国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

作文参考書 陸軍予科士官学校 その6

2018-08-22 09:38:02 | 作文参考書 陸軍予科士官学校

第三章
 第二節   構想(一)
構想は着想と似て同じからず。着想とは思いつきなり、心の閃きなり。構想とは、その閃きその思いつきを結構敷置して条理だたしむるの謂いなり。
構想には法無し、而して有り有法に基づいて学ばずんば永く稚気お脱するあたわざらん。進んで無法の境に入らずんば何をもってか縦横自在なることを得ん。
構想の順序を大別して二と為す。一にいわく合理的順序、二にいわく修辞的順序これなり。合理的順序とは、論理の法則に基づいて次第するの謂いなり。例えば、場所に関係せるものは前後・左右・上下・遠近等の順序に従うべく、時に関係せるものは年月・日時・先後等に従うべきにあらん。物の記載には形状・性質・産地・製法・効用等の目に従うべきあらん。事理の説述には分解・結合・帰納・演繹などの法に従うべきあらん。あるいは原因結果の関係によるべく、あるいは主眼従属の関係に基づくべく、あるいは大小軽重の品に準い、貴賤尊卑のなどによるべし。かくて合理的の結構成る。しかれども、単に合理的の結構にのみ努めて得たりとせばその文平板に陥り、奇抜読者の悦ばしむる節なし。これにおいてか修辞的考察を下してその順序を改め彼の単調を破る。
修辞的結構は、一見合理的順序を背馳せるに似たれどもしからず。合理上の順序にはなお融通すべき余地あり、修辞的按配これに投じて行わるるなり。例えば物の記載においてその形状・性質・効用の三つを挙げんと欲せば、まず目に入り易き形状より始め、ついでその性質に及ぼし、さてその形状性質より産み出さるべき効用を最後に置くを合理的順序と為す。すなわち形状・性質・効用の順に記すべし。されど吾人は、わざとこの順序を破り、まず効用の顕著なるを挙げて読者の興味をそそり、これに次いでその形状・性質を記すことあり。これを修辞的順序によるという。ただし漫にまず形状の一部分を記し、次いで性質の一部分を記し、また形状の他の部分に反り、次いで効用の一部分を述べ、更に性質の他の部分に移り、終りに効用の他の部分を記す等の事あらば、これを合理的の整頓ありというべからず、また修辞的結構とも称すべからず。いわゆる支離滅裂の文たるのみ。
 
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作文参考書 陸軍予科士官学校 その5

2018-08-21 10:29:16 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
第三章
  想について
第一節    着想

文は着想を第一と為す。着想とは思いつきなり。書かんと欲する事に対しての心の閃きなり。
着想は斬新なるべし。陳腐なるべからず。奇抜なるべし。奇矯なるべからず。穏健なるべし。不健全分子を含むべからず。穏健にして新奇なる、これを着想の妙という。
着想の妙を得んと欲せば、まず平素において左の二項に得力の工夫を用うるを要す。
一、 何事も軽々に看過することなく、事々物々に観察推究の力を逞しうすべし。かくて我が識見は知らず識らず卓越の域に達す。卓越なる識見は巧妙なる着想の源泉なり。
二、 古今賢哲文豪の傑作に親しみ、これを品して我が眼識を高うし、これを喫してその芳を味うべし。遂に進んでは先人未発の神秘をも開く。心境ここに至らば、着想妙ならざらんと欲すとも得べからざるなり。
これを常時の工夫と為す。もしそれ題に臨み、発表する所あらんとするに際しては、刹那の心力をことごとくこれに傾注して、他思なく、専ら平素の蘊蓄せる所に思案の力を逞しうし、さらに意を八方に配りて欠漏なからんことを期すべし。
全心力の傾注はよく溌剌閃々たる光を放って、着想に異彩を帯びしむるものなり。
着想は題意に吻合せんことを要す。その新規の奇、見るべきふしは有りとも、題意に吻合せざるものはなお名文と称すべからず。初学の文章、往々にしてこの弊に陥る。心すべきことなり。
 
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作文参考書 陸軍予科士官学校  その4

2018-08-19 09:24:04 | 作文参考書 陸軍予科士官学校


 第二章 
  第二節
  明晰について
文を明晰ならしめんと欲せば、およそ左の諸項に注意すべし。
一、 論理の法則を顧慮すること。
二、 文法その他、普通の慣用法を尊重すること。
三、 思想を正確にし、思想の配列に整然たる順序あらしむること。
四、 適切なる文字語句を使用すべきこと(術語・方言。艱渋なる語句、または二様の意義に取らるべき語句を用ふべからず。)
五、 文字・語句・節・段・章などの配置を正しくすること。
六、 句読点・濁点を親切に施し。送り仮名にも注意すること。
  第三節
文を雄健ならしめんと欲せば、およそ左の諸項に注意すべし
一、 思想の運び方を斬新奇抜にせんと心がくること。
二、 簡潔にして含蓄あるべきこと。(繁文冗語を列ぬべからず。)
三、 語句の配列宜しきを得しめ、思想の要点に読者の注意を集むること。
四、 語句の長短を適当に配布すること。
五、 語句に種々の変化あるべきこと。(ただしその変化は適当ならざるべからず。)
六、 汎語よりも殊語を用いて可なる場合あること。(殊語とはSpecial term 汎語 General termに対する語にて、意味の狭き語をいう。)
  第四節
文を優麗ならしむるには、およそ左の諸項に注意すべし。
一、 先ず着想において高尚優雅にせんと勉むること。
二、 鄙野なる語句を避くること。
三、 音調上にも注意すること。
 音調を快からしめんには、
(イ) 発音に苦しむ語句を避けくべし。
(ロ) 語尾を同じうせる字句は成るべく並列せざるようにすべし。
(ハ) 同音類韻の字句を重用せざるようにすべし。
(ニ) 辞の配置、句の長短に注意すべし。
      概して短句を前にし長句を後にするを可とす。
四、 種々の修飾法を適度に使用すること。ただし、浮華に失すべからず。
優麗の文は大体において雄健の文よりも長きものなり。されど、長きもの必ずしも優麗ならずして、むしろ冗漫厭うべき弊に陥ることなきにあらず。注意すべし。これに反して、短き文にもまた優麗の要素を含めらるること勿論なり。短歌のごとき、俳句のごときも、なおよくこれらの要素に富み、あるいは雄健を以て勝り、あるいは雄健優麗の両つながら兼ね具わるものあり。而して、その明晰なるべきは固より論なきなり。


 
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作文参考書 陸軍予科士官学校 その3

2018-08-18 09:01:55 | 作文参考書 陸軍予科士官学校


第二章 文の三要素

第一節 概説

文章に欠くべからざる要素三つあり。明晰と言い、雄健と言い、優麗という。
明晰とは、作者の思想が一読の下に余蘊なく了解せらるるの謂いにして要素中の要素たるべきものなり。如何なる種類の文たるを問わず、もしこの要素の備わらざらんか、文としての目的は達し難し。構想の意匠も、措辞の技巧も、この要素を中心として行わるべく、実用の文、雄健と優麗とは姑く看過すべきものにても、なお明晰には決して欠くる所あるべからず。
明晰に次いで必要なるを雄健と為す。雄健とは語勢の強きなり。雄健ならざる文は人を動かすこと難く、読者を倦ましむるに至らん。手を拍ち、案を控き、覚えず快と叫ばしむるは一に雄健の力なり。それ雄健は、読者の脳裏に深き印象を刻ましめ、永くこれを記憶に存せしむる所以の最良方法にして、また実に読者を激励せしめ、これをして奮然決行の域に進ましむる最良手段なり。故に、ある種の目的を以て成れる文には、層一層この要素の必要を痛切に感ずることあり。但しこの際においても明晰は決して忘却すべからざる要素たることを思はざるべからず。
明晰・雄健に次いで必要なるは優麗なり。優麗とは、文辞美にして品位あり、高尚優雅の
気韻を具え、人の美感を動かすに足るをいう。それ文には美文あり、実用文あり。美文は殊にこの要素に富まんことを要し、実用文においてもまた固より恰当せる優麗の添はんことを望む。日露戦役の報告文の如き、その恰当せる雄健と優麗とが如何に読者を動かししか。而してその文が与える報告の任は、これがために完全に果たされて、我軍赫々の光を陸離たらしめしにあらずや。これに知る、優麗は単に美感興味を読者に与ふるのみならず、その文の与える実用的任務を遂行するにも亦与って力あることを。唯その修飾適を失して、夜会に正装し朝観に略帽を戴くの狂態なからしめんことを要するのみ。
凡そ世の名文と称するもの、必ずこの三要素を具備せり。文の良否を鑑識せんと欲せば、まずこの三要素に富めりや否やを検せよ。この文理明晰なりや否や。この文勢果たして雄健なりや否や。この文辞、果たして優麗なりや否や。文の良否はこの三問題の正確なる答解によって容易に品定することを得べし。古人作文の三訣を説いて看多を第一に数う。されどこの鑑識の伴はざる看多は、ほとんど看ざるに等しきのみ。看ること多からざるとも、この炯眼を以てせば、益を得ること少なからず。いわんや看多をや。
文の作為に巧妙の手腕を得んと欲する者、またまずこの三要素の運用に習熟すべし。我がこの思想は、如何に表出せば明晰なるべき。我がこの文辞は如何に鼓舞せば雄健なるべき。我がこの語句は如何に措置せば優麗なるべき。文の進歩は、この三問題の熱心なる討究練習するによって意外の好果を見るべきなり。做多も、この工夫の下に行わるるにあらずんば何ぞ貴ぶに足らんや。いわゆる商量多というも、またこの要素に基けて工夫せんことを要すこの章、この句、この文字、果たして明晰を傷つくることなきか、雄健・優麗に欠くることなきか。もしあらば如何にして更に三要素の光彩を発揮すべき。他の文明晰に比して、我にこの要素の劣れることなきか。他の文の雄健と優麗とに比して、我にこの要素の及ばざることなきか。有りとせば何が故にしかる優劣の差を生ぜるか。彼にはついに企及ぼすべからざるか、企及ぼして更に凌駕すべき道なきか。と、子細に商量点検し去らば、我が文の進歩蓋し驚くべきものあらん。
それ明晰は正なり、雄健と優麗とは奇なり。奇正相配して能く津々たる妙味を具備すべし。而してこの三要素は、独り文字にて記す文章のみならず、講演談話にもまた必要欠くべからざるものたり。この後更に説かんとするもの、一にこの三要素を具備せしめる工夫に外ならず。



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作文参考書 陸軍予科士官学校  その2

2018-08-17 08:37:30 | 作文参考書 陸軍予科士官学校



第一章
第三節  文の作るときの手順
文を作るには、およそ左(以下)の手順によりて工夫し筆を下すべし。
第一、 思想を緻密に整え、書くべき材料を集むること
 思想綿密ならざれば、あるいは疎漏に陥り、あるいは道理に背馳せん。材料集まらざるに文を作らんとするは、なお木石を持たずして家を建てんとするがごとし。思想綿密にし、材料を集めんには、およそ左(下記)の諸項に注意するを可とする。
一、 この文を書く趣意は如何と考うべし。
二、 この文は何を主眼とすべきかと考うべし。
三、 主眼に付属して言うべき事項は何々なるかと考うべし。
四、 書くべき事実は正確に取り調ぶべし。
五、 余力あらば予め所題に関係ある諸大家の意見(著書・演説・文章などによって)を調べて参考に資すべく、これに関する説明文・格言・俚諺等もあさり見るべし。

第二、 既に得たる思想材料は、これを選択取捨すること。
第一のごとくして得たる思想材料は、固より豊富なるを良しとすれども、そを悉く書き連ねんことは、時間の許さざることもあるべく、読者を倦ましむることともあるべく、あるいは繁細に過ぎて却って不得要領に終わることともなるべし。故に、その豊富なる思想材料中につき、軽重大小の如何を考察して適当に選択取捨を行うべし。
猶おこれに一の付言すべきことあり。他人の思想材料をそのまま盗むべからざることなり。こは剽窃とて、糟糠をなむること一般、陋の甚だしきものなり。

第三、 既に選択して得たり思想材料は、これを順序良く配列して、文の結構を定むること。
この工夫なき文章は、たとい言辞に人を驚かすそこの光彩は有りとも、首尾を貫いてその要を捕へんとすれば多くは支離滅裂を免れず。
配列結構の工夫はおよそ左(下記)の諸項による。
一、 起首は如何にすべきかと考ふべし。
二、 中要は如何に横説縦説すべきかと考うべし。
三、 結尾は如何にせば力あると考うべし。
あるいは、この文は普段幾節に分かち、その各段節に如何なることを述ぶべきかと考うべし。

第四、 結構既に成らば、始めて筆を執って一気呵成に書き流すべし。
この際、苦思渋滞せば、筆端窘蹙して暢びざるに至らん。

第五、 既に書き流したる第一草稿は、時と労の許す限り幾度も読み返して、自ら改竄し、推敲洗練すべし。
もしこの工夫を欠くときは文疵百出ほとんど卒読に堪えざるものとなるべし。この工夫によって洗練せられたるものは、始めて清書して遺憾なかるべきものなり。しかりしかれども、学校課程の作文のごとき、時間の制限厳なる場合にありては、この工夫行われ難きこと少なからず。さるときは筆を下すの際子細の注意を一字一句にもはらう習慣を作るべく、後に至りて妄りに塗抹するがごとき、悪癖を生ぜぬようにと心がくべし。


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作文参考書 陸軍予科士官学校 その一

2018-08-16 19:39:15 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
第一編総論

第一章
 序説

第一節 文 作文の必要
文は心の表現なり。心無ければ文なし。卓越せる心の筆端にあわせるもの、推敲し、洗練せられて千古の名文となる。
文は人類の総ての記録なり。この記録あって始めて既往を知り将来を知る。世の文明は、この記録によって既知より未知に進んで築かるるなり、この記録によって世界隈なく宣伝せなるるなり。文の人生に関するや大いなり。宜なるかな古人文を以て経国の大業不朽の盛事と言えること。
軍人には特に文の必要を見る。時の平戦を論ぜず、地位の高下を問わず、軍人に文章力を要すること、既に諸先輩の明言するところあり。而してその行文は、簡明なざるべからず、苦思せず、渋滞せず、千言立ちどころに成る底の怪腕なかるべからず。これ一に自家の素養に待つ。誰か軍人に作文の練習の必要なしと謂わんや。
その文を作るには法無し。而して有り。言わんと欲する所を言い書かんと欲する所を書くのみ、何ぞ法の拘泥すべきあらんや。然れども、言わんと欲して言い得ず、書かんと欲して書き得ず、あるいは自ら言い得たり書き得たりとするも人の読んで我が意を解せざるあり、はたまた誤解するあり、畢竟その目的を達せずしておわる。これ法の無かるべからざる所以にして、学んで習わざるべから所以なり。作文の必要ここに在り。




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作文参考書 (その前に)

2018-08-16 19:17:47 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
●病気なもんで新しい文章を作ることが難しいのである。

●そこで書写をすることに決めた。

 正確には打つのであって書くわけではないが。

●そこで選んだのが『作文参考書 陸軍予科士官学校』である。

 戦前の本だな、当然に。陸軍だし。

 陸軍予科士官学校国漢文科の編述である。

●で、だ。

●まずもって言っておくが、これは雰囲気を楽しんでくださいという意図で連載をしていくのである。

●誤字・脱字などは勘弁してほしい。

●1126ページもあり、実に多くの例文が載っているが、ここは扱わない。

●片仮名が原文では用いられているところが多いが、そこのほとんどを平仮名にしてある。

●仮名遣いは原則として現代仮名遣いにしている。

●漢字も新字を用いている。

●傍線などは省略している。

●文中の左は「下記」としていただきたい。

●副詞、接続詞、指示語などの部分は原文は漢字でも平仮名にしているところもある。

●本がぼろぼろなので詳しくは読んでいないよ。

●な、学術的な価値はなさそうだろ。

●要は雰囲気だけでも味わい、現代の文章論との対比のきっかけ、文章教育と日本陸軍のあり方などを考えるきっかけにでもなれば幸いです。




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