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昔読んだ本の一節を想い出して、本を引っ張り出してきた。
精神科医・中沢正夫さんの「他人の中のわたし」。持っているのは1998年第三刷の文庫本。最初は一か所を確認するだけのはずが、めくるうちに読み込んでしまう。
先週から気まぐれに、電車の中で読んでいる。
***
中沢さんが日々接する患者とのやりとり。この本は、そこで経験したことが記されている。
今日引き込まれた章は、この三日掛かりで読んだ。何も長文じゃないが、三日を掛けるくらいに時間が無かった。
中沢さんの目の前に現れた・当時50歳くらいの中根さん。
スーパーを三軒も経営する社長さんだが、元は夫婦2人で協力し合い、野菜を売って暮らしていた。
その妻が精神病じゃないか、という相談で来た。あるときから言行がおかしくなり、話してもケンカばかりで次第にお互いが暴力的発言と実際の暴力に向かっているという。夫曰くは「社員と密談をして、私をのけて会社を乗っ取ろうとしている」。
中沢さんはうまいこと話しを導き、妻を引きずり出して話しをすることに成功する。果たして、どちらが病気なのか?両者の言い分を訊きながら悩み判断する。
結論を先に言えば、妻と何度目かに逢った際(というより、いきなり殴り込みに来たとき)、激高して口走った言葉に明らかな幻覚症状からのセリフ。そこで中沢さんは、自らの判断を確信する。
***
このお話しには、2人の子供(男1人・女1人)が出てくる。
共に母親の方に付き、一緒に中沢さんにニラミを利かせ「おかしいのは父さんの方だ」と言い張り、上記幻覚としか思えない発言の際にも「うんうん」とうなずき、違和感に気付かない。
いったんは中根さん(夫)と子供が話し合い・分かり合うところまで行ったのに、子供2人は結局言行がおかしい母(妻)のほうへと戻ってしまう。
「息子は(そしておそらく娘も)、またもや母の呪縛にとりこまれてしまった。
今日の襲来は、子供たちを再び懐にとりもどした勝利宣言のためだったようである。」(中沢正夫)
そして、これを契機に中沢さんとこの家族の糸は決裂し、その後どうなったかは分からなくなる。ここで中沢さんは「共生精神病」という言葉を用いる。育てられた子供2人と母親との癒着を指す。
「考えてみると、共生関係は家族内だけでなく我々の”集団”にも”社会”にも”文化圏”にも発生しうることである。
それは、傷みのない心地よい関係だからである。それだけに批判したりこわそうとするものに対してはかたく結束する。
だが、そこには発展はない。」(中沢正夫)
中沢さんのリアルな文章に、つい読み込んでしまう。
一定の”こなれ方”はしたものの、よくこの視えて視えない障碍・規範を無視・逸脱しては、冷やっこい想いを自分はさせられる。家族に、女性に、友人に、そして仕事に対して。
それは時に意識的挑発だったりもするが、無意識のことも多い。
そして、それは後になって振り返ってみると、きわめて正論であることがほとんどである。
人は隠そうとする「ほんとうのこと」に触れられると、キズに塩を塗られるような気がしてしまい、むき出しの感情があらわになる。今日もそんな地雷を踏んでしまった。
「ア、イタタタタ・・・」という具合。
それでも、夜は優しい。
■China Crisis 「Dockland」1983■
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チャイナ・クライシスとの出会いは、1982年聴いたシングル「スクリーム・ダウン・アット・ミー」に始まる。
ピーター・バラカンさん(&アッコちゃん)のFM番組「スタジオテクノポリス27」でエアチェックしてはよく聴いた「スクリーム・ダウン・アット・ミー」。その12インチシングルを手に入れたのは1983年秋。
入院の合い間に無理矢理外出許可をもらった日に、ふらふらしながら入った池袋の公園横、当時通っていた中古レコード屋さんで発見したもの。700円だった。
その後、彼らの12インチや7インチシングルを集めていくが、夏の匂いを感じると「ワーキング・ウィズ・ファイア&スティール」12インチB面に収録された2曲を聴きたくなる。
ブライアン・イーノとスティーリー・ダンに憧れた2人は、よくこういったB面という隠れた場所にインストゥルメンタルや実験曲を入れ込んでいた。
そんな中でも「ドックランド」「フォーエヴァー・アイ&アイ」は、特に想い入れがある。
「フォーエヴァー・アイ&アイ」は自宅録音。
エディのベッドルームで録音されたものである。
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