碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

『おちょやん』美しい終幕と、「実録路線」の難しさ

2021年05月16日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

朝ドラ『おちょやん』

美しい終幕と、「実録路線」の難しさ

 
「めでたし、めでたし」の終幕
 
NHK連続テレビ小説『おちょやん』が終了しました。
 
終盤、主人公の竹井千代(杉咲花)は、NHK大阪放送局が制作したラジオドラマ『お父さんはお人好し』で復活し、全国的な人気を得ます。
 
さらに、別れた夫である天海一平(成田凌)と共に道頓堀の舞台に立ち、親しい人たちからの熱い声援を受けました。
 
花も嵐も踏み越えて、ついに「今ある人生、それがすべてですな」の心境に至った千代。めでたし、めでたしという終幕です。
 
まずは、杉咲さんをはじめとするキャスト、そしてスタッフに拍手です。コロナ禍の中での制作、おつかれさまでした!
 
「実録路線」の難しさ
 
一方、ここまで見てきて、あらためて感じたのは、「実録路線」の難しさでした。
 
千代のモデルは、ご存知のように浪花千栄子です。
 
ラジオドラマ『お父さんはお人好し』も、タイトルもそのままの実在の作品で、昭和29年(1954)に始まり、10年も続いた人気番組でした。
 
千栄子は、このドラマのおかげもあって、「大阪のお母さん」と呼ばれるようになります。
 
しかし、主演はあくまでも「お父さん」である花菱アチャコで、千栄子は助演でした。
 
実録路線の難しさは、まさにモデルの存在にあります。
 
「なかったこと」を、あったかのように見せるのは抵抗が生じる。
 
逆に「あったこと」でも、遺族や関係者への配慮、また制作側の都合などで描かない場合が少なくありません。
 
たとえば、戦後の浪花千栄子は、溝口健二監督の『祇園囃子(ぎおんばやし)』や『山椒大夫』などで高い評価を得ています。
 
テレビドラマでは、『細うで繁盛記』(読売テレビ制作、日本テレビ系)もありました。
 
いや、それ以上に千栄子の顔と名を広めたのは、「オロナイン軟膏(なんこう)」のCMかもしれません。
 
しかし、『おちょやん』では、戦後の活躍として、NHKのラジオドラマだけが描かれて、終りました。
 
なぜ今、「浪花千栄子」だったのか?
 
思えば、制作側はなぜ今、「浪花千栄子がモデルの朝ドラ」を見せたかったのか。
 
結局、最後まで、よく分かりませんでした。
 
確かに、浪花千栄子は喜劇女優として只者ではありません。また、その半生は、笑いとはほど遠い壮絶なものでした。
 
酒と博打に明け暮れ、働かない父親。幼い頃から、まるで売り飛ばされるように何度も奉公に出されました。
 
やがて女優を目指すものの、「その他大勢」の時代が続きます。
 
ようやく舞台で生きられるようになり、座長の二代目渋谷天外と結婚しますが、夫の女性問題に悩み続けました。
 
しかも天外の道楽ぶりは、ドラマの「一平さん」の比ではありません。
 
結局、夫が愛人の女優との間に子供を持ったことで、20年の結婚生活に幕を下ろすことになります。
 
ラジオやテレビでの活躍は離婚してからのことですが、千栄子は元夫の渋谷天外による仕打ちを、決して許しませんでした。
 
天外が、自分には経済的な苦労をかけ続けたのに、不倫の末に再婚した女優と子どものために、大きな家を建てたことにも憤慨していました。
 
「ならば自分も立派な家を建てて見返してやろう」と決意し、実行します。
 
ましてや、ドラマにあったように、まるで天外と「和解」したような形で、同じ舞台に立つなど、あり得ません。
 
このドラマをきれいに終わらせるためには、道頓堀の舞台に2人が並ぶことが必要だったのでしょう。
 
けれど、千栄子の自伝『水のように』にも、ラジオドラマと並行して、天外と共演したという記述は出てこないのです。
 
その代わりに、天外に向けた、こんな言葉を残しています。
 
「よく、ひっぱたいてくださいました。よく、だましてくださいました。よく、あほうにしてくださいました。ありがたく御礼を申しあげます」
 
さらに、
 
「二十年のあなたとの辛酸(しんさん)の体験に物言わせて、人間渋谷天外を、平伏(へいふく)さすようなりっぱな仕事を残したいものと、念願いたしています」
 
意地と根性は千栄子の支えと言っていい。
 
「実録路線」の宿命
 
そんな千栄子と千代が比べられるのも、「実録路線」の宿命かもしれません。
 
その意味で、千栄子にあって千代に欠けていたのは、人間としての「凄(すご)み」と、女優としての「艶(つや)」でした。
 
もっと言えば、千栄子の持つ「業(ごう)」のようなものが、ドラマの千代には希薄だった。
 
千栄子との重なり過ぎを怖れず、きちんと描くべき「葛藤」と、それを伝える「物語」が、やや不足していたのです。
 
そのため、どこか隔靴掻痒(かっかそうよう)のキレイゴトに見えてしまう部分がありました。
 
もう一点は、「主演女優」である杉咲花さんのことです。
 
その高い集中力による演技は見事なものでした。
 
しかし残念なことに、その愛らしい童顔と相まって、千代が何歳になろうと、それなりの「老けメイク」をしようと、生真面目な「女子高生」に見えてしまう。
 
もちろん、これはキャスティングした制作側の問題であって、杉咲さん本人に非はありません。その健闘は讃えられるべきものです。
 
ドラマ全体も健闘してはいたのですが、「なぜ今、浪花千栄子だったのか」という疑問は残ってしまいました。
 
「架空路線」のヒロイン『おかえりモネ』
 
5月17日(月)からは、新たな朝ドラ『おかえりモネ』が始まります。
 
こちらは、実録路線ではなく、架空の現代女性が主人公です。
 
ヒロインの架空路線には、『あまちゃん』(13年)のような異色の傑作もあれば、『まれ』(15年)などのように迷走した作品もあります。
 
気仙沼生まれで、気象予報士を目指すという永浦百音(清原佳那)。果たして、どんな物語を届けてくれるのか、楽しみです。
 

産経新聞で、「朝ドラ60年」について解説

2021年05月15日 | メディアでのコメント・論評

(産経新聞 2021.05.14)


【気まぐれ写真館】 2021年5月の赤坂「金松堂書店」

2021年05月14日 | 気まぐれ写真館

今年3月末に閉店。80年代から、随分お世話になりました。

(写真=週刊現代)


松たか子「大豆田とわ子と三人の元夫」は 、続きが見たくなる大人のドラマだ

2021年05月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

松たか子「大豆田とわ子と三人の元夫」は

続きが見たくなる大人のドラマだ

 

今期、最も“クセになる”ドラマである。「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ制作、フジテレビ系)のことだ。

大きな物語が展開されるわけではない。大豆田という珍しい名字を持つ、とわ子(松たか子)。彼女の元夫で、平凡な名字の田中(松田龍平)、佐藤(角田晃広)、中村(岡田将生)。この4人の「日常」と「微妙な関係」が淡々と描かれていく。

ただし、ぼんやりと見ているわけにはいかない。なぜなら、一つのセリフも聞き漏らすことができないからだ。というか、これほど「セリフ命」なドラマも珍しい。

たとえば、皮肉ばかり口にする中村に対して、佐藤が言う。「人から嫌われることが怖くなくなったら、怖い人になりますよ」。

また、とわ子が親友の綿来かごめ(市川実日子、好演)に、元夫との関係が「面倒くさい」と愚痴る。すると、かごめがこう答えた。「面倒くさいって気持ちは好きと嫌いの間にあって、どっちかっていうと好きに近い」と。ドラマ全体が、まるでアフォリズム(警句)を集めた一冊の本みたいだ。

脚本は坂元裕二。2017年の「カルテット」(TBS系)同様、舞台劇のような言葉の応酬はスリリングで、行間を読む面白さがある。

そして、セリフが持つニュアンスを絶妙な間と表情で伝える俳優陣も見事。万人ウケはしなくても、続きが見たくなる大人のドラマだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.05.12)


突破する「大泉洋」の凸版印刷CM

2021年05月12日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

既成概念打破、大泉さんが発信

凸版印刷「TOPPA!!! TOPPAN立ち上がり」編

 

20年前、北海道の大学に単身赴任し、初めて「水曜どうでしょう」(北海道テレビ)を見た。そして大泉洋さんの面白さに圧倒された。

とはいえ、当時の芸風は大暴走の無手勝流。やがて「ノーサイド・ゲーム」で日曜劇場の主役となり、NHK「紅白歌合戦」の司会を務める国民的俳優になるとは思いもしなかった。

凸版印刷の新作CMもじわじわとおかしい。成田凌さんの前に現れた大泉さんが、「凸版のこと、印刷の会社だと思っていません?」と訊く。名前からして印刷会社だと答える成田さんを、大泉さんが諭す。「突破する会社ですよ!」

確かに現在の凸版印刷は、情報コミュニケーションからエレクトロニクスまでを扱う先端技術企業だ。印刷会社の既成概念を自ら壊してきた軌跡は、いくつもの壁を越えながら進化してきた大泉さんと通じるものがある。

突破する企業、突破する俳優。転がる石に苔はつかない。

(日経MJ「CM裏表」2021.05.10)

 


北海道新聞に、「少しぐらいの嘘は大目に」の書評

2021年05月11日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

 
 

少しぐらいの嘘(うそ)は大目に

ー向田邦子の言葉ー

向田邦子著、碓井広義編


数々の傑作ドラマで昭和の日本人を活写した向田邦子。航空機事故で世を去って40年、元テレビマンの評論家が、脚本や随筆、小説から名言・名せりふをよりすぐった。男と女、家族、仕事、人生。人をはっとさせる鋭い洞察と、きれいごとだけでは生きていけない庶民への愛惜が、時代を超えて心に響く。【新潮文庫 605円】

(北海道新聞 2021.05.09)

 


ようやく授業開始? 『ドラゴン桜』への違和感と期待感

2021年05月10日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

ようやく授業開始? 

『ドラゴン桜』への「違和感」と「期待感」

 
初回の驚き
 
日曜劇場『ドラゴン桜』(TBS系)の第1話を見たとき、正直言って、ちょっと驚きました。
 
主人公は同じですが、16年ぶりという長い空白を経ての続編。元々、見る側がすんなりと入っていけるかどうかの懸念はありました。
 
そして、注目の第1話。全体の雰囲気が「別物?」と思うほど異なっていて、びっくりしたのです。
 
一体、なぜなのか。
 
前作の舞台は、入学者の落ち込みで経営難にあえぐ、私立龍山高校でした。
 
弁護士の桜木建二(阿部寛)は債権者代理として乗り込み、再建案を提示し、自らそれを実施することになります。
 
その再建案とは、東大合格者を出して入学希望者を増やすというものでした。
 
原作は三田紀房さんの同名漫画です。その後『ドラゴン桜2』も描かれたので、今回の続編もそれがベースになると思っていました。
 
『半沢直樹』化した新作
 
しかし、始まってみると原作を大幅に変えています。
 
原作漫画の『ドラゴン桜2』は、時間経過はあったものの、すっかり東大合格者が激減した、龍山高校が舞台でした。
 
ドラマでは、この龍山高校ではなく、私立龍海学園です。
 
理事長の龍野久美子(江口のりこ)は、学力よりも「自由な校風」を重視することで、龍海学園を超低偏差値校にしてしまった張本人。
 
彼女の父親で前理事長の恭二郎(木場勝己)はそれをよしとせず、桜木に賭けたいと考えています。
 
思えば、前作には学校経営を巡る対立やドロドロした人間関係など、あまり登場しませんでした。
 
新作は、主導権をめぐって火花を散らす理事会といい、アップを多用した構図や怒鳴り合いといい、まるで『半沢直樹』を見るようです。
 
なぜ、ここまで変えてきたのか。
 
最大の要因は、前作が金曜午後10時の「金曜ドラマ」枠だったのに対し、今回は「日曜劇場」枠での放送だからです。
 
枠を移すと同時に、脚本家も制作陣も丸ごと入れ替わりました。中心に据えられたのは『半沢』の福沢克雄ディレクターです。
 
あくまでも生徒と教師の関係が軸であり、ユーモアも漂わせて牧歌的だった、金曜ドラマ時代の『ドラゴン桜』。
 
そこに、学校という企業内における権力闘争など、『半沢』的要素を導入したのが新作です。
 
同時に重さや暗さも加わり、いかにも日曜劇場らしいのですが、どこか『ドラゴン桜』らしくありません。
 
『シン・ドラゴン桜』という試み?
 
また第1話で、かなりの違和感を持ったのが、桜木が2人の不良生徒を追いかけるシーンでした。
 
バイクで逃走する彼らを、やはりバイクで追跡する桜木。公道だけでなく、校舎の中にまでバイクを乗り入れ、多くの生徒が歩く廊下や階段を爆走する桜木。
 
これを、何と4分半もの長さで見せたのです。
 
確かに、桜木は暴走族出身という設定ですが、こんな形の「アクション」は、果たして必要だったのか。
 
『半沢』の剣道とは意味が違いますから、ちょっと異様な感じがしました。
 
もしかしたら、福沢Dをはじめとする制作陣が試みようとしているのは、単なる『ドラゴン桜』の続編ではなく、桜木建二という「キャラクター」を使った、新たな物語の構築ではないでしょうか。
 
気分は、『シン・ゴジラ』ならぬ、『シン・ドラゴン桜』です。
 
その起爆剤的ファクターが、平手友梨奈(主演映画『響-HIBIKI-』で好演)が演じる、挫折したバドミントン少女・岩崎楓であり、不良たちを操る瀬戸輝(高橋海人)であり、さらにIT企業を率いる坂本智之(林遣都)たちなのかもしれません。
 
思えば、前作での見所として、個性あふれる講師陣が披露してくれた、ユニークな「勉強法」や「受験術」がありました。
 
しかも実際の受験でも有効なものだったりして、大いに楽しめたものです。
 
桜木は今回、物語の〝本線〟である受験に関して、どんな「秘策」を用意しているのか。
 
ようやく授業が始まるようなので、そのあたりも注目でしょう。
 
ただし、原作漫画で描かれている「ツール(道具)」と「手法」を、そのままなぞるだけではないことを、期待しています。
 
何しろ、日曜劇場的ケレン味が売りの『シン・ドラゴン桜』ですから。

重版出来(じゅうはんしゅったい)、感謝です!

2021年05月09日 | 本・新聞・雑誌・活字

届いた「見本」に、「二刷」の文字が! 感謝です!!

 


言葉の備忘録232 この日・・・

2021年05月08日 | 言葉の備忘録

 

 

 

この日、この空、この私

 

 

城山三郎『無所属の時間で生きる』

 

 

 


次の「朝ドラ」ヒロイン、清原果耶の実力がわかる『透明なゆりかご』

2021年05月07日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

次の「朝ドラ」ヒロイン、

清原果耶の実力がわかる『透明なゆりかご』

 
5月17日から、新たなNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』が始まります。
 
ヒロインの永浦百音(ながうら ももね)を演じるのは、清原果耶(きよはら かや)さん。
 
脚本は、清原さんの初主演作だった『透明なゆりかご』(NHK)も手掛けた、安達奈緒子さんです。
 
現在、深夜に再放送中の『透明なゆりかご』を見ると、あらためて清原さんの実力と可能性が分かります。
 
『透明なゆりかご』という秀作
 
それは、2018年のことでした。
 
綾瀬はるか主演『義母と娘のブルース』が話題を呼んだ、夏ドラマ。
 
この時期、NHKでは、「目立たぬ秀作」が放送されていました。それがドラマ10『透明なゆりかご』です。
 
物語の舞台は、由比朋寛(瀬戸康史)が院長を務める産婦人科医院。
 
そこに看護師見習いとしてやって来たのが、高校の准看護学科生である、青田アオイ(清原果耶)でした。
 
産婦人科のドラマといえば、近年だと綾野剛主演『コウノドリ』(TBS系)の印象が強いですよね。
 
総合病院における最新の「チーム医療」が描かれていました。
 
しかし、チーム医療という優れた仕組みも、由比のところのような個人病院ではとても無理です。
 
妊婦さんと家族に寄り添う
 
その代わり、由比は個々の妊婦さんとその家族に、可能な限りコミットしていきます。
 
むしろ、そのために独立したと言っていい。
 
確かに、由比の病院を訪れる妊婦さんたちは、それぞれの事情を抱えています。
 
受診歴のないまま来院し、出産後に失踪する人。自らの持病のために出産を断念しようとする人。出産後の血圧低下で、命を落とす人もいます。
 
また、このドラマは、「死産」や「中絶」といった重いテーマも、果敢に取り込んでいました。
 
中には、14歳の中学生が「妊娠・出産」するという回もありました。
 
その判断に至るまでの、本人や家族の葛藤をきちんと描き、さらに出産から9年後の母子の姿も見せていたのです。
 
何より好感がもてたのは、どのエピソードでも、「わかりやすい結論」を下していなかったことです。
 
妊婦さんやその家族は、理想や倫理だけでは、なかなか白黒つけられない、まさに「グレーの部分」で悩んだり、傷ついたりします。
 
そんな彼らを静かに見つめていくのが、清原さん演じるアオイでした。
 
「清原果耶」という逸材
 
実はアオイ自身も、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された過去をもっています。
 
また、感情の起伏の激しい母親(酒井若菜)との関係も、うまくいっていません。
 
自分に自信が持てなかったアオイが、命の現場に立ち会うことで少しずつ成長していく。
 
当時16歳だった清原さんは、「ドラマ初主演」で、しかも「難役」でありながら、アオイが憑依(ひょうい)したかのような熱演を見せていました。
 
大きな可能性を感じさせる新人だったのです。
 
原作は沖田×華(おきた・ばっか)さんの同名漫画。
 
脚本は、『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)などで知られていた、安達奈緒子さん。
 
女性が抱える、やるせない気持ちまで丁寧にすくい上げながら、生真面目でいて温もりに満ちた、「命」のドラマを構築して見事でした。
 
そして今度の清原さんは、気仙沼生まれで、気象予報士を目指すという、モネです。
 
主演・清原さん、脚本・安達さんの「ゆりかごコンビ」が、朝ドラという舞台で、どんな物語を見せてくれるのか。
 
期待しながら、開始を待ちたいと思います。

 


言葉の備忘録231 やがては・・・

2021年05月06日 | 言葉の備忘録

新千歳空港 2021

 

 

 

 

やがては

思い知る時が来た。

書くとは、

分析する事でも

判断する事でもない、

言わば、

言葉という球を

正確に打とうと

バットを振る事だ、と。

 

 

小林秀雄

「スランプ」 (『人生について』)

 

 


【書評した本】 中野剛志『小林秀雄の政治学』

2021年05月05日 | 書評した本たち

 

 

週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。

 

イメージを覆す、小林秀雄と政治

中野剛志『小林秀雄の政治学』

文春新書 1045円

 

小林秀雄は政治を嫌った。だから政治について言及していない。そんなイメージを持つ人は多いのではないか。

中野剛志『小林秀雄の政治学』は、この既成概念を大きく覆す意欲作だ。小林は政治や社会について多くを語っているだけでなく、そうは見えない作品にも政治は深く刻まれていた。

たとえば、「モオツアルト」は小林の政治学として解釈できると言う。最も書きたかったのは「自由」の問題だからだ。ただし国家など集団が示す「リバティー」ではない。個人の精神の中の「フリーダム」だ。

それは自己を実現しようとする姿勢であり、モオツアルトはもちろん、ドストエフスキーも体現していた。戦後、国家はリバティーを保証したが、フリーダムについては疑わしい。小林には戦前からそれが見えていた。「モオツアルト」は自由論でもあったのだ。

また本書の中で重視されているのが、「Xへの手紙」だ。小林は政治が扱う集団の価値と個人の価値を対比させ、政治が「人間を軽蔑する物質的暴力」と化すことを指摘する。

発表されたのは昭和7年。昭和恐慌・世界恐慌を背景に血盟団事件も起きている。政治が市民の目を厳しい現実から逸らすのに利用したのが、社会を支配する平板な言葉である思想、つまり「イデオロギー」だった。

現在、社会は困難な状況にある。危機と格闘する個人の「自由(フリーダム)」を軸とした小林の政治学の中に、明日へのヒントが隠れているかもしれない。

(週刊新潮 2021.04.29 号)

 

 

 


【気まぐれ写真館】 みどりの日

2021年05月04日 | 気まぐれ写真館

2021.05.04


日刊ゲンダイGW特別号に、「向田邦子」について寄稿

2021年05月04日 | メディアでのコメント・論評

発売中の「日刊ゲンダイ」GW特別号


【ギャラクシー賞】は、この1年を代表する「ドラマ」に何を選んだのか?

2021年05月03日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

【ギャラクシー賞】は、

この1年を代表する「ドラマ」に

何を選んだのか?

 

「ギャラクシー賞」は、放送界における大きな賞のひとつです。

テレビ、ラジオ、CM、報道活動の4つの部門があり、さらに特別賞、個人賞などが設けられています。

4月30日、主催する放送批評懇談会が、第58回「ギャラクシー賞」の「入賞」作品と「奨励賞」作品を発表しました。

対象となっているのは2020年度、つまり20年4月~21年3月の1年間に放送されたものです。

放送批評懇談会では毎月の選考を行っており、何本かの「月間賞」を決めています。

この月間賞全体の中から「入賞」作品を選び、それ以外が「奨励賞」となります。

そして、「入賞」作品の中から、さらに選ばれたものが各部門の「大賞」というわけです。

大賞は、6月2日に行われる贈賞式で発表されます。

2020年度のドラマ

ギャラクシー賞では、テレビ番組もラジオ番組も、ジャンルで分けていません。

テレビ部門には、報道番組、ドキュメンタリー、バラエティ、ドラマなどが混在しています。

今回、テレビ部門の「奨励賞」は67本。そのうちドラマは13本です。

また「入賞」は14本で、ドラマは5本でした。

奨励賞13本に、入賞5本を加えた計18本が、ギャラクシー賞が選んだ「2020年度を代表するドラマ」ということになります。

「奨励賞」の13本

まずは、「奨励賞」です。

ドラマ&ドキュメント「不要不急の銀河」

(NHK)

国際共同制作 特集ドラマ「太陽の子」

(NHK)

光秀のスマホ

(NHK)

土曜ドラマ「ノースライト」

(NHK)

岸辺露伴は動かない

(NHK)

宮城発地域ドラマ「ペペロンチーノ」

(NHK)

よるドラ「ここは今から倫理です。」

(NHK)

火曜ドラマ「私の家政夫ナギサさん」

(TBS)

知らないのは主役だけ

(関西テレビ)

ドラマスペシャル「スイッチ」

(テレビ朝日)

土曜ナイトドラマ「妖怪シェアハウス」

(テレビ朝日)

木ドラ25「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」

(テレビ東京)

ドラマ25「直ちゃんは小学三年生」

(テレビ東京)

 

まず、ざっと見渡して、約半分を占めている、NHKの7本が際立ちます。

「太陽の子」のような大作から、「ペペロンチーノ」のような地域発のものまで多彩です。

次に深夜ドラマの健闘。タイムシフトを含め、ドラマの視聴スタイルも変わってきました。

かなり深い時間帯の放送であっても、面白ければ、何らかの方法で必ず見てもらえる時代です。

「入賞」した5本

次が、「入賞」作品となった5本のドラマです。

金曜ドラマ「MIU404」

(TBS)

金曜ドラマ「俺の家の話」

(TBS)

世界は3で出来ている

(フジテレビ)

オトナの土ドラ「その女、ジルバ」

(東海テレビ)

浜の朝日の嘘つきどもと

(福島中央テレビ)

 

TBS、それも金曜ドラマ枠の作品が2本あります。

「MIU404」は、それまでの刑事ドラマとは一線を画していました。

「俺の家の話」もまた、新機軸のホームドラマでした。

どちらも新たな創造に挑み、その成果をしっかり示してくれた作品だったと言えるでしょう。

現在、TBSが持つドラマ制作力の高さが見えるようです。

「世界は3で出来ている」は、林遣都さんが一卵性三つ子役、つまり一人三役を演じたソーシャルディスタンスドラマ。

実験的・野心的でありながら、完成度の高い作品でした。

また東海テレビ「その女、ジルバ」は、原作漫画の世界を超えて、ドラマならではの味わいに到達しています。

特に主演の池脇千鶴さんの演技は見ものでした。

そして、福島中央テレビが制作した「浜の朝日の嘘つきどもと」に登場するのは、売れない映画監督(竹原ピストル)。南相馬市の古い映画館「朝日座」のモギリ嬢(高畑充希)。

川島が、お金持ちの未亡人(吉行和子)から「映画を作って」と頼まれて……という物語でした。「朝日座」は実在の映画館です。

ちなみに、福島中央テレビは日本テレビの系列局ですが、「浜の朝日の嘘つきどもと」を関東で放送したのは、テレビ神奈川、千葉テレビ、TOKYO MXでした。

札幌テレビや福岡放送も放送しましたが、日本テレビは流していません。残念なことです。

選ぶこと、選ばないこと

お気づきかもしれませんが、奨励賞にも入賞にも、話題と視聴率では断トツだった、TBS「半沢直樹」がありません。

いや、それ以上に注目したいのは、日本テレビのドラマが1本もないことです。

たとえばですが、「ハケンの品格」も「35歳の少女」も見当たりません。

賞というものは、「選ぶ」理由だけでなく、「選ばない」ことにも理由があります。「評価しない理由」と言ってもいい。

このあたり、選ぶ側のドラマに対する「見方」や「考え方」を反映しているようで、「選ばれなかった作品」と「選ばれなかった理由」には、とても興味深いものがあります。

前述のように、「入賞」作品は、ドラマ以外のジャンルも合わせて14本あります。

「大賞」に選ばれるのは、その中の1本ですから、5本のドラマがどうなるか、それは分かりません。

コロナ禍に揺れ続けた2020年度の1年間。

見る側が普段のドラマ以上に、さまざまなものを受け取ったのが、この5作品だったのではないでしょうか。