『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

震災短編『決断』2

2022-11-30 07:25:41 | 創作

 

 校庭にきちんと整列した子どもたちの足元は、幾度となく、巨大な余震によって揺らいだ。
 そのたびごとに、一、二年生の低学年の子どもたちは悲鳴をあげた。
 五、六年生の高学年の女児たちは、互いに抱き合って怯(おび)えた。
 新卒の若い女性教師も、泣きたい、逃げ出したい気持ちを殺して、子どもたちを護ることに必死だった。 

 グワァーッ…という、地鳴りが何度なく校庭を襲った。
 震度5もある余震が、数分おきに起こってくるのである。 

 今ここで、絶え間なく続く一連の余震が、これが尋常の災害ではないことを、教員たちの誰もの胸に去来した。
 この日は、生憎と、学校長が私用で不在であったため、教頭が各学年の主任を集め、在校する子どもたちの避難誘導についての協議を迫られていた。 

 生徒指導主任が口火を切った。
「このまま、裏山に逃げましょう」
「いや。土砂崩れや、倒木でケガをする恐れがありますよッ!
 山道なんてないんですよ。
 それに、うっすら雪が積もってるようですし、転んで将棋倒しにでもなったら…」
 と、教務主任がそれに応えた。
 ベテラン教諭が
「それでは、ハザードマップに従って、橋の向こうの三角地帯に避難しましょうか…」
 と言った。
 並み居る教員たちは、指揮者である教頭の決済を仰いだ。

「うん。とりあえず、校庭からは移動することにしましょう。
 先生方。各学年の引率、よろしくお願いします」
「はい」
 と、それぞれの担任が返事をすると、体育座りさせていた子どもたちの処へと銘々小走りで戻った。 

 A教諭だけは独り、
(やっぱり、山の方が安全なのでは…)
 という、思いを抱きながらも、教頭の決断に従い、まだ、校舎内に残っている児童がいないか、見回りに戻った。
 そして、小雪がちらつき寒がっていた薄着の子どもたちにと、何着かのジャンパーを無造作に両脇に抱えて出た。 

 すでに、子どもたちは列をなして校庭を後にするところだった。
 A教諭は小走りにその最後列に駆け寄った。 

 八十名ほどの隊列の前方はかなり前の方であった。
 時計を見ると、あの最初の地震感知からすでに五十分近くが経っていた。

 その時、何処やらを走っている役所の広報車のスピーカーから、
「巨大津波が迫っています。住民の方は早く高台に避難して下さい」
 と、何度も何度も割れんばかりの叫び声でふれ回っていた。

 

           

 

 

 


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