熊本熊的日常

日常生活についての雑記

人に会う

2012年03月07日 | Weblog
昨日電話があって、今日某社の4回目の面接を受ける。1月から丸2ヶ月かけて選考過程が継続している。意思決定に時間がかかるというのもこの組織の競争力の限界を語っていると思うのだが、それは先方も意識しているらしく、開口一番に時間がかかっている理由を説明していた。企業組織というのは、規模の大小に関わらず存在目的というのはひとつしかない。それは継続的に利益を獲得すること。そのための事業に応じて必要な人員を手当し、必要な組織体制を構築して機能させているのである。組織を構成する各部門は全体の目的を共有しつつそれぞれの機能を果たすという小目的を持つ。大規模な設備や仕組みを有する組織は巨大になり、それを構成する部門も多岐に亘ることになる。当然に各部門の小目的間で対立するものが出てくることもあれば大目的に反対するようなことも現れかねない。そうした複雑系を管理統御して組織を一体的に運用するのが経営陣の役割だ。「法人」という言葉があるが、大規模組織といえども社会の構成要素としては個人と同等の存在に過ぎないという側面もある。不確実性の世界を生きているという点においては個人も法人も同様であり、個人に時々刻々小さな判断と決断が要求されているように法人にも常時迅速な意思決定が求められている。それを怠ると、例えば原子力発電所が爆発するというようなトンデモナイ事態に陥るのである。なにはともあれ、今日の面接でようやく重たい車輪が少し回転したような感触を得た。

今日は珍しく夜に人と会う予定が入っていたので、面接の後、あちこち彷徨して時間を潰した。まずは茅場町に行く。もともと何に使われていた建物なのか知らないのだが、霊巌橋の近くに古いオフィスビルがある。1階にWall Streetという飲み屋があって、この店が開店した頃はこの名前もこの土地に似合っていたような気がしたものだ。今は株式市場が電子化されている上に失われたン年とかで株式市場そのものの活気が無くなってしまったのでこの界隈もすっかり寂しくなり、その名前がなんとなく苦笑を誘う。このビルにいくつかギャラリーがある。そのひとつ、RECTO VERSO GALLERYで知人の飯田さんが作品展を開催しているというので拝見に上がった。

イベントのタイトルは「Art Wave Exhibition vol.3」。小さな窓の無い白壁の部屋があり、その一面に飯田さんの作品が2点、それに向かい合う壁に望月麻里の作品が2点、ふたりの壁面の間に真池宏之の作品が展示されている。個々の作品よりもそれらが構成する空間がひとつの作品になっていて、その空間に立つことで自分なりの新しい体験をする。そのギャラリースペースだけでなく、建物全体も味わい深く、建物も含めて作品を構成していると見えなくもない。入口の戸を開けて中に入ると、かつて受付か守衛がいたと思しき机があり、人の気配が全く無いわけではないけれど薄暗くて静かな奥へと進む。そこにある自然光に照らされた石の古い階段を上っていく。ざわざわと不安な気持ちが起こる頃、4階の会場の前に立つ。部屋の中の様子がわからないのっぺりとした戸にギャラリーの名前が小さく示されている。ほんとうにやっているのかと訝しがりながらドアノブに手をかけて戸を開くと中に真っ白な空間が広がる。なるほどね、と思うのである。

茅場町から日比谷線で恵比寿に移動する。東京都写真美術館で堀野正雄展とベアト展を観る。

写美から駅の反対側へ出てSMLという瀬戸物屋を覗いてみる。以前、この近くのヨガ教室に通っていたことがあり、教室の時間の前後にこの恵比寿と代官山に挟まれた地域をぶらぶらと歩いたりしていたので、少しは土地勘があるつもりだったが、この店の存在には気がついていなかった。店の人に尋ねてみると、開店は3年前だがそれ以前は雑貨店だったという。それならその雑貨店を知っていてもよさそうなものなのだが、やはり記憶には見当たらない。記憶の話はともかくとして、小さな店だが、瀬戸物系では近頃流行のものが並んでおり、経営者の商売気が感じられる。それでもこの場所で瀬戸物だけで商売するというのは容易なことではないだろうが、もしこれが自分の住まいの近所なら散歩がてらしょっちゅう立ち寄ってみたいような店だ。瀬戸物のほうは自分で作っていることもあって余程のことが無いと買おうという気にはならないのだが、安くて気の利いた壷があり、これは正直なところ真剣に迷った。同じ作家の作品が倉庫のほうにもあるというので出してもらったが、一番気に入ったのは店に並んでいたものだ。この後予定が無ければ買って帰りたかったが、酔って帰ることがわかっているので、せっかくのものを買ったその日に壊してしまうという愚かなことにもなりかねず、作家の名前を手帳に書いて、スウェーデン陸軍の携帯用カトラリーと吉田守孝の栓抜き(Type B)を買う。

再び恵比寿駅へ戻る。アトレで今日の相手のひとりと待ち合わせてfucaへ行く。二人でできあがった頃にもう一人が合流し、時折店の人も交えながら果てしないおしゃべりが続く。