報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 10

2014-03-24 15:28:01 | 日記
[3月23日 JR東京駅・東北新幹線ホーム→“はやぶさ”9号、8号車内 敷島孝夫、アリス・フォレスト、エミリー]

〔23番線の電車は、9時36分発、“はやぶさ”9号、新青森行きです。……〕
〔「23番線の電車は折り返し運転のため、車内整備・点検中です。終了まで、今しばらくお待ちください。全車両指定席で、自由席はありません。停車駅は大宮、仙台、盛岡、終点新青森の順です」〕

 3連休の最終日ということもあって、新幹線乗り場は多くの利用者で賑わっていた。
 役者が揃う以上、一刻も早く仙台に戻る必要があった。
「午前中はルカも忙しいから、午後に実験をすることになりそうだ。十条理事の飛行機も、午後に到着するからな」
「で、どうするの?一旦帰る?」
「荷物置いてからの方がいいだろ。ってかお前、だいぶ多いな……」
「まあね」
 初日のTDLで買ったお土産の他、秋葉原電気街のジャンク・ショップで買い付けた電子部品の数々だった。
「言っておくけど、エミリーやボーカロイド達の無断改造は厳禁だからな?」
「分かってるよ。あくまで、マリオとルイージに使うの。それならいいでしょ?あの2機はアタシの発明だし」
「ああ、まあな」
 ジャンクショップに行った時、やたらエミリーと部品を見比べていたのが気になるが……。

〔「お待たせ致しました。23番線、まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、23番、9B、準備できましたらドア操作願います」〕

 意外とそんなに大きなエアー音はせず、ドアが開いた。
 子供以外、淡々とした乗車風景なのは自由席が無いからか。
 だいたい真ん中くらいの3人席に腰掛ける。
 エミリーは重い荷物を片手でヒョイと持ち上げると、荷棚に置いた。
「Oh!ここにもコンセントがある!」
「いや、E5は基本的にコンセントあるから」
 但し、普通車のみ、基本的に窓側にしか無い。
「お前のスマホ、もうバッテリー無いのか?」
「そんなことないけど」
「エミリー充電させた方がいいじゃないのか?」
「ノー・プロブレム。私の・バッテリーは・95パーセント・です。充電の・必要は・ありません」
「それならいいけど……」

〔「ご案内致します。この電車は9時36分発、東北新幹線“はやぶさ”9号、新青森行きです。停車駅は大宮、仙台、盛岡、終点新青森の順です。終点、新青森で、函館行きの特急“スーパー白鳥”に接続しております。全車両指定席で、自由席はありません。お手持ちの特急券の座席番号をお確かめの上、指定の席にお掛けください。……」〕

「今回の旅で、何が1番良かった?」
 敷島が聞いた。すると、
「ディズニー・ランドのパレード」
 という答えが帰って来た。
「だろうなぁ」
 敷島は予想通りの答えが帰ってきて、笑みをこぼした。
 だが、その後で予想外の発言があった。
「さっき泊まったホテルのOnsenも良かったね」
「は?温泉!?」
 ここ最近は、ビジネスホテルにもサウナや大浴場を設ける所も散見されるようになった。
 敷島達が宿泊したホテルもその設備があった。別に狙ったわけではなく、たまたま予算ど合致し、空室があったのがそこだっただけの話だ。
 室内にもシャワールームがあり、ついアリスはそこを使用しただけかと思った。
 だが、よくよく思い返してみれば、マンションでは確かに浴槽を使用している。
「入ったの!?」
「入ったよ」
「大丈夫?入り方分かった?」
「英語の案内板があったよ。スペイン人のオバさんがいたけど……」
「スペイン語の案内板は無かったような……」
「スペイン人も学校で英語習うから大丈夫。てか、アタシもスペイン語を5年間習ったけど」
「喋れるの?」
「少しね」
「日本語、ペラペラだよね?」
「じー様がね、いずれ日本が拠点になるだろうから、日本語を覚えとけってさ」
「ウィリーが?」
「遺産を日本に隠したことといい、多分、南里博士のシェアを奪うつもりだったのかもね」
「それでシンディのヤツ……!」
 これでまた真相がはっきりしたような気がした。

〔「お待たせ致しました。9時36分発、東北新幹線“はやぶさ”9号、新青森行き、まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください。お見送りのお客様は、ホームへお降りください。次は、大宮に止まります。上野は通過となります。ドア付近にお立ちのお客様、閉まるドアにご注意ください」〕

 初音ミクによく似たカラーリングの列車は、定刻通りに北に向かって発車した。

[同日14:00.財団仙台支部事務所内研究室 敷島、アリス、平賀、十条、巡音ルカ]

「あった!これよ!」
「南里のヤツ、ウィリーと同じくらい食えぬヤツじゃわい」
 研究者達はルカの開胸作業をした。
 すると、シンディのと同じ移置にピンク色の鍵が埋め込まれていた。
「あ、でも、ちょっと……」
 立ち会っていた敷島が待ったを掛けた。
「この鍵を取り外して、ルカがまた歌えなくなったりなんてことは……」
「それは無いわ」
 と、アリスが真っ先に否定した。
「ルカの歌声を奪ったウィルスは、時間が経つと症状が消える欠陥があったの。まあ、その前にドクター南里達に解明されちゃったこともあって、失敗作だってじー様が悔しがってたわよ」
「その通り。仮にそうでなかったとしても、自分達が何とかしますから」
 平賀も敷島に言った。
「はあ、分かりました」
「別に、どこの配線とも繋がっておらんわい。取り外したところで、何の影響も無かろう」
 そして、埋め込んだ所で何がどうなるというわけでもなかったか。
「恐らくはエミリーの胸の中に隠したままでは都合が悪くなると判断し、ちょうどカラーが同じのルカの体の中に隠したのかもしれんな。ワシらもそうじゃが、まさかボーカロイドの中に隠してあるとは思わんじゃろう」
「確かに……」
 目的の鍵を取り出した後、すぐに開いた胸を元に戻す。
 ルカも豊胸で、アリスより2センチ大きい。身長はアリスより10センチくらい低いのだが。
 それがため、ライブの時などでは(全員でのユニットを除いて)、あまり大きく動くダンスはしないことが多い。
「よし。すぐに隣に控えているキールとエミリーの体の中に入れてみるぞ」
「はい!」

 鍵の中に入っていたのは歌ではなかった。
 本当に、ウィリーと南里の遺言が入っていた。
 彼らは本当の遺言、または遺言の全部を言っていたわけではなかった。
「これ……」
「マジかよ……」
 地図に映し出された遺産の場所は宮城県沖と三陸沖。
「もう大津波で無くなっているのでは?」
「海底なら、そんなことは無いでしょう」
「これ、調査出せるかね?」
「また、本部に掛け合わなくてはなりませんね」
「ここまでくると、ある程度確かな情報ではあるが、まだ財団理事会で賛成を取るには少し難しいかもしれんな……」
 さすがの十条も首を傾げた。
「一応、話だけは通してみよう。誰か、興味を持ってくれれば……」
「そもそも、どんな遺産なのかも分かりませんしね」
「金塊や札束では無さそうね」
 突拍子も無い博士達の、突拍子も無い隠し遺産を手にするには、まだ先の話のようだった。

[3月23日17:00.財団仙台支部1階エントランスホール エミリー、キール、巡音ルカ]

「あの海の彼方へ〜♪泳いで行ける日はいつなの♪届かないこの思い♪……」
 あとはもう今日はオフのルカが、ソロでエミリーのピアノ伴奏に合わせて歌っていた。
 実験ということで、今回はキールがヴァイオリンでもって協奏している。
 ボーカロイドがサプライズで歌うということもあって、この場所はちょっとしたスポットになっていた。
「凄いですね。キールがヴァイオリンなんて……」
「うむうむ。そうじゃろう、そうじゃろう」
 十条は誇らしげに頷いた。
「で、でも、ちょっと……」
 平賀が目を丸くした。
「ルカが歌っているあの歌って……。ミクやLilyが歌った歌詞の続きのような……。気のせいか???」

 あながちミスリードでもないような気がした平賀だったが、ここでそれを気にする研究者達は他にいなかったのである。
                                                                                 終
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小説の途中ですが、ここで普通の日記をお送りします。

2014-03-24 15:02:15 | 日記
 つぶやきでも述べたが、私の知り合いの日蓮正宗信徒が退転してしまった。
 こういう時、法華講というシステムは本当に不便だ。他の支部はもちろんのこと、同じ支部でも別組織となると基本、手出しができないのだから。
 私のようにただ単に無宗教に戻ったというわけではなく、全くの違う宗教団体に入信してしまった。伝統仏教全般を示す内道ではなく、それ以外の外道というヤツだな。
 退転者が続出している顕正会が大問題だが、ちょこちょこ脱落者を出している宗門も、
「どうせ本人の問題だから」
 と放置せず、温かい手を差し伸べてあげたらどうか。
 因みに私は1ヶ月以上、紹介者と連絡を取っていない。
 私はまだ登山したいという気持ちがあるからいいようなものの、それが無ければ、実質的な退転状態と言える。
 添書登山の申し込みでもなければ、末寺に足を運ぶことが無いからだ。
 前にも述べたが、私は基本的に土休日に休むことはできない。
 しかし顕正会もそうだが、宗門でも行事は基本的に週末などに行われることが多い。
 もし仮に御開扉が土日しか行われていなかったら、私はとっくに宗門を再び退転していたことだろう。

 私の小説“ユタと愉快な仲間たち”において、藤谷春人は大の女嫌いで、それまで浄土真宗を信仰していたが、所属末寺の住職に尼僧が就任したため、本山に猛抗議したたものの受け入れられず、門徒講を退転。尼僧のいない宗派を探していたら、それが日蓮正宗だったという設定だ。
 で、あるならば、休日より平日にガンガン行事をやっている宗派を探していたら……というのもアリかなと思う。
 夏期講習会、平日の部が無いのかよ!……ま、多分バックレることになるだろう。(←少し行く気があった)
 ……寛師会と御大会には簡単に参加できる強み。(←今年はどちらも平日
 夏期講習会はバックレて、上記申し込むか。

 こういう異色の信徒にも、スポット当ててよね。

 あ、そうそう。その退転した信徒なんだが、どうも入信先の指導者の演説に感動したそうだ。
 まあ、武闘派の多い組織では、なかなか実生活に則した指導よりも、いかに誓願を達成するかの指導に重きを置くだろうから、そこに感動の話なんて無いと思うけどね。
 そういった意味では、まだ実生活に則した話を多くしてくれる私の組織は恵まれているのだろうと己惚れてみる。
 結構、自由にやらせてくれるし。
 
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“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 9

2014-03-23 20:03:25 | 日記
[同日18:00.東京都千代田区外神田のボカロ劇場(架空のライブハウス) Lily、敷島、アリス]

 ライブを終えたボーカロイドのLilyはステージから舞台袖に引き上げると、そのまま控え室に向かった。
 Lilyとて他のボカロに違わず、ライブ後の排熱は重要である。
「お疲れさまです。控え室で日本アンドロイド研究財団の人達が面会ですよ」
「財団の人が?」
 廊下でスタッフから敷島達が来ていることを伝えられたLily。
(財団の人達が何の用だろう……?)
 確かにピアノ伴奏で……というか世界で唯一のマルチタイプ、エミリーがサプライズ参加したことには驚いたが、エミリーだけが単独で来たのかと思った。
「Lily、戻りました」
 控え室に戻ると、そこにいたのは……。
「お疲れ様。初めまして。財団仙台支部総務部参事の敷島です」
「アリス・フォレストよ」
 Lilyはメモリーの中を探してみたが、この2人に見覚えは無かった。
 敷島の名前についてだけは、確かに財団職員の一覧の中にはあったが……。
「それより、先に冷やしてください」
 待っていた初音ミクが、Lilyの分の氷を持ってきた。
「ああ。ありがとう」
 Lilyは氷の入った袋を受け取ると、それで頭部を冷やした。
 精密機械の塊である彼女達は、熱は大敵である。
 なので公演ごとに体、特に人工知能が搭載されている頭部を冷やす必要があった。
 自動車のラジエーターを応用した冷却機能はあるのだが、いざライブで激しい動きとなると、それもなかなか追いつかないのが実情だ。
「で、何の御用ですか?」
「実はちょっと今、ここで実験をしてみたいんだ」
「私に?」
「そう。アリス」
「Ok.この鍵なんだけど、これを見て何か感じる?」
「!」
 Lilyはその鍵をジッと見つめた。

 ピッ!
 ピー!
「……音楽コード、解析中……」
 Lilyの両目がオレンジ色に鈍く光った。
「解析完了。歌います」
「おおっ!」

[同日19:00.ヨドバシAkiba8階 敷島、アリス、平賀]

 その後平賀も合流し、3人は飲食店に入って夕食を取っていた。
「すいませんね。自分も実験に参加したいと言っておきながら、本部での業務が押しちゃって……」
「まあ、しょうがないです」
「実験の結果が、ミクが歌ったものと同じですって?」
「そうなんです。ますますワケ分かりませんよ。あの歌詞にどんな意味があるのか、そもそもどうして黄色い鍵をリンやレンではなく、Lilyが反応したのか。こんなこと言うのも何ですけど、Lilyは正直、リンやレンと比べるとまだマイナーなボカロです。何の脈絡があるのか、さっぱり分からないんですよ」
「ボカロが歌い出したのは、ミスリードかな?」
「今更ぁ?」
 アリスは辟易した顔をした。
「やっぱり鉄道のラインカラーだったりして?」
「もっと脈絡無いですって」
 すると、敷島は虚空を見るような感じになって、それからアリスを見た。
「……なあ、アリス」
「なに?」
「シンディのシンボルカラーって何だろう?」
「イエローよ。だから、あの金髪……。!?」
 その時、アリスが気づいた。
「やっぱりボカロに歌わせたのはミスリードだったか!?」
「何ですか、敷島さん?」
「素直に考えれば良かったんですよ。シンディのシンボルカラーはイエロー。その胸の中にあった黄色い鍵」
「マルチタイプのシンボルカラーなんて聞いたことないですよ」
 平賀は眉を潜めた。
「じー様が教えてくれたけどね。プロフェッサー平賀は聞いてなかったの?」
「……悪かったな。マルチタイプのエミリーには、ほとんど関わらせてもらえなかったもんでねっ!……そうなると、エミリーは……」
「ピンクですね。髪の色からして」
「しかし、エミリーには鍵なんて無いですよ?」
「エミリーは取り外したのかもしれませんね。その辺、エミリーのメモリーを洗ってもらえませんか?」
「しかし、そうなるとマルチタイプのグリーンなんて、もうこの世には……」
「それを探さなきゃいけない!?ぅあちゃー……」

[同日20:00.同場所 敷島、アリス、平賀]

「お帰りなさい・ませ」
 エミリーはフロアのベンチで待っていた。
「おう、ただいま。早いとこホテルに戻って、お前も充電しないとな」
 初音ミクは先に新幹線で仙台に戻った。本当に忙しいボーカロイドである。
「なあ、エミリー」
「イエス」
「本当にお前は、自分の体の中に埋め込まれたはずの“鍵”を知らないんだな?」
「申し訳・ありません。全く・存じません」
 すると、アリスがニヤッと笑った。
「今、『知らない』って言ったわね?『知らない』というメモリーはあるけど、鍵のこと自体は『メモリーに無い』わけじゃないのね?」
「どういうことだ?」
「エミリー、いい度胸してるわね。何か隠してるみたいよ?」
 そこで敷島も気づく。
「そうか。本来なら、『メモリー(またはデータ)が・ありません』と答えるべきところを、『知らない』と答えたのはおかしいということか」
「さっさと戻って尋問ね。正直に答えないと、iPodに改造しちゃうからね」
「勝手に改造すんな!」
 エミリーの現オーナーは、あくまで平賀である。
 因みに敷島はユーザー。

[同日20:30.東京都千代田区外神田界隈にあるビジネスホテル 敷島、アリス、平賀、エミリー]

 敷島のシングルでは狭いので、2人部屋のアリスとエミリーの部屋に集まった。
 畳敷きもある一風変わった部屋だった。
「どうして黙っていたのかまでは聞かないけど、ちゃんと鍵のことについては話してよね?」
「イエス。ドクター・アリス。確かに・私達・マルチタイプには・普段使いの・メモリー媒体の他・緊急用の・媒体が・搭載されて・います。それが・鍵です。鍵型に・なって・いるのは・敵に・捕獲され・体を・解体された際に・メモリー媒体だと・分からなくする為・です」
「なるほど。確かに俺も、まさかシンディの体から古めかしい鍵が出てくるとは思わなかったもんな」
「緑の鍵を持っていたマルチタイプはどこにいる?」
 平賀が聞いた。
 するとエミリーは少し悲し気な、それでいて諦観とも取れる顔をして答えた。
「この世には・存在しません。シベリアで・爆破解体されました。私の・5番目の・弟でした」
 マルチタイプは兄弟だとされている。エミリーが長女らしい。
「そのユーザーは……ドクター十条です」
「やっぱり!同じ研究チームにいながら、十条先生だけ特定のマルチタイプがいなかったことに疑問はあったんだ!」
 平賀がポンと手を叩いた。
「それを・モチーフに・作られたのが・キールです」
「そうだったのか。それでエミリー、お前は……」
 死に別れた弟にどれだけ似ているのかは知らないが(少なくとも顔は全く似ていない。男女の違いはあれ、マルチタイプのスペックは全て統一されていて、顔も同じはずだからだ)、そういった面影もあってキールに近づいているのだろう。
「緑の鍵をキールに見せれば、何か分かるってことですかね?」
「かもしれませんね。見せるというか、それこそ体の中に埋め込めばいいのかもしれません」
「十条理事が了承してくれるかなぁ……」
 敷島は首を傾げた。
「それより、エミリーにだって鍵が搭載されていたはずなのに、どうしてそれが無い理由かだ。エミリー、本当に知らないのか?」
「本当に・メモリーが・ありません」
「敷島さん、南里先生がエミリーの体を開けるような修理をしたことは無いですか?」
「それは、それこそ平賀先生の方がご存知なのでは?」
「それも調べないとダメか……。取り急ぎ、まずは十条先生に電話してみましょう」
「お願いします」
 平賀は十条に連絡を取った。
 そして、意外なことが分かった。
{「そうかね。さすがは南里の弟子じゃな。そこまで分かれば、合格じゃ。良かろう。キールを実験に使わせよう」}
「何か知ってる素振りですね!」
{「いや、わしも詳しくは知らんぞ。ウィリーのヤツ、ちゃっかり『5号機のキール』から鍵を抜き取っておいたとはな」}
「じゃあ、エミリーの鍵のこともご存知なんですね?」
{「鍵かどうかは知らんが、ほれ、覚えておらんかの?巡音ルカがウィリーのバラまいたステルス・ウィルスに感染して、歌えなくなった時があったじゃろう?」}
「あー、ありましたね」
{「エミリーから何か部品を移植したような話を聞いたが、それとは違うかの?」}
「何ですと!?……敷島さん、今ルカはどこにいますか!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
 敷島はタブレットを操作した。
「今、仙台にいますね。明日もテレビ仙台の収録と、地元フリーペーパーの表紙写真撮影の仕事が入っています」
「十条先生、交通費出しますから、至急仙台まで来てください!」
{「慌てんでも、元々明後日は赤月君……もとい、キミの奥さんが講師を務める大学で特別講義があって行くことになってるわい。で、現地に前泊するというのがワシの行動パターンだということは知っておるじゃろう?」}
「あっ……」
{「キールには留守番させるつもりでいたが、乗りかかったバスじゃ。もっとも、“エトアール”号は事故ったから、飛行機を使わせてもらうがな」}
「だから、乗りかかった舟ですって。敷島さんみたいなボケを……」

 こうして、役者は揃った。
「明日、仙台で真相がはっきりするとは……」
「凄い3連休でしたね。まあ、今夜はゆっくり休んでください」
「ボカロは結局、関係無かったか」
「まあ、1番の鍵を握っていたのは巡音ルカだったってことですね。歌詞自体は、何かのヒントだったのかもしれませんけど……」
 平賀は車に乗って、ホテルから立ち去った。
「じゃあ、俺達もゆっくり休んでおこうや」
「エミリー。充電しておいてね」
「イエス」
 
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“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 8

2014-03-22 19:27:13 | 日記
[同日12:30.財団本部の入居するビルの中にある飲食店 敷島孝夫、平賀太一、アリス・フォレスト]

「やっとメシだ……」
「しかし、敷島さんも色々な事件・事故に巻き込まれますね」
 平賀が憐れむような感じで言った。
「高田馬場駅の人身事故のことですか?かつては旧ソ連の秘密兵器ロボットとして製造されたエミリーも、今や人命救助ロボットですからね」
「シンディにはできなかったことかな?」
「うるさいよ!」
 平賀の皮肉にアリスは睨みつけて言った。
「しかし、ミクの突然の歌にはびっくりしましたな」
「ええ」
 ミクが歌ったのはローテンポな歌。

『この海の底には、あなたと私だけ。誰かが見つけてくれるまで、歌を歌い続けましょう。あなたの為だけに歌うわけじゃない。あなたの大切な人にも歌うの。外には聴こえないかもしれないけれど。この海の底で、ずっと私は待ち続ける。眠り姫のように』

「タイトル、作曲者、作詞者ともに不明か……」
 敷島はミクが歌った歌の歌詞をメモしていた。
「多分これが、ウィリーの隠し遺産の在り処を示したものなんでしょうね」
「アリス。この歌の歌詞に心当たりは?」
「無いよ、そんなの」
「しかし、そうなってくると、エミリーがシンディの形見として持っていた黄色い鍵も、リンやレンに見せれば、歌い出すということですかね?」
 平賀が言った。
 しかし、敷島は懐疑的だった。
「もう1度やってみる必要はありますが、だったら偶然でもそういう現象があってもいいと思うんです」
「と、言いますと?」
「リンはボカロの最年少で、いたずら好きでも知られています。で、よくエミリーにお仕置きされてるじゃないですか」
「南里研究所での約束事の1つでしたね」
「財団仙台支部でも、です。で、実はエミリーが形見として持っていた鍵を見たことがあるんですよ」
「えっ!?」
 エミリーが黄色い鍵を持ち帰った時、リンとレンが興味深そうにその鍵を眺めていたという。
 しかし、この2人が反応して歌を歌い出すということはなかった。
緑の鍵だけですかね?ボカロに歌わせる作用があるのは……」
「うーん……」
 敷島は腕組みをして考え込んだ。
 イメージカラーが緑の初音ミクが、緑の鍵を見て歌い出したのは驚いた。
 されば、黄色い鍵を見た鏡音リン・レンがそれを見て歌い出さなければおかしい。
 そして、ということは、更に探せばMEIKOに対応した赤い鍵やKAITOに対応した青い鍵もあるということだ。
 で、最大の謎。何で初音ミクは緑の鍵を見て、歌い出したかだ。音楽コードがその鍵の中にあって、それを読み取ったのは分かった。
 しかし、鍵が製造された時、つまりバージョン・プロトタイプがマンションの基礎土台に埋め込まれた時より少し前だろう。
 つまり、1990年代だな。その頃はボーカロイドなんて言葉すら無かった。
 なのに、どうしてウィリーはそれから10年、15年も経って製造されたボーカロイドに対応した音楽コード入りの鍵を作った(作れた)のだろう。
「タイムマシンでも作ってましたかね?」
「あのね……」
 敷島の突拍子も無い発言に、平賀とアリスは呆れた顔をした。

(※但し、前作オリジナル版においては、本当にタイムマシンがウィリーによって発明されていた)

[同日13:30.財団の入居するビル1Fエレベーターホール 敷島、平賀、アリス]

「リンとレンは都内にいないんですね」
「全国ツアーで今、大阪辺りにいるんじゃないですかね?」
 ビルの共用掲示板にも、ボカロに関するポスターがでかでかと貼られていた。
 但し、南里研究所が手掛けた形式だけでなく、ボカロ全般のものが貼られている。
「! これは!?」
 その時、アリスは別の研究所が手掛けているボーカロイドが目についた。
 そのボーカロイドも鏡音リン・レンのように金髪で、いかにもイメージカラーはイエローといった感じだった。
 敷島は眼鏡を掛け直して答えた。
「確か、Lily(リリー)だね。今は、えーと……どこかのレコード会社に所属して、そこでアーティストとして活躍してるんじゃなかったかな。ミュージカル“悪ノ娘と召使”には……出てこなかったか」
「それ、都内のレコード会社ですよね?」
 と、平賀。
「確か……」
 敷島は首を傾げた。どうしても南里研究所繋がりなので、それとは繋がりの無いボカロまで詳しく知っているわけではない。
「都内のことだったら、むしろ本部のここの方が詳しいでしょう」
「なるほど」

 敷島達はボーカロイドを管理している事務所に行ってみた。
 本部ということもあって、地方支部の敷島の所と違い、まったり感は無い。
「お待たせしました。えー、Lilyは今夕、秋葉原のボーカロイド劇場でライブがあります」
 敷島より固そうな職員が回答した。
「ミクと同じ!……だった!」
「敷島さん、気づきましょうよ」
「初音ミクと違って、キャピタル・レコードさんと連絡を取らなくてはなりませんよ?」
 財団が絡むとはいえ、個人的に会うのだから、所属レコード会社を通さなくてはならないということか。
 ミクと違うというのは、ミクの所属する芸能事務所とは、財団関係者の面会が自由にできることになっているからだ。
 敷島も実はその違いについてよく分かっていないが、そもそも他の研究所で製造されたボーカロイドは、そもそもミク達とルーツが違うのかもしれない。
 一応、所属のレコード会社に連絡を取ると、ライブが終わった後、少しの間だけなら良いということだった。

[同日14:29.JR新宿駅13番線ホーム 敷島、アリス、エミリー、初音ミク]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の13番線の電車は、14時29分発、各駅停車、千葉行きです。次は、代々木に止まります〕

「そういえば、こいつも黄色だな」
 敷島はホームの上にある看板を見て言った。
 中央・総武線各駅停車のラインカラーは黄色(正確にはカナリア色という)である。
 隣接する山手線は黄緑(ウグイス色)で、ミクのイメージカラーに近いというのも何かの因縁か。

〔まもなく13番線に、各駅停車、千葉行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、代々木に止まります。電車とホームの間は、広く空いております。足元に、ご注意ください〕

 平賀もLilyの実験に立ち会いたいらしいが、本部での打ち合わせのため、後から向かうそうだ。
「取りあえず今日はアキバに一泊だから、先にホテルに荷物を置いてからにしよう」
 電車がホームに滑り込んでくる。
「たかおさんも大変ですね」
「ミク達に比べれば、ヒマな方だよ」
 敷島はニヤッと笑った。

〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、代々木に止まります〕

「わたしのライブに来てくれるんですね?」
「ああ。チケット、駆け込みセーフだった」
 4人は電車に乗り込んだ。
(今回の劇場でライブをやるボカロで、黄色いのはLilyだけか……)
 敷島は今日のライブ出演者の一覧を確認していた。
 どことなく巡音ルカを黄色くしたような感じにも見えるが、躍動性についてはルカの上を行くとされている。

〔13番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
〔「13番線、発車です。ドアが閉まります」〕

「ミクは本当に、あの鍵のことについては知らない?」
 電車が走り出してから敷島はミクに聞いた。
「はい。ただわたしはコードのデータを読み取って、その通りに歌っただけです」
 ボカロの特長の1つ。楽曲データをそのまま打ち込めば、ボイス・トレーニングなど必要無く、そのまま本番で歌える強みだ。
 それがため、どこの事務所でもボカロに対して、トレーニングのスケジュールは取っていない。
 但し、機械であるため、整備・点検の日や時間を設けなくてはならないが。
「あっ、そうだ。エミリー」
「イエス、敷島さん」
「レコード会社からの依頼で、今日のライブの時はお前も参加してもらうから」
「? 私は・歌えませんが?」
「ピアノの生演奏があるんだって。本当はそれも自動演奏にするところ、エミリーが来るってことで、お前がやってみないかってさ」
「Lilyへの実験に対する取り引きか……」
 アリスはそう見抜いた。
「イエス。そういうこと・でしたら・ご協力・致します」
「悪いな」
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“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 7

2014-03-22 15:20:22 | 日記
[同日10:32 東京メトロ東西線・高田馬場駅 敷島孝夫、アリス・フォレスト、エミリー]

〔足元に、ご注意ください。電車とホームの間が、広く空いている所があります。出口は、左側です〕

 敷島達を乗せた電車がホームに滑り込んだ。
「西武に乗り換えた方がいいのか?」
 敷島はエミリーに聞いた。
「ノー。JRの方が・いいです」
「そうか」

〔足元に、ご注意ください。高田馬場、高田馬場。中野行きです〕

 ここで降りる乗客は多く、敷島達もその人の流れに乗ることになった。
「高田馬場って、発音しにくいだろう?」
 敷島がアリスに言うと、
「ゆっくり喋れば大丈夫」
 とのこと。
「南部訛りが大きいと、日本の地名は発音しにくいかもね」
「ブッシュ大統領のことを言ってるのかい?愛媛が発音できなかったのは意外だったな……」
 因みにアリスには南部訛りは無い。
 どちらかというとアメリカ人というより、イギリス人が発音する英語に近いらしく、本当の生まれはそこではないかとも思っている。
 何でそんな話になったかというと、東京メトロの車内放送で、英語の部分。
 駅名以外は外国人声優が喋り、駅名の所だけ日本人声優が喋っていることにアリスが気づいたから。
 JRなどでは駅名部分も外国人が喋っているが、山手線だけ何故か何度も収録し直されたことは鉄ヲタの中でも大きな謎とされており、高田馬場が発音できなかったからではないかとも言われている

[同日10:37.JR高田馬場駅前 敷島、アリス、エミリー、初音ミク]

「敷島・さん。初音ミクが・います」
 エミリーは敷島の肩をトントンと叩いて言った。
「そうなのか。ライブは午後からだったもんな」
 敷島はエミリーに言われるまで気が付かなかった。
 というのは、特徴的なツインテールをポニーテールに変え、帽子と眼鏡を掛けていたからである。
 今やここまで変装しないと、顔バレしてしまうくらいに売れているということだ。
「あっ、たかおさん。アリス博士、エミリー。おはようございます」
「おう、お疲れさん」
「Hi.」
「これから財団本部に行くところなんだが……」
「はい。わたしもちょうど打ち合わせが終わって、本部に行くところです」
「そうか。じゃあ、一緒に行こうか」
「はい!」

[同日10:40.JR高田馬場駅ホーム 敷島、アリス、エミリー、ミク]

「あっ、行ったばっかか!」
 敷島がホームに上がると、ちょうど電車のテールランプが去って行くところだった。

〔当駅では、終日禁煙となっております。皆様のご協力を、お願い致します〕

「まあいいや。すぐ来るだろう」
 反対側の電車が発車するところだった。
「そーらを越えてー♪ラララ♪……」
「あーっ、こらこら!」
 ミクが発車メロディに合わせて歌い出したので、敷島がそれを止めた。
「ここではマズい!」
「あっ、すいません。迷惑ですよね」
「いや、ジャスラックがうるさい!」
「はい?」
「“鉄腕アトム”の歌?」
 アリスは知っているらしい。さすが手塚作品は外国でも知られている。
「“鉄腕アトム”じゃ、この町に科学省という架空の省庁があるという設定だから、それを記念して発車メロディをテーマソングにしたって話だ」
 敷島が説明した。
「そうなの」
「財団もこの町に本部設置すりゃ、いい雰囲気だったろうにな」
「まあ、女だけどアトムに匹敵するロボットがここにいるからねぇ……」
 アリスはエミリーを見て言った。
「10万馬力も無いだろ?いくらなんでも」
「ジェット・エンジンで飛ぶ所は一緒でしょう?」
「南里所長の話じゃ、あくまで緊急離脱用だって話で、アトムのように自由に長時間飛べるわけじゃないそうだぞ?」

 それから数分経過。
〔まもなく2番線に、新宿、渋谷方面行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

「おっ、来た来た」
「日本の鉄道は時間通りに来るね」
「ああ」
 その時、近くでどよめきが起きた。
「うわっ、大変だ!人が落ちたぞ!」
「電車来てるって!あっちィ!」
「な、何だって!?おい、非常ボタン!非常ボタン!」
 敷島がホームの柱に目をやるのと、エミリーが入線してくる電車に向かって走り出すのは同時だった。
「ばかっ、エミリー!戻れーっ!」
「対象物・JRE231-517・11両・総重量測定……・速度61.15㎞……」
 エミリーはヘッドライトをハイビームに、けたたましい警笛を鳴らす山手線電車のフロント部分を両手で押さえた。
「ま……マジかよ?!」
 電車は転落した乗客の30㎝手前で停車した。
 歓声か湧き起こるが、敷島は逆に背筋が寒くなった。
(あんなもんが暴れ出したら、町1つ無くなるぞ……!)
 そんな敷島の不安を読み取ったのか、ミクがこそっと言った。
「大丈夫ですよ。南里博士も、ちゃんと考えてますから」
「…………」

[同日12:00.東京都新宿区内の財団本部 敷島、アリス、エミリー、初音ミク、平賀太一]

「……というわけで、遅くなりました」
「ええ。テレビで見てましたよ。大活躍でしたね」
 平賀はにこやかな顔をしていた。
「で、被害は?」
「電車のフロント部分が、エミリーの両手でベッコリ行ったくらいです。後でJRから請求くるかなぁ……?」
「人助けして請求来たんじゃ、世話ないですね」
 来るわけ無いだろという顔を平賀はした。
 そのエミリーは、アリスや他の財団職員と共に研究室へ。故障したわけではなく、どの程度のダメージがあったか、それを吸収したかの検査である。
「自走はできるんですがね。昔の103系みたいにもっと頑丈に作らないとダメだな」
「軽量のステンレス合金から、鋼製へ劣化ですか?重くて余計に電気を使うだけだと思いますが……」
「鍵の色に合わせて新宿が怪しいと思ったんですが、どうも緑というのは……あれ!?」
 その時、敷島はハッと気づいた。
 ミクが財団本部内では完全に顔バレしている(変装していても意味が無い)ことから、いつもの姿になって戻って来た。
「? どうしました?たかおさん?」
 服装はいつもの衣装ではなく(あれはステージ衣装という設定)、といっても公式イラストに合わせたデザインではあるが私服だった。
「あの鍵の色って、鉄道のラインカラーじゃなくて、ボーカロイドのイメージカラーだったりして」
「まさか。時期的に合わないですよ。鍵が製造された時は、まだボーカロイドなんて言葉すら無かったんですから」
 平賀は口元を歪めた笑みを浮かべた。
「いや、でも……」
 そこへ、
「Sorry.ちょっとそこに代わりのエアブラシ無い?研究室のヤツ、調子悪くて」
 アリスが入ってきた。
「ちょうど良かった。アリス、あの『緑の鍵』を出してくれないか?」
「どうしたの?いきなり」
「いいから」
 敷島はアリスから、浦安で見つけた緑の鍵を受け取った。
「ミク。これを見て、何か感じないか?」
「はい?」
 ミクは自分の顔の前に掲げられた鍵を見つめた。
「What?グリーンは初音ミクのグリーン?」
「らしいんだ」
 敷島の仮説を平賀から聞いたアリスは驚いた。
「だって、エミリーの鍵でリンとレンは反応しなかったじゃない?」
「だよなぁ……」
 ピッ!
「ピッ?」
 ミクの緑色の瞳がオレンジ色に一瞬鈍く光り、
「コード、読み取りました。歌います」
 と、言い出した。
「は!?」
「音楽コード!?」
 どよめく室内。
 そして、ミクが歌い出した。その内容は……。
コメント (1)
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