唐土(もろこし)に蒼頡(さうけつ)といふ人、 人物+、(読点) 一文の主語(~が・~は)
文字をつくり出(いだ)したまふ 「たまふ」尊敬語・作者の蒼頡への敬意
書きいだしたまふ 「たまふ」作者の弘法大師への敬意
おぼゆるなり 「る」は助動詞ではない。「おぼゆる」で下二段活用連体形
所望しければ、 「しければ」 したところ。已然形+ば ので・から・と・たところ
重ねて申しければ 「申し」謙譲語。道風への敬意
習ひ給へ 「給へ」尊敬語。道風のある人への敬意。尊敬語の命令形(ください・なさい)
【訳】
文字というものは、中国(=もろこし)のそうけつという人が、鳥の足跡を見てはじめて文字を作り出しなさる(った)。これ以来、文字(=手)を少し書くことを鳥の足跡を学ぶと言うのである。文字には楷書・草書・行書の三種類がある。行書の文字をやわらげて、弘法大師が女性のためにいろはというものを四十七字の仮名として書きだしなさる(った)。これを女文字と言うのである。いろは(の仮名文字)さえ書くことを覚えると、無知の人間でも、歌や本を読んで、昔のことを知り、手紙、書簡を書いて自分の気持ちを伝え、用事をすます。よって、習字のはじめには、まずいろはから書いて習い、後で文章を続け、男文字も覚えるのである。
小野道風という文字を上手に書く人のところへ、ある人が手本を書いてくださいと望んだところ、古い筆を箱に入れて贈りなさった。古い筆が望みではなく、手本のことであると再び申し上げたところ、道風がおっしゃるには、このように古い筆が積み重なるように心を込めて、習いなさいと申し上げられたとのことである。
文字をつくり出(いだ)したまふ 「たまふ」尊敬語・作者の蒼頡への敬意
書きいだしたまふ 「たまふ」作者の弘法大師への敬意
おぼゆるなり 「る」は助動詞ではない。「おぼゆる」で下二段活用連体形
所望しければ、 「しければ」 したところ。已然形+ば ので・から・と・たところ
重ねて申しければ 「申し」謙譲語。道風への敬意
習ひ給へ 「給へ」尊敬語。道風のある人への敬意。尊敬語の命令形(ください・なさい)
【訳】
文字というものは、中国(=もろこし)のそうけつという人が、鳥の足跡を見てはじめて文字を作り出しなさる(った)。これ以来、文字(=手)を少し書くことを鳥の足跡を学ぶと言うのである。文字には楷書・草書・行書の三種類がある。行書の文字をやわらげて、弘法大師が女性のためにいろはというものを四十七字の仮名として書きだしなさる(った)。これを女文字と言うのである。いろは(の仮名文字)さえ書くことを覚えると、無知の人間でも、歌や本を読んで、昔のことを知り、手紙、書簡を書いて自分の気持ちを伝え、用事をすます。よって、習字のはじめには、まずいろはから書いて習い、後で文章を続け、男文字も覚えるのである。
小野道風という文字を上手に書く人のところへ、ある人が手本を書いてくださいと望んだところ、古い筆を箱に入れて贈りなさった。古い筆が望みではなく、手本のことであると再び申し上げたところ、道風がおっしゃるには、このように古い筆が積み重なるように心を込めて、習いなさいと申し上げられたとのことである。