内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「歩行」と「鳥瞰」の往復運動を繰返し、知的柔軟性を鍛え、一定の視点に固着しないための訓練

2021-03-16 00:00:00 | 講義の余白から

 『翻訳語成立事情』の「近代」の章は、「二 翻訳語分析の方法」という短い節のみ授業中に読む。同章の残りは、今月のレポートの課題テキストとした。「近代日本における、特にアジア太平洋戦争期における、「近代」という語の当時の日本の知識人たちによる用法の特異性とそこに見られる問題点は何か」という問いが課題である。この問いそのものは3月1日に学生たちには告知してあり、レポートの締め切りは今月末である。つまり、一ヶ月時間をあげるから、ゆっくり考えてみなさいという親心である。といっても、学生たちの多くは締め切り間近になって課題に取り組むに過ぎないのであるが、授業中、折に触れて、課題のヒントになるような話題に言及するようにはしているから、本人たちにそのつもりはなくても、徐々に課題についての思考が深まるようには配慮している(というか、期待している)。
 参考文献として挙げたのは、Pierre-François Souyri, Moderne sans être occidental, Gallimard, 2016 ; Jacques Le Goff, Histoire et mémoire, Gallimard, col. « Folio Histoire », 1988 ; Jacques Le Rider, Modernité viennoise et crises de l’identité, PUF, 2000.
 近代日本における「近代」の特異性を当時の史料に基づきながら歴史的文脈に即して考察しつつ、その問題を「近代性」「欧米とアジア」というより一般的なパースペクティヴの中に位置づけ相対化し、多角的・多元的に分析する。いわば「歩行」と「鳥瞰」との往復運動を絶えず繰返し、知的柔軟性を鍛え、一定の視点に固着してしまわないように自分を訓練すること、それが課題の目的である。