<訳文>
八月十五日の夜の月を迎えて、僧がたくさん集まった(そうだ)。稚児も一緒に、月を眺めていたところ、大きい稚児が「今日の月くらいの餅を抱えてゆっくりと食べたら、楽しいだろうなあ」とささやいたときに小さい稚児が「なるほど、大きさはあれくらいで良いが、厚さが分からないと」と言った(そうだ)。
<古文>(改変あり。講談社学術文庫版377頁)
八月十五日の月を迎へ、坊主(ばうず)あまた集まりけり。児(ちご)もまじはり、眺めゐけるに、大児の「今日(けふ)の月ほどの餅(もち)をかゝへて、そろそろと食はば面白からむ」とささやきけるときに小児「げに、大きさはあれほどでも良きが、厚さを知らねば」など言ひけり。
<解説>
唐突だが8月の季節は何? と聞くと「夏!」と元気に答える人も多いと思う。「夏」休みだし。ちなみにだが七夕(たなばた)の季節は何? とも聞いちゃう。
答は共に「秋」。昔のカレンダーはシンプルで1~3月が春、4~6月が夏、7~9月が秋、10~12月が冬である。三か月ごとに単純に区切れるのだ。1月が春というのは「新春」という年賀状言葉に生き残っているな。でもって8月は秋の真ん中なので、さらに言うと15日の夜は満月なので「中秋の名月」と言う。ちなみに3日に出ている月は三日月である。「中秋の名月」は月見をするのが風流。今ではほとんど全滅しているかな。マク●ナルドの月見バー●ーに残っているくらいかもしれぬ。
そんな中秋の名月の月見でお坊さんたちがたくさん集まっていた。「あまた」というのは「数多」と書き、まだ、現代語だと思う。
「稚児・児・ちご」は「1ちのみご。赤ん坊。2幼い子。幼児。3祭礼や寺院の法楽などの行列に、美しく装って練り歩く児童。4寺院や、公家 (くげ) ・武家で召し使われた少年。」のこと。古文ではよく出る登場人物である。
あ。あ。
ちょっと忘れていたよ。古文の初めの一歩であるが、歴史的仮名遣いというのがある。
「迎へ」は「迎え」、「坊主(ばうず)」を「ぼうず」、「まじはり」が「まじわり」、「眺めゐけり」は「眺めいけり」、「今日(けふ)」を「きょう」、「かゝへて」を「かかえて」(「ゝ」繰り返しを表す)、「食はば」を「食わば」、「言ひけり」を「言いけり」とするのが歴史的仮名遣いを現代仮名遣いにするという作業である。
ふう。
疲れるな。
しかし、ここで整理せねば古文入門ではない。
いくぞ。
【歴史的仮名遣い】
語中・語尾の「は・ひ・ふ・へ・ほ」=「わ・い・う・え・お」
「ゐ・ゑ・を」 = 「い・え・お」
「ぢ・づ」 = 「じ・ず」
「~a(ア段)+ふ(う)」 = 「~o+う」
「~i(イ段)+ふ(う)」 = 「~yu+う」
「~e(エ段)+ふ(う)」 = 「~yo+う」
「くわ・くゎ・ぐわ・ぐゎ」 = 「か・か・が・が」
●ついでにここで月名を整理しちゃう。
1月むつき・睦月
2月きさらぎ・如月
3月やよい・弥生
4月うづき・卯月
5月さつき・皐月
6月みなづき・水無月
7月ふみづき、ふづき・文月
8月はづき・葉月
9月ながつき・長月
10月かんなづき、かむなづき・神無月(出雲では神在月)
11月しもつき・霜月
12月しわす・師走
三月生まれの「弥生」ちゃんや、五月生まれの「さつき」ちゃんなどは現存しているのではなかろうか。「師走」もよく聞くよね。ね。
覚え方としては頭文字をとって「むきやうさみふはなかしし」と覚えるのが楽かと。昔は漢字を当てて「無興、三味婦、鼻が獅子」(興ざめするのは三味線を弾く女性の鼻が獅子のようなときだ)で覚えていた。まあ、私もそれで覚えていたが。
ところで、「無興=むきょう」がどこから出たか分かる?
「むきやう」を現代仮名遣いで読むと「むきょう」になるんだね。だから、説明の順番が暦、仮名遣い、暦になったわけ。いろいろと考えているのよ。
結局のところ、現代人は素直に「むきやうさみふはなかしし」が簡単かもしれんな。
今回は歴史的仮名遣い、月名と季節の把握をもって古文入門としよう。
次回はこの文章の重要なポイント(文法、単語)を整理していこう。
それまでは復習することと、訳文と原文をセットで読みくらべていくことをしてくだされ。それだけでも意外と古文の力はつくのだ。