Remains of The Accidents

アクシデンツなページ

【読了】 草すべり その他の短編  南木佳士

2010年06月25日 | 読書
2006年から2008年にかけて発表された短編を集めたもの

本屋で読み物を物色しているときに南木氏の著作が目に入ると
手を出してしまう
この方の著作を調べたり、探したりするわけではないのに目の前
にあらわれると読みたくなる

明るい話はない

常に死と接する異常さと、それを異常と思える正常さの同居は
人の心に影を落とすようで、なにかと病の話が多い
かといって主人公が自ら死に向かって進んでいるわけではない
やりきれない自分を文章に投影しながら、主人公は今も
生きている

生きるということは、死なないということなのだろう

父の勤務先の側に大きめの郵便局がある
大通りに面したその郵便局の前にはタクシーを待つ人のための
屋根・椅子付のスペースが設置されている
毎夜、仕事を片付けて帰宅する時間には決まってある人がそこにいる
もちろん名前も知らない
その人はいわゆるホームレスであるが、そう汚れた身なりではない
昨夜もラジオを腹の上に乗せて眠っているようだった

どこから来てどこに行くのか
家族や世間とのしがらみはとうに無く
生きるか死ぬかの選択は自らの意思のみによるものだろう

なぜ生きているのですか
一度、問うてみたい
生きる意味とはなんですか

かの人に問うてみても、恐らく何も答えてはくれないだろう

その人を見た後、ひとり帰宅する電車に乗ると
結局、生きるということは死なないということなのではないか
と思うことがある


南木氏の作品を読み進めるたびに、こんな感じで
生と死は相反するものではなく、一つにつながった「状態」で
あるかに思えてくる

そして「まだまだ病むには早いぞ」と少し救われている気がする

コメント
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