碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「津田梅子~お札になった留学生~」明るくはなく苦みが強いドラマだったが…

2022年03月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「津田梅子~お札になった留学生~」

明るくはなく苦みが強いドラマだったが…

 

5日夜、スペシャルドラマ「津田梅子~お札になった留学生~」(テレビ朝日系)が放送された。

主人公の津田梅(後年は梅子)は、明治期に女子英学塾(現在の津田塾大学)を創立した教育者だ。2024年に改刷される5000円札の肖像になることが決まっている。

維新から間もない明治4年、わずか6歳でアメリカに留学。帰国は11年後の明治15年だが、梅(広瀬すず)はアメリカと比べて女性の地位があまりに低いことに驚く。

当時、女性は結婚して子どもを産み、夫や家を陰で支えることが常識とされていた。アメリカ仕込みの英語、知識、自立する能力も身に付けた女性を十分に生かせるまでには社会が成熟していなかった。

このドラマも決して明るくはない。いや、かなり苦みが強い。橋部敦子のオリジナル脚本は、ドラマとして重くなることは承知の上で、自身の能力を発揮する場を得られないことに苦しむ梅に寄り添っていく。

同じく「新紙幣の肖像」である、渋沢栄一とは異なる先駆者像を見せてくれた。

梅は25歳で再びアメリカに留学し、帰国後は女子教育にまい進する。「結婚していない女は何もできない」と言われた時代に生涯独身を貫いた。

そんな梅を支えてくれたのが留学仲間の山川捨松(池田エライザ)や永井繁(佐久間由衣)。その友情物語がドラマにぬくもりを加えていた。

(日刊ゲンダイ 2022.03.09)


サンデー毎日で、「日本語ロックの50年」について解説

2022年03月08日 | メディアでのコメント・論評

 

 

日本語ロックの半世紀

 

日本語の歌詞によるロックミュージックが誕生しておよそ半世紀。その嚆矢(こうし)は、1971年に発表されたはっぴいえんどのアルバム「風街ろまん」といわれる。まるで洋楽のようなサウンドに日本語の歌詞を乗せ独自の世界観を表現することに成功したのである。

はっぴいえんどは、ベースに細野晴臣、ボーカルとギターが大瀧詠一、それにギターの鈴木茂、ドラムの松本隆と錚々(そうそう)たるメンバーで69年に結成され、日本ロックの黎明(れいめい)期に活躍したバンドである。ロックは英語で歌うものという固定観念を取り外した壮大な実験には、新しい音楽誕生の息吹が感じられ、一つの到達点を示しているといえよう。

はっぴいえんどとキャロルとサザンオールスターズの三つのグループが70年代以降の日本のロックを作った、と指摘するのはメディア文化評論家の碓井広義氏だ。

「僕が子どものころ、50年代にはアメリカのロックをカバーするような感じでロカビリーがあった。もしくはそこに日本語の歌詞を乗せるパターンがありました。そして、日本の音楽シーンに大きな影響があったのが、66年のビートルズ来日です。彼らが自分たちで作った歌を自分たちで演奏して歌って世界的にヒットさせていることに多くの人は驚いた」

そうした中で登場したのがグループサウンズ(G・S)だった。ただ数年経(た)つと、歌謡曲の大波にのみ込まれてしまった。

「そこへ登場したのがはっぴいえんど。アルバム『風街ろまん』に収録されている『風をあつめて』は、ロックのリズムに日本語の歌詞を高い完成度で乗せている。そして、個人の歌い手ではなく、ロックバンドであった。日本語のロックに、オリジナル曲、そしてバンド。この3要素はそれまでにありませんでした」(碓井氏)

当時の音楽的な状況は歌謡曲が全盛でフォークもあった。そこに歌謡曲でもフォークでもない全く別の音楽が現れたのである。

「しかもそれは、心象風景が歌詞になっていた。それまでにあまりないことでした。とても文学的でした。なおかつ、松本さんの歌詞に既に文体が確立していた。文体のある文学的な詩、それが歌になっている。もう一つ、聴き慣れないものを聴いた驚きがありました。言葉の音節を故意にバラバラにして、きれいに言葉が歌の流れに乗っていくのではなく、全く別物でした」(同)

◇矢沢の歌声に「破壊される快感」

それまでにない新しい感覚がサウンドとなり、徐々に浸透し認識され、日本語のロックが誕生していったのである。

「『風街ろまん』の風街とは、失われた街なんです。60年代には東京五輪で東京が改造され、70年代当時の東京に目を背けながら、かつてあった街を懐かしみながら、ある種の諦念に満ちた静謐(せいひつ)さがあった。大阪万博もあり、経済大国に向かっていく日本の明るい未来と喧伝(けんでん)されることに対し背を向け、自分たちは自分たちの世界にいたいよ、という感じが曲から表れていました」(同)

矢沢永吉が在籍したキャロルが『ファンキー・モンキー・ベイビー』を発表したのは73年。当時のロックバンドとしては異例の30万枚の売り上げを記録。作曲家で大阪音楽大講師の綿貫正顕氏はこう指摘する。

「曲全体の印象としては、当時、流行していた洋楽の影響が随所に垣間見えつつも、コード進行やメロディーに歌謡曲っぽさがちりばめられており、単なる洋楽のコピーに終始していないところに多くの人が惹(ひ)かれたのかと思われる。今の感覚で聴くと、正直、特に激しい音楽のようには感じられないが、矢沢永吉の圧倒的な歌唱力、存在感には、ロック・スピリッツを感じずにはいられない」

前出の碓井氏はこう語る。

「ロックを独特に進化させたのがキャロルです。一言で言えば、不良の登場です。いきなり不良が出てきて自分たちの音楽を主張した、そんな感覚です。日本語の発音を全てひっくり返すような矢沢さんの歌声がそこにはありました。時代性とか精神性の面で破壊力がありました。破壊される快感があった」

言葉の意味よりも響きを大切にしたのがキャロルだったのかもしれない。

75年にはダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」が登場する。歌詞部分と語り口調に分かれた斬新さについて、サイト「あなたの知らない昭和ポップスの世界」を運営する「さにー」さんは、

「稀代(きたい)のヒットメーカー阿久悠さんをして“正直やられたと思った”と唸(うな)らせたといいます」

自身が単身渡米して見つけたメンバーと共にアルバムを制作、発表していたCharの「気絶するほど悩ましい」が発売されたのは77年だった。30万枚の大ヒットを記録するが、ご本人はこの曲を発表するのに「自作の曲じゃないから」と乗り気ではなかったらしい。アルバム『Char II have a wine』にはシングルとは異なるアコースティック・ヴァージョンで収録されているのも「シングル・ヴァージョンをそのまま収録するのは嫌だ」という思いからだったそうだ。

テレビを通じてお茶の間にロックを広げたのはCharのほか、原田真二、世良公則&ツイストで、ロック御三家と称されている。

◇新風吹き込んだゴダイゴ、サザン

「さらにロックを身近なモノにしたのは70年代後半にヒット曲を連発したゴダイゴではないだろうか。元々、世界を目指して結成されたバンドで、ドラマの主題歌として大ヒットした『ガンダーラ』以前は全曲英語で歌っていた。今でこそ英語で歌う日本のバンドやアーティストも珍しくなくなったが、当時、テレビで英語の歌詞を歌うゴダイゴは、非常に新鮮で、最高に格好良かった」(綿貫氏)

前出の碓井氏はこんな見方をする。

「キャロルの圧倒的だった力ずく感、不良っぽさをアートにしてしまったのが、サザンオールスターズの桑田佳祐さんでした。聴いていてぶち壊されるような快感、恍惚(こうこつ)感。歌詞は文法とか文脈と一切関係ない、というとてつもない言語感覚はそれまでにありませんでした。当時、『夜のヒットスタジオ』にサザンが登場した時、番組史上初めて歌詞がテロップで流れたほど、多くの人は聞き取れなかった(笑)」

サザンの歌詞は、スピード感と独特の歌いまわしを含めて新鮮だった。

80年代に入ると、テレビの歌番組が全盛期を迎え、ロックがより身近になった一方、「テレビという枠の中では自分たちの音楽を表現できない」と、出演を辞退するアーティストやロック・バンドがいたのも興味深い。

「もちろん、自分たちの楽曲をフル・コーラスではなく、いわゆるテレビ・サイズ(3分程度)に短くして演奏しないといけないという事情もあっただろうが、バラエティー要素の強い演出等に抵抗があったアーティストがいたのも想像に難くない。現代の若者にとっては『ロック=反体制』という感覚はピンとこないのでは、と想像するが、元々はそういう硬派な側面を持っていたのがロックという音楽だ」(綿貫氏)

商業音楽である以上、当然、そのあたりの折り合いをつけないといけないので、単純にどちらが良い悪いと片付けられる問題ではないが、そのバランスを上手(うま)く取りながら変化、発展し、131ページの表のように名曲を生み出してきたのが「日本のロック」ではないだろうか。

ここから今後、ロックがどう進化していくか、楽しみである。【ジャーナリスト・青柳雄介】

(サンデー毎日 2022.03.20号)


週刊ポストで、「テレビとネット」について解説

2022年03月07日 | メディアでのコメント・論評

 

 

変化を強いられるテレビ業界 

巨額の予算持つNetflixに

民放が組み込まれる未来も

 

いまテレビ業界を取り巻く状況が激変している。NHK放送文化研究所が2020年に実施した「国民生活時間調査」によると、16~19歳では一日にテレビを視聴する人が5割を下回り、20代以下は一日にテレビを視聴する時間よりもネットを利用する時間のほうが多かった。

いまや若い世代はリアルタイムでテレビを視聴する習慣がなく、代わりにYouTubeやNetflixなどの動画配信サービスを利用している。こうした環境変化に伴い、放送業界全体がビジネスモデルの転換を迫られている。


黒木華『ゴシップ』が問いかける、「ニュース」とは何か?

2022年03月06日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

黒木華『ゴシップ』が問いかける、

「ニュース」とは何か?

 

舞台はニュースサイト編集部

黒木華さん主演のドラマ『ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○』(フジテレビ系)。

舞台は、ゴシップ系といわれるニュースサイト「カンフルNEWS」の編集部です。

ヒロインの瀬古凛々子(黒木)が編集長になるまで、掲載されるのはネットなどで流通している情報に手を加えただけの、いわゆる「コタツ記事」ばかりでした。

就任早々、凛々子は部員たちの企画を「新鮮味なし」「プレスリリースからのコピペ」と一蹴。

「取材・検証・実体験のない情報を収集して書いた、凡庸かつ内容の薄い記事」と容赦しません。

「プロセス」もニュースに

そのうえで、凛々子がとった方針は、ネットで話題となっている話を「本当はどうなのか?」と検証していくことでした。

たとえば、パワハラ企業だという評判を否定した、ゲームアプリ会社の人気キャラクターが、実は盗作だったことを突きとめる。

また、報じられた有名俳優の「円満離婚」の真相を明らかにし、ネットで人気の覆面女子高生シンガーの正体にも迫っていました。

実は、凛々子たちがしているのは、「記者」なら当たり前の「取材」という行為です。

時間と手間をかけた取材は新聞が存在する意義の一つですが、それをネットニュースでもしっかりやっている。

しかも、取材の「結果」だけを書くのではなく、その結果にたどり着くまでの「プロセス」も含めて記事にしていく。

時には、自分たちの間違いや失敗も記事に入れ込んでいく。

このドラマの面白さも、そこにあります。

事実をどう伝えるか

先日の第8話でも、有名企業経営者の「不倫問題」を取材するうち、彼の息子をめぐる「裏口入学疑惑」というネタにぶつかります。

ところが、この疑惑は大学の女性派遣職員によるニセ情報だったことが判明。背景には、家庭の事情で経済的に苦労してきた過去がありました。

凛々子は彼女に言います。

「あなたの話を書くことは出来る。怒りや悲しみをなかったことにはしません!」

派遣女性の心情も取り込んだ記事は、生まれた家や環境で人生が決まってしまうかのような社会の構造に、小さな一石を投じることになったのです。

以前、ドラマの中で凛々子はこんなことも言っていました。

「事実をどう受けとめるかは相手次第。ただ、事実をどう伝えるかは私たち次第です」

名言かもしれません。


【気まぐれ写真館】 「春一番」が吹いた日

2022年03月06日 | 気まぐれ写真館

2022.03.05

 

 


相次ぐ長寿番組の終了 視聴者切り捨ての時代

2022年03月05日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

碓井広義の放送時評>

相次ぐ長寿番組の終了 

視聴者切り捨ての時代

今年2月、立川志の輔が司会を務めてきた「ガッテン!」(NHK)が終了した。1995年に「ためしてガッテン」としてスタートして以来、四半世紀以上も続いた長寿番組だった。そして今月末、「バラエティー生活笑百科」(同)も37年の歴史に幕を閉じる。

民放でも昨年秋、46年続いた「パネルクイズ アタック25」(テレビ朝日-HTB)が終わり、「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」(同)も4月1日の放送が最後となる予定。こちらも27年にわたる名物番組だ。

もちろん、どんな番組も永遠に続くわけではない。様々(さまざま)な事情で終了が決まり、また新たな番組がその枠を埋めていくのはテレビの日常だと言える。ただ、今回の長寿番組終了ラッシュには共通の背景があるようなのだ。あえて厳しい表現をすれば、「中高齢視聴者の切り捨て」である。

まず、テレビ界全体で視聴者の減少が続いており、2019年にはテレビの広告費がインターネットに抜かれてしまったという現実がある。

しかも今年2月に広告会社の電通が発表した「2021年 日本の広告費」によれば、昨年のネット広告費は約2兆7000億円。ついにマスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の広告費総額を上回った。

危機感を強めたテレビ各局は、重視すべき視聴者を年齢で絞り込んできた。日本テレビ、TBS、フジテレビは現在、49歳までを重点的なターゲットとしている。テレビ朝日は50歳以上も重視するとしているが、全体として中高齢に冷たいのが事実だ。この層は「テレビをよく見てくれるが、商品購買力は弱い」と判断したからだろう。

商業放送である民放が、生き残りの経営戦略として視聴者を限定することは止められないのかもしれない。

しかし、公共放送であるNHKがそれに追随する必要はない。きちんと受信料を支払っている中高齢向けの番組も放送する義務がある。ましてやコロナ禍で外出の機会が減った分、テレビを楽しみに暮らしている中高齢は少なくないのだ。

最近のNHKは若い世代の視聴者を増やそうとしているのか、視聴率狙いなのか、タレントに頼ったバラエティーなど民放的な作りの番組が目立つ。画面だけを見ていると区別がつかないほどだ。

しかし、長年テレビと共に歩んできた視聴者を簡単に切り捨てるのではなく、0歳から100歳までを受け入れる多様性を大事にしてほしい。それこそ本来の「NHKらしさ」ではないだろうか。

(北海道新聞 2022.03.05)


週刊ポストで、「チューナーレステレビ」について解説

2022年03月05日 | メディアでのコメント・論評

 

 

なぜ「受信料不要テレビ」は

バカ売れするのか?

 

大手ディスカウントストアのドン・キホーテが昨年12月に発売した「ネット動画専用スマートTV」が放送業界をザワつかせている。

見た目は普通のテレビだがテレビチューナーを搭載しておらず、地上波のテレビ放送が映らない代わりにAndroid OSを搭載し、インターネット動画を視聴できる。値段は、42V型で3万2780円(税込)、24V型で2万1780円(同)と低価格だ。

さらに特筆すべきなのが、“NHKの受信料がかからない”ことである。このテレビは「放送法64条1項に規定する協会の放送を受信することのできる受信設備にあたらないため、受信契約の必要はありません」(NHK広報局)という。

このためネットでは「受信料不要テレビ」として大きな話題となった。

売れ行きは絶好調だ。開発を担当したドンキの運営会社、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスPB事業戦略本部の鷲津啓介氏が語る。

「発売前の目標台数は6000台を想定していましたが、かなり早いスピードでお客様にご購入いただき、初回生産分は完売しました。再販を求める声が多く、急遽6000台を追加で生産して、2月中旬より順次販売を再開しています」

同社の2022年2月の決算説明資料によれば、チューナーなしテレビの売り上げは1億円を超えている。購入者は20~40代の個人が中心だというが、“テレビが映らないテレビ”がなぜそこまで売れるのか。鷲津氏が語る。

「今の視聴者はリアルタイムでテレビを見る時間が少なく、代わりにYouTueやNetflixなどの動画配信サービスを視聴しています。そんななかで、スマホやパソコンの画面より大きいテレビ画面でネット動画を見たいという声があり、開発を進めました。そのニーズに応えられたことが売れ行きに繋がったと考えています」

近年、動画配信サービスは隆盛を極めている。メディア・パートナーズ・アジアが昨年10月に発表した調査結果では、アマゾンプライムビデオの国内加入者数は1460万人、Netflixは600万人に達した。

メディア文化評論家の碓井広義氏が語る。

「テレビのネット接続率は40%を超え、国内で推定3400万人のテレビがネットに繋がっています。すでに10~20代は地上波テレビではなくネット視聴がメイン。動画配信サービスに特化したテレビが爆発的に売れるのは時代の必然です」

時流に乗って、大々的に「受信料不要」を喧伝するメーカーも登場した。

家庭用電気製品メーカーのSTAYERは「4K対応 43V型チューナーレススマートテレビ」を今年5月に発売する予定だが、公式サイトでは「地上波受信料不要」との宣伝文句が掲げられた。メーカー関係者が語る。

「受信料が必要な特定の地上波や衛星放送の放送媒体を意識しているわけではありませんが、消費者のなかには受信料に負担を感じられている方もいる。商品の特長を分かりやすく提示するため『地上波受信料不要』を謳ったと聞いています」

こちらも現在、問い合わせが殺到しているという。

受信料不要テレビがにわかに注目を集めるなか、大手電機メーカーは、今のところ参入していない。その理由を嘉悦大学教授で元内閣官房参与の高橋洋一氏はこう推測する。

「チューナーなしのテレビを生産するのは技術的には容易で、ニーズもあります。しかし大手メーカーは付き合いの深いテレビ局の反発を怖れているため、ネット専用テレビの製造に消極的なのでしょう。その間隙を縫って、ドン・キホーテが話題性のある商品を仕掛けてきたわけです」

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このテレビは「放送法64条1項に規定する協会の放送を受信することのできる受信設備にあたらないため、受信契約の必要はありません」(NHK広報局)という。そんな「受信料不要テレビ」の台頭もあり、NHKも岐路に立たされている。

先手を打ったのがケーブルテレビや衛星放送だ。

J:COMはNetflixとケーブルテレビをセットにしたコースを2020年に開始。WOWOWやスカパーJSATは昨年から、衛星放送の加入契約がない視聴者にも動画配信サービスを提供し、番組をスマホやパソコンで視聴しやすくした。

一方で後れを取ったのが民放である。嘉悦大学教授で元内閣官房参与の高橋洋一氏が語る。

「世界各国のテレビ局がネット配信を進めるなか、日本の民放は消極的です。これはキー局がネット配信をすると、キー局の番組を放送する地方局のコンテンツ力が低下するからで、キー局と地方局の縦の関係がネット配信を阻んでいます。

逆に言えば、テレビ局がネット配信をしないのでNetflixなどの動画配信サービスがどんどん伸びていった。受信料不要テレビの台頭に拍車をかけたのは、民放の消極的な姿勢です」

ここにきて、民放もようやく重い腰を上げ始めている。

今年4月からは、見逃した番組をネットで見られる配信サービス「TVer」で、テレビ番組を放送と同時にインターネットでも見られる「同時配信」を、既に始めている日本テレビ以外の民放4局も開始すると発表した。

「NHKは同時配信に向けて積極的に動いていましたが、民放は民業圧迫として、ネット配信の足を引っ張ってきた。しかし、『この番組はネットでもやっています』が逆転して、『この番組はテレビでもやっています』という時代が来るのは明白です。最近になってネットに対応しないと生き残れないことを各局がようやく理解し、ネット配信にも目を向けるようになりましたが、まだまだスピード感に欠けます」(メディア文化評論家の碓井広義氏)

(週刊ポスト 2022年3月11日号)


NHK「50年目の“独白”~元連合赤軍幹部の償い~」 この内容で30分の放送はあまりに短い

2022年03月04日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

クローズアップ現代+

「50年目の“独白” 元連合赤軍幹部の償い」

この内容で30分の放送はあまりに短い

 

半世紀前の1972年2月、連合赤軍による「あさま山荘事件」が起きた。その際に逮捕されたメンバーのひとりが吉野雅邦だ。2月24日に放送された、クローズアップ現代+「50年目の“独白”~元連合赤軍幹部の償い~」の主人公である。

吉野は山岳ベースでの「リンチ殺人」にも深く関わっていた。しかし裁判では死刑ではなく、無期懲役が確定。この50年間、獄中にいる。逮捕時には23歳だった吉野も、現在は73歳だ。

番組は、吉野が取材班に託した原稿用紙86枚の「手記」を軸に構成されていた。最も印象に残ったのは、「総括」という名の集団リンチ、大量殺人をめぐる文章だ。「自分の頭で考えると非組織的、反革命的になってしまうと思い込み、思考停止を決意」したとある。

しかし、殺害された仲間の中には、吉野の子どもを宿した妊娠8カ月の妻もいたのだ。命がけで守るべき人を守らなかった事実を含め、果たして「思考停止」で説明できるのかと考えさせられた。また、どこかで現在の「いじめ」や「同調圧力」の問題にもつながっているように思えたのだ。

実は、この内容で30分の放送はあまりに短い。ぜひ「NHKスペシャル」などに引き継いでいってもらいたい。そして4月から午後7時半の早い時間帯に動く「クロ現」だが、今回のような重いテーマを深掘りする姿勢は堅持してほしい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.02.02)


週刊女性で、「新規BSの開局」について解説

2022年03月03日 | メディアでのコメント・論評

週刊女性 2022.03.15号


松田龍平さん、つかみどころなく「つかむ」ワザ

2022年03月02日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

つかみどころなく「つかむ」ワザ

UQ mobile「UQUEENグッズ」篇

 

UQ mobileのCMシリーズ「UQUEEN」。新作の舞台は女王であるUQUEEN(満島ひかりさん)が君臨する宮殿だ。

執事(松田龍平さん)が若者応援グッズを女王に披露している。クリアファイル、筆箱、何とカレーまである。

だが、「若者は本当にそんなものを求めているのか?」と懐疑的な女王。いぶかしがる執事。

女王によれば、彼らが一番求めているのは「ギガ」だという。それを聞いた執事は「ギガかあ…」とオウム返しだ。松田さんのとぼけた口調と表情がすこぶるおかしい。

いわば「つかみどころのない」演技で、見る人の心を「つかんでしまう」ワザこそ、誰も真似できない松田さんの真骨頂だ。

それはドラマ「カルテット」や「大豆田とわ子と三人の元夫」でも存分に発揮されていた。

感情が読み取れず、本音と建前の区別がつきにくい男が、こんなに似合う俳優も珍しい。

とはいえ、松田執事も満島女王には敵わない。今後、王国は「ギガ」を旗印に、怒濤(どとう)の進撃を展開するはずだ。

(日経MJ「CM裏表」2022.02.28)


週刊新潮で、「冬ドラマ」について解説

2022年03月01日 | メディアでのコメント・論評

 

「黒木華」「波瑠」「高畑充希」が総崩れ

冬ドラマに異変 なぜ視聴者の反感を招く?

 

強烈な寒さをもたらす気圧配置は「西高東低」と呼ばれるが、今季のドラマでは「男高女低」という現象が起きている。異変が起きたそのワケは。

巣ごもりによる高視聴率を期待された冬ドラマは、実力派の女優らが主演に抜擢されたことが話題となっていた。黒木華(31)をはじめ、波瑠(30)に高畑充希(30)、若手ホープの浜辺美波(21)や朝ドラ女優・清原果耶(20)など、好感度の高い女優たちを各局が揃え、鎬を削るはずだった。

だが、いざ蓋を開ければ浜辺主演の「ドクターホワイト」(フジテレビ系)を除き、視聴率はまさかの1桁スタート。唯一、健闘した浜辺のドラマでさえも、4話目からは1桁台に転落してしまったのである。

一方、女優陣とは対照的に話題を集めているのが、阿部寛(57)主演の「DCU」(TBS系)や菅田将暉(29)主演の「ミステリと言う勿れ」(フジ系)、それに松本潤(38)主演「となりのチカラ」(テレビ朝日系)という男性主演の作品だ。

芸能デスクによれば、

「『となりのチカラ』は3話目で視聴率が1桁になったとはいえ平均視聴率は10.3%で、他二つは2桁台をキープしています。民放冬ドラマで視聴率1位の『DCU』は、海上保安庁が舞台で主要キャストは男だらけ。菅田主演の作品も毎回新たな事件が起こり、ヒロイン的な女優はいません」

男性メインのドラマが好調というわけだが、果たしてこれは偶然なのか。

「反感を招く内容」

ライターの吉田潮氏は、

「近年は働く自立した女性を描くドラマがヒットしていて、その系譜として高畑主演の『ムチャブリ!わたしが社長になるなんて』(日本テレビ系)が当てはまるところ、有能な秘書だった彼女が、松田翔太演じる社長の無茶ぶりに振り回され、才能や特性を無視される展開になっています」

そもそも松田が放った鶴の一声で秘書から社長になる設定自体、現実離れしているというのだ。

「若い女優が主演のドラマは注目ポイントが二つあって、一つは仕事。もう一つは恋愛だと思います」

と話すのは、メディア文化評論家の碓井広義氏だ。

「高畑さんのドラマは分かりやすく仕事と恋愛の要素を盛り込んでいますが、主人公が特段努力しているわけではないのに、男性たちから思いを寄せられる好ポジションを得ており、視聴者の反感を招きかねない内容になってしまっています」

「ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇」(フジ系)でネットニュースの編集長に扮する黒木や、「愛しい嘘~優しい闇~」(テレ朝系)で漫画家のアシスタントを演じながら事件を推理する波瑠のドラマも、仕事と恋愛の要素が際立っていないとか。

「コロナ禍で世の女性たちは他者との関係を常に気遣いながら日々を過ごしているのに、今回のドラマのヒロインたちは周囲に無頓着で自分のことだけを考えているように映る。一方で、松本潤主演の『となりのチカラ』は、この殺伐とした時代、他人に世話を焼きすぎる人がいてもいいんじゃないかと思わせるホームコメディーです。彼の妻を演じる上戸彩がまたよくて、夫のお節介な部分にツッコミを入れつつ、自分の仕事もしっかりこなす。こういった要素を持つ配役が低調なドラマにもあれば、支持を集めたと思います」

(週刊新潮」2022年3月3日号)