修士一年生たちが口頭試問のために先週行った「風土と都市」というテーマでの個別発表はそれぞれに面白かったのだが、その中で特に私の印象に残ったのが、高校まではずっと小さな村に住んでいて、ストラスブールがはじめて住む「大都市」だという女子学生の発表だった。
ストラスブールは、人口三十万弱、日本での行政上の定義に従えば中都市であるが、フランスでは人口規模からいうと七番目の都市であり、欧州議会はじめ多数のヨーロッパ国際機関が集まっているから、人口数百人の村の暮らししかそれまで知らなかった彼女にとっては、確かに「大都市」と感じられたのだろう。
彼女がストラスブールの小さなアパートで一人暮らしを始めたとき、生まれ育った村とストラスブールとの間で最初に感じた大きな違いは、音と匂いのそれだったという。都会の騒音と匂いにすぐには慣れることができなかったそうだ。似たような経験をした人たちは、他にもきっといることだろうが、彼女はそれだけ聴覚と嗅覚が敏感なのかも知れない。四年間暮らして、今では都会の音と匂いにも慣れ、それらもまた都市の風土の形成要素であると感じる自己了解が自分の中に成立しているというのがその発表の結論であった。