国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

Rちゃんの伝記

2007-03-10 22:08:59 | 戯言
Rちゃん五歳の頃である。

ホモルーデンスの見本たる彼女は今日も楽しい遊びを見つけた。

ぐるぐる回るという遊びだ。

この遊びを侮ることなかれ。かのホイジンガは遊びを「アゴーン(競争)」、「アレア(偶然、確率)」、「ミミクリー(模倣、ごっこ遊び)」、「イリンクス(眩暈)」の4つの要素だとみなした。

ぐるぐる回るというのはイリンクス純度100%ってことなのである。五歳のRちゃんは未来において眠れない夜は首都高をぐるぐる回っているうちに助手席で眠るという行動をしばしばとるのだが、ここでは5歳のころに話をしぼる。

Rちゃんは、いとこの部屋でいとことともにぐるぐると回っては止まるを繰り返していた。その度に床が、いや、天井も、ええい、つまり、Rちゃんにとっての全世界がぐにゃぐにゃとしているのが楽しかった。

あひゃひゃひゃひゃと笑いながら、回ったり、止まったりしているうちにRちゃんは名案を思いついた。Rちゃんはホモサピエンスでもあったのだ。

いとこと回ることを競うと言うのである。アゴーンの要素も入ってきたわけだ。

Rちゃんは回った。限界を見るために。Rちゃんは回りながら世界が歪んでいくのに気づいた。楽しい。あひゃひゃひゃひゃひゃ。いとこも「Rちゃん、楽しいね」と言いながら回る。

Rちゃんは茶色い物体が視界で大きくなっていくのに気づき、それがタンスだとわかり、何故大きくなっていくのかと思った瞬間にタンスの角に頭をぶつけた。

Rちゃんは目の上のあたりをタンスで切ってしまい、畳の上に倒れた。倒れたが、なおも世界はぐらんんぐらんと揺れる。あひゃひゃ、痛っ、あひゃ、痛いよ、うぇ、あひゃあ。泣きながら笑いが止まらなくなった。血、鼻水、涙、よだれなど顔面から出うる全ての種類の体液が出まくっている中、いとこは慌てた。

Rちゃんが大変だ、と回転をやめていとこは近づいてくる。いやな予感がしたRちゃんは来るなと心の中で叫んでいた。だが、口からはあひゃひゃ、うぇ、あひゃぁひゃ、ひっくとしか出てこない。

近づいてくるいとこもさっきまで派手に元気良く回っていたのだ。当然、足元はおぼつかない。

Rちゃん、大丈夫? と言いながらいとこはRちゃんの顔を踏んだ。

ぐるぐる回るという遊びは禁止になった。
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