ(吉田羊)と、設計会社の営業マンであるモトオ(大泉洋)。2人は4年ほど前に離婚した元夫婦だ。

在宅勤務のモトオが間違い電話をしたことで久しぶりの会話が始まった。会話はあくまでもスマホを通してのもので、リモートドラマでよく見る、PCを使ったテレビ会議風の絵柄ではない。また全4話は、それぞれ別の夜の出来事だ。

第1話。ユキコは、家族へのウイルス感染を心配する同僚から、独身であることを「うらやましい」と言われ、傷ついていた。口先だけで慰めるモトオをユキコが怒る。驚いたモトオはしゃっくりが止まらなくなり、ユキコも苦笑いしてしまう。

第2話では、離婚の原因が話題となる。別れるかどうかの話し合いの中で、当時、モトオが言った「ユキちゃんはどうしたいの? それに従うよ」という言葉が決定的だったと告白するユキコ。

モトオが家庭でも会社でも、言い争いやけんかを避けるのは、子どもの頃に亡くした妹との辛い思い出が原因だったことが明かされる。

第3話。ずっと気になっていたのに、確かめることを避けていた話になる。現在、付き合っている相手がいるかどうかだが、2人とも不在だった。

そして最終の第4話では、モトオの在宅勤務が終わること、ユキコたちが弁当を届けている病院関係者への共感などが語られる。最後に2人の“これから”についてモトオから提案があり……。

 

紛れもない「ドラマの時間」

この2人のように、互いが別々の場所にいて話をする場合、表情も見えず、思っていることが伝わりづらい。誤解されないようにと言葉が過剰になったり、その逆になったりする。

しかし相手の顔が見えないから言える本音もある。目の前にいない分、少し優しくなれたりもする。

会話だけのドラマを駆動させるのはセリフ以外にない。本来、不自由であるはずの「リモートな日常」を梃子(てこ)にして、人の気持ちの微妙なニュアンスまで描いていたのは、脚本の岡田恵和(NHK連続テレビ小説『ひよっこ』など)の功績だ。

またドラマというより舞台劇、それも難しい一人芝居に近い構造だが、吉田も大泉も見事に演じていた。自身をキャラクターに溶け込ませ、緩急の利いたセリフ回しと絶妙の間で笑わせたり、しんみりさせたりして、「ドラマの時間」を堪能させてくれたのだ。

確かに「リモートドラマ」は緊急対応で、苦肉の策かもしれない。しかし平時以上の創造力が発揮された時、「ドラマ」というジャンルの地平を広げる作品が生まれる。そんな可能性を示す1本だった。

 


言葉の備忘録159 わたくしは・・・

2020年06月15日 | 言葉の備忘録

 

1960年6月15日、

日米安保条約の改定に反対する学生デモが

国会議事堂に突入、

警官隊との衝突で一人の東大生が斃(たお)れた。

弱冠22歳、悲劇のヒロインとして

伝説化していった樺美智子。

 

 

わたくしは

わたくしの信念にしたがって

行動しているんです。

 

 

江刺昭子『樺美智子、安保闘争に斃れた東大生』


コロナ時代の寓話になった、ドラマ「隕石家族」

2020年06月14日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

コロナ時代の寓話

 

緊急事態宣言が解除された。しかし世の中全体がすぐ元に戻るわけではない。それはテレビ界も同様だ。放送延期や制作中断の新作ドラマが急に復活するはずもない。

そんな中、4月にスタートし、5月末に無事ゴールしたのが「隕石家族」(東海テレビ制作・フジテレビ系)だ。しかも期せずして、コロナ禍に対する寓話(一種のたとえ話)となっていた。

そもそも設定がユニークだ。巨大隕石が地球に向っており、半年後に激突して人類は滅亡するというのだ。人々は動揺し、渋谷の街で暴動が起きたり、東京から地方へと疎開する人たちが現れる。

ドラマでは、都内で暮す普通の一家が描かれる。会社員の門倉和彦(キャイ~ン 天野ひろゆき)。妻の久美子(羽田美智子)。長女で教師の美咲(泉里香)。次女の結月(北香那)は受験生。そして和彦の母、正子(松原智恵子)の五人家族だ。

テレビのニュースでは毎日、「隕石情報」が流される。アナウンサーは「今日も隕石の進路に変化はありません」などと伝え、市民は人類滅亡を既定路線として受け入れている。そんな「非日常的日常」が可笑しい。

ところが突然、久美子が「私、好きな人と一緒に暮したいの!」と爆弾宣言をする。高校時代に憧れていたテニス部のキャプテン(中村俊介)。当時は思いを打ち明けられなかったが、今度こそ伝えたい。「今しかないと思うの。自分の気持ちに正直になりたい!」と主張するのだ。

実はこの後、他の家族も自分らしく生きようと動き出す。いわば「隕石効果」だ。毎回、誰かの「衝撃の告白」が炸裂する脚本は、大河ドラマ「花燃ゆ」などを手掛けてきた小松江里子である。

そして問題の巨大隕石だが、なんと途中でコースを変えてしまう。そうなると、短い余命を前提にした勝手な言動のツケが回ってきて大騒ぎだ。しかもその後、隕石が再び地球へと向きを変えるというシュールな展開が待っていた。まるで緊急事態宣言を解除した直後に、強烈な第二波が襲ってくるようなものだ。

非常時だからこそ、あらためて「日常」を大切にして生きようとするこの家族、ウイズ・コロナ時代のロールモデルになるかもしれない。

(しんぶん赤旗「波動」2020.06.08)


週刊新潮「私の週間食卓日記」全文

2020年06月12日 | メディアでのコメント・論評

 

 

週刊新潮「私の週間食卓日記」

 

コロナ禍にテレビと読書三昧

いえ、仕事です。

 

碓井広義 (メディア文化評論家)

1955年、長野県生まれ。テレビマンユニオン・プロデューサー、慶大助教授などを経て、今年3月まで上智大教授。近著に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」(新潮新書)。

 

この春、大学を定年退職。緊急事態宣言とほぼ同時だったので、そのまま「在宅ワーク」に突入した。

5月13日(水)

NHK朝ドラ『エール』を見ながら朝食。まず納豆と豆腐を食べ、トースト・牛乳・トマトと続く。昼食もバナナ入りシリアルに牛乳が定番。昨年の夏、機内誌で読んだ浅田次郎さんのエッセイに、「朝夕の納豆と豆腐で減量に成功」とあり、さっそく実践。毎日30分の散歩も加えた9カ月で体重は8キロ減り、血糖値や血圧の数値も大幅に改善された。日中、片岡義男『彼らを書く』とオリヴィエ・ゲズ編『独裁者が変えた世界史』上下巻を読み進める。18年続けている週刊新潮の書評用だ。夕食のメインは「よだれ鶏」。ニンニクとピリ辛だれが堪らない。深夜ドラマ『レンタルなんもしない人』(テレビ東京系)を見て、いつもの午前2時に就寝する。

5月14日(木)

週刊現代の電話取材あり。テーマは「70年代の忘れられない本」。村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』を挙げた。79年、自分の進む方向がまだ見えず、模索していた20代半ばに読んだ一冊だ。動画配信サービスの利用が増えた。今、ハマっているのは、Netflixの韓流ドラマ『愛の不時着』。財閥の後継者であるヒロイン(ソン・イェジン)が、パラグライダーの事故で北朝鮮に侵入してしまう。途方もない物語だが、すこぶる面白い。夕食は信州にいる母が送ってくれた「開田高原そば」。麺もつゆも美味しく、つい食べ過ぎてしまう。WOWOWで放送していた、タランティーノ監督『ヘイトフル・エイト』3時間7分を見て寝る。

5月15日(金)

北海道新聞から書評を依頼された本、川島博行『日高晤郎フォーエヴァー』が届く。道内のテレビ局で15年間、コメンテーターをさせていただいた。土曜の昼間、札幌でタクシーに乗ると、ほぼ100%の確率で「日高晤郎ショー」(STVラジオ)を聴くことができた。亡くなったのは一昨年だが、お元気ならリモート出演でも番組を続けていたはずだ。週に1本のペースとなっている、「ヤフー!ニュース」のコラムを書く。テーマは、コロナ禍に揺れるテレビの現在とこれからについてだ。夕食は、『チコちゃんに叱られる!』(NHK)を見ながら、我が家の人気メニュー「アヒージョ」。オリーブオイルに浸したパンも好き。80年代半ばから35年続けている、日刊ゲンダイのコラムの参考として吉田修一さんの小説『路(ルウ)』を読む。今夜も就寝は午前2時。

5月16日(土)

朝から週刊新潮の書評本を読む。同時に来週掲載分のゲラ直し。取り上げたのは瀬川裕司『映画講義 ロマンティック・コメディ』だ。休憩時間には、今年1月に亡くなった坪内祐三さんの著作を『ストリートワイズ』から読み直している。現在、5冊目の『文庫本を狙え!』。書店に並ぶ文庫の新刊を眺め、「これは坪内さんが書きそうだ」と予測するのが楽しみだった。残念だ。夕食は、いわゆる「刺身定食」。貝類が大好きなので、折り重なるように並ぶ赤貝やトリ貝に拍手する。23時から、ETV特集『お父さんに会いたい〜“じゃぱゆきさん”の子どもたち〜』(NHK)を見た。生きづらい人生を、必死で生きようとする人たち。静かな語り口で、社会と人間の実相を見せてくれた。

5月17日(日)

昨夜放送された、波瑠主演の土曜ドラマ『路~台湾エクスプレス~』(NHK)を録画再生。原作とも比較し、日刊ゲンダイのコラムを書く。大河ドラマ『麒麟がくる』を見ながら、義母が作ってくれた筑前煮やエリンギの粕漬などが中心の夕食。思えば、大河は第1作の『花の生涯』(1963年)から全部リアルタイムで見てきた。9年前、異色の学園ドラマ『鈴木先生』(テレビ東京系)で注目した長谷川博己さん。大河の主演が実現したことは感慨深い。

5月18日(月)

終日、週刊新潮の書評を書く。前記の2冊に『少女漫画家 赤塚不二夫』も加わる。よく知られた「ひみつのアッコちゃん」以外にも、赤塚は大量の少女漫画を生み出している。「ジャジャ子ちゃん」、「まつげちゃん」、「へんな子ちゃん」など、タイトルだけで笑ってしまう。夕食は信州から取り寄せた「おやき」。鉄火みそ、切り干し大根などが入った故郷の味だ。録画しておいた『隕石家族』(東海テレビ制作、フジテレビ系)を見る。新作が軒並み放送延期や制作中断となる中、貴重な連ドラだ。しかも設定がふるっている。数カ月後に巨大隕石が地球に衝突し、人類滅亡は不可避。と思いきや、突然隕石がコースを変えてしまう。そんな「緊急事態」に振り回される、ごくフツーの家族の「非日常的日常」がおかしい。

5月19日(火)

書評本『日高晤郎フォーエヴァー』を読み、原稿を書く。夕方の散歩では書店に立ち寄るのがルーティンだ。先週最終回を迎えた、WOWOWのドラマ『鉄の骨』。池井戸潤さんの同名原作小説が読みたくなり、文庫本を購入。かつて北海道の大学に単身赴任していた6年間、毎晩食事していたのが千歳の「柳ばし」だ。おかみさんが送ってくれたホッケを焼いて夕食。家族に小さな祝い事があり、久しぶりの缶ビール。1本だけなのにほろ酔いで、今夜は仕事にならない。第1回から楽しんでいる『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)は、今週も名場面を集めた総集編。地方への「出張」コーナーを含め、番組全体が復活する日を待ちたい。

(週刊新潮 2020年6月4日号)


「捨ててよ、安達さん。」 自分は何に執着していたのか?

2020年06月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ドラマ25「捨ててよ、安達さん。」

自分は何に執着していたのか?


リモート勤務で在宅時間が増えた。すると家の中が気になってくる。「モノが多いなあ」と思った人、このドラマは必見だ。安達祐実主演「捨ててよ、安達さん。」(テレビ東京系)である。

安達が演じるのは「女優の安達祐実」。全体はもちろんドラマだが、安達が「不要の私物を捨てる」という雑誌の連載企画を引き受けるのだ。

これまでに、見ないまま死蔵していた出演作の「DVD」、ため込んだ「レジ袋と輪ゴム」、懐かしい「ガラケー」、そして若い頃に背伸びして買った「高級ハイヒール」などを捨ててきた。

しかも夢の中で、こうした品々が人間の姿となって安達の家を訪問してくる。彼らと対話しながら思い出や記憶を映像で振り返り、最後には気持ちよく、納得した上で手放していくのだ。

秀逸だったのは「本」をめぐる回だ。安達の愛読書である小池真理子の恋愛小説「狂王の庭」。その単行本(松本まりか)と文庫本(徳永えり)が現れ、「どちらかを捨てて」と迫る。さらに、そこへ少女がやってくるのだが、シレッとした彼女は電子書籍版だった。シュールな舞台劇みたいで笑える。

確かにモノを捨てるのは面倒で、後回しにしたくなる。このドラマでの発見は、モノと向き合い、自分が何に執着していたのかを知ることの効用だ。安達さんにならって、心の重荷も捨てちゃおう!

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!2020.06.10


言葉の備忘録158 いいアイデアが・・・

2020年06月10日 | 言葉の備忘録

スヌーピーのきょうだい オラフ

 

 

 

いいアイデアが

浮かんだら、

まずは

使ってみることです。

 

 

チャールズ・M・シュルツ

チャールズ・M・シュルツ 勇気が出る言葉』

 

 


「路~台湾エクスプレス~」 丁寧に織られた“つながり”の物語

2020年06月09日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

「路(ルウ)~台湾エクスプレス~」

丁寧に織られた“つながり”の物語

最近、頻繁に目にするようになったのが「リモートドラマ」だ。出演者がスタジオやロケ現場に集まるのではなく、それぞれの場所にいながら自らの役を演じていく。画面がパソコンを使った「リモート会議」のような絵柄であることも含め、さまざまな制約を承知の上での取り組みだ。たとえどんな形でもドラマを作りたい、見てもらいたいという意欲、そしてチャレンジ精神が頼もしい。

そんな中、全3話とはいえ、オーソドックスな作りの秀作ドラマがあった。5月半ばから月末に放送された、NHK土曜ドラマ「路(ルウ)~台湾エクスプレス~」だ。台湾エクスプレスとは、2007年に運行を開始した台湾新幹線のことである。日本の700系新幹線をベースにした700Tという車両を導入し、4時間以上かかっていた台北と高雄の間を約90分で結ぶようになった。

タイトルだけ見ると、日本が協力した台湾新幹線の開業までを追う「プロジェクトX」のような内容が思い浮かぶ。しかし、これは新幹線実現への歳月を物語の時間軸としながら、日本人と台湾人の運命的な“つながり”を描いていくドラマだ。

学生時代から台湾が大好きだった、主人公の多田春香(波瑠)。大手商社に就職して4年目、台湾新幹線プロジェクトに参加する。だが、春香は日本に残る恋人に言えない秘密を抱えていた。最初の台湾旅行で出会った、エリック(アーロン)という台湾人青年への思いだ。連絡先のメモを探し出せないままだったが、やがて2人は8年ぶりの再会を果たす。しかし、単なる「国境を越えた恋」とは違う。男と女ではあるが、何より人として好ましく、また“こころの支え”として大切な存在なのだ。

この「日台共同制作ドラマ」は、春香とエリック以外の“つながり”も見せてくれる。日本統治下の台湾で生まれ育った老人(高橋長英)と台湾人の元同級生。春香が一緒に働く先輩社員(井浦新)とホステスの台湾人女性などだ。彼らは、いずれも国籍や立場の違いから相手を傷つけてしまうが、徐々に分かり合い、許し合っていく。

原作は吉田修一の小説。脚本は「篤姫」などの田渕久美子。演出は「花子とアン」の松浦善之助だ。美しいだけでなく、どこか懐かしい台湾の町並みと自然。それを背景に、繊細な感覚で丁寧に織られていく物語は、見る側の気持ちを静かに揺さぶる。いいドラマに出会った時の喜びを思い出させてくれた。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2020.06.06)


【気まぐれ写真館】 今夜も見上げれば、月

2020年06月09日 | 気まぐれ写真館

2020.06.08


『大恋愛~僕を忘れる君と』特別編は、難病モノを超えた「愛と覚悟」の物語

2020年06月08日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

『大恋愛~僕を忘れる君と』特別編は、

難病モノを超えた「愛と覚悟」の物語

 

6月5日(金)夜、『大恋愛~僕を忘れる君と』特別編の第1話が放送されました。

2018年の秋クール、金曜ドラマの枠でスタートする前、正直言って懸念がありました。まず、恋愛ドラマであることはわかったのですが、自ら「大恋愛」だと言い切る、大胆なタイトルに驚いたのです。

また当時、番組サイトでは「若年性アルツハイマーにおかされた女医と、彼女を明るく健気(けなげ)に支える元小説家の男」の物語だと紹介されていました。

「なんだ、よくある難病モノかあ」と思ったり、「韓流ドラマみたいな話?」と感じたりする人も多いのではないかと気になったのです。似たようなシチュエーションだと、韓国映画『私の頭の中の消しゴム』(2004年)といった佳作もありましたから。

そうそう、『私の頭の中の消しゴム』のヒロイン、ソン・イェジンさん。最近は、Netflix『愛の不時着』が話題ですよね。

そして、『大恋愛』のヒロインは戸田恵梨香さん。どんなドラマでも的確に役柄を表現できる力を持つ女優さんですが、当時、「代表作は?」と聞かれたら、すぐに答えられませんでした。

またムロツヨシさんは、当時も今も、個性派という呼び方がぴったりな、いい意味でクセの強い俳優さんです。たとえば『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)のようなカルトドラマでの怪演は誰にもまねできません。「そんな2人で難病系恋愛ドラマ?」と心配したのです。

しかし実際に始まってみると、まさに杞憂(きゆう)でした。ヒロインの北澤尚(戸田)は難病を抱えていますが、それは単なる恋愛の背景ではありません。生きること、愛することを突き詰めて描くための設定になっていました。

新人賞を取りながら筆を折っている作家、間宮真司(ムロ)は、尚にとってようやく出会った運命の人です。しかし自身の病気を知ったことで、後に、尚はうそをついてでも真司と別れようとします。

今回の特別編、来週も続くようですが、基本的に「放送回数未定」ということなので、どこまで見せてもらえるのか、分かりません。できれば、これから描かれる2人の「愛と覚悟」を、きちんと見直してみたいのです。

特に戸田さんは、もしかしたら朝ドラ『スカーレット』より、いいかもしれません。いや、本来は順番が逆で、『大恋愛』での高評価は、『スカーレット』での起用にもつながったはずなのです。

それを承知で言えば、『大恋愛』の戸田さんは、いずれこのドラマの名場面となる、絶品の「泣き笑い」が象徴するように、ひときわ輝いていました。もちろん、ムロさんも。そんな2人の演技を再度見ることができるのは、喜ばしいことです。

ちなみに、脚本の大石静さんは、この作品で、「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」18年10月期の「脚本賞」を受賞しました。

切ない物語でありながら、どこか明るい世界観。「記憶を失っていく恋人」というベタな設定であるにもかかわらず、説得力のあるストーリー展開。2人の魅力的なキャラクターと会話の妙。

この特別編でも、あらためて大石さんの熟練の技を楽しみたいと思います。


西日本新聞に、『倉本聰の言葉』の書評コラム

2020年06月07日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

九州の西日本新聞に、

『倉本聰の言葉―ドラマの中の名言』

についての書評コラムが

掲載されました。

 

筆者である、

編集委員の上山武雄氏に

感謝いたします。

 

 

 名ぜりふに学びたい 

山上武雄

くらし文化部編集委員)

 

昨今のマスク越しの会話に、この言葉が挟まる。「こんな時期ですからね」。“こんな”。説明しなくてもこんなことが、どんなことか分かってしまう。自粛せざるを得ない、そんな時期に、巣ごもりしてこんな本を読んだ。

「倉本聰(そう)の言葉 ドラマの中の名言」(新潮新書)。「前略おふくろ様」「北の国から」「やすらぎの郷(さと)」など数々の名作を書いてきた脚本家の倉本聰さん(85)。倉本さんに師事してきた元上智大教授の碓井(うすい)広義さんが、ドラマの名ぜりふをまとめた。テレビドラマ界の巨人による言葉は、いずれも普遍性に富む。

「人と人とが信じ合わなくなったらこの世は何と暗くなることか」

NHK時代劇「文五捕物絵図」で岡っ引きの文五(杉良太郎さん)が発した。文五の嘆きを碓井さんは「格差社会、分断社会といわれる、生きづらい現代社会と、そこに生きる私たちに対する警鐘にも聞こえる」と解説する。放送開始は1967年。50年以上たっても痛切に感じる。

やすらぎの郷(2017年)では高井秀次(藤竜也さん)が「人は忘れます、そのうち過ぎたことを。東日本大震災のことだって。原発事故のことだって。-みんな簡単に忘れたじゃないスか。いけませんよね、そういうこと忘れちゃ」。突き刺さる。

「かれらには何でもできるのだ。どんな無法でも、どんな残酷なことでも、幕府の名をもって公然と押しつけることができる」。赤ひげ(197273年)新出去定(にいできょじょう)(小林桂樹さん)のせりふ。権力者はいつの時代でもか。こんな時期、よけいに思う。

同じく新出の「人間を愚弄(ぐろう)し、軽侮するような政治に、黙って頭を下げてしまうほど、老いぼれでもなけりゃあ、お人好しでもない。俺は-」。

あにき(77年)で神山栄次役を演じた高倉健さんは劇中「人には通すべき筋ってもンがある」。そうです。健さんのおっしゃる通り。

倉本さんはせりふに「ん」ではなく「ン」をよく使う。以前取材した時、「ん」より「ン」の方が「はねる感じがあるから」と教えてくれた。演者の口ぶりが生き生きとする。

そして「モノには必ず終(おわ)りってモンがある。うン」。

「北の国から’98 時代」で北村草太(岩城滉一さん)が別れについて語ったものだ。

少々強引かもしれないが、「モノには」を「こんな時期も」と置き換えたい。いつか誰もが“当事者”であるこんな時期から解放されて、あんな時期があった、と。希望を持ちたいなあ。うン。

(西日本新聞 2020.06.05)

 


リモートドラマの可能性示す「2020年 五月の恋」

2020年06月07日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

週刊テレビ評

「2020年 五月の恋」 

リモートドラマの可能性示す

 

このところ目につくのが「リモートドラマ」だ。新型コロナウイルス対策で、出演者やスタッフがスタジオやロケ先に集まることなく、遠隔撮影といった手法で作られたドラマを指す。WOWOWの「2020年 五月の恋」(全4話、5月末から配信・放送)もリモート制作だが、純粋にドラマとして見応えがあった。

画面は完全な2分割だ。別々の部屋に男女がいる。スーパーの売り場を任されているユキコ(吉田羊)と、設計会社の営業マンであるモトオ(大泉洋)。2人は4年ほど前に離婚した元夫婦だ。在宅勤務のモトオが間違い電話をしたことで久しぶりの会話が始まった。

第1話。ユキコは、家族へのウイルス感染を心配する同僚から、独身であることを「うらやましい」と言われ、傷ついていた。口先だけで慰めるモトオ。怒るユキコ。驚いたモトオはしゃっくりが止まらず、ユキコも苦笑いだ。

第2話では、離婚の原因が話題に。当時、モトオが言った「ユキちゃんはどうしたいの? それに従うよ」という言葉が決定的だったと告白するユキコ。モトオが家庭でも会社でも、言い争いやけんかを避けるのは、子どもの頃に亡くした妹の思い出が原因と分かってくる。

そして第3話。ずっと気になっていたのに、確かめることを避けていた話になる。現在、付き合っている相手がいるかどうかだが、2人とも不在だった。最終話ではモトオの在宅勤務が終わること、ユキコたちが弁当を届けている病院関係者への共感などが語られる。最後に2人の“これから”についてモトオから提案があり……。

会話だけのドラマを駆動させるのはセリフ以外にない。しかも別々の場所にいて表情も見えず、微妙なニュアンスが伝わりづらい。誤解されないようにと言葉が過剰になったり、その逆だったりする。

しかし相手の顔が見えないから言える本音もある。目の前にいない分、少し優しくなれたりもする。本来、不自由であるはずの「リモートな日常」を梃子(てこ)にして、人の気持ちの微妙なニュアンスまで描いていたのは、脚本の岡田恵和(NHK連続テレビ小説「ひよっこ」など)の功績だ。

またドラマというより舞台劇、それも難しい一人芝居に近い構造だが、吉田も大泉も見事に演じた。自身をキャラクターに溶け込ませ、緩急の利いたセリフ回しと絶妙の間で笑わせたり、しんみりさせたり。「ドラマの時間」を堪能させてくれた。

確かにリモートドラマは緊急対応で、苦肉の策かもしれない。しかし平時以上の創造力が発揮された時、ドラマというジャンルの地平を広げる作品が生まれる。そんな可能性を示した。

(毎日新聞夕刊 2020.06.06)


言葉の備忘録157 男なんか・・・

2020年06月06日 | 言葉の備忘録

 

 

 

男なんか信じちゃいけない

自分を信じるんだ

 

 

映画ANNAアナ監督:リュック・ベッソン

 

 


読売新聞で、「コロナ禍と番組制作」について解説

2020年06月05日 | メディアでのコメント・論評

 

 

コロナ禍の番組制作 どう生かす?

リモート 中身あれば成立

 

碓井広義さん

メディア文化評論家

 

リモート出演者が顔だけモニターで出演する番組には、徐々に慣れていったが、見ていてどこかストレスを感じていたことは否めない。

出演者が、みなカメラの方を向いている均一な構図は奇妙だったし、顔を合わせて話をすることで生まれる間合いや呼吸は失われてしまった。制作者も苦労があったこ
とだろう。

もちろん、楽しませる番組はあった。「月曜から夜ふかし」(日本テレビ系)は、関ジャニ∞の村上信五とマツコ・デラックスの司会で、街の変わった話題を紹介する番組だが、緊急事態宣言後は、2人の顔すら映さず、電話での会話だけで構成する回があった。

番組の顔である司会者が声だけの出演とは、と驚いたが、十分成立していた。ネタがしっかりしており、視聴者も番組の性格を了解しているからこそだろう。

また、ドラマでも、NHKが、打ち合わせやリハーサル、収録まで完全リモートで制作した「今だから、新作ドラマ作ってみました」という野心作を生み出した。これもまた、新機軸のドラマとして見ることができた。

なるほど、テレビはこれでも行けると分かったが、では、これまで普通だと思っていたテレビは、一体何だったのかと考えてしまった。

リモートで成功したといえる番組は、どれも濃い中身があったからこそ、緊急事態下でも充実したものを見せられた。今後、漫然と作られてきた番組は、選別されていくのではないか。

生き残るのは、シンプルでも、語るべきもの、見せるべきものが確固としてある番組だろう。そして、そんなタレントも同様に重宝されるだろう。日本でテレビ放送が始まってもうすぐ70年になる。硬直化したように思えたテレビのあり方が、今回の事態で刷新されていくかもしれない。

(読売新聞 2020.06.01)

 

 


「家政夫のミタゾノ」特別編は、出色のリモートドラマ

2020年06月04日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

出色のリモートドラマ

「家政夫のミタゾノ」特別編

~今だから、新作つくらせて頂きました~

 

松岡昌宏主演「家政夫のミタゾノ」は今期が第4シリーズ。4月にスタートしたものの3話以降の放送は延期され、ずっと傑作選が続いている。しかし先週、「リモートドラマ」の形で“新作”が披露されたのだ。

主人公は女装の男性、家政夫の三田園薫(松岡)。派遣先の家庭が抱える秘密を暴き、いったんはその家庭を崩壊させるものの、最後には再生の道を示すというのが定型だ。今回は、その全てが見事にリモート画面の中で展開されていた。

ミタゾノが向かったのは、夫(音尾琢真)が出張中で、妻(奥菜恵)だけがいる家。ところが、その妻はどこかに消えていた。

実はこの夫、出張先の大阪ではなく、部下で愛人の女性(筧美和子)の部屋にいる。リモート会議には画面の背景を偽装して参加していたが、ミタゾノの画策で愛人宅にいることがバレてしまう。

いわば「リモート慣れ」が生んだ悲劇というか喜劇で、音尾が緩急自在の快演で大いに笑わせてくれる。しかも部下たちから「置物上司」と思われていたことも、愛人が計算ずくで接近したことも暴露されてしまった。仕掛け人は妻であり、夫が反省したことで一件落着かと思いきや……。

会社でも家庭でも、またリモートであろうとなかろうと、「大切なのは心の距離」というメッセージも鮮やかで、見ていて飽きない出色のリモートドラマとなっていた。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2020.06.03)


サントリー「ほろよい」CM 設定・配役の妙

2020年06月03日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

サントリー ほろよい

「グレープもあの味だ」編

設定・配役の妙、化学反応に酔う

 

ドラマでは、登場人物たちが出会うことで発生する一種の「化学変化」が物語を動かしていく。脚本家・倉本聰さんの言葉だ。2人がどんな人間で、いかなる人生を歩んできたか。そんな見えない過去のぶつかり合いが重要なのだ。それはCMも同じかもしれない。

ほろよい部のカウンターをはさんで向き合っているのは、黒木華さんと佐藤二朗さんだ。「葡萄ではなく、グレープだと思って飲んで」と佐藤さんに促され、「グレープ、グレープ」と呪文のように唱えながら試す黒木さん。「あの味や!」と関西出身らしい感激ぶりが楽しい。

そこには、困った男たちと離れて自立した「凪のお暇」の凪ちゃんと、独りごと一歩手前のおしゃべりを続けていた「勇者ヨシヒコ」の仏さまが、それぞれ進化した形で存在している。そして不思議な化学反応が起きている。

設定と配役の妙が生み出す、予測不能なサスペンスとユーモア。見る側はそれに酔うのだ。

 (日経MJ「CM裏表」2020.06.01