[3月23日 JR東京駅・東北新幹線ホーム→“はやぶさ”9号、8号車内 敷島孝夫、アリス・フォレスト、エミリー]
〔23番線の電車は、9時36分発、“はやぶさ”9号、新青森行きです。……〕
〔「23番線の電車は折り返し運転のため、車内整備・点検中です。終了まで、今しばらくお待ちください。全車両指定席で、自由席はありません。停車駅は大宮、仙台、盛岡、終点新青森の順です」〕
3連休の最終日ということもあって、新幹線乗り場は多くの利用者で賑わっていた。
役者が揃う以上、一刻も早く仙台に戻る必要があった。
「午前中はルカも忙しいから、午後に実験をすることになりそうだ。十条理事の飛行機も、午後に到着するからな」
「で、どうするの?一旦帰る?」
「荷物置いてからの方がいいだろ。ってかお前、だいぶ多いな……」
「まあね」
初日のTDLで買ったお土産の他、秋葉原電気街のジャンク・ショップで買い付けた電子部品の数々だった。
「言っておくけど、エミリーやボーカロイド達の無断改造は厳禁だからな?」
「分かってるよ。あくまで、マリオとルイージに使うの。それならいいでしょ?あの2機はアタシの発明だし」
「ああ、まあな」
ジャンクショップに行った時、やたらエミリーと部品を見比べていたのが気になるが……。
〔「お待たせ致しました。23番線、まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、23番、9B、準備できましたらドア操作願います」〕
意外とそんなに大きなエアー音はせず、ドアが開いた。
子供以外、淡々とした乗車風景なのは自由席が無いからか。
だいたい真ん中くらいの3人席に腰掛ける。
エミリーは重い荷物を片手でヒョイと持ち上げると、荷棚に置いた。
「Oh!ここにもコンセントがある!」
「いや、E5は基本的にコンセントあるから」
但し、普通車のみ、基本的に窓側にしか無い。
「お前のスマホ、もうバッテリー無いのか?」
「そんなことないけど」
「エミリー充電させた方がいいじゃないのか?」
「ノー・プロブレム。私の・バッテリーは・95パーセント・です。充電の・必要は・ありません」
「それならいいけど……」
〔「ご案内致します。この電車は9時36分発、東北新幹線“はやぶさ”9号、新青森行きです。停車駅は大宮、仙台、盛岡、終点新青森の順です。終点、新青森で、函館行きの特急“スーパー白鳥”に接続しております。全車両指定席で、自由席はありません。お手持ちの特急券の座席番号をお確かめの上、指定の席にお掛けください。……」〕
「今回の旅で、何が1番良かった?」
敷島が聞いた。すると、
「ディズニー・ランドのパレード」
という答えが帰って来た。
「だろうなぁ」
敷島は予想通りの答えが帰ってきて、笑みをこぼした。
だが、その後で予想外の発言があった。
「さっき泊まったホテルのOnsenも良かったね」
「は?温泉!?」
ここ最近は、ビジネスホテルにもサウナや大浴場を設ける所も散見されるようになった。
敷島達が宿泊したホテルもその設備があった。別に狙ったわけではなく、たまたま予算ど合致し、空室があったのがそこだっただけの話だ。
室内にもシャワールームがあり、ついアリスはそこを使用しただけかと思った。
だが、よくよく思い返してみれば、マンションでは確かに浴槽を使用している。
「入ったの!?」
「入ったよ」
「大丈夫?入り方分かった?」
「英語の案内板があったよ。スペイン人のオバさんがいたけど……」
「スペイン語の案内板は無かったような……」
「スペイン人も学校で英語習うから大丈夫。てか、アタシもスペイン語を5年間習ったけど」
「喋れるの?」
「少しね」
「日本語、ペラペラだよね?」
「じー様がね、いずれ日本が拠点になるだろうから、日本語を覚えとけってさ」
「ウィリーが?」
「遺産を日本に隠したことといい、多分、南里博士のシェアを奪うつもりだったのかもね」
「それでシンディのヤツ……!」
これでまた真相がはっきりしたような気がした。
〔「お待たせ致しました。9時36分発、東北新幹線“はやぶさ”9号、新青森行き、まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください。お見送りのお客様は、ホームへお降りください。次は、大宮に止まります。上野は通過となります。ドア付近にお立ちのお客様、閉まるドアにご注意ください」〕
初音ミクによく似たカラーリングの列車は、定刻通りに北に向かって発車した。
[同日14:00.財団仙台支部事務所内研究室 敷島、アリス、平賀、十条、巡音ルカ]
「あった!これよ!」
「南里のヤツ、ウィリーと同じくらい食えぬヤツじゃわい」
研究者達はルカの開胸作業をした。
すると、シンディのと同じ移置にピンク色の鍵が埋め込まれていた。
「あ、でも、ちょっと……」
立ち会っていた敷島が待ったを掛けた。
「この鍵を取り外して、ルカがまた歌えなくなったりなんてことは……」
「それは無いわ」
と、アリスが真っ先に否定した。
「ルカの歌声を奪ったウィルスは、時間が経つと症状が消える欠陥があったの。まあ、その前にドクター南里達に解明されちゃったこともあって、失敗作だってじー様が悔しがってたわよ」
「その通り。仮にそうでなかったとしても、自分達が何とかしますから」
平賀も敷島に言った。
「はあ、分かりました」
「別に、どこの配線とも繋がっておらんわい。取り外したところで、何の影響も無かろう」
そして、埋め込んだ所で何がどうなるというわけでもなかったか。
「恐らくはエミリーの胸の中に隠したままでは都合が悪くなると判断し、ちょうどカラーが同じのルカの体の中に隠したのかもしれんな。ワシらもそうじゃが、まさかボーカロイドの中に隠してあるとは思わんじゃろう」
「確かに……」
目的の鍵を取り出した後、すぐに開いた胸を元に戻す。
ルカも豊胸で、アリスより2センチ大きい。身長はアリスより10センチくらい低いのだが。
それがため、ライブの時などでは(全員でのユニットを除いて)、あまり大きく動くダンスはしないことが多い。
「よし。すぐに隣に控えているキールとエミリーの体の中に入れてみるぞ」
「はい!」
鍵の中に入っていたのは歌ではなかった。
本当に、ウィリーと南里の遺言が入っていた。
彼らは本当の遺言、または遺言の全部を言っていたわけではなかった。
「これ……」
「マジかよ……」
地図に映し出された遺産の場所は宮城県沖と三陸沖。
「もう大津波で無くなっているのでは?」
「海底なら、そんなことは無いでしょう」
「これ、調査出せるかね?」
「また、本部に掛け合わなくてはなりませんね」
「ここまでくると、ある程度確かな情報ではあるが、まだ財団理事会で賛成を取るには少し難しいかもしれんな……」
さすがの十条も首を傾げた。
「一応、話だけは通してみよう。誰か、興味を持ってくれれば……」
「そもそも、どんな遺産なのかも分かりませんしね」
「金塊や札束では無さそうね」
突拍子も無い博士達の、突拍子も無い隠し遺産を手にするには、まだ先の話のようだった。
[3月23日17:00.財団仙台支部1階エントランスホール エミリー、キール、巡音ルカ]
「あの海の彼方へ〜♪泳いで行ける日はいつなの♪届かないこの思い♪……」
あとはもう今日はオフのルカが、ソロでエミリーのピアノ伴奏に合わせて歌っていた。
実験ということで、今回はキールがヴァイオリンでもって協奏している。
ボーカロイドがサプライズで歌うということもあって、この場所はちょっとしたスポットになっていた。
「凄いですね。キールがヴァイオリンなんて……」
「うむうむ。そうじゃろう、そうじゃろう」
十条は誇らしげに頷いた。
「で、でも、ちょっと……」
平賀が目を丸くした。
「ルカが歌っているあの歌って……。ミクやLilyが歌った歌詞の続きのような……。気のせいか???」
あながちミスリードでもないような気がした平賀だったが、ここでそれを気にする研究者達は他にいなかったのである。
終
〔23番線の電車は、9時36分発、“はやぶさ”9号、新青森行きです。……〕
〔「23番線の電車は折り返し運転のため、車内整備・点検中です。終了まで、今しばらくお待ちください。全車両指定席で、自由席はありません。停車駅は大宮、仙台、盛岡、終点新青森の順です」〕
3連休の最終日ということもあって、新幹線乗り場は多くの利用者で賑わっていた。
役者が揃う以上、一刻も早く仙台に戻る必要があった。
「午前中はルカも忙しいから、午後に実験をすることになりそうだ。十条理事の飛行機も、午後に到着するからな」
「で、どうするの?一旦帰る?」
「荷物置いてからの方がいいだろ。ってかお前、だいぶ多いな……」
「まあね」
初日のTDLで買ったお土産の他、秋葉原電気街のジャンク・ショップで買い付けた電子部品の数々だった。
「言っておくけど、エミリーやボーカロイド達の無断改造は厳禁だからな?」
「分かってるよ。あくまで、マリオとルイージに使うの。それならいいでしょ?あの2機はアタシの発明だし」
「ああ、まあな」
ジャンクショップに行った時、やたらエミリーと部品を見比べていたのが気になるが……。
〔「お待たせ致しました。23番線、まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、23番、9B、準備できましたらドア操作願います」〕
意外とそんなに大きなエアー音はせず、ドアが開いた。
子供以外、淡々とした乗車風景なのは自由席が無いからか。
だいたい真ん中くらいの3人席に腰掛ける。
エミリーは重い荷物を片手でヒョイと持ち上げると、荷棚に置いた。
「Oh!ここにもコンセントがある!」
「いや、E5は基本的にコンセントあるから」
但し、普通車のみ、基本的に窓側にしか無い。
「お前のスマホ、もうバッテリー無いのか?」
「そんなことないけど」
「エミリー充電させた方がいいじゃないのか?」
「ノー・プロブレム。私の・バッテリーは・95パーセント・です。充電の・必要は・ありません」
「それならいいけど……」
〔「ご案内致します。この電車は9時36分発、東北新幹線“はやぶさ”9号、新青森行きです。停車駅は大宮、仙台、盛岡、終点新青森の順です。終点、新青森で、函館行きの特急“スーパー白鳥”に接続しております。全車両指定席で、自由席はありません。お手持ちの特急券の座席番号をお確かめの上、指定の席にお掛けください。……」〕
「今回の旅で、何が1番良かった?」
敷島が聞いた。すると、
「ディズニー・ランドのパレード」
という答えが帰って来た。
「だろうなぁ」
敷島は予想通りの答えが帰ってきて、笑みをこぼした。
だが、その後で予想外の発言があった。
「さっき泊まったホテルのOnsenも良かったね」
「は?温泉!?」
ここ最近は、ビジネスホテルにもサウナや大浴場を設ける所も散見されるようになった。
敷島達が宿泊したホテルもその設備があった。別に狙ったわけではなく、たまたま予算ど合致し、空室があったのがそこだっただけの話だ。
室内にもシャワールームがあり、ついアリスはそこを使用しただけかと思った。
だが、よくよく思い返してみれば、マンションでは確かに浴槽を使用している。
「入ったの!?」
「入ったよ」
「大丈夫?入り方分かった?」
「英語の案内板があったよ。スペイン人のオバさんがいたけど……」
「スペイン語の案内板は無かったような……」
「スペイン人も学校で英語習うから大丈夫。てか、アタシもスペイン語を5年間習ったけど」
「喋れるの?」
「少しね」
「日本語、ペラペラだよね?」
「じー様がね、いずれ日本が拠点になるだろうから、日本語を覚えとけってさ」
「ウィリーが?」
「遺産を日本に隠したことといい、多分、南里博士のシェアを奪うつもりだったのかもね」
「それでシンディのヤツ……!」
これでまた真相がはっきりしたような気がした。
〔「お待たせ致しました。9時36分発、東北新幹線“はやぶさ”9号、新青森行き、まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください。お見送りのお客様は、ホームへお降りください。次は、大宮に止まります。上野は通過となります。ドア付近にお立ちのお客様、閉まるドアにご注意ください」〕
初音ミクによく似たカラーリングの列車は、定刻通りに北に向かって発車した。
[同日14:00.財団仙台支部事務所内研究室 敷島、アリス、平賀、十条、巡音ルカ]
「あった!これよ!」
「南里のヤツ、ウィリーと同じくらい食えぬヤツじゃわい」
研究者達はルカの開胸作業をした。
すると、シンディのと同じ移置にピンク色の鍵が埋め込まれていた。
「あ、でも、ちょっと……」
立ち会っていた敷島が待ったを掛けた。
「この鍵を取り外して、ルカがまた歌えなくなったりなんてことは……」
「それは無いわ」
と、アリスが真っ先に否定した。
「ルカの歌声を奪ったウィルスは、時間が経つと症状が消える欠陥があったの。まあ、その前にドクター南里達に解明されちゃったこともあって、失敗作だってじー様が悔しがってたわよ」
「その通り。仮にそうでなかったとしても、自分達が何とかしますから」
平賀も敷島に言った。
「はあ、分かりました」
「別に、どこの配線とも繋がっておらんわい。取り外したところで、何の影響も無かろう」
そして、埋め込んだ所で何がどうなるというわけでもなかったか。
「恐らくはエミリーの胸の中に隠したままでは都合が悪くなると判断し、ちょうどカラーが同じのルカの体の中に隠したのかもしれんな。ワシらもそうじゃが、まさかボーカロイドの中に隠してあるとは思わんじゃろう」
「確かに……」
目的の鍵を取り出した後、すぐに開いた胸を元に戻す。
ルカも豊胸で、アリスより2センチ大きい。身長はアリスより10センチくらい低いのだが。
それがため、ライブの時などでは(全員でのユニットを除いて)、あまり大きく動くダンスはしないことが多い。
「よし。すぐに隣に控えているキールとエミリーの体の中に入れてみるぞ」
「はい!」
鍵の中に入っていたのは歌ではなかった。
本当に、ウィリーと南里の遺言が入っていた。
彼らは本当の遺言、または遺言の全部を言っていたわけではなかった。
「これ……」
「マジかよ……」
地図に映し出された遺産の場所は宮城県沖と三陸沖。
「もう大津波で無くなっているのでは?」
「海底なら、そんなことは無いでしょう」
「これ、調査出せるかね?」
「また、本部に掛け合わなくてはなりませんね」
「ここまでくると、ある程度確かな情報ではあるが、まだ財団理事会で賛成を取るには少し難しいかもしれんな……」
さすがの十条も首を傾げた。
「一応、話だけは通してみよう。誰か、興味を持ってくれれば……」
「そもそも、どんな遺産なのかも分かりませんしね」
「金塊や札束では無さそうね」
突拍子も無い博士達の、突拍子も無い隠し遺産を手にするには、まだ先の話のようだった。
[3月23日17:00.財団仙台支部1階エントランスホール エミリー、キール、巡音ルカ]
「あの海の彼方へ〜♪泳いで行ける日はいつなの♪届かないこの思い♪……」
あとはもう今日はオフのルカが、ソロでエミリーのピアノ伴奏に合わせて歌っていた。
実験ということで、今回はキールがヴァイオリンでもって協奏している。
ボーカロイドがサプライズで歌うということもあって、この場所はちょっとしたスポットになっていた。
「凄いですね。キールがヴァイオリンなんて……」
「うむうむ。そうじゃろう、そうじゃろう」
十条は誇らしげに頷いた。
「で、でも、ちょっと……」
平賀が目を丸くした。
「ルカが歌っているあの歌って……。ミクやLilyが歌った歌詞の続きのような……。気のせいか???」
あながちミスリードでもないような気がした平賀だったが、ここでそれを気にする研究者達は他にいなかったのである。
終