国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

作文参考書 陸軍予科士官学校 その16

2018-08-30 14:20:00 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
 第七章  雑録
第一節 作文の病

作文の第一の病は主意の立たぬことなり。主意立たずして書きたる文は価値なし。(中略)作者のこの病に罹ることは第一、頭脳明晰を欠くるがために、一議論に向かって論理的に纏れる有機的組織の論旨を組み立つる力なき故なり。第二、平素言論する事がほとんど囈語的にして、真摯なる談論に心がけの足らぬが故なり。第三、平素他人の名文佳作を読むも、ただ皮相的に読了するのみにて、深くその組織だてる構想着意の妙味を喫せざるが故なり。(中略)
作文の第二の病は、脈絡貫通せざることなり。「脈絡貫通せざる」とは、筋の通らぬことなり。辛うじて主意だけは読者に了解せられても、文の筋道通らぬものなれば、その了解たるや、読者が作者の意を迎えて解くこと多きなり。故に、推察能力の少なき読者に向っては、この文の用を為さざること、主意の立たざる文と大差なし。(中略)分断法あり、布置序あり。首尾一貫、明快人を動かすに足れり。
第三の病は美辞佳句に囚わるることなり。かつて読んで記憶せる美辞佳句を好んで利用せんとするものあれど、そは大いなる誤なり。文は美辞佳句のタメに作るものにあらず、我が思想のために作るものなることを思わざるべからず。我が詩藻三昧より自ら筆端に迸り出づる美辞佳句は固より悦ぶべけれど、もし美辞佳句にのみ眩惑するがごときことあらば、爲に往々にして我が大切なる思想を枉ぐるに至るものなり。(中略)
第四の病は、本旨を閑却して多く他を言うことなり。題意に関する思想が未だ凝結せずして雲霧の状態にあるとき往々この病弊に陥る。(中略)
この他、文の病弊の数うべきものなお多かるべし。唐突を奇抜と思い誤りて得たたるも不可なり。平々凡々尋常小学三四年生の筆にも似たるういういしさをもって、明晰得たりとなすも不可なり。難語難句を並列していわゆる佶屈聱牙もって得たりとなすも不可なり。故なく故事・成語を出し列べて我が学を衒うは陋。剽窃は陋の陋なるものなり。常識を逸してしかも得々たるは、その心の程も見えて浅まし。或は不純物を混じて、いわゆる玉石混交の文を作り、想に辞に、その石を去ってその玉を磨かざるは、またもって得たりとなさず。辞様はそもそもす末なりといえども、一髪の乱れももって相好を傷つくるものあるを思はざるべからず。口語と文語と、片仮名と平仮名との混交もまた避くべし。文法の誤、字画の誤などは、決して見のがすべからざるものあり。(中略)誤字の甚だしきは今日一般学生の通弊なり、深く諫めざるべからず。書き方の不潔蕪雑ということも、またその人の品性を左右すること無きを得んや。簡潔固より貴ぶべしといえども、簡に過ぐるもまたもって得たりとなさず。

(以下略句読法・記述雑例などについて)
第一篇終了
 
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作文参考書 陸軍予科士官学校 その15

2018-08-29 18:16:45 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
 第五章 第二節 文の種類

文の種類を大別して二と為す。いわく、散文、いわく韻文(我が国語の性質上、押韻文なし、よろしく律文と名づくべえしとする者あり。)これなり。散文をまた大別して二と為す。いわく普通文、いわく書牘文。普通文は概して記事・叙事・解説・評論・感想・式辞・勧誘等に別たるべし。世に叙情文と称するあり、感想の類に属せしむべきか。随筆なるものあり、また感想の一類たるべし。小品なるものあり、こは感想に属すあり評論に属するあり。訓諭・訓示のごときも勧誘の一体と見做すべく、報告・具申のごときは蓋しまた記叙論説の錯綜応用せらるべき一体たらん。およそこれらの分類はただその大体について定めたるものにして、もとより確然たる区画あるものにあらず。記事にして叙事を含めるものまた固よりあり。各種互いに相錯わり相助けて、ここに始めて如何なる事にも遺憾なき発表を期し得るなり。
もしそれ漢文より因襲せる名に従はば、記あり、紀事あり、序あり小序あり、引あり、題あり、跋あり、説あり、弁あり、論あり、伝あり、行状あり、表あり、疏あり、箋あり、賛あり、頌あり、箴あり、檄あり、碑文・墓誌銘・祭文・弔文等ほとんど枚挙に
遑あらざらんとす。序に送別の序あり、書籍の序あり、等しく書籍の序というにも、自ら序するあり、人に請いて序せしむるあり。(以下略)

第六章  文の変遷

(引用文を省略)
以上、桂月の説くところのごとし。かくて大正を経て昭和に入り、我が文運はますます開けたり。殊に世界大戦以来、急転直下の勢をもって進展し来れるもののごとし。世界思想に入り、世界文学入り、世界的となりて、文章もまた世界的に面目を改めつつあり。而して口語体の勢力、また頓に加われり。帝国の将来の文章、それ燦としてますます光輝を発せんか。

 
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作文参考書 陸軍予科士官学校 その14

2018-08-28 12:28:51 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
 第五章 文体 文の種類

第一節 文体
文体とは文の姿なり。作家の風格が思想の本、辞様の末に表われてここに種々の文体を生ず。微細に論ずれば、百人百体を生ずべく、由をもって「文は人なり」の各人各個の個性を発揮すべきなり。
普通、文体に名づくるもの、いわく簡潔、いわく蔓延、いわく剛健、いわく優柔、いわく乾燥、いわく華麗、いわく荘重、子細に挙げなばなお多かるべし。
一、 簡潔体 力めて修飾語を去り、裁断節略を行い、少数の語に多量の意義を与わしめ、辞達してやむものなり。含蓄あり、余韻あり、高雅なり、質実なろは良し。されど、拙なるときは無味乾燥に陥り、かつ意味の明瞭さを傷つく。
二、 蔓延体 委曲を盡し詳細を極め、有らんかぎりの修飾を施し、一意の表現にも千言を費やし、錙銖も残す所なきものなり。丁寧懇切なるは良し。拙なれば過巧繁細厭うべきに至る。
三、 剛健体 表現の手強きをいう。男性的なり。熱情の人、情熱の熾盛なる時、多くはこの体を執る。題材について言えば、強力・威等を現わすべき場合は自ずからこの体に出でざるべからず。省筆・倒装・警句・直言・漸進・層語等、雄健を加うべき辞様に富み、優麗の表現に資すべき他の措辞は勢いも多く用いられざるを常とす。簡潔体に似たる点あれど、も、子細に見れば、簡潔にしてしかも剛健なるあり然らざるあり、剛健体にしてしかも簡潔あり然ざるあり。一概に律すべからず。
四、 優柔体 表現の哀れ優しきをいう。女性的なり。涙もろき人、涙ある時、多くはこの体に出ず。哀怨の場面を描く際などには自らこの体の相応わしきを見る。用語の心づかいは全く剛健に反せり。
五、 乾燥体 一つも修飾を施すことなく、読者を動かすことなく、単に理解に訴うるをもって足れりとするものをいう。法律規則の類、解釈説明の文、その他実用の文、多くはこれに属す。
六、 華麗体 過度に修飾を施し、絢爛の美を衒うものをいう。初心の輩多くは好んでこれを用う。可巧厭うべきを見る。老成の人はほとんど悦ばず。
七、 荘重体 一読人をして襟を正さしめ、崇高森厳の気に打たれしむるものをいう。詔勅・聖喩の類と、上奏・賀表の類とより、およそ皇室に関し、神祇に関し、父祖に関し、その他総て恭敬の情の溢るる中に草すべきものは、皆この体に属す。
辞様の差異に基きて言えば、口語体あり、文語体あり。文語体とは歴史的文章にのみ用いられたる辞様に作られるをいい、口語体とは現在平素の談話公園等に用ふる辞様に基きて作れるをいう。世往々、口語体をもって言文一致体と称するもの有り。されど精密に言えば言と文とは一致するものにあらず、相似の極めて近きのみ。
言は流動物なり。文は結晶物なり。言は耳に訴え、文は主として目に訴う。言には音別・音数・音次・音長等によりて文には智的方面の思想を表現する外、更に音度・音幅・音色を利用し、相貌・身振・手真似等を用いて十分に表情の工夫を施すことを得れども、文に在りてはこれ等の諸要素を悉く利用しもって表情を完全にならしむること能わず。文に記し得べきは音別・音数・音次・音長等、客観的方面に属するもののみなり。故に抑揚(すなわち音度)音長の伸縮・相貌・身振・手真似等は、その講演談話の調和を得しめ、意義の強調・注意の焦点を示す等に欠くべからざるにも拘らず、速記文はこれを標出し得ざるが故にその講演談話の妙味の一半は減殺せられ、唯その智的半面を留むるのみ。この際、もし多少読者の情を動かすものありとせば、その速記文の表情・工夫の故にあらずして、適々読者がその言に溯りて追憶喚起せる情ならんのみ。文のこの欠点を補わんがためには他に種々の手段を講ぜざるべからず。手段とは何ぞ。すなわち修辞的研究の半面これなり。吾人はこの修辞的研究及びその運用によりて、能く金玉の響きあり人を動かし鬼神を泣かしむる名篇をも作り得べし。要するに口語体の文は、口語を基礎として生面を開くべく、これが研究練習の閑却すべからざることは、文語体の文におけると大差なし。
吾人はさらに、後に説かんとする文の種類基きて文体を別つことあり。たとえば、散文体と称し韻文体と称するがごとし。時として記事文体乃至論文体などさえ称することあり。
この外なお、姿容の雅俗に著して雅文体・俗文体等を称するあり、時代に著して王朝体・鎌倉体・元禄体・将々擬古体等と称するあり、作家に著して西鶴体・馬琴体・近松体等と称するあり、代表的著作に著して太平記体・万葉体・古今体等と称するあり。今略して述べず。
 
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作文参考書 陸軍予科士官学校 その13

2018-08-27 18:41:24 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
 第四章 第五節  修辞的辞様

修飾的辞様は、語句が由をもって美文の域に入るべき所以の措辞法なり。これが無きがために文はその内容の価値を減ずることなし。されど、これが有るがために文はますます明晰を添え、雄健を増し、優麗を加う。
修飾的辞様に属するもの種々あり。
(以下比喩法、擬人法などの説明が続く。以下略)

第四章 第六節 辞様の配置

文の全体を通じて、辞様の塩梅配置には注意すべきは、措辞の意匠上最も緊要なる事とす。しかれども、吾人は、これに多くの法則を設けて旺盛なる思想を拘束するの愚を為すを好まず、唯二個の要件を挙示するに止めんことを欲す。二個の要件とは何ぞ。いわく調和、いわく変化、これなり。調和は無条理を避くる所以、変化は単調没趣味を防ぐ所以。措辞の全体にわたれる塩梅配置の意匠の原理は、けだしこの二要件を出でざるべきか。さらに思えば、これに煩瑣なる法則なく、規約なく、言わんと欲する思想を言わんと欲する辞様に表出することは、即ち束縛を解き、自由を与うる所以にして、奇文字・怪文字はこの自由の中に産み出さるべきものなり。
それ調和と変化とは審美の二大要件にして、また実に文の二要件たり。二者各々分離すべからず。調和のうちに変化あり、変化のうちに調和あらんことを要す。
文に調和あらしめんには、まず語脈に注意する所なかるべからず。されど、変化あらしめんが為めに故らにその脈を破り、普通の順序を倒装することあり。その倒装や、なお調和倒装なるべからず。
文に調和あらしめんには、語句の長短と断続とに注意する所なかるべからず。およそ文は短語句にのみにても成立し得べく、或は長語句たらしむることを得べく、長きの極は数行ないし十数行にわたりて連続せしむることを得べし。長語句は複雑なる思想、複雑なる事理をその関係のまにまに説述するに好し。されど、複雑なる事理を複雑なる長語句によりて説かんわ、ますます複雑の感あらしめ、読者の脳裏を複雑ならしむるところあるが故に、特にこれを数短語句に分かちて文意の明瞭なるを図ることあり。単語句の積集は幼稚なる思想、単純なる思想を述ぶるには好し、そわそわしきさま、ちょこちょこしたる挙動を見するに好し、喜・怒・哀・楽等の急激なる発作を表すに好し。故に特にこれを用いて写実の功を奏することあり。長句は概して婉曲なり、流麗なり。されどもその短所は雄健と明晰に欠くる所なきにしもあらず。短句は概して雄健なり、明晰なり。されどその端緒は婉曲流麗に欠くる所なきにしもあらず。吾人はこれらの理由を根拠として語句の長短断続の上に適当なる工夫を用うべし。作家の嗜好によりて好んで短句を多く用うるあり、好んで長句を多く用うるあり。また、思想の種類によりて特に短句を多く用うべきあり、特に長句を多く用うべきあり。さは言え、長短錯綜し、断続多様なるは、調和の中の変化として最も尚ぶべき措辞の意匠たり。句調の佳しというも、半ばは這裏の消息をいうに過ぎず。
文に調和あらしめんには、叙事と叙言との配置に注意するを要す。叙事と評語との配置に注意するを要す。乃至、叙言と評語との配置、理と例の配合等に注意するを要す。叙事に簡なるべきあり、詳なるべきあり。叙言もまた簡なるべきあり、明細なるべきあり。叙言には純然たる叙言の形をもってすべきあり、或は地の言葉に準ずべきあり。この二様の何れを採用すべきかは、辞様の前後の関係によりて定まるべし。或は、言の重からざるもの、その要を撮むべきもの、類は叙事の形に叙し、その重きもの、全部を筆すべきもの、類は純然たる叙言の形に従うを可とすることあり。
問答会話の文にありては、要なき一方の言を省略することもあり。叙事と評語、その間に繁簡精粗よろしきを得べきことは、また略ぼ叙事と叙言との関係のごとし。概して、事実の叙述を本体とする文(例えば記事・叙事)には評論の語句を簡約にすべく、事理の論説を本体とする文(例えば議論解釈)には事実の叙述を簡約にすべし。ここに変化と調和とふたつながら並び行われん。その他の場合、皆これに準じて推知すべし。
文は変化を尚ぶ。文に変化あらしめんには、また辞様の配置に注意する所なかるべからず。まず基本的辞様の上に。次いで修飾的辞様の上に。
それ変化は平板を破る所以なり。同じ辞様の重複し、同じ句形の累出するは変化あるものにあらず。故に辞様のあらん限りを錯置配合すべく、句形の有らん限りを交互運用すべし。されどその間に調和なかるべからざるは論なし。
反語は強し。されど頻りに反語を用いば、読者厭嫌を来さん。二重否定は強し。されど、頻りにこれを用いば強なる能わず。喩えば唱歌の譜のごとし。一高一低一強一弱縦横錯落せば、強きものますます強く、高きものますます高く、弱きものますます弱く、低きものますます低く、もって克く壮大・哀婉・雅亮の調を発揮すべし。修飾的辞様の運用におけるも、またこの理法に足る能わず。比喩と対語とは文を優麗ならしむれども、多用の弊は浮華厭うべかきを見る。層語と漸進とは文勢を旺すれども、濫用の弊はかえって勢を殺ぐ。擬人は奇抜なれども、妄用しては奇抜を失い、引用は自家の主張を援助なれども、冗用すればかえって主張を失う。某作家は好んで警句を用い、某作家は好んで誇張を用い、某作家は好んで対比を用い、某は妄りに添語の修飾を悦び、某は妄りに削語の簡潔を旨とし、某は嗟嘆に、某は反語に、某は二重打消におのおの好んで偏用の傾向を示し、知らず識らず自家の特色と文癖とを為す。甚だしきは、特殊の副詞・接続詞・助動詞の類にさえ癖を為りて得々たる者あり。講演談話の上にもこの特色習癖を発見すること少なからず。かくてその人その人の談話に、文章に独特の「スタイル」をさえ生ずるなり。自由なるがゆえに癖を為し易し。されど、自由なるが故に技巧を施し得べし。この理由に基きて、思想は主なり、言辞は従なり。言辞をもって思想を動かすべからざるは勿論なれども、辞様に調和と変化をあらしめんが為に、機に臨んで多少配列の順序を変更し、表出の形状を左右するを許す。これ決して言辞の為に思想を動かすものにあらずして、むしろ思想の表現の顕著ならしむる応変の策なり。
 
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作文参考書 陸軍予科士官学校 その12

2018-08-27 10:55:01 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
第四章 第三節  語句の形式

語句は、その本領として、内面に動かすべからざる実質を有すると同時に、外貌より見て各々ある一定の形を具せり。これを名づけて語句の形式という。
形式は一の鋳型なり。鋳型はよく多数の相似物を鋳造すべし。故に語句の種々たる形式を了得すれば、その種々なる形式の各々に種々なる多数の思想を嵌入し、もって文を結構すべき多数の語句を得べし。たとえば数理の公式のごとし。その公式に適合すべき数理は、ことごとく由てもって解すべく、さらに進んで、その公式に適合すべき問題をも創作し得べし。語句の形式を知れば、その形式に適合すべく他人の思想を解すると共に、更に自家の思想をその形式に基きて発表することを得るものなり。
実質は動かすべからざれども、形式は流用すべく、実質は模して作るべからざれども、形式は模して作るを得べきなり。一の思想を数様の形式によっても陳述し得べきなり。実質はたとえば物なり。行くとして用いられざるなし。ただその融通を回転を貴ぶ。通貨に品あり。銅貨の多数は銀貨の少数に値し、銀貨の多数は金貨の少数に値す。語句の形式にもまたおのずから品あり、甲乙巧みに流用せば、措辞の妙用極まりなからんとす。
語句の形式を、基本的辞様・修飾的辞様の二種にわかつ。

第四章 第四節 基本的辞様
(文法的事項なので略す)

    
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作文参考書 陸軍予科士官学校 その11

2018-08-26 13:33:06 | 作文参考書 陸軍予科士官学校

本に挟まれていた原稿用紙。

大きさはほぼ現代のと同じだが、マス目がないタイプ。

陸軍予科士官学校と隅にある。




第四章  第二節  語句の実質及びこれに関する諸注意

およそ語句には、本来特有にして動かすべからざる意義と用途とを有せり。これを名づけて語句の実質という。(中略)
純正と妥当とを得んには、左の諸項に注意すべし。
(イ) 本義の正確を期すべきこと。(中略)
(ロ) 佶屈贅牙なる語句を用ううべからざること。(中略)
(ハ) 新語を濫造すべからざること。(中略)
(ニ) 広く世に知られざる語は用うべからざること。(中略)
(ホ) 科学的術語はつとめて避くべきこと。(中略)
(ヘ) 死語を用うべからざること。(中略)
(ト) みだりに外国語を用うべからざること。(中略)
(以下略)


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作文参考書 陸軍予科士官学校 その10

2018-08-25 20:30:00 | 作文参考書 陸軍予科士官学校

参考までに我が家にある「作文参考書 陸軍予科士官学校」。

ちなみに前回の「或は」攻撃でヒットポイント減少中。

今後は省略もあります。


第四章
辞について

第一節 概説

文の三要素を具備して名篇佳作たらしめんには、想に辞に意匠を施す所なかるべからず。想に関することは既に説けり。以下、辞についていささか述ぶるところあらんと欲す。文として目的を達すべき最後の手段は辞様上の意匠にあるなり。
辞様上の意匠については、二大別して説くを便とす。一にいわく、部分の攻究、二にいわく連綴の工夫。連綴の工夫は辞様上の意匠の主眼とする所なり。しかれども連綴の工夫において得る所あらんと欲せば、まず語句の部分について攻究する所なかるべからず。すなわち、語句の各部分について、その実質・形状等を子細に点検し、以て辞様上の意匠の元素を究明せざるべからざるなり。
部分の究明既に成らば、さらにこれが連綴の工夫に及ばざるべからず。連綴の工夫は千変万化なるべし。一概に律すべきにはあらず。もしこれを律せば、その弊や、いわゆる千篇一律の文とならん。
それ語句は実質と形式との二面より考察すべく、而してその形式は基本的と修飾的との二面より推究するを得べし。
以下、節を分ちて少しく説示する所あらんと欲す。

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作文参考書 陸軍予科士官学校 その9

2018-08-25 11:55:56 | 作文参考書 陸軍予科士官学校


第三章 第五節  段落
文は構想に基いて段落を作るを要す。段落を作るは文意を明晰にするゆえんなり。
段落を作るとは、配列せる思想の系統によりて、首より尾に至るまでを幾段かに分割し、各段において、その思想の小結束を形成せしむるの謂いにして、これを筆紙に見わすときは各段に行を改め書くなり。これを「段落を切る」という。段落について、最も注意すべき二大要件あり。
 一にいわく、段内の思想はいずれも渾然たる一団を成して、秩序あり条理あるべし。
 二にいわく、段と段との関係は互いに親密を有ちて、前者の後を呼び、後者前に応じ、ただに前後段の相隣せるもののみしかるべきにあらず、相隔たれる各段においてもまた適当なる反照照応などあるべし。
この二件の要件は、構想の際、配列統一の工夫によりて行わるべきものなり。
段落を切るには一定の則なし。されど試みに数個の場合を挙げんか、分解的に配列において、まず大主想の提起を一段とし、更に分解せられたる一項毎に段を立つべきあらん。この際、小なるは数項を連結して一段とすべきもあるべし。
総合的配列の場合においても、またこれに準ずべきか。大小軽重の場合においては、大なるもの重きものを一段とし、小なるもの軽きものを一段とすべきもあらん。時間に関するものは時間の一区割毎に、空間に関するものは空間の一区割毎に切るべきもあらん。或は原因をもって一段とし、或は結果をもって一段とし、或は一因一果をもって一段とし、或は一事実をもって一段とし、或は二三事実を連結して一段とし、或は評論を一段とし、或は事実と評論とを結んで一段とすべきもあらん。事実の長きもの複雑なるものは更にその内に段を分つべく、評論の長きもの複雑なるものも、またその内にさらに段をわかつべし。或は一引例を一段とすべく、或は一解説を一段とすべく、或は一例一解の配合をもって一段とすべきもあるべし。一客想を一段とすべく、或は一客想に主想の一部分を配合して一段とすべきもあるべし。或は一問をもって一段とすべく、或は一答をもって一段とすべく、或は一問一答をもってすべく、或は数問数答をもってすべく、或は叙事に叙言を配して一段とすべく、或は叙言と叙事と別々に一段とすべく、或は長き叙言はさらに数段に分つべきもあらん。
段落の工夫よりして、一篇の文章には多く首中尾の体裁を具う。中要は一段乃至数段にわたりて縦横に綴らるべきも、起首と結尾とは概して一段に収むべく、かつ、起首と結尾とには全篇の大主想を簡明峻刻なる語法によりて表出するの最も有効なることあるべし。さは言えこの限界は、思想の種類によりて或は顕著ならしむべく、或は顕著ならしむるを要せざるべし。
文末僅かに余波を描いて、一段の光彩を添うることあり。




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作文参考書 陸軍予科士官学校 その8

2018-08-24 10:06:28 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
 第三章
 第四節  客想
客想とは、主想を助けて文を有効ならしむべき補助の想なり。詳言すれば、主想を明晰ならしめ、文旨の存する所を読者の脳裏に深くかつ強く印象せしめんがために借りて用ふべき想なり。このゆえに、客想あればとて文の内容に一物をも増やすことなく、客想なければとて一物をも減ずることなし。もし内容に増減の影響を及ぼすものたらんか、そは客想にあらずして、主想の一部たるなり。
客想は、もと構想の意匠に属する方便物にして、目的物にはあらず。主想に追随して連想すべきものたり。故に、主想に先だちて起こるべきにはあらず。しかれども、これを構成配列するに際しては、或は主想に先だたしめて主想の前衛たらしめ、或は主想後しめて主想の後衛たらしめ、或は主想と前後相錯綜せしめ、或は主想の存する所を十分に含蓄せしめてわざと客想に多言を費し、主想の意を特に短縮してこれが結束のごとくし、或は殆んど主想に一言をも費すことなくしてことごとくこれを客想に託し、或は客想をただ一言して読者の想像に任せ、その余はつとめて主想に多言することあり。概しては客想多きに過ぐれば文辞浮華に流れて真摯の風を失す。
客想は、最も必要と認むるとき最も有効に用いられざるべからず。しからざれば、客想あるがためにかえって文旨の明晰を傷つくることあるべし。
それ客想は、大にしては文の一段一節をも占むべきものあり、小にしては一句数句の中に含まるべきものあり。吾人は、客想の運用によりて講演文章等に趣味有る敷衍を為し得ると同時に、客想の節略によりこれを縮約して簡潔なるものとも為し得べし。これたしかに、文の伸縮方の一理法となすべきなり。
客想については、措辞上の意匠と出入すること多し。ゆえに、その大なるものは構想の際筆を下すの前、まずこれが意匠を凝すべきも、その小なるものにいたっては、筆端の走るがままによりより案出調合して可なり。
 
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作文参考書 陸軍予科士官学校 その7

2018-08-22 20:32:10 | 作文参考書 陸軍予科士官学校
 第三章
 第三節  構想(二)(構想の形式、主想)
構想の形式におよそ五種あり。追歩式・散列式・頭括式・尾括式・両括式、これなり。
追歩式とは、頭なく尾なく、唯一条の筋を辿りて縦に記述する形なり。何等の技巧なきが如くなれども、淡味言うべからざるものあり。散列式もまた頭なく尾なく、幾多の事項を横に並列記述する形なり。と見れば散漫にして何等条理の一貫せるもの無きが如くなれども、子細に点検し来れば各項自ら多少の関連あり、次序あり。その淡如たる所最も悦ぶべし。頭括式とはまず綱領を提げて記述し、次いでこれを詳説する形なり。尾括式とは、これに反してまず個々の事項を説述し、終りに至って結束する所あらしむるをいう。まず綱領を提起するあり、終りに結束するありて、首尾両つながら瞭然たるものを両括式という。これらの諸式、各々孤立するものにあらず。互いに相錯綜し並用せられて複雑なる発表の妙を極む。
それ思想界は広漠無限なり、複雑極まりなし。これを文辞に発表して他人の明解を得んと欲するもの、豈にその発表の手段を講ぜざるべけんや。その発表手段の一半は、これを構想の意匠に待たざるべからざるなり。
およそ吾人が題に臨み文を作らんとするとき、所題に関して懐ける思想を主想という。この主想を発表せんがために文は作らるるなり。されば如何なる意匠も、この主想を中心に立てて考案せられざるべからず。如何なる工夫も、この主想発表の目的を達せんがための方便として運らされざるべからず。主想の前には如何なるものをも犠牲にすべし。文辞のために主想を犠牲することあるべからず。初学の輩ややもすれば主従地を易え、主想を文辞の犠牲となす。戒むべし。
主想に系あり。あるは分れて二となり、三となり乃至数個となり。各個の小主想またわかれて二となり、三となり乃至数個となる。主想の内容これがために複雑となるものなり。こは分解の形にて述べしものなるが、もし総合の形にて言わんか、各個多数の思想集まりてここに小主想を構想すべく、各小主想集まりて、ここに大なる主想を構成すべし。これを要するに各想の間に秩序あるべく、系統あるべく、想々互に侵すことなく、紛糾することなく、配列よろしきを得て、各想は各一方に向って小主想の焦点を作り、各小主想はまた各一方に向って大主想の焦点を作るべく、而してその結構敷置を明晰ならしむる手段として章を分ち段落をも設くべく、また重要主想を顕著ならしむるためには、不急の思想について裁断簡略をも行うべく、これを全文の結構より言えば、起筆・中要・結尾等の体裁上の用意もあるべく、かくして整然たる配列あり、渾然たる統一あり、ここに始めて健全なる文の内容をなすべきなり。
主想を顕著ならしめんがための統一的配列は、題により想によりて各々その適否を異にすべし。まず大主想を提起して、次いでその内容をm項に分解し、更にその各項をn項に分解して、漸次に粗より細に入るを可とすることあり。あるいはこの法を逆にn項を彙類総合してm項となし、あるいはまた、n項の諸主想中、比較的重大なる数項を列挙し、しかる後小主想の数項を補遺的に列するの可なることあり。n項の諸主想に大小軽重の等差の順に配列し、もしくは逆に配列するの可なることあり、或は故らに大小軽重を相錯綜せしむるの可なることあり。n項の諸主想に大小軽重の差なきとき、時間空間等の支配に順いながら、故らにその一二もしくは三四項を抜いて後列に編し、もって単調を破るの可なることあり。或は原因を先にして結果を後にし、或は結果を挙げて次に原因に及ぶの可なることあり。事実の大綱はこの方に従いながら、さらにその内容の小事項には原因結果相錯綜せしむるの可なることあり。引例の際の、例と理との関係もまたこれに準ずべし。或は間接関係の事項を冒頭に置いてこれによりて直接事項を誘起するの可なることあり、間接事項を後援地位に置くの可なることあり。これに客想の加わるあれば、構想はますます複雑になりゆき、文はますますの妙趣を添え来るものなり。
 


 
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