人間は孤独を嫌いな存在なんだな、きっと。
彼女と別れるときに、僕は別れなどという意味をまだ理解もせずにいたときに、彼女はビルの群れが人の横顔に見えることがあるのと呟いていた。つまりは孤独だったのだ。ビルを人に見立てたくなるほどね。自分は一人じゃないとビルに意味付けを与えるほどね。僕は孤独を理解するほど大人じゃなかったんだろう。
そんなことも理解してなかった僕と別れたのは彼女にとって幸せなことに違いない。おめでとう、結婚式には呼んでおくれってやつだ。
僕は、今、正直に言おう。すごく寂しい。おそらく孤独を理解しかけている。いい女と別れたことに気付いたのもそうだけど、火星の衛星軌道で迷子になるのがこんなに寂しいとは思わなかった。赤茶けた地面が見えるだけだ。有人火星探査なんて誰が考えたんだ? 有人なんて趣味としか考えられんな。宇宙開発初期のドイツ人が考えていたんだろうか? いやはや、思考も意味がなくなってきた。
僕は火星の地面を見ていて笑い出したくなった。ついに孤独を理解したらしい。意味のないはずのクレーターに人間の顔という意味を与えていたからだ。このあたり、本来、泣いてもいいシチュエーションだ。
ただ、笑い出したくなったのは、まだまだ本当の孤独を理解していないような気がしたからだ。
クレーターにはスマイルマークがあったのさ。
※20年位前の日本大学芸術学部の問題だった気がする。その解答例だが懐かしくも恥ずかしいけど。諸事情で今回発表。