今年は桜が咲くのが遅かった。
おかげで長男の入学式は桜の季節に重なった。
人間が決めた暦なんてものは結局アテにはならないということか。
その後、そんな息子が急に「胃が痛い」と言い出し、翌日も浮かぬ顔をしていた。
仕事からの帰り道、地下鉄の中に家内から電話があり「肺気胸で緊急入院したから、追い
かけて病院に来てほしい」という。
慌てても電車は早くはならないので、まずは時間通りに到着してくれることを願い。
駅についてからは、自宅マンションまでの上り坂を駆けのぼった。
自分自身に「急ぐ時ほどゆっくりと」と阿川弘行の言葉を繰り返して。
自宅に着くと、留守番をしていた長女が状況を説明してくれ、タクシーで以前入院して
いたことのあるS病院の夜間救急に向かったという。
そのまま自分の車で病院に向かう、「急ぐ時ほどゆっくりと」と繰り返しながら。
無事、到着すると緊急外来には姿が見えない。ひとりウロウロしていると本人からLINEが
入って居場所が判った。
処置室に連れて行ってもらうと、息子が寝台に横たわってぐったりしていた。
そばにいた家内もただただ心配そうにいて、開口一番「こんな状況なら救急車を呼ぶ
べきだったって言われた」という。
そんなにひどいのかと少し不安になったが、当の息子は原因が判って少し明るくなって
いて、しかし小声で「採血の人、くそヘタだった」と云った。
この夜は偶然「呼吸器科の専門医」がいて診てくれていた。
曰く「肺の上部に小さな風船ができて、それが破裂して穴が開いている「気胸」という
症状です。直接的な原因は解明されていないのですが、ストレスなどではないかと
云われています。」
続けて「今夜はICUに泊まってもらって胸の横に穴を開けてドレンを入れます。ドレン
から胸腔内の空気と肺水を抜いていきます。穴がふさがればそれで自然に肺は戻るの
ですが、**さんの場合は恐らく手術してふさぐ必要があると思います。」と。
明るい若い医師は「特別な症状ではなく、自分も年間50回ほど執刀する手術なので
そう心配はいりません」と軽く話していた。
長男がICUに移るタイミングで帰宅したが、既に夜半すぎ。
帰宅途中のコンビニで調達したお弁当を食べてなんとか就寝、翌朝そうそうにまた
病院を訪ねた。
自分はこの歳になるまで一度も入院したことがなく、また手術というものにもほとんど
縁がない。
なので病院で過ごす夜がどんなものか想像もつかないし、全身麻酔で手術することなど
どんな感じなのかもわからない。
ただ、彼が小児病棟に入院したときに「就寝時間なので帰宅してくれ」と云われて
別れたときほど寂しげな顔はしていなかった。大きくなったものだ。
翌日主治医から入院後の治療方針について説明があり同意書にサインした。
その後、翌週の半ばには手術を終えて土曜日に自宅に戻ってきた。
久しぶりに家族が顔をそろえた。
いずれ方々に散らばってしまう家族かもしれないが、今すこしばかり4人で過ごす
時間を大切にしたいものだ。
今回も改めて、なにもない日常が極上の日常なのだと思い知った。
ひさかたの ひかりのどけきはるのひに しづこころなく はなのちるらむ
追記)
手術前の同意書作成の折に医師は「ごくわずかな率ですが、手術の際に動脈を
傷つけてしまうと「輸血」の必要がありますが同意されますか」という。
「実はもう15回も献血しているので、他人の血を使うくらいなら是非私の血を
使ってください」と言いかけた。
結果的に輸血など必要なかったのだが、輸血するなどということがどんなに重篤
なイメージなのかなど身に染みた。先週から400ml献血が解禁になっているので
早々にまた献血センターに行かねば。
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