内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

日仏合同ゼミ第二日目 ― 問題提起

2022-02-06 23:59:59 | 雑感

 第一日目の三つの学生グループによる発表と質疑応答、それに今日の二つのグループ発表内容を踏まえた上で、全員で討議するためのたたき台を今日の第二日目のプログラムが始まる直前に私の方で準備し、日本側から参加されるニ先生と学生たちに送っておいた。
 五つの発表のテーマ―忠誠、女性、名誉、自死、自制ーごとに、メモの形で問題や概念を並べただけで、文章の体をなしていないが、そのまま再録しておく。

忠誠

対人的・対組織的(誰に? 何に?) 
神に対する忠誠? 友人間の忠誠? 夫婦間の忠誠?
服従(obéissance)とどこか違うのか?
押し付けられた忠誠はそもそも忠誠と言えるのか? 忠誠とは、一個人の組織への自発的・ 持続的服従なのか?
(固定的な)上下関係(hiérarchie)を前提とする。
平等社会(民主主義的)で忠誠は成り立つか?
個人主義と相容れない?
忠誠は自我の存在と対立する⇔没我的忠誠
内外に分離できるか? Cf. 面従腹背=表面では服従するように見せかけて、内心では反抗すること。社会的忠誠と内面的(宗教的)忠誠 Cf. 隠れキリシタン
多層的な忠誠はありうるか? (藩主に従わないのは日本国の安寧のため‐吉田松陰。
国家公務員として上司の命令に忠実であることで国民を裏切る)
義合的忠誠(佐久間象山)と情誼的忠誠(山本常朝『葉隠』)
絶対的忠誠:「君君たらずとも臣臣たらざるべからず」
(君主がどうであろうが、忠誠を尽くす→自律的忠誠→逆説的自立)
多様化・流動化する社会で忠誠は成り立ちうるか?

コロナ禍の中、民主主義的手続きを経た決定よりも、トップダウン方式の即決の方が現実的有効性を発揮する場合があった。不安な状態で待たされるよりも、独裁的な政治的指導者の即決を指示する人たちさえいる。そういう人たちはその独裁者への「没我的忠誠」を誓い、帰属意識を持つことで「安心」を得ようとするもありえないことではない。

女性

役割の多様性と多層性 関連概念:ジェンダー
強いられたのではない(自発的・自己内発的な)自己犠牲による役割の分担
相補性:役割分担論を正当化する一つの論拠
男尊女卑はなぜなくならないのか?(特に政治の世界で)
女性性)⇔ 男性性(社会生活の構成原理としての)
母性(⇔父性)関連事項:同性婚
ケアの倫理(⇔正義の倫理)
ジェンダーフリー
セクシュアリティの多様性(LGBTQ+)

名誉

評価(他者・共同体・社会からの)
権威の獲得
世間の目
世間の評判
恥の感覚と切り離せない(不名誉)
外在的存在意義
自分の名誉(一個の武士としての名)の方が主君への忠誠よりも大切である場合はあるか?
この世での名誉は自分の死後にとっても大切なものでありうるか?

自制

戦いの場(組織統制のため、勝利のため、負けないため)
日常生活(自己の安定、他者への配慮、他者からの評価、衝突を避ける、手の内を見せない Cf. Talleyrand : « La parole a été donnée à l’homme pour dissimuler sa pensée »
同調圧力への順応とどこが違う?
最終目的ではない ? → 目的のための手段 ?
自己目的(理想状態)
魂の平安
自制は(人間的な)感情の否定ではないのか。 Cf. 本居宣長のもののあわれ論
自由と形式(自由から形式へ、形式から自由へ) Cf. エルンスト・カッシーラー『自由と形式』

問題提起

忠誠は何のために誰(あるいは何)に対して意味があるのか?

(想像の)共同体への忠誠はありうるか? 複数のレベルを異にした共同体・組織・グループ(国家、会社、学校、地域社会、親族、家族)に同時に所属しつつ生きざるを得ない私たちは「忠誠の葛藤」に陥らざるを得ないのではないか? したがって、多様化し流動化しボーダレス化しつつある現代社会では、いかなる意味でもレベルでも忠誠は成立しえないし、もはや倫理的価値をもたないのか?

関連概念:名誉、世間、自己犠牲(自死を含む)、自制